一般的には、資格を有していると転職が有利になることが多いです。大学生時代だけでなく、就職してからも上司からの指示でさまざまな資格を取得している人は多いでしょう。

では、化学メーカーの研究職に転職しようとしたときに、有利になる資格は存在するのでしょうか。もしそのような資格があれば、どのタイミングで取得するのがよいのでしょうか。

ここでは、化学メーカーの研究職に転職する際の、資格の重要性について解説します。

化学系の研究職で取得する資格とは

あなたが現在化学メーカーの研究職で働いているのであれば、何かしらの資格を取得しているかもしれません。また、他分野で働いている場合、化学メーカーの研究職への転職のために資格取得を考えているかもしれません。

まずは、化学メーカーで研究者として働くときに、どのような資格が必要になるかを説明します。

危険物取扱者甲種

消防法で定められている危険物を取り扱ったり、貯蔵したりするときに危険物取扱者の有資格者を選任する必要があります。なお、この資格は、国家資格です。

危険物取扱者資格には乙種と丙種もありますが、甲種を取得すればすべての危険物の取り扱いが許可されます。

危険物取扱者の資格は、ラボのスケールで実験を行うだけであれば取得する必要がありません。ある一定数量(指定数量と呼ぶ)以上の危険物を取り扱う場合に必要になります。例えば、メタノールの指定数量は、400Lです。

化学メーカーであれば、最終的には工場で商品を製造しなければなりません。化学メーカーで研究職として働くと、研究所内で実験をするだけでなく、プラントでの製造のためのスケールアップ検討や、実際にプラントに足を運んで製造工程の改良などに携わります。

そのため、化学メーカーの研究職で働く場合は危険物取扱者の資格取得を命じられることがあります。

毒物劇物取扱責任者

この資格は、毒物及び劇物取扱法の定めに基づいて、毒物や劇物の製造・販売などを行う事業所で危害の防止に当たるために必要な資格です。

毒物に指定されている化合物で代表的なものは、アジ化ナトリウムや水銀化合物です。劇物には、メタノールやトルエンなどが指定されています。

毒物劇物取扱責任者資格は、名前を聞いたことがある人は多いと思いますが、実際に試験を受けたことがある人は少ないと思います。なぜなら、受験しなくても資格を有している人も多いからです。

そして、毒物劇物取扱責任者資格は、毒物劇物取扱者試験を受けて合格すると取得できますが、それ以外にも下記に該当する人は毒物劇物取扱責任者になる資格を得しています。

  • 薬剤師
  • 厚生労働省令で定める学校で応用化学に関する課程を修了した者

後者は、大学では薬学部、理学部、工学部、農学部などの理系学部の多くが含まれます。化学メーカーの研究職を目指す人は、ほとんどの人がこれらのいずれかの学部を卒業しているでしょう。

毒物劇物取扱責任者資格はこのような資格であることから、試験を受けることなく資格を有している人は多いです。

高圧ガス製造保安責任者

高圧ガス製造保安責任者は、高圧ガスに関する第一種製造者等に当たる事業所において、保安のために設置しなければなりません。

高圧ガス製造保安責任者になるためには、高圧ガス製造保安責任者試験を受けて合格する必要があります。

高圧ガスの例としては、液化窒素、液化酸素などが挙げられます。実験室などで見かける窒素ボンベには、液化窒素が充填されており、高圧ガスとして扱われます。

なお、高圧ガスの処理容積が少なければ、第一種製造者等に該当しないので、本資格を取得する必要はありません。これは危険物取扱者の指定数量と考え方は同じです。

詳細は割愛しますが、一定量以上の高圧ガスを製造、貯蔵、販売、消費などする場合には、高圧ガス製造保安責任者を選任する必要があります。

資格を取得していなくても転職できる

化学メーカーの研究職で仕事をするときに、必要になることがある資格について説明しました。

では、これらの資格は転職を考えるときには取得しておく必要があるのでしょうか。

実際は、これらの資格が必須条件に挙げられていることはほとんどありません。しかし、まれに歓迎条件に挙げられているものはあります。

下の求人は、大阪府に本社があり、食品、医薬品、精密機器などで使用される塗料や接着剤を研究開発している櫻宮化学株式会社のものです。

この求人情報の「求める人材」の欄には以下のように記載されています。

活かせる資格として危険物取扱者が記載されていますが、必須ではないことも付け加えられています。

次の求人は、兵庫県にある自動車用コーティング剤などの化学製品を研究開発している神戸合成株式会社のものです。

この求人では、優遇条件として甲種危険物取扱者と高圧ガス乙種以上が載っています。

最後に、派遣社員の求人を紹介します。この求人では、大阪府吹田市にある大手化学メーカーで有機合成のオペレーション業務を担当します。

この求人の「応募資格」の欄には、以下のように記載されています。

このように、前章で紹介した資格を歓迎条件に挙げている求人はあります。当然このような求人では、資格があると入社しやすいです。

では、これらの資格を取得していない場合は、転職が不利になるのでしょうか。

必須条件で資格が求められることはほぼない

転職サイトdodaで、「化学メーカー 研究 資格」で検索すると251件の求人がヒットしました。これは研究職以外の職種もヒットしています。

このなかの研究職の求人で、必須条件に資格が記載されていたのは1件だけでした。その1件の求人は、危険物取扱者の資格を必須条件にしていました。

そして、この求人では危険物取扱者の資格が必須条件ですが、就活のときに工夫をすることで、資格を有していなくても採用になることがあります。

危険物取扱者資格を例に説明します。この資格は1年に何回も試験を実施しています。地域によって回数は全く違いますが、田舎であっても1~2カ月に1回は実施されています。

そのため、「すでに試験申し込みをしており、勉強も十分している」ということがアピールできれば、取得していなくても入社できることがあります。

私の知り合いにも、求人情報で必須条件とされていた資格を取得する前に内定を勝ち取った人がいます。

必須条件とされているので、資格を有していないとエントリーもできない場合も当然あります。

しかし、資格取得に向けて勉強をしている、または、すでに試験を受験していて合格の可能性が高いなどをアピールできれば、条件を満たさなくても内定をもらえることがあるのは事実です。

なお、今回紹介した資格は、いずれも難易度はあまり高くありません。きちんと勉強すれば、合格できる資格です。

・資格がなくても仕事はできる

例えば、タクシーの運転手として働くためには、普通自動車運転免許が必要です。タクシー会社の誰かが運転免許を持っていれば、全員が車の運転ができるわけではありません。

それに対して、これまで紹介してきた資格は、取得していなければ仕事ができないわけではありません。

どの資格も、すべての職員が有資格者である必要はありません。資格を持っていなくても、資格者が立ち会うことで、規制対象物を扱うことができます。

私は、新卒で入社した化学メーカーで研究所に配属になりました。そこでは、プラントで製造するための工業化検討を任されました。

そして、試薬の使用量が多かったので、研究所には危険物取扱者甲種の有資格者の選任が必要でした。

資格は研究所で何人かが取得していれば問題ないですが、先輩社員は全員取得していました。私も配属直後に同資格の取得を命じられました。

このように、転職時には必要なくても、部署の方針で転職後に取得を推奨されることはあります。

転職後に資格取得した方がよい理由

前章では、化学系の資格は取得していなくても内定を勝ち取ることができることを説明しました。

歓迎条件に載っている資格は、転職後に取得しなければならない可能性は高いことは認識しておく必要があります。

そして、転職前でなく転職後に資格を取得する理由がいくつかあります。続いて、これらの理由について説明します。

求人案件の掲載には期間がある

歓迎条件に記載されている資格をすでに取得していれば、転職活動時にアピールできます。しかし、資格を取得してから転職活動をするのはおすすめできません。

なぜなら、求人には掲載期間が定められているからです。

新卒の就職と違い、中途採用の転職の場合は、いきなり求人案件が出現し、採用が決まるとなくなります。掲載されている期間も決められており、油断しているとエントリーできないまま逃してしまうこともあります。

下に、実際の求人情報を示します。この求人は、転職サイトの「ミドルの転職」に掲載されているものです。掲載期間は14日間です。

当然、転職サイトや求人の種類によって掲載期間は全然違います。求人によっては下の求人のように3ヶ月くらいの掲載期間があるものもあります。

しかし、どんなに掲載予定期間が長くても、採用が決まってしまうと終わってしまいます。ゆっくりと資格を取得している場合ではないのです。

さきほど示した危険物取扱者であれば、試験の申し込みをしてから試験を受けるまでに約1カ月あります。その後、合格発表までも期間が空きます。

もし、求人の掲載期間内に合格を確認できたとしても、それまでにほかの人が内定をもらってしまうと応募さえできません。

このように、求人案件はあなたが資格を取得するのを待ってくれるわけではないことを覚えておきましょう。

資格取得費用補助の制度を利用する

転職後に資格取得した方がよい理由はもう1つあります。それは、資格取得費用補助の制度を活用できることです。

資格を取得するためには、受験費用、交通費などが必ず必要になります。会社によっては、これらの費用を会社が肩代わりしてくれます。

下に、厚生労働省が報告している平成27年就労条件総合調査結果の概況を示します。

引用:厚生労働省 平成27年就労条件総合調査結果の概況

この調査では、技能手当、技術(資格)手当などを支給している企業は、全体の47.7%という結果が出ています。約半分の企業が資格取得のための制度を整備していることがわかります。

私がかつて働いていた会社では、受験費用や交通費は会社が負担してくれました。しかし、資格手当はありませんでした。これは会社によってルールが違います。

会社によっては、資格手当を給料に上乗せをしてくれたり、資格取得時に一時金が支給されたりする企業もあります。

これらの恩恵は、その企業に在籍しないと受けることはできません。

この制度が整備されているかは、求人情報にも記載されています。下の求人は、三重県四日市市の工場で、ポリマーのプロセス開発を行っている三菱瓦斯化学株式会社のものです。

この求人案件の「待遇・福利厚生」の欄には、以下のように記載されています。

このような制度は、最大限に利用した方がよいです。あくまで転職活動を最優先にし、資格取得は転職後でも可能であることを覚えておきましょう。

まとめ

ここでは、化学メーカーの研究職に転職する際の、資格の重要性について解説しました。

化学メーカーの研究職で働く時には、危険物取扱者、毒物劇物取扱責任者、高圧ガス製造保安責任者などの資格取得を命じられることがあります。

しかし、転職の際にこれらの資格が必須となることはほとんどありません。資格が歓迎条件とされるケースも少ないです。

そして、必須条件に資格があっても、資格取得を目指していることをアピールすることで、資格がなくても内定を勝ち取ることはできます。

また、求人案件は掲載期間に限りがあります。新卒の就活と違い、早い者勝ちです。先に内定者が出てしまうと、応募すらできなくなります。

資格を取得する必要がある場合でも、転職後に取得することで、資格取得費用の補助を受けたり、一時金を受け取ったりすることができます。

以上のように、転職のために資格取得を優先させるべきではありません。気になる求人案件があれば、条件を満たしていなくても、積極的にエントリーする方が良いでしょう。

研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。