製薬会社は、新薬を開発することを主な事業としています。そのなかでも探索研究は、医薬品になる可能性がある化合物を見出す、医薬品研究開発における重要な業務です。

学生時代を含めて、化合物を合成したことがある人は多いでしょう。しかし、自らが合成した化合物が医薬品になった経験がある人は、ほとんどいないのではないでしょうか。

医薬品は最終的にはヒトで効果を示さなければならないので、闇雲に化合物を作っても薬にはなりません。薬になりやすい化合物の特徴、薬になりにくい化合物の特徴を把握して、新たな化合物を作る必要があります。

ここでは、製薬会社での新薬開発のなかでも、探索研究の仕事内容と求人の特徴について、実際の求人例を紹介しながら解説していきます。

探索研究の仕事内容

まずは、医薬品の開発の基本的な流れを、下に示します。この流れ全体のことを「創薬研究」と呼ぶことがあります。

創薬研究には、多くのステージがあります。そして、探索研究は、創薬研究のなかでも上流の過程です。

探索研究とは、新たな医薬品候補化合物を探索・創出することが主な仕事です。探索研究で合成された化合物は、薬理評価の担当者に活性を評価してもらうようになります。

では、探索研究では具体的にどのような仕事を行うのでしょうか。また、どのようなことを意識しながら化合物を合成するのでしょうか。

探索研究の仕事内容を、化合物合成前の段階から、最終的に化合物が出来上がるまでのプロセスにかけて、順に解説していきます。

分子設計(分子デザイン)

新薬ができる確率は、化合物3万個に1個といわれています。これは、3万個の化合物があって、そのなかで医薬品になるのは1個という意味です。医薬品開発の現状が、いかに厳しいかがわかると思います。

合成する化合物は、どのような構造のものを作ってもいいわけではありません。闇雲に化合物を合成しても、活性を有する化合物ができる可能性は低いです。

そして、化合物の分子デザインをするときに、以下のような項目を意識することで、少しでも早く医薬品になりそうな化合物を得ることができます。

  • 構造活性相関
  • リピンスキーのルール・オブ・ファイブ
  • アラート構造を避ける

続いて、これらについて詳細な説明をします。

・構造活性相関

構造活性相関とは、文字通り「構造」と「活性」の相関関係です。もう少し詳細に表現すると、「化合物の化学構造」と「その化合物が示す活性」の相関関係のことです。

続いて、簡単な具体例を示します。

下に示す、3つの化合物の活性がそれぞれわかっています。これらの情報を基に、どのような構造の化合物を合成すれば、より活性が強い化合物を得ることができるでしょうか。

アルキル鎖が長くなると活性が強くなる傾向があるので、さらにアルキル鎖を長くした化合物Dは、活性が強くなると考えられます。

このように、複数の化合物の構造と活性の相関関係から、合成すべき化合物の構造を決めることで、効率的に高い活性を有する化合物を得ることができます。

・リピンスキーのルール・オブ・ファイブ

医薬品を開発するときには、「どんな構造でもいいから活性があればよい」というわけではありません。医薬品の多くは、口から飲む内服薬です。そして、内服薬が効果を発揮するためには、体の中に吸収されなければなりません。

実は、経口投与する医薬品を開発するときに指標となる経験則が知られています。それが「リピンスキーのルール・オブ・ファイブ」です。

この経験則は、経口投与された薬物が体内に吸収されやすいかを予測するためのものです。具体的には、以下の4点を満たすものが、吸収されやすいといわれています。

  • 水素結合の供与体(OH、NHなど)が5個以下
  • 水素結合の受容体(O、Nなど)が10個以下
  • 分子量が500以下
  • logP(脂溶性度の指標)が5以下

条件の中に、5の倍数が多く登場するので、ルール・オブ・ファイブと呼ばれています。実際に医薬品になっている化合物を調べると、これらの条件を満たしていることが多いことから、このような経験則が発表されました。

このルール・オブ・ファイブを満たす医薬品の例を、1例紹介します。

下の医薬品は、大手製薬会社のエーザイ株式会社から発売されている、認知症治療薬のアリセプトです。アリセプトは、経口摂取する錠剤です。

アリセプトの有効成分は塩酸ドネペジルであり、その構造は以下の通りです。

分子量は、500未満の条件を満たしています。そして、水素結合の供与体と受容体の数も、それぞれ5個以下、10個以下の条件を満たしています。

また、医薬品の情報が細かく記載されている書類(インタビューフォーム)には、logPの記載もあります。5以下であり、条件を満たしていることがわかります。

もちろんこの経験則は、絶対的な法則ではありません。ルール・オブ・ファイブを満たしても、医薬品にならなかったり、吸収されにくかったりする化合物はいくらでもあります。

しかし、既存の内服薬の多くがこの経験則を満たしています。そのため、化合物の構造がルール・オブ・ファイブを満たせば、経口投与可能な医薬品になる可能性が高くなります。

そのようなことから、製薬会社で新たな医薬品候補化合物を分子デザインするときに、ルール・オブ・ファイブを満たすかどうかは一つの判断基準になります。

・アラート構造を避ける

化合物の構造によっては、毒性を示しやすい構造があります。そのような構造のことを「アラート構造」と呼びます。毒性とは、発がん性、遺伝毒性(遺伝子への影響)などを指します。

具体的には、アニリン、ニトロベンゼンなどがアラート構造と呼ばれます。

もちろん、アラート構造も、絶対的な法則ではありません。実際に、田辺三菱製薬株式会社から発売されているバイロテンシン錠のように、アラート構造を有する医薬品も存在しています。

しかし、アラート構造を有していると、動物実験やヒトに投与したときに、毒性が問題となり開発中止となる可能性が高まります。そのため、分子デザインをするときに、アラート構造を有していないかは確認する必要があります。

合成方法を決める

合成する化合物の構造が決まると、次に合成方法を決めなければなりません。新規の化合物を合成するので、合成ルートは自分で考える必要があります。

具体的には、逆合成解析を行うことで、それぞれの反応条件、出発原料を決めます。下に、実際の逆合成解析の例を示します。

逆合成解析では、目的化合物をどのように合成するかを、実際に行う合成ルートの逆の順序で組み立てます。

このとき、出発原料は購入できるものでなければなりません。購入可能な原料を出発原料として、目的化合物を合成するルートを立案します。

逆合成解析で必要になるのが、有機化学の知識や有機合成の経験です。多くの反応を知っていたり、経験したりしていると、合成ルートの選択肢が増えます。その結果、効率的に合成できるルートを見つけやすくなります。

もちろん、どんなに優秀な有機化学者でも、すべての反応条件を熟知しているわけではありません。そのため、どのような反応があるのか、どのような条件で行うのがよいのかなどについて文献を調べることがあります。

そのときに汎用されるのが「SciFinder」です。SciFinderは、有機物質のデータベースで、文献を検索できるシステムです。

SciFinderでは、下の図のように、出発原料と目的化合物の構造を描いて検索をすることで、その反応が行われている文献を調べることができます。

この作業を繰り返し行い、出発原料から最終の目的化合物まで、どのような反応条件で行うかを決定します。

実際に合成する

用いる原料、反応条件が決まると、実際に合成を行います。探索研究の合成(探索合成)の段階では、活性があるかどうかわからないので、大量に合成することはありません。

具体的には、以下の写真のような実験機器を用いて、mgスケールで合成します。

大学時代に有機合成を行っていた経験があれば、そのときと基本的には同じくらいのスケールだと考えてよいです。

合成した化合物の構造を解析する

合成した化合物の構造は、分析によって確認します。このような分析のときにはNMRとMSを利用することが多いです。

最終的な目的化合物は、出発原料から何工程も経て合成されます。それぞれの工程で中間体が合成されますが、中間体の構造も分析によって確認する必要があります。

製薬会社には、化学分析を専門に行う部署があります。しかし、探索合成の段階で、分析の専門職に分析を依頼することはほとんどありません。

依頼するとすれば、二重結合のシスまたはトランスか、鏡像異性体のSまたはRの構造を決めるときなどです。基本的には、自分で合成した化合物は自分で分析をして、予定通りできているかを確認します。

探索研究への転職で求められるもの

ここまで、探索研究の仕事内容について解説しました。では、探索研究の仕事に就こうと思うと、どのような経験が求められるのでしょうか。

続いて、実際の求人例を示しながら、転職の際に求められるものについて解説します。

有機合成の経験

探索研究の主な仕事は、有機化合物の合成です。そのため、有機合成の経験は当然求められます。

下の求人は、大手化学メーカーの東レ株式会社のものです。この求人で採用されると、神奈川県鎌倉市にある基礎研究センターで、主に探索研究に携わることになります。

そして、この求人の「対象となる方」の欄には、有機合成化学に関する高い専門性を求められることが記載されています。

有機合成では、試薬と試薬を混ぜることで、反応を起こします。このとき、試薬の加え方、加える順番などによって、目的化合物ができるかどうかに大きく影響することがあります。

また、試薬によっては、水が微量でも混ざると、発火するようなものもあります。用いる試薬の特性は、把握しておかなければなりません。

そして、使用する試薬が決められていても、どのように実験機器を組めばよいかわからなければ、そもそも反応を仕込むことができません。

このように、探索合成に携わるには、有機化学の知識、有機合成の経験が求められます。

創薬合成研究の経験

創薬研究とは、研究テーマの立案から、探索研究、活性評価、製剤化検討、臨床開発までの全体を指します。つまり、創薬合成研究は、創薬研究のプロセスのなかの探索研究を指しています。

次に紹介する求人は、創薬研究に関する事業を受託しているAxcelead Drug Discovery Partners株式会社のものです。

この求人で採用されると、化合物のデザインから合成まで、探索合成の仕事に従事することになります。

仕事内容の欄に記載されている「メディシナルケミストリー」とは、日本語では「医薬品化学」を指します。医薬品化学とは、医薬品の創出に関する学問のことです。

そして、この求人の「応募資格」の欄には、5年以上の創薬合成研究の経験が必須要件として挙げられています。

これは、合成を行うだけでなく、医薬品候補化合物の分子デザインも行うことから、創薬合成研究の経験が求められていると推測できます。

第1章で解説したように、医薬品の候補化合物を分子デザインするときは、闇雲に行ってはいけません。どのような構造が体内に吸収されやすいか、どの構造が毒性を示しやすいかを意識しながら、分子デザインをする必要があります。

分子デザインの経験は、実際に探索研究に携わってみないと身につきません。どんなに有機合成の知識や経験があっても、「医薬品になりやすい構造」を意識したことがなければ、医薬品の候補化合物を見出すのは難しいです。

そのようなことから、探索研究への転職では、実際に探索研究に携わった経験が求められることがあります。

英語力

研究職に就職しようとすると、英語力が求められることは多いです。そして、その傾向は、探索研究も例外ではありません。

第1章で紹介したように、探索研究では、化合物の合成ルートを決めるために、文献を調べます。そして、そのほとんどの場合、以下のような英語の文献を読むことになります。

実際の求人情報を、下に示します。この求人は、会社名が非公開になっていますが、日系製薬メーカーのものです。

この求人の「応募資格」の欄には、英文を読解し、業務に活用できる能力が必須要件として挙げられています。

先ほど示した写真のような英語論文を読み、実験に活かすことができることが求められます。

そのため、英語力だけでなく、前の項で紹介した、有機合成の経験も必要になります。この求人でも、低分子医薬品の研究開発の経験が求められています。

また、月報を英語で作成したり、会議を英語で行ったりしている企業もあります。

製薬会社で医薬品開発を行う場合、単独の会社ですべてを行うことはありません。研究段階でも共同研究を行ったり、外部企業に委託をしたりすることは普通にあります。

そして、それらの企業は、必ずしも日本国内にあるとは限りません。そうなると、メールで英語を使用したり、電話会議で英語のディスカッションをしたりする場面も日常的にでてきます。

探索研究の研究職では、英語力が求められることを覚えておきましょう。

学歴

探索研究の求人情報をみてみると、必須条件に学歴が挙げられているものもあります。

第1章で紹介した東レ株式会社の求人では、「対象となる方」の欄に以下のように記載されています。

大学院卒以上の学歴が求められています。つまり、修士卒、博士卒、ポスドクが対象となります。

また、直前の項で紹介した、日系製薬メーカーの求人でも、「修士課程又は博士課程を修了された方」が必須条件に挙げられています。

このように、探索研究の求人案件では、大学院卒以上の学歴を求められることが多いです。

そして、私の知り合いで、製薬会社で探索研究に携わっている人に話を訊くと、以下のような話をしてくれました。

中途採用の人の学歴をみると、博士卒かポスドクがほとんど。会社の方針かもしれないけど、修士卒はみたことがないかもしれない。新卒でも博士卒しか採用していないのではないか。

印象としては、修士卒よりも博士卒の方が実力はあると感じる。即戦力としての活躍を期待するから、博士卒以上を採用しているのではないか。

この話は、あくまで一例です。もちろん修士卒でも内定を勝ち取ることができる求人はあります。

しかし、探索研究に携わるためには、高い学歴が求められることは間違いないといえるでしょう。

転職エージェントを活用して転職を成功させる

では、求人を探すときには、どのようにすればよいでしょうか。

一般的には、転職活動をするときには、転職サイトで求人を探すと思います。実際に、大手転職サイトの1つの「doda」で「探索研究」のキーワードで検索をすると、下のように求人を見つけることができます。

もちろん、ほかの転職サイトを利用することで、求人を見つけることは可能です。

しかし、転職サイトで検索するだけでは、ヒットする求人数は少ないです。dodaでは、「探索研究」で検索してヒットした求人は8件でした。そのなかで、医薬品の探索研究の求人案件は2件だけでした。

そこで、転職サイトで求人を探すだけでなく、転職エージェントを活用するようにしましょう。なぜなら、転職サイトでは、非公開求人を取り扱っているからです。

非公開求人は、インターネットで検索をしても、一部の情報しか得ることができなかったり、そもそも求人自体が公開されていなかったりします。

非公開求人を見つけるためには、転職サイトのエージェントサービスを受けて、求人を紹介してもらうしかありません。そして、非公開求人は、公開求人の約3倍あるともいわれています。

以上のことから、あなたの希望に沿った転職を成功させるためには、転職サイトで求人を検索するだけでなく、エージェントサービスを活用するようにしましょう。

まとめ

ここでは、製薬会社での新薬開発のなかでも、探索研究の仕事内容と、転職の際に求められる経験、スキルについて解説しました。

探索研究は、医薬品開発のなかでも上流の過程です。医薬品になりそうな候補化合物を見出すことが、主な仕事内容です。

具体的には、合成する化合物の構造をデザインし、文献を参考にして合成ルートを決めます。そして、実際に合成をして、予定通り合成できたかを確認します。

このような業務を行うことから、有機合成や創薬研究の経験が、必須条件や歓迎条件で求められることが多いです。

また、英語文献を読んだり、共同研究先とのやりとりをしたりするために、英語力も求められます。

そして、大学院卒以上の学歴が求められることが多いです。なかには、博士卒以上を中心に採用している企業があることも知っておく必要があります。

求人を探すときには、転職サイトで求人を検索するだけでなく、転職エージェントを活用するとよいです。エージェントサービスを活用することで、非公開求人も紹介してもらえるので、積極的に利用するようにしましょう。

研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。