研究職で働いている人の多くは、大学院(修士課程か博士課程)を修了しています。
では、学部卒の人が研究職に転職できないかというと、実はそうではありません。学部卒でも研究職に転職して活躍できます。
しかし、闇雲に求人を探しても、満足できる転職を実現することは容易ではありません。あなたが応募できる求人を見つけるためには工夫が必要です。
また、転職後の働き方についても事前に情報収集をしておかなければ、転職後に後悔する可能性もあります。
ここでは、大卒・学部卒で研究職に転職をするときのポイントや、転職を成功させるための求人の探し方について解説します。
もくじ
学部卒でも応募し採用される研究職求人はある
さきほども述べましたが、学部卒で研究職として働くことができないかというと、そうではありません。実際に転職サイトなどで求人を探すと、学部卒でも応募できる研究職の求人を見つけることができます。
ここからは、実際の求人例を示しながら、どのような企業から学部卒でも応募できる研究職の求人が出されているかを確認していきます。
派遣会社は理系大学を卒業していれば十分採用される可能性がある
最初に紹介するのは、派遣会社です。派遣会社に転職すると、派遣会社が契約している企業に研究者として派遣されて仕事をします。
実際の求人例は、下の株式会社リクルート&スタッフィングから出されている求人が該当します。この求人は、化学メーカーで研究開発に従事する人材を募集しています。
そして、リクルート&スタッフィング社の求人の応募条件は、以下の通りです。研究業務未経験でも応募することができ、理系大学を卒業していれば優遇されます。
派遣会社は、さまざまなバックグラウンドをもった人が所属しています。なかには、大学は文系の学部を卒業して、そのあと派遣会社に就職して研究開発に従事している人もいます。そのため、大学の学部卒の人でも、問題なく転職できます。
派遣会社から出される求人は、学部卒でも応募条件を十分満たすものが多いです。
現在研究職で働いていればキャリア採用されやすい
続いて紹介するのは、学部卒で現在研究職として働いている場合です。この場合は、研究職の経験を活かしてキャリア採用される可能性があります。
実際の求人例は、下の黒金化成株式会社の求人が該当します。黒金化成社は、愛知県名古屋市に本社があり、機能性材料や医薬中間体を受託製造している企業です。
黒金化成社は、下の写真のような工場で化学製品の受託製造を行っています。
そして、黒金化成社の求人の応募条件は、以下の通りです。化学系の学科を卒業していて、有機合成の検討、つまり有機合成の研究経験があれば応募条件を満たします。
理系学部のなかでも化学系の学部・学科では、下の写真のような教科書で有機化学を学びます。学部で学んだ知識を活かして合成検討を経験していれば、応募条件を十分満たします。
研究職で働くときに最も大切なのは、研究を推し進める力です。大学院を修了していることではありません。
企業で研究職として働いていれば、目の前の課題をどのように解決すればよいかの検討を繰り返しています。この経験をアピールすることで、学部卒でも研究職にキャリア採用される可能性が十分あります。
学部卒・研究職未経験だと転職成功は難しい?
では、これまで研究職として働いていない学部卒の人は、派遣会社以外の企業の研究職に転職できないのでしょうか。実は、求人数は少ないですが、学部卒・研究未経験でも応募できる求人はあります。
私が、転職サイトを探して見つけた求人を2件紹介します。
1件目は、福岡県に拠点がある株式会社新菱から出されている求人です。新菱社は、三菱ケミカルグループの一員で、化学技術を地球環境保全に役立てる事業を展開しています。この求人では、半導体装置の洗浄工程の開発・研究業務を担当する人材を募集しています。
そして、この求人の応募条件は以下の通りです。実務経験は不問で、大学で化学を専攻していれば応募条件を満たします。
研究職として働くときに必要なのは、それぞれの領域の専門知識です。専門知識があることを企業にアピールできれば、学部卒で採用される可能性が十分あります。
2件目の求人は、農機メーカーとして世界的に知られている株式会社クボタから出されている求人です。この求人は、現行品の課題解決や設計変更品の品質評価を担う人材を募集しています。
クボタ社は、下の写真のような農業用機器を世界中に販売しているメーカーです。
農業機器に限らず、製品を製造・販売している企業であれば、製品の性能改善、生産性の向上、コストダウン検討は日常的な課題です。クボタ社の求人では、これらの課題解決に従事する人材を募集しています。
そして、この求人の応募条件は以下のとおりです。工学部機械系出身レベルの機械工学の知識と、メーカーの製品開発部門か品質保証部門での業務経験があれば応募条件を満たします。
開発部門や品質保証部門は、研究部門と比べると学部卒でも働いている人が多い部署です。
例えば、私の友人には、工学部の通信ネットワーク科を卒業して、精密機器メーカーでカメラの開発を担当している人がいます。彼の仕事内容は、半導体の装置開発です。研究職ではありません。
彼が日常的に行っている業務は、プログラミングです。顧客の要望を満足するシステムを構築するために、打ち合わせと実務を繰り返していると教えてくれました。
そして、学部卒でも大学院卒でも、仕事に必要な専門知識や仕事のやり方は同じです。学部卒でも開発業務を担うことができます。
このような業務経験があれば、専門知識と業務経験をアピールすることで、学部卒でも研究職に転職することができる可能性があります。
出身大学は採用に影響しない
転職のときに、出身大学によって合否が決められることはありません。
実際に求人票には、どこの大学を卒業しているかが条件として挙げられることはありません。さきほど紹介したクボタ社の求人でも、具体的な大学の条件は記載されていませんでした。
クボタ社の求人に限らず、求人票に、「国立大学出身者歓迎」や「私立大学出身者お断り」のような記載がされることはありません。
私は、下の写真のような田舎の地方大学出身です。そのため、新卒の就職活動のときに何となく自信がなかったのを覚えています。
しかし、実際就職してみると地方大学出身の同期や先輩がたくさんいました。仕事の能力も地方大学出身者が特別劣っていることもありませんでした。
転職で重要視されるのは、転職後に会社の戦力になるかどうかです。出身大学ではありません。学部卒で研究職に転職するときに、出身大学を気にする必要はありません。
学部卒で研究職に転職するための戦略・求人の探し方
ここまで、学部卒でも応募して採用される可能性がある研究職の求人を紹介しました。しかし、学部卒で研究職に転職するのは、大学院卒と比べると狭き門であることは間違いありません。
そこで、転職を成功させるためには、転職活動の仕方、求人の探し方を工夫する必要があります。
少しでも多くの求人に触れるための工夫が必要
ここまで紹介した求人は、すべて転職サイトで紹介されているものでした。同じように転職サイトで求人を検索することで、あなたが応募できる求人は見つけることができます。
しかし、これだけでは不十分です。それは、転職サイトで公開されている求人だけを探すと、あなたが触れることができる求人が非常に少ないからです。
実は、転職市場にある求人のほとんどは、一般には公開されていない非公開求人です。非公開求人は、転職エージェントを介してのみ触れることができる求人です。
具体的には、60%~80%の求人が非公開求人と言われています。例えば、ハイクラス・ミドルクラスの求人を中心に取り扱っている転職エージェントのJAC Recruitmentは、以下のように取り扱っている求人の60%が非公開求人です。
公開求人だけを探していては、世の中にある求人の20%~40%しか触れることができません。
そのため、非公開求人も含めて求人を探すことで、あなたの希望を満足できる転職が実現できる可能性が高まります。
応募条件を満たしていなくても応募してみよう
求人のなかには、大学院卒が必須条件に挙げられているものもあります。例えば、下に示す大手製薬会社の大塚製薬株式会社の求人は、必須条件に博士又は修士卒以上が挙げられています。
実は、このような求人でも、大学院を修了していない学部卒の人でも応募して採用される可能性がゼロではありません。その理由は、大学院を修了していなくても研究業務に従事することができるからです。
転職エージェントに登録していれば、転職エージェントの担当者に応募の相談をしてみるとよいです。転職エージェントは、企業がどのような人材を求めているかを熟知しています。あなたが応募して採用される可能性があるかを教えてくれます。
このように、あなたが応募して採用される可能性がある求人に少しでも多く触れることが、転職を成功させるためには大切です。
学部卒で研究職に転職したときの年収の実態
最後に、学部卒で研究職に転職したときの年収について解説します。
最初に紹介した派遣会社のリクルート&スタッフィング社では、以下のように入社時の想定年収が提示されています。
年収に幅あるのは、経験によって入社時の年収が大きく変わるためです。
ここまで、5社の求人を紹介しました。大学院卒が必須条件に挙げられていた大塚製薬社の求人を除く4件の求人で提示されていた年収を一覧にしたものが、下の表です。
企業名 | 提示年収
(万円) |
(株)リクルート&スタッフィング | 280~600 |
黒金化成(株) | 380~480 |
(株)新菱 | 350~450 |
(株)クボタ | 450~850 |
サラリーマン・OLの平均年収は、約500万円です。この平均値と比較すると、ここで紹介した求人で提示されている年収は、やや低めの水準といえます。
クボタ社の年収が平均年収よりも高いのは、大手企業であるためと考えられます。一般的には、企業規模が大きい方が、年収が高い傾向があります。
また、会社によっては管理職に就くために大学院を修了していなければならない企業もあります。大学院を修了していなくても管理職の仕事はできますが、会社独自のルールが決められています。
このようなことは将来の昇進や昇給に関わります。転職する時点で、会社のルールを確認しておくと、転職後につらい想いをしたり、後悔したりすることを避けることができます。
入社する前に昇進や昇給のことを直接企業に質問しにくければ、転職エージェントを介して質問することもできます。
これらの情報をしっかりと収集して、満足できる転職を実現するようにしましょう。
まとめ
ここでは、学部卒で研究職に転職するときに押さえておくべきポイント、転職活動のやり方について解説しました。
派遣会社は、理系大学を卒業していれば優遇される求人が出されています。派遣会社以外の企業でも、研究経験があれば、学部卒でもキャリア採用される可能性があります。
そして、研究経験未経験でも、学部卒で研究職に転職できる可能性があります。しかし、その求人数は非常に少ないです。
転職を成功させるためには、少しでも多くの求人に触れるための工夫をする必要があります。学歴の応募条件を満たしていない求人でも応募すると採用される可能性もあります。
学部卒で応募できる研究職の求人は、サラリーマン・OLの平均年収よりもやや低めの年収が提示されていることが多いです。将来の昇給や昇進についても事前に情報収集することで、転職後の後悔を防ぎやすくなります。
これらの情報を踏まえて転職活動を行い、満足できる転職を実現させましょう。
研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。
一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。
ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。
これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。