化粧品メーカーで研究職では、新製品開発のための基礎研究を行います。よい研究成果が得られれば、5年後、10年後の新製品につながる可能性もあります。

もちろん研究はうまくいかないことの方が多いです。しかし、うまくいったときの喜びは格別で、研究職はやりがいのある職種です。

一般的には、研究職は基礎研究を行う職種ですが、新製品の処方を検討することも研究職の仕事に含まれることがあり、会社によって仕事内容は大きく異なります。そのため、あらかじめ化粧品メーカーの研究職の仕事内容・範囲を把握しておかなければ、転職失敗のリスクが高くなります。

ここではまず、化粧品メーカーの研究職の仕事内容を解説します。そして、転職するために求められるもの、転職失敗を防ぐための方法を紹介します。

化粧品メーカーの研究職の仕事は幅広い

化粧品は皮膚や髪に使用するものが多いです。そのため、研究職として働くと、有効成分が皮膚や髪にどのような影響を及ぼすかについて検証します。

下に示す求人は、日系の大手化粧品メーカーの求人です。皮膚に関する基礎研究に携わることになります。

皮膚細胞に被験物質を添加したときに、皮膚細胞にどのような影響が現れるかを顕微鏡で観察したり、有効成分の吸収性を解析したりします。

そして、研究対象は化粧品を付ける皮膚や髪だけではありません。化粧品の成分の研究もします。下の求人は、独自素材の獲得を目指した研究を担当します。

これは、新たな成分を合成して、評価するわけではありません。実際、化粧品メーカーには新規生理活性物質を合成する合成部隊はいません。

独自素材の獲得では、すでにヒトに対して使用できることがわかっている成分を組み合わせて、新たな機能を求める研究を行います。例えば、「肌に塗ったときに、よりべたつきが少なくなるクリームの開発」などです。

続いて紹介する求人では、神奈川県横浜市にある大手化粧品会社の求人で、仕事内容の1つに新たな技術の開発・探索が挙げられています。

新技術の開発は、自社内だけで行われることもあれば、化粧品会社以外の企業と共同研究することもあります。全く異なる領域の事業を行っている企業と組むことで、新たな技術を生み出すことができます。

例えば、多くの化粧品を開発している花王株式会社は、電機メーカーのパナソニック株式会社との共同研究で、肌表面をなめらかにする極細繊維のファインファイバーを開発しました。

繊維の技術開発は花王株式会社が担当し、繊維を吹きつけるための機器開発はパナソニック株式会社が担当しました。このように、両社の技術を組み合わせることで新技術が生み出されました。

引用:花王 エスト 使い方動画を一部改変

なお、化粧品の安全性を評価するときには、基本的にはマウスやラットなどの実験動物を用いることができません。化粧品は嗜好品であり、動物愛護の観点から嗜好品を開発するために動物を犠牲にすることは難しくなっています。

そのため化粧品開発の工程では、動物代替モデルを用いた安全性の評価を行う必要があります。次に示す求人では、動物代替法を用いた安全性評価を担当することになります。

具体的には、3D皮膚モデルなどを用いて、効果や有害事象の有無を評価します。3D皮膚モデルはヒトの皮膚をin vitroの系で構築したモデル細胞であり、ヒトの皮膚への作用を検証するために使用されます。

化粧品会社の研究職では、動物代替法の開発を行ったり、動物代替法を用いた評価を実施したりします。

このように研究職のなかでも、仕事内容は大きく異なります。転職する前に、あなたが携わりたい研究分野を整理しておく必要があります。

「研究開発」は「処方開発」を指すことが多い

求人サイトで求人を閲覧していると、「研究開発」という分類を見かけることがあります。

下に示すのは、化粧品・コスメ業界の求人を取り扱っている求人サイトの彩職のトップページです。求人の分類が「研究・処方開発」となっています。

このように、研究職のなかに処方開発も含まれることがあります。実は研究開発の求人のほとんどは、基礎研究ではなく、処方開発を担当することになります。

実際の求人例を下に示します。この求人は兵庫県にある化粧品メーカーのものです。仕事内容の欄には、処方開発(処方設計)やサンプルの作成、そして製造のための工場とのやり取りなどが挙げられています。

処方開発では、目的の性能を発揮するために原料、基剤などを組み合わせて、化粧品の試作品(サンプル)を作成します。この業務内容は、ここまで紹介してきた基礎研究とは異なることがわかります。

会社によって仕事内容は大きく異なる

私の知り合いが働いている某大手の化粧品メーカーでは、処方開発に携わり試作品を作るスタッフは、研究所で仕事をし「研究員」と呼ばれます。つまり、この会社では処方開発を担当する人は研究職として扱われます。

しかし、会社によっては処方開発の仕事は、研究職には含まれません。研究開発と呼ばれることもありますし、そのまま処方開発と呼ばれることもあります。また、前の項で紹介した求人のように、会社の規模によっては、研究室で実験をするだけでなく、工場やメーカーとの折衝を任されることもあります。

そして、研究開発と謳っている求人でも、処方開発をメインで行う求人、基礎研究から処方開発まで行う求人など、仕事内容は一律ではありません。

下の求人は、大阪府茨木市にある大手化粧品メーカーの求人で、研究開発職を募集しています。求人票に挙げられている仕事内容には、基礎研究に含まれるものも複数挙げられていることがわかります。

この求人で挙げられている研究開発の企画や評価系の構築、機序研究などは基礎研究に分類されます。

つまり、求人票に記載されている「研究職」「研究開発」という分類だけでは、仕事内容を判断することはできません。そのため、転職活動をするときには、求人票の冒頭に記載されている分類だけでなく、具体的な仕事内容もしっかり確認する必要があります。

この作業を怠ると、転職後に「思っていた仕事内容と違う」という事態に陥りかねません。転職サイトのエージェントサービスを利用していれば、担当者を通して具体的な仕事内容を確認することもできます。

中途採用で求められる経験・スキル・資格

では、研究職の求人に転職しようとしたときに、求められる経験・スキル・資格にはどのようなものがあるのでしょうか。これらについて順番に確認していきましょう。

研究に携わった経験

研究職の求人に転職をするときには、求人票に挙げられている仕事内容と同じ内容の業務経験が必須条件に挙げられていることが多いです。つまり、未経験者の転職は難しいです。

下に紹介するのは、勤務地が埼玉県さいたま市の大手製薬会社の求人です。この会社では、化粧品や医薬部外品の事業を行っています。そして、この求人の応募資格の欄には、化粧品メーカーなどでの研究経験・実績が必須条件として挙げられています。

化粧品会社の研究職なので、皮膚科学や生理学に関する研究経験が求められます。

なお、この求人は化粧品会社での経験がなくても応募することができます。化粧品メーカーに限らず、医薬品メーカー、食品メーカー、大学などの研究機関で皮膚科学、生理学に関連した研究経験があれば、応募できる求人もあります。

実際に化粧品会社の研究職に転職する人は、化粧品会社からの転職ばかりではありません。食品関係の研究職や、製薬会社の研究職で働いていた人が転職してくる例もあります。

高い英語力があれば有利になるが、必ずしも必須ではない

次に示す求人は、最初の章で紹介した大手化粧品会社グループのものです。この求人の応募資格の欄には、英語で日常会話レベルのスピーキング、リスニング、リーディングができることが必須条件に挙げられています。

日本国内の研究所で働いていると、部署内のコミュニケーションで英語を使用することはほとんどありません。英語に触れる機会があるとすれば、以下のような英語論文を読むときくらいです。

しかし、携わる事業内容によっては、海外の共同研究先の会社とメールや電話会議で英語を使用しなければならないことがあります。

また、海外に自社の研究所がある場合は、海外赴任を命じられることもあります。私の知り合いで大手化粧品会社の研究職で働いている人は、同じ部署内の人は1,2年に1人は海外赴任があると教えてくれました。

さきほどの求人には、英語を使用する具体的な場面についても記載はありませんでしたが、これらの場面を想定して英語力を必須条件に挙げていると考えられます。

では、英語が苦手な人は化粧品メーカーの研究職に転職出来ないのでしょうか。実は、化粧品メーカーの研究職のなかで、英語力が必須と謳われている求人は少ないです。つまり、英語ができなくても問題なく転職できます。

実際の求人例を示します。この求人は埼玉県にある化粧品だけでなく食品やOTC医薬品の研究開発を行っている会社のものです。この求人の冒頭には、英語力不問と記載されています。

なお、この企業は海外展開もしていますが、英語力が求められません。

もちろん、英語ができて困ることはありません。英語に自信がある人は、履歴書や面接で大いにアピールするとよいです。もし英語に自信がなくても、応募できる研究職の求人はあるので、過度に心配する必要はありません。

必須の資格や免許はない

化粧品メーカーの研究職に転職するときに、もっていると有利になるような資格はあるのでしょうか。実は、何も資格がなくても応募できる求人がほとんどです。これは、研究職で働くために必須の資格がないためです。

ここまで7件の求人を紹介しましたが、応募資格の欄に求められる資格が記載されている求人は1件もありません。さきほど紹介した日常会話レベルの英語力が求められる求人でも、資格や免許については記載されていません。

また、転職を成功させたあとにも、必ず取得しなければならない資格はありません。化粧品会社の研究職で働く友人は、資格について以下のように教えてくれました。

新卒で就職して1年目に危険物取扱者の資格取得を求められたが、これは私の会社に昔からある伝統であり、取得していなくても仕事はできる。取得したものの、私自身は役に立った場面は一度もない。

なかには自主的に勉強して資格を取得する人もいるが、その結果として年収が上がるわけではない。

私は薬学部出身だが、薬剤師資格があっても特に役立つ場面はない。薬剤師資格があれば、毒物劇物取扱責任者や向精神薬取扱責任者に任命されることがある。これは資格があることによるメリットとは考えられない。薬剤師としての知識が役立つわけではないし、「薬剤師資格がある=化学の知識がある」とみなされるわけでもない。

なお、会社によっては資格手当がもらえることもあるかもしれないが、私の会社では資格手当はもらえない。

このように、化粧品メーカーの研究職に転職するために資格は必要ないことがわかります。また、転職活動を有利に進めるために化粧品関連の資格を取得する必要もありません。

転職失敗を防ぐために転職エージェントを活用する

化粧品会社の研究職に転職するときに求められる経験、スキルについて紹介しました。ここで紹介した経験やスキルがあれば転職を成功できる可能性が十分あります。

ただし、闇雲に求人を探してエントリーしても納得できる転職にならないこともあります。続いて、転職失敗を防ぐための方法を紹介します。

基礎研究の求人は数が少ない

研究職への転職では、経験が重要視される求人が多いです。基本的には狭き門であり、競争倍率は高いです。そしてそのなかでも、基礎研究の担当者を募集している求人は極端に少ないです。

化粧品・コスメ業界の求人を取り扱っている求人サイトの彩職には、研究・処方開発の公開求人が57件ありました。そのうち、化粧品メーカーで基礎研究だけを行うことが仕事内容に謳われている求人は1件もありませんでした。

ほとんどの求人は処方開発または基礎研究から処方開発まで行うものです。

あなたが基礎研究に携わりたいのであれば、公開求人だけで求人を探していても、希望に沿った条件の求人を見つけることができる可能性はかなり低いでしょう。

そこで、転職エージェントのサービスを受けて非公開求人を紹介してもらうことで、納得できる求人に出会える可能性が一気に高まります。

実は転職サイトが取り扱っている求人の約80%が非公開求人と言われています。大手転職サイトのdodaには、取り扱っている求人の80%~90%が非公開求人とホームページに紹介されています。

引用:非公開求人に天職あり!転職ならdoda(デューダ)を改変

研究職は人気が高い職種なので、競争倍率が高いです。公開求人だけでなく、非公開求人も含めて求人を探すことで、あなたの希望に沿った求人に出会える可能性は高まります。

仕事内容の詳細を、転職エージェントを通して確認する

転職エージェントのサービスを受けると、非公開求人の紹介以外にも多くのメリットがあります。そのなかの1つは、求人票に記載されている仕事内容の詳細について企業に確認をしてくれることです。

求人票によっては、仕事内容が簡潔にしか記載されていないものもあります。例えば下の化粧品会社の求人では、「ワックス・洗剤などの研究開発を担当する」としか記載されていません。これだけの情報ではくわしい仕事内容はわからないでしょう。

転職エージェントの担当者は、企業の人事担当者とのつながりがあります。そのため、「どのような人材を求めているか」「入社後にどのような仕事に携わってもらう予定か」などを企業に確認してくれます。

転職の失敗を防ぐためには、予めあなたがやりたい仕事と企業が想定している仕事内容が合致しているかを確認することが重要です。

まとめ

化粧品会社の研究職では、新製品につながる基礎研究を行ったり、新たな機序の解明を行ったりします。それ以外にも、処方開発に関わることもあり、会社によって仕事内容が大きく異なることに注意が必要です。

研究職に転職するためには、研究職としての業務経験が必須であることがほとんどです。化粧品業界に限らず、皮膚科学や生理学の研究に携わった経験があれば求人に応募できます。

会社によっては英語力が求められることがありますが、英語力不問の求人も多いです。そして、研究職に転職するために必須の資格はありません。

研究職のなかでも、基礎研究の求人は少ないです。求人によっては、求人票に記載されている仕事内容がわかりにくいものもあります。

そして、転職エージェントのサービスを受けて非公開求人を紹介してもらい、より多くの求人に触れたり、仕事内容を企業に確認してもらったりすることで、転職の失敗を防ぐことができます。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。