薬理試験(薬理評価)と言うと、動物に化合物を投与して、効果があるかを確認する業務を思い浮かべるのではないでしょうか。

もちろん、薬理試験に携わると、活性評価試験が主な仕事です。しかし、薬理試験の仕事内容は、活性評価だけでなく幅広いです。

そして、仕事内容は会社によって異なるので、転職する前に求人票に記載されている内容をしっかりと確認する必要があります。

ここでは、薬理試験の研究職(薬理研究)に転職するときに確認すべき内容を確認していきます。具体的には、仕事内容、求人による業務内容の違い、転職で求められる資格やスキルについて紹介します。

薬理研究の仕事内容

薬理研究のなかで活性評価試験は、医薬品開発における必須の業務です。しかし、薬理研究の業務内容は、活性評価を行うだけではありません。

そこでまずは、実際の求人情報を基に、薬理研究で携わることになる業務内容を紹介します。

試験法の開発

活性評価を行うためには、評価方法がなければ試験を行うことはできません。この試験方法の確立も、薬理研究の業務内容に含まれます。

下に紹介する求人では、薬理試験の実施だけでなく、薬理試験法の開発も仕事内容に挙げられています。

すでに評価方法が確立されている段階で研究開発に携わるのであれば、既存の評価法を実施すれば問題ありません。しかし、新たな創薬ターゲットに対する活性を評価する場合は、評価方法をゼロから構築する必要があります。

ここでは、酵素阻害剤を開発する場合を例に挙げて解説します。酵素阻害剤の活性を評価するためには、主に以下の項目について検討する必要があります。

  • 基質
  • 反応時間
  • 緩衝液

酵素反応が起きているかは、酵素が基質とどの程度反応するかによって評価します。そして、基質の種類によって、定量評価の方法(吸光強度、蛍光強度)が変わってきます。

代表的な基質は、パラニトロアニリドやメチルクマリンアミドを含む基質です。

酵素反応によってパラニトロアニリンが生成すると、反応液が黄色になります。このときの反応液の吸光強度を測定することで、酵素反応の進行具合を定量的に測定できます。

また、メチルクマリンアミドを含む基質が酵素反応を受けると、アミノメチルクマリン(AMC)が生成します。AMCは蛍光物質なので、反応液の蛍光強度を測定することで、酵素反応を分析できます。

そして、酵素反応量は、最初は時間に対して比例関係があります。しかし、ある程度の時間を経過すると反応が進まず、頭打ちになってしまいます。これは、酵素反応によって基質が分解されるためです。そのため、反応時間を適切に設定する必要があります。

また、酵素反応は、緩衝液の組成によって、反応の進行具合が変わってきます。適切な緩衝液を選択することで、酵素反応が進みやすくなります。

これらの項目を適切に設定することで、活性評価を行うことができるようになります。試験法の開発に携わると、このような条件を検討し、試験法の確立を目指します。

病態モデルの開発

in vitroで活性が認められた化合物は、in vivo試験に移行します。そして、in vivoでの活性評価を行うためには、病態モデルが必要になります。

例えば、糖尿病治療薬を開発しようとしている場合は、糖尿病のマウスやラットに候補化合物を投与して、活性が認められなければなりません。

実験動物は、食事だけを変えて糖尿病にしようとしても難しいです。

そこで、バイオテクノロジーの技術を駆使して、遺伝子操作を行います。具体的には、肥満遺伝子を導入することで、糖尿病のモデル動物を作成できます。

病態モデル動物が作れなければ、化合物を動物に投与したときの薬効を評価できません。したがって、病態モデル動物の作成は、in vivoでの薬理試験では要となる業務です。

次に紹介する求人は、静岡県にあるCRO(医薬品開発受託機関)の株式会社浜松ファーマリサーチのものです。この求人では、新規病態モデルの開発が仕事内容に挙げられています。

このように、遺伝子導入の技術を利用して、標的疾患のモデル動物を作成することも、薬理試験担当者の業務になります。

新規テーマの立案

医薬品の開発は、テーマの立案から始まります。新薬を開発するためには、競合他社がこれまで行っていない分野や、新たな創薬ターゲットを見つける必要があります。

そして、新たなテーマ立案も、薬理研究職の仕事に含まれます。下に、実際の求人例を示します。

この会社は、神奈川県にある製薬会社です。この求人では薬理試験を実施して、薬理データを取得するだけでなく、新規治療、創薬コンセプトの発案も仕事内容になります。

テーマ立案ための情報源として利用されるのが、論文です。タンパク質、酵素、サイトカインなどが疾患と関連があることがわかれば、標的分子となる可能性がでてきます。

例えば、下に紹介する論文は、GPR40という膜タンパク質が、膵臓でのインスリン分泌を制御していることを報告したものです。

つまり、GPR40を標的とすることで、糖尿病の治療薬が開発できる可能性があります。このような論文を見つけることで、新たな創薬ターゲットが決まります。

薬理試験の研究者は、創薬ターゲットとなりうるような標的タンパク質の情報を、様々な論文を調べて、テーマを立案します。

求人による仕事内容の違い

薬理試験の研究職として働くと、多くの仕事に携わることを紹介しました。そして、実際にどの業務に携わるかは、会社によって大きく異なります。

続いて、会社によって、どのように仕事内容が異なるかについて、求人情報を基に紹介します。

in vivoとin vitroの両方を担当する

薬理試験は動物を用いたin vivo試験と、動物を用いないin vitro試験に分けられます。これらの試験は扱う対象物が全く異なるので、それぞれ担当が分かれていると思われがちです。

しかし、実際の研究現場では、in vivoとin vitroの両方を担当することが多いです。実際の求人例を、下に紹介します。

この求人は、会社名は非公開ですが、大学発のバイオベンチャー企業のものです。この求人の仕事内容の欄には、in vitroとin vivoの薬効薬理試験の両方に携わることが記載されています。

私の知り合いの、大手製薬会社で薬理試験の研究職として働いている人に話を訊くと、以下のような話をしてくれました。

動物アレルギーがあって動物実験ができない人や、特定の実験のスペシャリストという人以外は、ほとんどの場合でin vitroとin vivoの両方をやる。このような特別な事情がない人で、in vitroかin vivoのどちらかしかできなければ、戦力としてみなされないこともある。

医薬品の研究開発は、大手企業になるほど、担当する業務は細分化されると言われています。

それにもかかわらず、私の知り合いが働いている大手製薬会社では、in vitro試験とin vivo試験の両方を行っています。つまり実際は、多くの会社で両方の試験に携わることになると言えるでしょう。

大動物限定の実験

さきほどは、薬理試験担当者の多くは、in vitroとin vivoの両方の試験に携わることを説明しました。

次に紹介する求人は、in vivo試験だけを実施する求人です。しかも、in vivo試験のなかでも、大動物を用いた非臨床試験を担当します

応募資格では、5年以上の期間の実験経験だけでなく、現在も動物実験が可能なことが条件に挙げられています。

したがって、この求人で採用されると、in vitro試験や、マウスやラットなどの小動物を扱うin vivo試験ではなく、イヌ、サルなどの大動物の実験を行うスペシャリストとして働くことになります。

薬理試験だけでなく、安全性試験も担当する

薬理試験に携わる人は、薬理試験だけを行うことが多いです。私の知り合いの製薬会社で働いている人に、薬理試験の仕事について話を訊くと、以下のような話をしてくれました。

薬理試験の担当者が、毒性試験や薬物動態試験などの安全性試験を行うことはない。その理由は、いずれの試験でも実験動物を扱うが、実験の内容は全然違うから。

薬理試験では、化合物の活性を評価します。一方で、同じように動物を用いる安全性試験では、化合物を反復投与したときの毒性を評価したり、ラジオアイソトープを用いた薬物動態を解析したりします。

このように、薬理試験と安全性試験では、実験内容が異なります。しかし、会社によっては、薬理試験と安全性試験を兼任することもあります。

次に紹介する求人は、株式会社池田模範堂のものです。この会社の代表的な商品は、多くの人が使用した経験がある「ムヒ」です。

池田模範堂の薬理担当者を募集している求人では、薬理試験だけでなく、安全性試験も行うことが記載されています。

このように、会社によっては、薬理試験と安全性試験を兼任することがあります。したがって、あなたが携わりたい仕事内容と、求人情報に掲載されている内容がマッチしているかを確認するようにしましょう。

薬理試験の研究者として働く

ここまで、薬理試験の研究者として働くときの、仕事内容の実態について、求人情報を基に紹介してきました。

では、薬理試験の研究者として転職をしようとしたときに、求められるものは何があるのでしょうか。転職を有利に進めるための資格・スキル・経験はあるのでしょうか。

歓迎される資格はあっても、必須資格はない

薬理試験は、細胞、微生物、実験動物を使用して、化合物の活性を評価します。そして、これらの対象物を取り扱うために必須の資格はありません。

学生時代に、細胞や動物に化合物を添加したり投与したりした経験はあるでしょうか。このときは、特に資格を取得することなく実験をしていたはずです。もちろん、資格なしで実験をしても問題はありません。

そして、企業で薬理試験に携わるときにも、資格が必須で求められることはありません。

ただし、求人に歓迎条件として資格が挙げられていることがあります。それは実験動物技術者、獣医師、薬剤師などです。

次に紹介するステムリム株式会社の求人では、上記の資格が歓迎条件に挙げられています。

実験動物技術者は、日本実験動物協会が実施している認定資格です。この資格を有していると、動物実験に関する知識と技術を持っていることが担保されます。

また、獣医師や薬剤師の資格を有している人は、獣医学や薬学を修めている人です。つまり、これらの資格を保有している人は、化合物を実験動物に投与したときの結果解析に必要な、生理学や薬理学などの知識を持っている可能性が高いです。

そして、これらの知識があれば、薬理試験に携わるときには、仕事に慣れるのが早いです。そのような理由で、これらの資格が歓迎条件として挙げられています。

ただし、いずれの資格も、薬理試験の仕事をするための必須の資格ではないので、資格がなくてもこのような求人にエントリーすることができます。

英語力は必須

転職のために求人情報を見ていると、高い英語力が求められる求人は多いです。

下に紹介する求人は、非公開求人です。応募資格の欄には、英語で科学的な議論ができる英語力、つまり高い英語力が求められることが記載されています。

職場で実験をするだけであれば英語を使用する機会は、ほとんどありません。しかし、研究職として働くのであれば、英語の使用頻度は増えます。

例えば、実験のレポートを英語で書いたり、英語での電話会議に参加したりすると、必ず英語を使用します。なお、これらの業務は、英語ができなくてもやる必要がある業務です。

また、求人によってはファーストオーサーの英語論文実績や、海外学会で口頭発表経験を英語力の指標としている求人もあります。

次に紹介する求人は、京都府にあるCROの求人です。エントリーするためには、ファーストオーサーの論文実績が必要です。

私が学生時代に所属していた研究室では、ファーストオーサーが英語で論文を執筆していました。化学系や生物系の論文の多くは、下に示すような英語論文です。

英語論文を執筆するためには、その分野の研究で用いられる英語が理解できていなければなりません。そのため、ファーストオーサーとしての論文実績があれば、英語力があるとみなされる可能性は高いです。

続いて紹介するのは、大正製薬株式会社の求人です。この求人の「対象となる方」の欄には、海外学会での口頭発表の経験が必須条件として挙げられています。

日本国内で開催される学会で、口頭発表を経験したことがある人は多いと思います。

ただ、海外の学会で口頭発表の経験がある人は、あなたの周囲にも少ないのではないでしょうか。そしてその理由は、英語で質問をされたときに対応できないからという人が圧倒的に多いと思います。

多くの聴衆の前で英語で、質問をされても、英語力がなければ、その場で受け答えをすることができません。したがって、海外での学会発表の経験があれば、高い英語力があるとみなされます。

このように、薬理試験の研究職として働くためには、エントリーの段階で高い英語力が求められる求人が多いです。

年齢制限を確認する

薬理試験に長い間従事した経験があり、高い英語力があれば、転職活動を有利に進めることができるのは間違いありません。

ただし、求人によっては、年齢制限が設けられているものもあるので、注意が必要です。

次に紹介するのは、この章の最初に紹介したステムリム株式会社の求人です。この求人では、28歳以上40歳以下の年齢制限が設定されています。

年齢制限をする理由は、若手研究者に入社してもらい、長期間会社に貢献してもらいたいからです。これは、雇う側の立場になって考えるとよくわかると思います。

実力や経験がかなりある人を採用しても、入社して数年で定年退職になってしまうと、会社で活躍できる期間は短いです。一方で、20代や30代の若手を採用すると、20年から30年は会社に在籍することになります。

このように求人には、年齢制限が設けられている求人があることに注意が必要です。そして、本格的に転職活動を行おうと思っているのであれば、早めに就職活動を始めるのがよいでしょう。

まとめ

ここでは、薬理試験の研究職に転職するときに確認すべき内容について紹介しました。

薬理試験の仕事内容は、幅広いです。化合物の活性を評価するだけでなく、試験法の開発、病態モデルの作成、新規テーマの立案などにも関わります。

そして、携わる仕事は、会社によって大きく異なります。複数の業務に携わることもあれば、単一の業務にしか携わらないこともあります。したがって、エントリーの際には、仕事内容を十分に確認するようにしましょう。

薬理試験の研究職で働くために、必須の資格はありません。求人によっては、実験動物技術者、獣医師、薬剤師の資格が歓迎条件に挙げられているので、これらの資格を有していれば自信をもってエントリーできるでしょう。

また、研究職として薬理試験に従事すると、英語を使用する場面は避けることができません。転職の際にも、高い英語力が求められる求人が多いことを知っておく必要があります。

そして、年齢制限が設定されている求人もあります。したがって、本格的に転職を考えているのであれば、早期に転職活動を始めるようにしましょう。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。