転職活動をするときに、一般的には資格があれば有利に進めることができます。仕事によっては資格がなければ仕事に従事できないものもあります。
製薬会社は研究職や開発職の人にとって人気の就職先です。では、製薬会社に転職するときに取得していて有利になる資格はあるのでしょうか。製薬会社に入るには何かしらの資格が必要なのでしょうか。
ここでは、製薬会社へ転職するときに有利になる資格と、資格の考え方について解説します。
もくじ
製薬会社で働くために必須の資格はない
製薬会社は医薬品の研究、開発、製造、販売をしている会社です。医薬品を取り扱うので、製薬会社で働くためには医療系や化学系の資格が必要と考えている人もいるかもしれません。
実は、製薬会社で働くために必須の資格はありません。基本的には無資格でも働くことができます。
職種によりますが、製薬会社で働く人の約半数は薬学部出身者です。言い換えれば、約半数は薬学部以外の工学部、理学部、農学部などの出身者で構成されています。
私の友人のなかにも、工学部出身で開発職のCRA(臨床開発モニター)として活躍している人や、理学部出身で動物を扱う薬理試験を担当している人がいます。彼らは学生時代に医療系や化学系の資格を取得していたわけではありませんが、新卒で製薬会社に採用されています。
そして彼らに話を訊くと、入社後10年以上経過しても何も資格を取得していないと話してくれました。つまり、資格を取得していなくても仕事はできますし、年収が上がらないわけでもありません。
ただ、資格がなくても製薬会社に転職することができますが、持っていると転職が有利になる資格は存在します。それらについて以降の章で順に解説していきます。
製薬会社に転職するときに有利になる資格
どのような資格を所有していれば製薬会社への転職を有利にできるのでしょうか。もちろん何でもよいわけではなく、業務に活かすことができる資格である必要があります。
CRAには薬剤師、看護師、臨床検査技師資格があると転職できる
CRA(臨床開発モニター)は開発職に分類される職種です。CRAの役割は、医薬品になる前の候補化合物を人に対して臨床試験をするときに、医療機関を訪問して、スケジュール通りに試験が進んでいるかをモニタリングすることです。
CRAとして働くと、医療機関で働く専門職の人と臨床試験の情報交換や、進捗状況の確認をしなければなりません。病院のカルテを閲覧することもありますし、医師が入力した薬効や副作用情報を確認することもあります。
このようにCRAで働くときには医療に関する専門知識に触れる機会が多いです。そのためCRAに転職するときには、薬剤師、看護師、臨床検査技師などの医療資格が条件に挙げられていることがあります。
下に示す求人は、未経験者が応募できるCRAを募集している求人です。「応募資格」の欄には、前述の資格が必須条件として挙げられています。
例えば、臨床試験を実施するときには、副作用の有無を判断するために血液検査を実施します。血液検査の検査項目は多岐に渡りますが、英語の略語で記載されているものも多いです。
医療従事者として働いていると、このような専門用語には精通しています。検査項目が何の病気の指標となり、どの程度の数値であれば異常値であるかも、理解できている人が多いです。
CRAとして働くと、医療の専門家と一緒に仕事をすることになるので、薬剤師、看護師、診療検査技師などの資格があれば転職しやすいです。
MRに転職するためには普通自動車運転免許が必須
MR(医薬情報担当者:Medical Representative)は製薬会社の営業職です。MRとして働くと、医療機関を訪問して、新薬の情報提供やクレーム対応などをすることが仕事内容になります。
そのため、MRは医療機関を訪問することが仕事といっても過言ではありません。そして医療機関を訪問するときには車を使用することが多いことから、自動車運転免許が必要になります。
下に示すのは、未経験者も応募可能なMRを募集している製薬企業の求人です。この求人の「応募資格」の欄には、普通自動車運転免許の保有が必須条件に挙げられています。
都会であれば、車で移動するよりも電車で移動した方が早いかもしれません。ただしMRは転職が非常に多い職種です。転職先は全国各地のどこになるかわかりません。そのため、ずっと都会で働き続けられることはありません。
そして医療機関を訪問するときは、手ぶらで行くことはまずありません。自社製品のパンフレットや、医療機関から依頼された資料を持っていくことが多いので、多くの荷物を運ばなければならないことが頻繁にあります。そのようなときには、車でなければ運ぶのが大変です。
普通自動車運転免許は、ほとんどの人が取得していると思いますが、MRに転職するためには必須の資格であることに注意しましょう。
薬剤師資格があれば、さまざまな職種に転職できる
第2章第1項で、医療従事者の資格があればCRAに転職できることを紹介しました。実は医療従事者のなかでも、薬剤師の資格があればCRA以外の職種にも転職しやすいです。
薬剤師の資格があれば転職しやすい職種の1つは「MSL」です。MSLとはMedical Science Liaison(メディカル・サイエンス・リエゾン)の略で、主に医師の臨床研究をマネジメントしたり、学術的な情報を提供したりする専門職です。
下に示すのは外資系製薬メーカーでMSLを募集している求人です。この求人の「応募資格」の欄には、必須条件の1つに薬剤師資格が挙げられています。
薬剤師資格を取得するためには、まず薬学部を卒業しなければなりません。薬学部では下の写真のような教科書を使用して、薬を理解するために必要な基礎知識を学びます。
薬に関連する知識を一通り習得している薬剤師は、薬のスペシャリストとみなされます。そのため、薬剤師資格が製薬会社の求人票の必須条件や歓迎条件に挙げられることがあるのです。
次に紹介するのは、置き薬・配置薬を中心に、医薬品の研究開発、製造・販売を行っている株式会社富士薬品の求人です。この求人では医薬品の製剤研究担当者を募集していますが、薬剤師資格が歓迎条件に挙げられています。
このように、薬剤師の資格があると製薬会社のさまざまな職種に転職するときに有利になります。
ただ繰り返しになりますが、薬剤師の資格がなくても製薬会社の仕事に就くことはできます。そのため資格がなくても、転職を諦める必要はありません。
入社後に取得を求められる資格はある
前の章では製薬会社に転職するときに取得していると転職しやすい資格を紹介しました。
一方で、転職するときには保有していなくてもよいが、転職後に取得を求められる資格はあります。続いてそれらについて順に説明します。
MRはMR認定試験を受ける
MR認定試験は、MR認定センターが主催する認定試験です。MR認定試験に合格するとMR認定証が交付され、一人前のMRとして認定されます。
MR認定試験に合格しなくてもMRとして勤務することはできますが、ほぼすべてのMRは同試験に合格しているので、MR認定試験に合格することが一人前として認められるための第一関門といえます。
MR認定試験には、疾病や治療法、薬理学など、医薬品情報を扱うために必要な知識を問う問題が出題されます。
引用:MR認定試験対策 要点整理:疾病と治療(基礎・臨床)P73より
なお、MR認定試験を受験するためには、MRとしての実務経験が必要です。また、製薬会社社員か、MRを派遣するCSO(医薬品販売業務受託機関)の社員である必要もあります。つまり、未経験からMRに転職する場合は、転職後でなければMR認定試験を受験することができません。
MR認定試験の合格率はおおよそ80%であり、しっかりと対策をすれば合格は難しくありません。未経験からMRに転職したあとには、将来的にはMR認定試験を受験する必要があることは覚えておきましょう。
製造職は危険物取扱者(甲種)、高圧ガス製造保安責任者の資格が求められる
これらの資格は、製薬会社の工場で製造職として働く場合に取得を求められることがあります。
危険物取扱者は消防法で定められている危険物を取り扱ったり、貯蔵したりするときに危険物取扱者の有資格者を選任する必要があります。危険物取扱者資格には乙種と丙種もありますが、甲種を取得すればすべての危険物の取り扱いが許可されます。
例えば、実験や製造で頻繁に使用されるメタノールは消防法で定められる危険物の1つです。
高圧ガス製造保安責任者は液体窒素などの高圧ガスに関する第一種製造者等に当たる事業所において、保安のために設置が義務付けられています。
実はこれらの資格は、工場で働く全員が取得しなければならない資格ではありません。その理由は、資格を持っていなくても、資格者が立ち会うことで、規制対象物を取り扱うことができるからです。
私は研究職として化学メーカーの工場で働いていたことがあります。化学メーカーでしたが、製薬会社からの製造受託品も取り扱っていました。そして私が入社したときは、先輩社員は全員危険物取扱者甲種を取得していました。
資格はそれぞれの部署で何人かが取得していれば問題ありませんが、私も配属された直後に同資格の取得を命じられました。
このように、部署の方針で転職後に資格取得を求められる可能性はありますが、転職のときには取得していなくても問題ありません。
資格取得よりも転職活動を優先すべき
製薬会社に転職するときに有利になる資格と、転職後に取得を求められる資格を紹介しました。これらの資格をすでに持っていれば、面接でしっかりとアピールすればよいです。
ただ、資格を持っていなくても仕事に従事することはできます。そして一番してはいけないのは、転職活動をする前に資格取得を目指すことです。
例えば、危険物取扱者のなかで最難関の甲種資格は、大学で化学系の学部・学科を卒業していたり、修士または博士課程を修了していたりすると受験資格があります。
理系学部を卒業している多くの人が該当すると思います。つまり、転職活動をする前に資格を取得することも可能です。
しかし、転職活動よりも資格取得を優先することはおすすめできません。その理由は、資格取得をしている間にエントリーできる求人はなくなってしまう可能性があるからです。
参考までに危険物取扱者甲種の試験は、地域によりますが、田舎であれば試験の開催頻度は1~2カ月に1回です。普通自動車運転免許は、運転免許センターに行けば毎日受験することができますが、多くの資格試験は何か月かに1回しか試験が開催されません。
それに対して、求人は掲載される期間が定められています。以下の求人は掲載期間が約2週間です。
あくまで掲載期間は掲載されたときの予定であり、ほかの求職者が採用されると求人はなくなります。あなたが納得できる条件の求人は、同じように転職活動をしている人も探している求人である可能性が高いです。
新卒の就活と違い、転職は早い者勝ちです。そして、製薬会社で働くときに、資格がないと仕事ができないわけではありません。
必要な資格は転職を成功させてから取得するようにして、転職活動を優先した方が、転職を成功させやすいです。
まとめ
ここでは、製薬会社へ転職するときに保有していると有利になる資格について解説しました。
製薬会社で働くために必須の資格はありません。どの職種であっても無資格でも働くことはできます。しかし、なかには保有していると転職のときに有利になる資格は存在します。
薬剤師、看護師、臨床検査技師などの医療従事者の資格があれば、CRAに転職するときに有利になります。CRAは医療機関を訪問して、医師などと臨床試験の進捗状況について情報交換をするため、医療の専門知識が求められるからです。
そして医療従事者の資格のなかでも、薬の専門家である薬剤師資格はCRA以外の職種に転職するときにも有利になります。
MRに転職するときには、普通自動車運転免許が必須です。これは医療機関を訪問するときに車を使用することが多いためです。
製薬会社に転職後に取得を求められる資格はあります。MRに転職すると、MR認定試験を受けることになります。製造職では危険物取扱者(甲種)や高圧ガス製造保安責任者の資格取得を求められることがあります。
繰り返しになりますが、資格がなくても製薬会社で働くことはできます。これらの資格は、転職を成功させてから受験する資格であり、まずは転職活動を優先すべきです。
研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。
一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。
ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。
これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。