理系の研究職は、これまでにない製品を生み出すやりがいのある職種です。私も研究職として働いていましたが、世の中で初めての製品や技術が生み出されたときの喜びは、何ものにも代えがたいです。
そして、研究職で働くためには、専門知識や研究経験が必要なことがほとんどです。そのため、研究職の求人はキャリア採用が基本です。
実は、研究未経験者でも転職できる求人がわずかながらあります。しかし、誰でも転職できるわけではありません。転職を成功させるためには、あなたの経歴や経験を適切にアピールしたり、転職活動を工夫したりする必要があります。
ここでは、研究未経験者が研究職に転職するための方法を、具体的な求人例を示しながら解説します。
もくじ
研究未経験者が中途採用で応募できる求人例
研究職の求人は、ほとんどが研究経験者でなければ応募できません。未経験者が応募できる求人は少ないです。
大手求人サイトのdodaで「研究職 未経験」で求人検索した結果が下の図です。dodaは約10万件の公開求人を取り扱っていますが、ヒットするのは100件未満です。
ここでヒットした求人も、すべてが研究職の求人ではありません。勤務地や専門領域などのあなたの希望も考慮すると、現実的に応募できる求人はわずかです。
転職活動をするときには、まずはこの現状を認識しておく必要があります。
応募できるほとんどの求人は派遣会社から出されている
さきほどdodaでヒットした求人を1件ずつ確認すると、半数以上の求人は派遣会社から出されています。
派遣会社に転職すると、研究者を必要としている企業に派遣されて働くことになります。
実際の求人例を1件紹介します。この求人は、派遣会社の株式会社リクルートR&Dスタッフィングが化学系の研究者を募集しています。
そして、この求人の応募条件は以下の通りです。未経験から研究職へ転職を考えているあなたでも応募できます。この条件であれば、研究経験がないだけでなく、高卒や文系の大学を卒業していても応募条件を満たします。
現時点で化学に関する知識がなくても応募できます。その理由は、派遣会社には研修プログラムが準備されており、採用されてから仕事に必要な知識やスキルをゼロから身につけることができるからです。
また、リクルートR&Dスタッフィング社の事業は、幅広いです。会社のホームページには、モノづくりのさまざまな業界に関わっていることが紹介されています。
派遣先の企業は、あなたの知識や関心によって選択することもできます。
リクルートR&Dスタッフィング社の求人には、携わることができるプロジェクトが紹介されています。この求人は化学系の研究職を募集していますが、一言で化学系と言っても、さまざまな分野の研究が挙げられています。
このように、派遣会社に研究職として転職すると、あなたの希望に合ったプロジェクトに関わることができる可能性があります。
・派遣先の企業や勤務地は途中で変わる可能性がある
派遣会社とそれ以外の会社の違いは、「派遣会社は、派遣先の企業が変わり、職場が変わる可能性があること」です。
さきほど紹介したリクルートR&Dスタッフィング社の求人には、全国に転勤があることが記載されています。
1つの研究プロジェクトは、永遠に続くわけではありません。無事に成果が得られてプロジェクトが完了することもありますし、期待した成果が得られずに中止になることもあります。
派遣会社に雇用されていると、同じ企業で新たなプロジェクトに関わることができる場合もあれば、異なる企業で全く違うプロジェクトに配属になる可能性もあります。
このように、派遣会社に転職して働くときには、派遣先の企業や勤務地が変わる可能性があることを理解しておきましょう。
専門知識を活かして転職する
ここからは派遣会社以外の企業から出されている求人で、研究未経験者が応募できるものを紹介します。
下に紹介する六菱ゴム株式会社は、工業用ゴムの材料を研究開発する人材を募集しています。六菱ゴム社は、大阪府に本部がある会社です。工業用ゴム製品や工業用樹脂製品の研究開発・製造販売を主な事業としています。
そして、六菱ゴム社の求人の応募条件は以下の通りです。大卒以上で化学系の学部・学科を卒業していれば応募できます。研究経験は不問です。
この応募条件であれば、化学系の学部・学科を卒業して、現在は営業職や業務管理職に就いている人でも応募することができます。
ゴムは化学物質です。ゴムの性能を研究するためには、化学の知識が必須です。そのため六菱ゴム社の求人では、化学系の学部・学科を卒業した経歴が求められています。
次の章でくわしく解説しますが、研究職で働くためには製品に関わる専門知識が必須です。製品の種類によって求められる知識は異なりますが、化学・生物(バイオ)・物理などの専門知識が必ず求められます。
そのため、全く知識がない分野の研究職への転職や、文系出身者の研究職への転職は難しいです。
大学院を修了していなくても応募できる求人はある
研究職というと、修士課程や博士課程を修了している人が就いているイメージがある人もいると思います。実際に、研究職で働くほとんどの人が大学院を修了しています。
私は薬学部を卒業しましたが、学部で卒業して就職した同級生に、研究職に就職した人はいませんでした。研究職に就職した同級生は、全員修士課程か博士課程を修了していました。
最初に紹介した派遣会社の求人では、大学を卒業していなくても応募することができました。しかし、派遣会社以外の会社の研究職では、そういうわけにはいきません。それは、即戦力を求めている求人が多いからです。
研究職で働くときに大学院を修了していることが求められる理由は、大学院を修了していれば「研究を推し進める経験や実力がある」とみなされるためです。そのため、研究職の求人では、大学院の修了を応募条件にしている会社が多いです。
では、大学院を修了していないと研究職として働けないかというと、実はそうではありません。実際は、学部卒でも応募できる研究職の求人は存在しています。
次に紹介する株式会社Eサーモジェンテックの求人は、大阪の研究拠点で半導体関連の研究開発業務を担当する人材を募集しています。
Eサーモジェンテック社は、京都府に本社がある企業です。半導体事業に豊富な経験があり、熱電発電に関する独自技術を活かして熱電デバイスの研究開発・製造販売を行っています。
そして、Eサーモジェンテック社の求人の応募条件は以下の通りです。大学で、機械や電気系を専攻していれば応募することができます。
理系大学を卒業していれば、研究の経験は浅いですが、研究を推し進めるときに必要な専門知識は修めています。その知識を活かして、未経験でも研究職に転職することができます。
もちろん、大学院を修了している方が、研究職への転職は圧倒的に有利です。しかし、大学院を修了していなくても、研究職への転職を諦める必要はありません。
未経験から研究開発職に転職するときの心構え
ここまで研究未経験者でも応募し、採用される可能性がある求人を紹介してきました。
研究職は新しい技術や製品を生み出す職種であり、会社では花形の仕事を担当できます。しかし、その仕事内容は意外と地味で、苦労の連続です。
ここからは、研究職に転職したときの現実とやりがいについて紹介します。
研究者の仕事は苦労の連続
研究職で働いた成果は、新たな技術や製品です。ほかの部署から見ると「すごい!やりがいがありそう!」と感じます。
しかし、実際の日常業務は苦労の連続です。
私の知り合いで、製薬会社で研究職をしている人がいます。その人は日々の実験について、自虐的に以下の話をしてくれました。
日々の仕事は新たな化合物を合成すること。しかし、その化合物のほとんどは医薬品になることはない。
化合物が医薬品になる確率は約3万分の1と言われている。つまり、3万個化合物を作ってようやく1つ医薬品ができる計算になる。言い換えれば、日々合成している化合物のほとんどはゴミということになる。
これは医薬品開発に限った話ではありません。ほかの業界でも、日々検討している内容が、必ずしも製品に結び付くわけではありません。
このような経験を日々繰り返しながら、うまくいったときの喜びは格別です。話を訊いた知り合いも「これまで1品目だけ私が関わったテーマから医薬品になったものがある。そのときは最高に嬉しかった。またあの喜びを感じたいと思うし、研究職から転職したいとは思わない」と話していました。
研究職では、常に仕事がうまくいくわけではなく、失敗の連続であることを理解しておきましょう。
研究のやり方や専門知識の習得を継続する必要がある
上で述べたような実験や検討をしてうまくいかなかったときに、「ダメでした」で終わらせてはいけません。必ず「次は何をするか」を「自ら」考えなければなりません。
私が化学メーカーで研究職として働いていたときに関わっていたテーマは、うまくいかないことの連続でした。
しかし、期待した通りの結果が出ないこと自体は、上司から怒られることはありませんでした。なぜなら、検討をする時点では、私を含め上司もうまくいくと期待しているからです。
最も重要なのは、うまくいかなかったあとの対応です。「この条件ではうまくいかなかったので、次はこの条件を検討します」と代替案を提示しなければなりません。
そして、次の手を考えるときに大いに役立つのが、身につけた専門知識です。
私が関わったプロジェクトでいうと、有機化学の知識が必須でした。与えられた課題は、工業化が決まっている化合物の製造原価を現在の半分以下にすることでした。下の写真のような工場での製造が最終目標でした。
目的化合物を合成するためには、さまざまな試薬を用います。どの試薬を使用するかの選択肢は、いくらでもあります。どの試薬を使用するかによって、試薬の値段も違えば、製造工程数も変わります。
これらの条件を総合的に考えながら、製造原価を下げる必要があります。有機化学の知識がなければ、アイデアを思いつきません。
一人の研究者が身に着けている知識には、限界があります。そこで、目の前の課題を解決したり、あらたな技術や製品を生み出したりするために必要な知識を習得し続けなければなりません。
このように、研究職で働くときには、研究の進め方を理解し、専門知識を習得し続ける必要があります。
転職を成功させるための方法
最初の章では、未経験者でも応募できる研究職の求人を紹介しました。しかし、現実的には未経験者が研究職の求人に転職するのはハードルが高いです。周囲からも「やめとけ」と反対されることもあるでしょう。
研究未経験者が転職しにくい理由は、求人を出している企業は基本的に即戦力を求めているからです。採用する企業も、選べるのであれば、研究経験がある人材を採用したいと考えます。
冒頭でも紹介しましたが、そもそも研究未経験者が応募できる求人数自体が少ないです。未経験者が転職を成功させるためには、少しでも多くの求人に触れてなければなりません。
効果的な方法の1つは、転職エージェントに非公開求人を紹介してもらうことです。
私がここまで紹介した求人は、すべて一般に公開されている公開求人でした。実は、転職市場にある求人のうち、公開求人は約20%と言われています。つまり、残りの80%は公開されていません。
非公開求人は、転職エージェントを介してのみ触れることができる求人です。つまり、転職エージェントから非公開求人を紹介してもらうことで、触れることができる求人数は、約5倍になります。
また、転職エージェントは非公開求人の紹介以外にも、転職活動のさまざまな支援をしてくれます。具体的には、職務経歴書の作成や志望動機、面接対策などです。
私も30代になる直前に転職エージェントに非公開求人を紹介してもらって、未経験の職種に転職しました。
実際に転職活動中に転職エージェントの担当者としたメールのやり取りが、下の図です。このときは、面接対策のアドバイスをしてもらいました。
面接での転職理由の話し方、自己PRの仕方など、多くのアドバイスをもらって転職を成功させました。
未経験の職種への転職は、転職の難易度が高いです。少しでも転職を成功させる可能性を高める工夫をすることが、転職成功には大切です。
まとめ
ここでは、未経験者が研究職に転職するときのポイントを解説しました。
研究未経験者が応募できる求人は、多くは派遣会社から出されています。派遣会社で働くと、希望する分野の研究に従事できる可能性が高いですが、途中で勤務先が変わる可能性があります。
派遣会社以外の会社で研究職で働くときには、専門知識が必須です。大学院を修了していなくても、大学で理系の学部・学科を卒業していれば応募できる求人があります。
研究職の仕事は、新たな技術や製品の開発につながるやりがいのある仕事です。しかし、その仕事内容は苦労の連続です。
うまくいかないときに、次の案を出し続けなければなりません。そのためには、専門知識の習得が必要不可欠です。
未経験者が応募できる研究職の求人は、転職市場に少ないです。少しでも多くの求人に触れるための工夫をすることで、希望に合った求人に出会う可能性を高めることができます。
研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。
一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。
ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。
これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。