ワクチンは小児から大人まで使用され、健康を維持するために必須の医薬品です。病気にならない、または病気になっても重症化させないために、新たなワクチンの研究開発は行われています。

実は、ワクチンの研究職の仕事は多岐に渡ります。そして、これまでワクチン研究に携わったことがない研究者でも転職することができます。

しかし、闇雲に求人を探して応募しても、必ずしも内定を勝ち取れるわけではありません。これまでのあなたの経験を活かせる求人を見つけることで、転職を成功させることができます。

ここでは、ワクチン開発の研究者を募集している求人を基に、「ワクチン研究の仕事内容」「転職で求められるスキル」「転職を成功させるための極意」を紹介します。

ワクチン研究の仕事は幅広い

ワクチンも医療用医薬品の一種なので、研究開発のプロセスは医療用医薬品と同じです。下の図のなかで、研究職は基礎研究から臨床試験の前段階までを担当します。

ワクチン研究もワクチン以外の医薬品の研究と同様に、すべての工程を1人の研究者が担当するわけではありません。専門分野ごとに担当を分けて、研究を進めていきます。

実際にワクチンの研究者を募集している求人を2例紹介します。

最初に紹介するのは、株式会社UMNファーマの求人です。UMNファーマ社は、塩野義製薬株式会社の子会社であり、バイオ医薬品の研究開発から製造販売までを行っている企業です。

UMNファーマ社の求人では、次世代ワクチンの開発のための細胞培養・タンパク精製、化学的・物理的分析など担当する研究者を募集しています。

ワクチンはタンパク質やDNA・RNAであり、小分子ではありません。そのため、ワクチン製剤の製造では、有機合成ではなく細胞培養や卵を用いることが多いです。

そして、適切な条件で培養しなければ、ワクチン成分は製造できません。また、最終的にはワクチン成分を抽出・精製しなければ、医薬品として用いることはできません。

これらのプロセスを検討・最適化する業務が、UMNファーマ社で担当する仕事です。

2件目の求人は、大手製薬会社のアステラス製薬株式会社の求人です。この求人では、製剤研究の担当者を募集しています。

アステラス製薬社の求人では、製剤の処方設計から、製造プロセスの開発、最終的な製造現場への技術移管までのいずれかまたは複数の工程を担当する人材を求めています。

ほとんどのワクチンは注射剤です。注射剤は直接体内に薬の成分を入れることになるので、飲み薬と比べてより厳格な品質規格が設けられています。

無菌的に製造するためのプロセスを構築し、製造プロセス・製造技術を製造所に導入しなければなりません。

また、ワクチン製剤には複数のデバイスが開発されているものもあります。例えば、毎年多くの人が受ける予防接種の1つにインフルエンザワクチンがあります。インフルエンザワクチンは、下の写真のようにバイアルに入っています。

ワクチンの多くはバイアル製剤ですが、インフルエンザワクチンのなかにはシリンジ製剤もあります。ワクチンのデバイスを研究することも、研究者の仕事内容です。

このようにワクチンの研究は、基礎研究から始まり、製造所への技術移管までの幅広いプロセスがあります。

ワクチン研究に従事するために必要なスキル・経験

では、ワクチン研究に従事するためには、どのような経験やスキルが求められるのでしょうか。

最初に紹介したUMNファーマ社の求人では、細胞培養または、タンパク質精製に関わる実務経験が必須条件として挙げられています。

2例目のアステラス製薬社の求人では、以下のように製剤設計業務に携わった経験が必要です。

いずれの求人も、転職後に携わる仕事内容と同じまたは類似の仕事を経験していることが必須です。未経験者の転職は難しいと考えてください。

ただし、必ずしもワクチン研究に従事した経験が求められるわけではありません。

1例目のUMNファーマ社の求人は「細胞培養またはタンパク質精製に関わる実務経験」が必須の応募条件でした。医薬品の研究開発に限らず、生化学の研究をしている人であれば、細胞培養やタンパク質精製の実務を経験することもあります。

2例目のアステラス社の求人では、バイオ医薬品の製剤関連の業務経験が求められています。

バイオ医薬品は、ワクチン以外にもインスリン注射、リウマチ治療薬、貧血治療薬など、さまざまな医薬品が該当します。いずれの製剤も製造方法は類似しており、職務経験を活かすことができます。

このように、転職後に担当する仕事と同様の業務経験があれば、ワクチン研究の担当者を募集している求人に応募することができます。

また、ヒトに用いるワクチンの研究は、製薬会社で実施されていることが多いです。求人を探すときには、製薬会社を中心に探すことになります。

動物用ワクチンの研究に従事する

ここまで紹介してきた求人は、ヒトに用いるワクチンの研究に従事する求人でした。実は、ワクチンを接種するのはヒトだけではありません。

次に紹介する株式会社微生物化学研究所は、牛用のワクチンの国内シェアが大きい企業です。微生物化学研究所社の求人では、家畜用のワクチンの研究開発業務を担当する研究者を募集しています。

ワクチンはヒト以外の動物にも接種されています。そのため、動物用のワクチンを研究する人材も企業で募集されています。

例えば、イヌは狂犬病の予防接種を毎年受けさせることが義務付けられています。イヌを飼うと毎年動物病院に連れていって、狂犬病の予防接種を受けさせる必要があります。

動物種によってワクチンは異なるので、動物種ごとにワクチンを開発しなければなりません。

例えば、狂犬病はイヌだけでなくヒトに対するワクチンも開発されています。同じ病気に対するワクチンですが、摂取する動物種が変われば、ワクチンも変わります。実際に狂犬病に対するワクチンはイヌ用とヒト用では作成方法が異なります。

また、イヌやフェレットなどで発症することがある感染症の1つにジステンパーウイルス感染症があります。ジステンパーウイルス感染症は、高熱・嘔吐などの症状が現れる感染症で、ワクチンも開発されています。

そして、ジステンパーウイルスはヒトには感染しないので、ヒトのワクチンは存在しません。そのため、ジステンパーウイルス感染症のワクチンはイヌ用に研究開発しなければなりません。

では、動物用のワクチン研究に携わるためには、どのような経験が必要なのでしょうか。微生物化学研究所社の求人では、以下のように「ワクチンまたはバイオ医薬品の研究経験」か「牛または鶏を対象とした研究開発経験」が必須条件に挙げられています。

例えば、ヒト用のワクチンの研究開発に携わった経験があれば、この求人の応募条件を満たします。

動物用のワクチンも、生ワクチンと不活化ワクチンに分けられ、研究の工程や作業はヒト用ワクチンと類似しています。そのため、ヒト用のワクチンの研究開発の経験は、動物用ワクチンの研究に活かすことができます。

また、前の章で紹介したように、バイオ医薬品は幅広く臨床現場で利用されています。バイオ医薬品の基礎研究から製剤化までの工程を経験していれば、微生物化学研究所社の応募条件を満たします。

ほかにも、牛や鶏などの動物種を対象とした研究経験があれば応募することができます。

このようなバイオ医薬品の研究に従事した経験や、動物を対象とした研究経験があれば、動物用のワクチン研究に従事できます。

ワクチン研究に携わるための戦略

ワクチンの研究者を募集している求人を3件紹介しました。実は、ワクチンの研究者を募集している求人は、転職市場のなかでごくわずかです。

6万件以上の取り扱っている大手転職サイトのdodaで「ワクチン 研究」で検索すると、以下のように116件の求人がヒットします。

ここでヒットする求人のなかには、企業の事業内容に「ワクチンの研究開発」などの文言があってヒットしているものもあります。

実際に73件の求人のなかで、仕事内容にワクチンの研究開発が挙げられている求人は5件以下です。

つまり、ワクチンの研究に携わることができる求人は、かなり少ないことがわかります。そのなかで、あなたの専門分野と仕事内容が合致する求人を見つけるのは至難の業です。

少しでも多くの求人から希望の求人を見つけるための工夫をしなければなりません。そこで、希望に沿った求人を見つけるための有効な手段の1つは、転職エージェントのサービスを利用することです。

転職エージェントを利用するメリットは多いですが、そのなかの1つに「非公開求人を紹介してもらえること」があります。非公開求人とは、転職サイトに掲載されておらず、求職者がどんなに調べても見つけることができない求人です。

実は、ここまで紹介した求人を含む公開求人は、転職市場にある求人の20~40%程度と言われています。高年収求人を多く扱っているJAC Recruitmentのホームページには、以下のように取り扱っている求人のうち60%が非公開求人と紹介されています。この割合は、ほかの転職エージェントでもほとんど変わりません。

公開求人のなかに、ワクチン研究者を募集している求人はごくわずかしかありません。

また、転職エージェントによって取り扱っている求人は異なります。そのため、複数の転職エージェントを活用することも有効な手段です。私は転職活動のときに4社登録しました。

ワクチンの研究者に転職するときには、これらの工夫をすることで、転職成功の可能性を高めることができます。

まとめ

ここでは、ワクチンの研究者を募集している求人に転職成功するためのポイントを紹介しました。

ワクチンもほかの医薬品と同様のプロセスで研究・開発されます。研究者は基礎研究から臨床試験の前段階までを担当することになります。

転職を成功させるためには、ワクチン研究に携わった経験がなくても問題ありません。ただし、生化学や製剤研究など、転職後に携わる業務と同様の仕事を経験している必要があります。

ワクチンを接種するのはヒトだけではありません。ヒト以外の動物に対するワクチン研究も行われており、研究者が募集されています。ワクチンを含むバイオ医薬品の研究や、動物を対象とした研究経験があれば、動物用ワクチンの研究に従事することができます。

ワクチンの研究者を募集している求人は、求人数が非常に少ないです。あなたの経験を活かして転職できる求人を見つめるためには、非公開求人を含めて幅広く探さなければ転職成功は難しいです。

ワクチン開発の研究者に転職するときには、これらのポイントを押さえて転職活動を進めることで、希望の求人に出会いやすくなります。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。