バイオの分野は多岐にわたります。具体的には遺伝子解析、薬物動態、シグナル伝達、微生物学など、挙げるとキリがありません。

同じように、企業が行っている研究分野も同じように幅広いです。そのため、あなたが行っている研究と同じ分野をピンポイントで見つけるのは非常に難しいです。

バイオ系の研究をしているあなたが、専門領域の知識を活かして企業に転職をしようと考えるのであれば、求人の探し方を工夫する必要があります。

そこでここでは、バイオ系のあなたが企業に就職するときにどのような求人があるか、これまでの経験を活かして他分野に就職する方法などを紹介します。

バイオ系の研究職として企業に就職する

最初に記したように、バイオ系の分野は多く存在します。そのため求人を探してみると、バイオ系でもさまざまな業界の会社の求人があります。そして、求める人材も多様です。

製薬会社や食品メーカーに研究職として就職する

バイオ系の研究では遺伝子、細胞、動物などを扱います。これらを用いて行う実験の多くは、最終的に人間の生理現象の解明や、化合物を人間に使用することを目的に行われます。

そのためバイオ系の研究を行っているあなたは、製薬会社食品メーカーで、これまでに身につけた知識や経験を活かして働くことができます。

・身に付けた知識や実験の技術を活かす

まず一例目に、製薬会社の求人例を示します。下の求人は、東レ株式会社のものです。

東レは材料・素材の研究開発で知られていますが、医薬品の研究開発にも注力しています。具体的には下のような、レミッチOD錠やドルナー錠などを製造販売しています。

では続いて、この求人情報の「仕事内容」の項目を示します。

このように入社すると、動物を用いた薬物動態に関する研究を行うことになります。

そして、「応募資格」の欄には、以下のように記載されています。

本求人で採用されると、動物を扱うだけでなく分析機器(LCMSなど)を用いて、薬物の血中濃度測定を行ったり、代謝物の同定などを行ったりすることが予想されます。

現在あなたがこのような研究を実施していれば、十分対象となる求人でしょう。

二例目は、東京にある、iPS細胞に関する研究を行っている会社の求人です。この会社の求人の「応募資格」の欄は、以下のように記載されています。

あなたが研究で細胞を用いていれば、フローサイトメトリーを用いた解析をしているかもしれません。

また、遺伝子の解析や遺伝子から作られるタンパク質に関する研究では、PCR、ウエスタンブロットなどは日常的に行う実験です。

このような手技が必要なバイオ系の研究に携わっていれば、この求人の応募資格を満たしていると言えるでしょう。

三例目は、発酵食品や化粧品を研究している万田発酵株式会社の求人です。この求人の「対象となる方」の欄には、以下のように示されています。

発酵関連の分野に関する研究を行っているのであれば、応募の条件を満たします。

このように、現在行っている研究で身に付けた知識や実験の手技を活かして、製薬会社や食品メーカーに就職することができます。

・求人数は少ないが、転職サイトでほぼ同じ研究テーマを見つけることも可能

さきほど紹介した求人で求められる薬物動態、フローサイトメトリー、PCR、ウエスタンブロットなどを行っている研究者は日本中にたくさんいます。したがって、多くの人が求人の応募資格に該当します。

その一方で求人のなかには、応募資格の条件が絞られているものもあります。下の求人は、兵庫県神戸市にある製薬会社の「応募資格」の欄です。

iPS細胞は再生医療の分野で脚光を浴びています。バイオ系の研究に携わっていれば、iPS細胞に関する最新の研究成果に触れる機会もあるかもしれません。

しかし、実際にiPS細胞の研究に携わっている人は日本中にいるわけではありません。

私の出身大学でも、学部内にiPS細胞に関連する研究を行っている研究室はありませんでした。

このように、転職サイトの求人のなかにも応募資格の条件が絞られているものもあります。転職サイトで検索することで、あなたが行っている研究と同じ分野の経験を求めている求人が、運よく見つかることもあるでしょう。

・転職サイトや転職エージェントは、複数利用するのが基本

さきほどのiPS細胞の研究を行っている製薬会社の求人は、転職サイトの「ミドルの転職」に掲載されていたものです。

そして、同サイトでは、「ポスドク iPS」で検索すると、この会社の求人が3件だけでした。一方で、「ポスドク」で検索すると、ジャンルはバイオ系以外も含みますが、42件の求人がヒットしました。

このように研究分野を絞ると、転職サイトで検索してもヒットする件数は少なくなります。

したがって、分野を絞って求人を探すのであれば、複数の転職サイトを利用しなければ、希望に沿った求人を見つけることは難しいです

また、企業へ就職を考えるには、転職エージェントの活用も有効です。

転職エージェントは、あなたの希望に沿った求人を紹介してくれます。それだけでなく、転職エージェントは、インターネット上では紹介されていない求人(非公開求人)も扱っています。

そして、あなたの希望と、求人を出している会社の間に入って、仕事内容の確認、エントリーの代行、給与面の調整なども行ってくれます。

ポスドクとして研究活動をしていると、日々忙しい生活を送っていると思います。その合間を見つけて、希望の求人を探すのはかなり大変です。

転職エージェントは、これらの手続きを代わりに行ってくれる会社です。納得できる転職を実現するために転職エージェントを活用することは、有効な手段となります。

海外の会社との会議や海外赴任があれば、英語力が求められる

ポスドクから企業に就職する場合、求められるものは研究を推し進めたり、マネジメントしたりする能力だけではありません。

下の求人は、第一三共グループのものです。「対象となる方の欄」に英語力を求めていることが記載されています。

この会社では、海外グループ会社との会議のために英語が必須になります。

自分が行っている研究分野の論文を読んだり書いたりすることは、修士課程や博士課程の学生でもある程度はできます。

しかし、英語で会議をするとなると話は変わってきます。自信をもって「英語の会議に参加できます」と言える人は少ないでしょう。

ポスドクの経歴はさまざまですが、博士課程を修了した後に、海外の大学や研究機関でポスドクを経験したことがある人は多いのではないでしょうか。

私の友人でアカデミア志望の人は、博士課程修了後に海外の大学や研究機関に留学していました。そして、彼らの留学期間は1年前後でしたが、帰国したときは英語がペラペラになっていました。

このように、ポスドクは留学経験者もおり、英語力が高いことは珍しくありません。特に留学経験があれば、英語力が求められる求人に対しても自信をもって応募できるでしょう

研究を進めるだけでなく、論文発表や学会発表も行う

すべての大学ではないですが、多くの大学で博士号取得の要件に「学会発表」と「査読付き投稿論文の執筆」が定められています。

そのため、ポスドクのあなたは、これらをクリアしていると思います。私も博士課程のときに、毎年学会発表をしましたし、論文も執筆しました。

そして、企業に就職しても同じようにこれらの活動を期待されます。

下の求人は、第1章で紹介した万田発酵株式会社のものです。求人情報の「業務概要」の欄を載せています。

ポスドクとして研究活動をしていると、博士課程のときと同様に、学会発表や論文執筆を積極的に行っていると思います。

ポスドクから企業に入社しても、学会発表や論文投稿を求められる場面があることを覚えておきましょう。

派遣会社に就職することで、専門分野の研究を継続する

運よくあなたの専門分野と同じ内容の求人を見つけることができればいいですが、希望に沿った求人を見つけることは難しいです。

そこで、あなたの研究内容を同じ分野の研究を続ける方法の1つに、派遣会社に就職する方法があります。

実際の求人例を示します。この会社は、化学・バイオ分野を中心に研究開発支援を行っている株式会社テクノプロです。この求人の「具体的な仕事内容」の欄を下に載せています。

バイオ系の分野も多く扱っていることがわかります。

続いて、派遣会社に研究職として入社したときの働き方について解説します。

派遣会社に入社すると、派遣会社が受託している研究や、提携している会社や研究機関の研究を行うことになります。

受託研究であれば、派遣会社の研究所で働きます。提携している会社や研究機関で働く場合は、その派遣先の従業員と一緒に研究を進めることになります。

この雇用形態と働き方の概略図を下に示します。

この場合、派遣会社の従業員として働くので、給与は派遣会社から支給されます。そのため、派遣先の会社の経営状態が給与に影響することはありません。

そして、どの研究に携わるかは、入社時に面談を行って決めます。あなたのこれまでの経験、今後希望する研究分野のヒアリング結果を基に、派遣先や研究テーマが決定します。

このように、派遣会社で働くことで、現在行っている研究内容に近い研究を継続することが可能になります。

バイオ系の研究で培った知識、経験を活かして他分野に就職する

バイオ系の研究に携わっていると、細胞、動物、遺伝子、酵素など、生物系の知識が豊富になります。また、類似の研究テーマの論文を読み、情報を集めることも多いでしょう。

実は、この研究活動で得た知識や、情報収集力を他職種で活かすことができます。

MSL(メディカル・サイエンス・エリゾン)として就職する

MSLとは、医師の中でも薬の販売において大きな影響を及ぼす医師(KOL(キーオピニオンリーダー)と呼ぶ)に対して、医薬品の情報提供を行う職種です。

医師に医薬品の情報提供を行う職種では、製薬会社のMR(医薬情報担当者)を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。MRとMSLの仕事内容の違いは下の通りです。

MR MSL
仕事内容 所属する製薬会社の医薬品の情報を、病院、薬局を訪問して、販売を促進する KOLが行う臨床研究、学会発表、論文投稿に必要な医学および薬学情報を提供する

MSLについて説明する前に、まずはKOLについて解説します。

医師の評判で、「糖尿病なら〇〇先生がいい」「〇〇先生はリウマチで日本を代表する医師らしい」という話を聞いたことがないでしょうか。

医師のなかには、このように評判がいい医師もいれば、逆に悪い医師もいます。

評判がいい医師は、専門分野の認定医として活動していたり、所属する学会で評議員を担当したりしていることがあります。

そしてこのような先生は、医師としての実力はもちろんですが、同じ専門分野の医師に対する影響力は大きいです。このような医師のことをKOLと呼びます。

続いて、KOLの影響力について説明します。

私は、病院で薬剤師として働いています。そのため、製薬会社のMRと接する機会は多いです。

製薬会社から新薬が発売になると、MRは積極的に新薬の情報提供を行うために病院を訪問します。その目的は、薬のよさを知ってもらい、医師に薬を使ってもらうことで、製薬会社の売り上げを上げるためです。

そのため、MRからの情報提供では、その薬の長所に関することが多くなります。

一方で、KOLの医師が「新薬の〇〇はいい薬だ」と言うと、MRよりも説得力があります。なぜなら、KOLは薬を中立的な立場で評価しているからです。KOLにとっては、製薬会社の売り上げは関係ありません。

そして、KOLがこのような発言すると、周囲の医師は「あの先生が言うのであればそうだろう」と感じます。KOLのように実力がある医師が使っているという理由で、ほかの医師がその薬を使い始めることもあります。

このように、KOLは周囲の医師に対する影響力を持っています。

KOLは外来診療だけでなく、研究活動も行っています。そして、研究成果を発表するために学会に参加したり、論文執筆をしたりします。

もちろん自分で医学や薬学に関する情報を収集しようとしますが、個人の力だけでは限界がありますし、忙しいのでそもそも時間がありません。

そこで、医師の研究活動の支援を行うのがMSLの役割です。

続いて実際の求人例を見てみましょう。下の会社は、がん関連遺伝子の解析を行っているアクトメッド株式会社です。

続いて、この求人の「業務内容」の欄を載せています。

このように、専門医に対する情報提供や、学会参加の支援などがMSLの主な仕事内容になります。

そのため、MSLの仕事では、医薬の基礎知識、情報収集力、医師とのコミュニケーション能力が求められます

また、この求人の「対象となる方」の欄では、以下のような記載があります。

あなたが、がんに関連する研究を行っているのであれば、対象となる方に該当するでしょう。

また、ポスドクとして海外への留学経験があれば、英語力を活かすこともできます。

このように、現在の研究で得られた専門知識や、研究を行う際の情報収集のノウハウを活かして、MSLに転職することができます。

メディカルライターに転職する

あなたが得た知識を、医療従事者や一般の人に提供する仕事があります。それがメディカルライターです。

下の求人は、医療業界に特化した広告制作会社の株式会社コルボのものです。この求人の「応募資格」の欄には、以下のように記載されています。

ポスドクのあなたは、論文執筆の経験が何度かあると思います。

また、研究を進めるときにさまざまな論文も読みます。そのため、英語の読解について苦手意識は少ないでしょう。

続いて、この求人の「仕事内容」の項目を紹介します。

このように、得られた臨床データを解析したり、調査した内容をまとめて説明したりする内容が主な仕事になります。

また、この求人の「主な事例」の欄には、下のように少し具体的な仕事内容が記載されています。

この求人では、医療従事者だけでなく、患者さんや製薬会社のMRのための資料作成にも携わるようになります

このような仕事をするためには、医療に関する基礎知識だけでなく、論文読解力や、得た情報をまとめるスキルも必要です。

ポスドクのあなたは、これらの経験は豊富にあるでしょう。そのため、それらの経験を活かしてメディカルライターに転職することも可能です。

会社への就職に年齢制限はないが、40代以上は不利になることもある

修士卒や博士卒の新卒で会社に就職すれば、年齢は20代であることがほとんどです。一方でポスドクは、新卒と比べるとほとんどの場合年齢が高くなります。

下にポスドクの年齢の分布を調査したものを示します。

引用:ポストドクター等の雇用・進路に関する調査を一部改変

このグラフからわかるように、ポスドクで最も多いのは30~34歳です。

正当な理由がなければ、年齢制限を設けてはいけない

ポスドクで企業への就職を考えているあなたは、現在の年齢を気にしていないでしょうか。

実は、採用に関しては雇用対策法で以下のように定められています。

雇用対策法第10条

事業主は、労働者がその有する能力を有効に発揮するために必要と認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、労働者の募集及び採用について、厚生労働省令で定めるところにより、その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない

つまり、何歳であっても求人に応募することができます。

研究職では年齢制限がある求人は多い

さきほど説明したように、基本的には求人で年齢制限を設けることは法律で禁止されています。

しかし、正当な理由がある場合は、年齢制限を設けていることがあります

そして、研究職の求人情報を見ると、年齢制限をしている求人は珍しくありません。

次の求人は、東京都にある遺伝子分析の研究を行っている会社のものです。

やや回りくどい表現になっていますが、若い研究者に入社してもらい、長く会社に貢献してもらいたいという意図は伝わってきます。

なお、この求人はポスドクでも応募はでき、下のように、遺伝子分野のポスドクは歓迎と記載されています。

この求人のように、20代後半~30代で年齢制限をしている求人は、ほかにもいくつかありました。そのため、40代以上で転職活動をするのであれば、やや不利になると考えておいた方がよいでしょう。

特にポスドクであれば、即戦力としての期待だけでなく、将来的に会社の研究部門で中心的な役割を担うことを期待されます。

このような会社の事情も鑑みると、転職をするとき少しでも若い方が有利であると考えるのは自然なことではないでしょうか。

まとめ

ここでは、バイオ系のあなたが企業に就職するときにどのような求人があるか、これまでの経験を活かして他分野に就職する方法などについて解説しました。

バイオ系で企業に就職すると、研究をマネジメントするだけでなく、英語力、学会発表、論文執筆なども期待されます。

バイオ系は分野が多岐に渡ります。希望に沿った求人が見つかればいいですが、分野を絞るほど求人数は少なくなります。

そこで、転職サイトを利用するのであれば、複数のサイトを利用するようにしましょう。また、転職エージェントも活用することで、忙しい研究生活の中で転職活動を進めやすくなります。

希望の求人がなかなか見つからないようであれば、派遣会社への就職も選択肢に入れると、現在の研究内容に近い仕事が続けられるかもしれません。

また、現在の知識、経験を活かして他職種に転職することもできます。具体的には、MSLやメディカルライターでは、これまでの経験を十分に活かすことができるでしょう。

そして、求人には基本的に年齢制限はありません。しかし、なかには企業の都合で年齢制限を設けている求人もあるので注意が必要です。

研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。