ポスドク(博士研究員)として大学や研究機関で仕事をしているあなたは、将来に不安を感じていないでしょうか。

ポスドクのポストは任期が定められているものが多いです。したがって、その後のポストが確約されているわけではありません。

私の知り合いのポスドクにも、アカデミックのポストが決まらずに、精神的にしんどい想いをしている人がいます。

そのような人のなかには、アカデミックのポストが見つからず、就職先(転職先)に民間企業を選ぶ人もいると思います。

ここでは、理系研究者のポスドクが民間就職するときの実情、企業から求められるもの、求人情報の探し方について説明します。

ポスドクの就職活動の実情

ポスドクの多くは、アカデミックのポストを目指して研究活動を続けています。しかし、そのポストは狭き門となっています。

2009年度の文部科学省の「ポストドクターの正規職への移行に関する研究」では、新しいポストに就いても、そのポストが任期制の場合が6割を超えると報告しています。

また、「常勤で任期なし」を正規職とすると、次年度までの正規職への移行は6.3%と報告されています。

この数字からも、ポスドクの就職率が低く、いかに就職難であるかがわかると思います。そのため、アカデミックでのポストを諦め、民間企業へ就職しようとする人も珍しくありません。

そこでまずは、ポスドクの就職活動の実情について説明します。

ポスドクを対象とした求人数は少なく、就職数も少ない

文部科学省直轄の国立試験研究機関である科学技術・学術政策研究所では、民間企業の研究活動に関する調査を実施しています。

その調査項目の中に、研究者の採用状況があります。この採用状況は学歴ごとに分類されています。

下に、2017年度の調査結果を示します。この調査では、新卒・中途を問わず、研究開発者を採用したかを調査しています。

引用:民間企業の研究活動に関する調査報告2017 72ページ表4-9を一部改変

調査した企業1170社のうち、ポスドクを採用した会社は、全体のわずか1.8%です。最も多い修士卒と比べると1/30以下です。

この調査報告では、以下の3点の理由が、ポスドクの占める割合の低さにつながっていると考察しています。

  • 博士課程修了者やポスドクが、学士号取得者や修士号取得者と比べて供給数が少ない
  • 企業の求める人材がポスドクでは得られない可能性がある
  • 採用情報が広く認知されていない

続いて、これらの理由について少し掘り下げて考えてみましょう。

・ポスドクの供給者が少ない

この理由は、あなたの周囲の進学状況である程度理解できると思います。

文部科学省が報告している「大学院の現状を示す基本的なデータ」によると、学士課程、修士課程、博士課程の入学者数は、それぞれ61.9万人、7.3万人、1.5万人です。課程が進むにつれ、人数が少なくなります。

したがって、ポスドクとなると博士卒よりもさらに人数が少なくなります

このように、ポスドクの人数自体が少ないことが、ポスドクの就職数が少なくなっている一因と考えられます。

・企業の求める人材がポスドクでは得られない可能性がある

この理由は、専門職の宿命と言えるかもしれません。

ポスドクとして研究活動をしていると、当然専門分野に特化した研究を行っています。一見同じようなテーマに思えても、行っている内容や得られる知識が全然違うことは普通です。

私が学生時代に在籍していた研究室は、生理活性物質の探索を行っていました。作業としては有機合成がメインでしたが、合成した化合物の生理活性評価も実施していました。

そのため、有機化学の知識だけでなく、酵素を用いた活性評価方法、細胞を用いた活性評価方法、マウスを用いた活性評価方法などについても学びました。

そして、同じ大学内で同じように有機合成を行う研究室でも、全合成を行う研究室、反応触媒開発を行う研究室、蛍光物質を研究する研究室など多岐にわたっていました。

もちろん同じ研究室内でも、テーマによって習得できる技術や知識は異なっており、千差万別です。

このような状況なので、ポスドクから企業への就職の場合は、あなたの希望と企業が求めるものを完全にマッチさせることは難しいです

このことが、ポスドクの企業への就職を難しくしている要因の1つと言えます。

・採用情報が広く認知されていない

そもそも、ポスドクを対象とした求人は少ないです。実際に転職サイトで「修士」「博士」「ポスドク」で検索したときにヒットする求人の数は、それぞれ「368」「303」「30」でした。

この数からも、ポスドクを対象とした求人は、修士卒や博士卒と比べて少ないことがわかると思います。

そして、得られる数少ない求人のなかから、自分の研究分野とマッチする求人を見つけるのは至難の業です。そのため、ポスドクが企業へ就職するためには、就職活動を工夫する必要があります。

転職サイトや求人サイトにもポスドクを対象とした求人はある

ポスドクの就職は、修士卒や博士卒と比べると難しいことを説明しました。しかし、ポスドクの求人は探せばあります。

修士卒や博士卒の人が利用する転職サイトや求人サイトにも、ポスドクが対象となっている求人はあります

実際の求人例を、下に示します。この求人は、京都府にあるベンチャー企業で、多孔性配位高分子に特化した研究を行っている株式会社Atomisのものです。

この求人の対象となる方の歓迎条件には、以下のように「ポスドク歓迎」と記載されています。

そして、この求人の「同社が求める人材」の項目には以下のように記載されています。

ポスドクとして研究に従事してきたあなたは、興味のある分野について、自らテーマを立案したり、プロジェクトを動かしたりした経験があると思います。

この会社では、まさにそのような経験をしている人材が求められていると考えてよいでしょう。

そして、ごくまれに「ポスドク向け」の求人があります。下に示すのは、顧客企業に研究者を派遣したり、研究を受託したりしている会社です。

この会社の求人情報では、対象となる方の欄に以下のように記されています。

この求人は、研究職に多い「修士卒」は対象となっていません。このような求人は非常に珍しいので、あなたの専門分野と企業が求めるものが一致しているのであれば、積極的にエントリーしてもよいでしょう。

また、求人を探すときには「ポスドク」だけでなく「博士研究員」でも検索するとよいです。「博士研究員」でも検索をすることで、「ポスドク」だけでは見つけられない求人を見つけることができます。

実際に同じ転職サイトで「博士研究員」で検索をかけると4件の求人がヒットしました。そのうち1つは、「ポスドク」で検索をかけても見つけられなかったものです。

この会社は、福岡県福岡市にある九州電力株式会社です。この求人情報の必要業務経験の欄は以下の通りです。

この求人情報では「ポスドク」という言葉は使われておらず、「博士研究員」と表記されています。このような求人を見つけるためにも、「博士研究員」でも検索するとよいです。

最後に、国立研究開発法人 科学技術振興機構の求人サイトであるJRECINを紹介します。

JRECINには産学官の研究・教育に関わる求人が掲載されています。具体的には、大学の講師や研究室のテクニカルスタッフなどです。

これらの求人の中には、研究員やポスドクの求人もあります。そのため、任期があるものもありますが、以下のように任期なしの求人もあります。

このように、ポスドクから産学官関連の研究施設へ転職して、研究に従事することもできます。

年齢制限は基本的には設けられていない

ポスドクは博士課程を修了し、大学や研究機関などでさらに研究を継続している人です。下のグラフは、2012年11月時点のポスドクの年齢階級別人数を表したものです。

引用:ポストドクター等の雇用・進路に関する調査を一部改変

最も多いのは30~34歳ですが、なかには高齢な人もいるのがわかると思います。このように、ポスドクは新卒と比べると年齢は高くなります。

実は、就職における年齢制限については、法律で以下のように定められています。

雇用対策法第10条

事業主は、労働者がその有する能力を有効に発揮するために必要と認められるときとして厚生労働省令で定めるときは、労働者の募集及び採用について、厚生労働省令で定めるところにより、その年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない

要するに、年齢で採用するかしないかを判断してはならないのです。

実際にポスドクも応募できる求人を見ても、年齢制限をしている求人はほぼありません。そのため、ポスドクでも問題なく応募できます。

しかし、本当にポスドクが採用されているのか不安に感じると思います。そのような場合は、求人情報を見ると、採用実績について書かれていることがあります。

わかりやすい例では、求人情報に「ポスドク多数入社」と記載されているものがあります。このような会社は実際にポスドクの採用実績があるので、採用される可能性は十分にあります。

実際の求人例を紹介します。下の求人は、NANDフラッシュメモリやSSDの開発・製造をしている東芝メモリ株式会社のものです。

このような会社であれば、安心して応募することができるでしょう。

企業がポスドクに期待するものと年収

ポスドクとして研究活動をしている人は、一人前の研究者として見られます。そのため、企業に就職活動をする場合、企業があなたに期待するものも大きくなります。

続いて、具体的な求人を見ながら、企業がポスドクに期待するものを確認していきます。

将来的にはプロジェクトリーダーとしての働きを期待する

ポスドクは博士号を取得しているので、研究を自らマネジメントする能力があるとみられます。ポスドクを採用しようとする企業は、当然このような能力を期待します。

しかし、入社直後からプロジェクトのトップとしての活躍を求められることはまれです。ある程度の規模の企業であれば、まずは一研究者として働き始めることになります。

実際にある求人情報の、業務内容の一例を示します。下の求人は、武田テバファーマ株式会社のものです。

このように、研究を進める能力や、部下を指導したり、サポートしたりする能力が求められます。上司から言われたことをこなすだけではだめです。

最初は与えられたプロジェクトの中で、これまでに得た知識や経験を活かしてプロジェクト運営の一端を担うことになるでしょう。

求人情報に、「プロジェクトを任せる」「テーマの中心としての活躍を期待する」などのような記載があることはほとんどありません。

しかし将来的には、プロジェクトの中心として、全体を取りまとめるような仕事を期待されると考えておきましょう

実験で手を動かすだけであれば、修士卒でも立派な仕事をしてくれる人はたくさんいます。しかし、あえてポスドクを入社させるということは、企業にも意図があります。

ポスドクは一人前の研究者として見られるので、そのことを認識して転職活動をする必要があります。

英語力が求められる

ポスドクは海外の留学経験者が多いです。実際私が博士課程のときの同期でアカデミック志望の人は、みな博士課程修了と同時に海外の大学や研究所にポスドクとして留学していました。

そして帰国後に会うと、彼らは英語がペラペラになって帰ってきていました。英語圏の大学や研究所に留学すると、自然と英語力も上がります。

元々、研究職を対象とした求人では英語力を求めるものが多いです。それは海外の会社との会議や出張もあるためです。

私がかつて在籍していた化学メーカーでも、社内で英語の研修を積極的に行っていました。そして、工場がインドにもあったので、英語ができる人は「インドに行かないか」と声をかけられていました。

ポスドクも対象となる求人では、英語は中級レベル以上が求められることが普通です。なかには上級の英語が必要な求人もあります。

下の求人は、第一三共RDノバーレ株式会社の対象となる方の欄です。

このように、英語は上級が求められています。具体的には「グローバル電話会議に対応できる語学力」と考えてよいでしょう。

このレベルの英語は、日本で普通に研究活動をしているだけではなかなか身に付きません。

ポスドクで海外への留学経験がある、またはもともと英語力が高いのであれば、このような会社で英語力を活かすことができるでしょう

ポスドクから企業に転職すると、高年収も期待できる

このようにポスドクでは一人前の研究者として、多くのことを期待されます。そのため、求人によっては高い年収が期待できるものもあります

下の求人は、さきほど紹介した東芝メモリ株式会社のものです。

このように、ポスドクから企業に転職すると、高い年収を狙うことが可能です。

しかし、必ず年収が高くなるわけではないことも覚えておく必要があります。この求人でも、予定年収の幅がかなりあり、最高額と最低額には約2倍の違いがあります。

最終的には、現在の年収、そしてあなたのこれまでの経験と、企業が求めるものがどの程度マッチしているかによって決まります。

この求人では、対象となる方の欄に以下の記載があります。

もしあなたが、材料やデバイスの研究を行っているのであれば、即戦力として期待されるので、年収の交渉もしやすいでしょう。

ポスドク対象の転職エージェントや、就職イベントを積極的に活用する

ポスドクに限らず、研究職として働いていると仕事が激務であることは普通です。

私も、かつて働いていた化学メーカーでも残業はありました。繁忙期の残業時間が月に100時間を超えたこともありました。

このような生活を送りながら転職活動をするのは、体力的にも大変です。

そこで、ポスドクを対象とした転職エージェントを利用することで、転職活動をスムーズに進めることができます

具体的には「アカリク転職エージェント」「エリートネットワーク」「博士情報エージェント」などの、ポスドクを対象とした転職エージェントがあります。

このような転職エージェントを利用すれば、あなたの専門分野に合った求人情報を紹介してくれます。そのため、あなたのやりたい仕事内容と企業が求めるもののミスマッチを防ぐことができます。

また、応募に関する手続きや、面接日程の調整なども代行で行ってくれます。

そして、時間が確保できるのであれば、就職イベントを活用するのも、求人を見つけるのに有効です

下に示すのは、ポスドクも対象に求人を扱っているアカリクが主催しているイベントの一覧です。現役の大学院生を対象としているセミナーやイベントが多いですが、既卒者やポスドクも対象に含まれるものもあります。

そして、新卒が対象となっているイベントでも、イベントの詳細を調べるとポスドクも対象になっているものもあります。

実際に、さきほどの一覧の「アカリクITイベント in 東京」は、詳細情報には以下のようにポスドクも対象と記載されています。

また、イベントに参加すると、求人情報では採用枠があるかわからない会社でも、担当者に直接質問することで採用枠があるかの確認ができます

私は博士課程の新卒のときに、就活の一環で就職イベントに参加しました。とある会社の募集要項には、「博士卒を募集する」とは書かれていませんでした。

予定の給料も、学部卒と修士卒は具体的な金額が載っていましたが、博士卒については何も記載されていませんでした。

私はイベントの最後に、博士卒は募集していないのか、もし募集しているのであれば給料はどのくらいなのかなどを担当者に個別に質問しました。

すると、「最近は博士卒の入社がなかったので載せていないだけで、募集はしている」という回答でした。

結果的に私はその会社に応募し、最終的には内定をもらい入社することにしました。

このように、就職イベントに参加すると、インターネット上だけでは手に入れることができない情報が入ることがあります

まとめ

ここでは、理系研究者のポスドクが企業に就職するときの実情、企業から求められるもの、求人情報の探し方について説明しました。

まず、ポスドクから企業への就職数は多くないです。その理由としては、ポスドク自体の人数が少ない、企業が求めるものとのミスマッチ、そもそも求人数が少ないなどが挙げられています。

そして、ポスドクから企業に転職する場合は、多くのことが期待されます。具体的には、研究者としてプロジェクトを推し進める実力や、英語力などです。これらの見返りとして高年収が期待できる求人もあります。

実際の転職活動では、転職サイトだけでなく、転職エージェントを活用したり、就職イベントに参加したりするなどの工夫をする必要があります。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。