再生医療は、失われた臓器や組織を再生させ、失われた人体の機能回復を目指す医療です。医療のなかでも新しい技術であり、21世紀になってからは再生医療事業に参入する企業も増えてきています。

再生医療に関わるためには、どのような企業に転職する必要があるのでしょうか。再生医療の研究は、さまざまな企業で行われています。意外な企業でも再生医療の研究を行っており、幅広く求人を探さなければ転職を成功させることはできません。

そして、求人によっては再生医療の研究だけでなく、研究業務経験自体がない人でも応募できる求人もあります。転職を成功させるためには、このような情報収集が必要不可欠です。

ここでは、再生医療の研究に携わるための転職方法を解説します。具体的には、「再生医療の研究に従事できる企業」「転職で求められる経験・スキル」「再生医療に従事したときの年収」について順に紹介します。

再生医療の研究者は、さまざまな企業で募集している

まずは、再生医療の研究者がどのような企業で募集されているかを確認しましょう。再生医療の研究者募集の求人が出されている企業は、以下の4種類に分類できます。

  1. バイオベンチャー企業
  2. 製薬会社
  3. 1,2以外の企業
  4. 派遣会社

企業によって携わる仕事内容や年収、転職で求められるものは異なります。実際の求人例を紹介しながら、企業ごとの違いを確認しましょう。

バイオベンチャー企業で新たな技術・サービスの研究をする

最初に紹介するのは、バイオベンチャー企業です。バイオベンチャー企業の明確な定義はありませんが、一般的には「独自のアイデアや技術をもとにして、新しいサービスやビジネスを展開する企業」を指します。

21世紀になったばかりの頃は、臨床応用できる再生医療は限られていました。そのような新しい技術である再生医療の研究は、ベンチャー企業で行われています。

そしてバイオベンチャー企業は、小規模から中規模の会社が多いです。規模が小さい会社のなかには、社員数10人未満の会社もあります。

バイオベンチャー企業から出されている、実際の求人例を2件紹介します。

1件目の求人は、兵庫県神戸市に拠点があるネクスジェン株式会社から出されている求人です。ネクスジェン社の求人では、造血幹細胞の研究者を募集しています。ネクスジェン社は、従業員数27名のバイオベンチャー企業です。

造血幹細胞は、赤血球、白血球などの血液成分の元になる細胞です。造血幹細胞を用いた再生医療で有名なものは、骨髄移植です。骨髄移植は、20世紀後半から医療現場で実施されている再生医療の1つです。

ネクスジェン社では、造血幹細胞を含む幹細胞を活かした再生医療の研究開発を行っています。

2件目の求人は、神奈川県横浜市に本社を置く株式会社リプロセルから出されている求人です。リプロセル社は、iPS細胞を中心とした再生医療の研究や製品開発を展開している企業です。従業員数は、約120名です。

iPS細胞は、人工的に作成された幹細胞です。あらゆる臓器・組織に分化する可能性を秘めており、実用化に向けたさまざまな研究が行われています。

このように、再生医療の研究はバイオベンチャー企業で盛んに行われています。

製薬会社で医薬品の研究を行う

製薬会社は、主に医薬品を研究開発・製造販売している企業です。再生医療の製品のなかには、医薬品もあります。

次に紹介する大日本住友製薬株式会社は、国内大手の製薬会社です。この求人では、iPS細胞を用いた再生医療等の製品の実用化に従事する研究者を募集しています。

製薬会社が研究開発している医薬品のなかには、細胞医薬品もあります。ここで紹介した大日本住友製薬社では、iPS細胞由来の網膜細胞を研究開発していることが会社のホームページに紹介されています。

引用:研究(再生・細胞医薬)|社員紹介|大日本住友製薬株式会社より

製薬会社のなかには、このように再生医療の研究開発を行っている企業もあります。

意外な会社から再生医療の研究者募集の求人が出されることもある

ここまで紹介した企業は、いずれも医療に関する製品・サービスを提供している企業です。実は、再生医療の研究をしているのは、これらの企業だけではありません。

一般的には全く違う業種と考えられている企業でも、再生医療の研究が行われていることがあります。ここでも求人例を2件紹介します。

1件目は、グンゼ株式会社から出されている求人です。この求人では、京都府の拠点で再生医療に関わるプロジェクト全般を担当する人材を募集しています。

グンゼ社の事業は、非常に幅広いです。グンゼ社と聞くと、繊維製品に強みがあるとイメージする人が多いと思います。実は、繊維製品の開発で培った技術力を応用して医療事業を展開しています。

具体的には、半月板の再生基材や腎不全治療の研究を展開しています。このような再生医療の研究に従事する研究者をこの求人で募集しています。

2件目の求人は、大手鉄鋼メーカーの株式会社日立製作所から出されているものです。この求人では、バイオテクノロジーとAI(人工知能)の技術を駆使した研究開発を担当する人材を募集しています。

日立製作所社は巨大な企業で、事業も幅広いです。私の身の回りにも、多くの日立製作所の製品があります。

そして、日立製作所社の幅広い事業のなかには、医療事業もあります。会社のホームページには、以下のようにヘルスケア事業として再生医療を展開していることが紹介されています。

引用:製品・ソリューション:ヘルスケア:日立より

バイオベンチャー企業や製薬会社のように、医療に関する事業を展開していることが明らかな企業以外でも再生医療の研究は展開されています。ここで紹介したような企業も含めて求人を探すことで、転職の選択肢を広げることができます。

派遣会社に転職しても再生医療の研究に従事できる可能性がある

ここまで紹介した企業は、いずれも自社で研究開発を行い、自社製品を生み出している企業です。最後に紹介するのは、研究職の人材を企業に派遣している企業の派遣会社です。

派遣会社に転職すると、職場は派遣会社が契約している企業です。研究者として契約先の企業に派遣されて、契約先の企業のために働きます。

派遣会社が契約している会社のなかには、再生医療を展開している企業もあります。実際の派遣会社の求人例を紹介します。

この求人は、大阪府大阪市に本社がある株式会社アスパークから出されている求人です。この求人の仕事内容の欄には、再生医療のプロジェクトも受託していることが記載されています。

アスパーク社は、幅広い業界の企業にエンジニア(技術者)を派遣している企業です。そのなかには、バイオ系エンジニアも含まれます。

このように、研究者を企業に派遣している派遣会社に転職しても、再生医療の研究に従事できる可能性があります。

再生医療の研究者に転職するときに求められる経験・スキル

ここまで、再生医療の研究に従事できる求人がどのような企業から出されているかを確認しました。

では、そのような求人に応募し、採用されるために求められるものは何でしょうか。実は、企業によって求められるものは大きく変わります。

再生医療の研究経験があればキャリア採用されやすい

転職をするときは、これまで従事していた業務をそのまま続けることができる場合が最も採用されやすいです。

ここまで紹介した会社・求人のなかにも、再生医療の研究に従事していた経験が必須条件に挙げられている求人もありました。

繊維製品メーカーのグンゼ社から出されていた求人の応募条件は、以下の通りです。必須条件に再生医療に関する知見・ノウハウが挙げられています。

バイオベンチャー企業のネクスジェン社の求人では、以下の条件が提示されていました。幹細胞に関する専門知識が、歓迎条件に挙げられています。歓迎条件なので、幹細胞に関する専門知識があれば、採用される可能性がかなり高いと言えます。

このように、これまでに再生医療の研究に従事していれば、転職を成功させやすいです。

細胞を取り扱った経験があれば採用される可能性がある

再生医療の研究に従事した経験があれば、その経験を活かしてキャリア採用されている可能性があります。

では、再生医療の研究を経験していなければ転職は成功できないかというと、そんなことはありません。具体的には、細胞を取り扱った経験があれば、応募条件を満たす求人があります。

さきほど紹介したネクスジェン社の求人は、幹細胞に関する専門知識が歓迎条件でした。そして、この求人に応募するための必須条件には、幹細胞を含む再生医療の知識・研究経験は挙げられていません。求められているのは、生物系の実験経験や知識です。

再生医療は、失われた臓器や組織を再生させるための技術・治療法です。臓器や組織はすべて細胞でできています。そのため、再生医療の研究では、下の写真のように細胞を取り扱うことになります。

細胞を取り扱う仕事は、再生医療だけではありません。

例えば、医薬品の研究開発をするときには、細胞を使って効果や毒性を評価します。ほかにも、病気の原因を研究するときにも細胞を利用します。このような研究で細胞を扱った経験があれば、ネクスジェン社の求人の応募条件を十分満たします。

このように、再生医療の研究経験がなくても、細胞を取り扱った経験があれば応募できる求人があります。

再生医療の研究に従事するために必要な資格はない

仕事をするときに資格が必要な職種があります。例えば、病院で病気の人を診断するためには医師資格が必要です。

一方で、再生医療の研究に従事するために必要な資格はありません。何の資格も持っていなくても再生医療の研究に携わることができます。

ここまで紹介した求人でも、応募に資格が必要な求人はありませんでした。例えば、さきほども紹介したネクスジェン社の求人の応募条件をもう一度確認してみましょう。条件に資格は挙げられていません。

再生医療の研究では、主に細胞を取り扱います。細胞を取り扱う実験を担当するために必要な資格はありません。

あなたはこれまでの業務経験で、何かしらの資格を取得しているかもしれません。しかし、再生医療の研究者に転職するときに、その資格が強みになることはありません。

あなたが何も資格を保有していなくても、気にせずに転職活動を進めてよいです。

派遣会社の求人は未経験でも応募できるものがある

再生医療の研究者を募集している求人は、再生医療に関わった経験や、生物系の実験経験が求められる求人が多いです。これらの経験が全くない人は、再生医療の研究者への転職を成功させるのは難しいです。

では、絶対に転職できないかというと、実はそうではありません。前の章で紹介した派遣会社は、実務未経験でも転職し、再生医療の研究に従事できる可能性があります。

求人例を紹介したアスパーク社の求人の応募条件は、以下の通りです。職務経験は不問で、高専卒以上の学歴があれば応募することができます。

しかし、派遣会社に転職するときには注意しなければならないことがあります。それは、「必ずしも再生医療の研究に従事できるとは限らない」ことです。

特に、生物系の研究が全くの未経験者の場合は、転職直後から再生医療の研究に従事できるかはわかりません。

派遣会社に転職すると、あなたの経験・スキルに合ったプロジェクトを任されます。そのため、未経験者の場合は、簡単な実験・作業を担当できるプロジェクトから任されることになります。そのプロジェクトは、再生医療のプロジェクトとは限りません。

そして、生物系の研究が未経験の場合は、研究者というよりは、研究補助者のような業務を任される可能性が高いです。転職して実験や研究の経験を積むことで、難易度の高い業務に従事できるようになったり、希望のプロジェクトに従事しやすくなったります。

一方で、経験者であれば、最初から再生医療の研究を任される可能性もあります。

派遣会社に転職するときには、このような特徴を理解しておく必要があります。

年収はあなたの経験や企業規模によって大きく異なる

最後に、再生医療の研究に従事するときの年収について解説します。働くときに、年収は重要な項目の1つです。今の企業の年収に満足できなくて転職を考えている人もいると思います。

再生医療の研究は、さまざまな企業で行われていることを最初の章で紹介しました。そして、あなたがもらうことができる給料は、企業やあなたの業務経験によって大きく変わります。

冒頭で紹介したバイオベンチャー企業のネクスジェン社で提示されている年収は、以下の通りです。300万円~500万円が提示されています。

ここまで全部で6件の求人を紹介しました。すべての求人で提示されている年収を一覧にしたものが、下の表です。いずれも正社員を募集している求人でした。

企業名 提示年収

(万円)

企業の種類
ネクスジェン(株) 300~500 バイオベンチャー
(株)リプロセル 315~410 バイオベンチャー
大日本住友製薬(株) 600~1,000 製薬会社
グンゼ(株) 500~700 繊維製品メーカー
(株)日立製作所 800~1,200 鉄鋼メーカー
(株)アスパーク 月給22.5~60

未経験者は20~30

派遣企業

企業によって提示されている年収は大きく違うことがわかると思います。

サラリーマン・OLの平均年収は、約500万円です。この数値と比べると、ここで紹介したバイオベンチャー企業の求人で提示されている年収は、低めと言えます。

ただし、「バイオベンチャー企業=給料が安い」というわけではありません。

ここで紹介したネクスジェン社は、同時期にシニア研究員の募集もしていました。その求人で提示されていた年収は、以下のように400万円~800万円です。

また、大手企業から提示されている年収は高い傾向があります。ここで紹介した大日本住友製薬社、グンゼ社、日立製作所社は、同じ業界で働いたことがない人でも知っているような大手企業です。いずれもサラリーマン・OLの平均年収を上回る年収が提示されていました。

そして、派遣会社の年収は、研究経験の有無によって大きく変わります。ここで紹介したアスパーク社の求人は、経験の有無で年収が異なることが求人票に記載されています。経験者であれば、入社時の想定年収は大手企業で提示されている額と同じような水準です。

このように、再生医療に従事したときの年収は、企業、求人、あなたのこれまでのキャリアによって大きく異なります。

まとめ

ここでは、再生医療の研究に従事するための転職方法、求人の特徴について解説しました。

再生医療の研究は、バイオベンチャー企業や製薬会社で実施されています。ほかにも、これまでは医療事業を行っていなかった企業も、自社の技術を活かして再生医療事業に参入していることもあります。

派遣会社からも再生医療の研究者を募集する求人が出されます。派遣会社の場合は、これまでの経験を考慮してプロジェクトが割り振られます。

転職を成功させるためには、細胞を取り扱った経験が必要です。再生医療の研究に従事した経験がなくても、生物系の研究・実験経験をアピールすることで採用される可能性が十分あります。再生医療の研究に従事するために必要な資格はありません。

企業やこれまでのあなたの経験によって提示される年収は大きく変わります。キャリア採用であれば、高い年収を勝ち取れる可能性が十分あります。

これらの情報を踏まえて転職活動をすることで、納得できる転職を実現しやすくなります。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。