資格を有していれば、転職活動を有利に進めることができます。学生時代、就職活動で履歴書に書くために、頑張って資格を取得した人もいるでしょう。
では、動物や細胞を扱うバイオ系の研究職への転職で、必要な資格はあるのでしょうか? 「バイオ系の研究者になりたい」と思ったときに、何かしらの資格を取得する必要はあるのでしょうか?
ここでは、実際の求人例を紹介しながら、バイオ系の研究職に転職する際に、必要な資格があるかについて解説していきます。
資格が必須で求められることはない
バイオ系と一言でいっても、分野は非常に広いです。細胞培養、遺伝子組み換え、薬物動態、薬理評価などが挙げられ、行う実験や扱う機器の種類も異なります。
例えば、細胞培養であれば、下の写真のようなシャーレに細胞を入れて培養します。細胞に試薬を添加するときには、マイクロピペットを使用します。
そして、細胞を使用するときは、空気中にある雑菌が混ざってはいけないので、下のようなクリーンベンチと呼ばれる無菌的な環境で作業をすることになります。
また、薬物動態であれば、動物を扱います。ラットに化合物を投与して、血液中の薬物濃度を下の写真のような機械(HPLC)で測定することで、どの程度化合物が吸収されたかがわかります。
このように、研究内容が異なれば、扱う実験機器も全く異なることがわかります。もちろん、どのような研究内容でも使用するような汎用機器もあれば、ここで紹介した実験機器や実験設備以外のものを使用することもあります。
そして、ただ機械や器具を操作するだけでなく、扱う対象物(細胞、動物など)に関する知識も必要です。
しかし実は、バイオ系の実験をするために必要な資格はありません。どの実験も、誰でも行うことができます。
研究職は、大学院を修了した人が従事することが多いです。しかし、研究のために行う実験自体は、高卒の人や、バイオ系の知識が全くない未経験の人でも行うことができます。
私の友人に、製薬会社で細胞を用いて新薬の研究開発に携わっている人がいます。彼にバイオ系の資格について質問すると、以下のような話をしてくれました。
入社して10年以上経ったが、資格は何も取得していない。上司からも資格取得を命じられることはない。
しいて言えば、TOEICを1年に1回、強制的に受けさせられるくらい。
このように、バイオ系の研究職で働いていても、資格取得を求められることはありません。
また、複数の転職サイト(doda、マイナビ転職、リクナビNEXT、ミドルの求人)で「バイオ 研究職」で検索をかけると、合わせて80件ほどの求人がヒットしました。そして、ヒットしたすべての求人を確認しましたが、「資格」の項目で必須条件として求められているものはありませんでした。
したがって、バイオ系の研究職に転職するために資格は必要ないといえます。
医療専門職の資格取得は現実的ではない
必須条件で求められる資格はありませんが、ごくまれに歓迎条件で挙げられている資格があります。それが医療専門職の資格です。具体的には、臨床検査技師です。
実際の求人例を、下に示します。この求人は、東京都品川区に本社がある株式会社理研ジェネシスの求人です。この会社では、遺伝子解析分野の最先端の研究成果を、臨床現場で応用するための研究開発を行っています。
この求人は、リーダー候補としての採用になり、遺伝子解析業務のマネージメントが主な仕事です。そして、この求人情報の「対象となる方」の欄には、臨床検査技師または衛生検査技師の資格が歓迎条件として記載されています。
臨床検査技師とは、病院で採血した血液を検査したり、心電図をとったり、エコーをとったりする専門職です。
そして、この求人では、遺伝子解析の業務に携わることになります。この領域の仕事は、臨床検査技師の職域に含まれることから、臨床検査技師の資格があれば、入社後すぐに活躍できるでしょう。
衛生検査技師は、現在は廃止になった資格です。衛生検査技師は、臨床検査技師とできることが似ていますが、エコーや心電図を測定するなど「人に触れる検査」はできません。
遺伝子解析業務は、採血した血液などを扱うので、人に直接触れることはありません。そのため、衛生検査技師の有資格者も歓迎条件として挙げられています。
なお、臨床検査技師になるには、最低でも3年は学校(専門学校、大学など)に通う必要があります。時間や学費がかなりかかるので、転職のために取得する資格ではありません。
バイオ技術者認定試験は就職で有利になることはない
そもそも、バイオ系の実験技術や知識を担保するような資格はあるのでしょうか。実は、1つだけあります。それは、「バイオ技術者認定試験」という試験です。
この試験は、バイオ技術者が持つべき知識、技術を認定することを目的とした認定試験制度です。なお、この資格は国家資格ではなく、民間資格です。
しかし、この資格を有していれば、転職の際に有利になるかといえば、プラス評価されることはまずありません。
この章の冒頭で紹介した私の友人に、バイオ技術者認定試験について訊くと、そもそもそのような資格があることを知りませんでした。
また、複数の転職サイト(doda、マイナビ転職、リクナビNEXT、ミドルの求人)で、「バイオ技術者」で求人を検索しましたが、1件もヒットしませんでした。
つまり、バイオ技術者認定試験の合格が、歓迎条件などに記載されていないことがわかります。そのため、転職のためだけに試験を受けることは、おすすめできません。
試験自体は、生物学の基礎から、植物、バイオテクノロジーまで、幅広い知識を問う問題がマークシート解答方式で出題されます。
資格を有することで生物系の知識を有していることは認定されますが、転職に有利になるわけではないことを覚えておきましょう。
英語力は求められる
英語力が高いことは、正確には資格ではありません。しかし、求人によっては、英語力を資格として取り扱っている求人もあります。
下の求人は、派遣会社の株式会社ワールドインテックのものです。この求人で採用されると、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪のいずれかのパートナー企業先で、医薬、化学、ヘルスケア分野などの理系研究職として勤務することになります。
そして、この求人の「待遇・福利厚生」の欄には、TOEICの点数によって資格手当が支給されることが記載されています。
また、第1章で紹介した私の友人の話でも、入社後は英語力を高めることが求められることがわかります。
研究職の仕事は、その部署だけで完結することはありません。企業で働くのであれば、最終的には商品(製品)にする必要があります。
研究職が見出した製品の卵を、最終的な商品として売り出すために働くのは開発職です。また、営業職の人が顧客に売り込みをしなければ、商品の売り上げは伸びません。
また、研究自体も、単独の会社だけですべてが完結しないことも増えてきました。子会社や関連会社と共同研究をすることで、研究を推し進めることもあります。
そして、関わる他職種の人や共同研究先の企業が、日本にあるとは限りません。製品を売り込む顧客も日本だけでなく、海外の会社であることもあるでしょう。
そのため、メールやテレビ電話で英語のやり取りをする場面がでてきます。
実際に、英語力が求められている求人例を下に示します。この求人は、化成品、医薬品、住宅事業などを展開している総合化学メーカーの旭化成株式会社のものです。
この求人の「対象となる方」の欄には、以下のような記載があります。
必須条件ではありませんが、TOEICの点数や、海外赴任、留学経験があれば歓迎されます。あなたがいずれかの条件を満たすのであれば、高い英語力を有しているとみなされるでしょう。
このように、バイオ系の研究職への転職で、英語力が高いことを求めている求人は多いです。そして、入社後も英語の勉強を継続する必要があることも認識しておくとよいでしょう。
まとめ
ここでは、バイオ系の研究職に転職する際に、必要な資格があるかについて解説しました。
バイオ系の研究職への転職で、必須で資格が求められることはありません。その理由は、バイオ研究に従事するために必要な資格がないからです。
まれに、臨床検査技師の資格が歓迎条件に挙げられていることがあります。しかし、取得までの年数と、学費がかかるので、転職のために取得するのは現実的ではありません。
バイオ技術者認定試験という、バイオ系の知識や技術を認定する試験もありますが、歓迎条件に挙げられることがありません。取得したとしてもプラス評価されることはないでしょう。
資格ではありませんが、英語力を求められる求人は多いです。そして、転職を成功させても、英語の勉強は継続することになるでしょう。
以上のように、バイオ系の研究職に転職するときの資格については、気にする必要はないことを覚えておきましょう。
研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。
一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。
ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。
これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。