医療機器メーカーの薬事担当者は、研究開発、臨床開発を終えた製品の製造承認の許可をもらう重要な仕事を担当します。

実は、会社によって薬事の働き方は異なります。あなたの経験を十分に活かすことができる企業もあれば、そうでない企業もあります。このことを把握して転職活動をしなければ、満足できる転職を実現することはできません。

ここでは、医療機器メーカーの薬事担当者を募集している求人の特徴について解説します。具体的には「会社による薬事の仕事内容の違い」「転職のために必要な経験・スキル」「年収の相場」について順に説明します。

医療機器の薬事求人の実態を知る

薬事は製品の薬事承認の取得に向けた業務全般を担当します。薬事申請は、医療機器を世に出すための最終関門です。

まずは、このような重要な仕事を担当する薬事の求人にはどのようなものがあるのでしょうか。具体的な仕事内容を求人票を例に紹介します。

この求人は神奈川県横浜市の拠点があるアバノス・メディカル・ジャパン・インクのものです。この求人の仕事内容の欄には、薬事申請業務の一般的な内容が挙げられています。

薬事担当者は、医療機器を製造販売するための承認を受けるための手続きを厚生労働省や認証機関に行います。

海外薬事を担当する

医療機器は日本国内だけで販売されているわけではありません。むしろ、企業によっては海外の売上比率が50%を超えていることも珍しくありません。

そして、海外で医療機器を製造販売するためには、海外の当局での承認を受けなければなりません。そのため、海外の当局への薬事申請に必要な業務も薬事担当者が任されます。

実際の求人例を紹介します。会社名は非公開ですが、京都府にある企業の求人です。この求人では、海外薬事申請業務に従事することが記載されています。

具体的には、海外の承認申請に必要な書類を作成したり、現地法人とのやり取りをしたりします。なお、多くの場合は最終的な承認申請の手続きは現地法人の担当者が行います。

海外薬事の求人をもう1例紹介します。下に紹介するのは株式会社ニデックの求人です。株式会社ニデックは、眼科領域の医療機器メーカーで輸出比率が50%を超えています。

なお、この求人では国内の薬事申請と海外の薬事申請の両方を担当することが記載されています。

このように、求人によっては海外の薬事申請に必要な書類作成や手続きを担当することがあります。

輸入した医療機器を日本国内で販売するための申請業務

医療機器メーカーは、すべての企業で自社製品を開発しているわけではありません。企業によっては、海外の医療機器メーカーの製品を日本に輸入し、日本国内で販売して利益を得ている企業もあります。

この場合、日本国内で販売するための申請業務を輸入業者が担当することがあります。そのため、このような企業でも薬事担当者の募集をしています。

具体的には下のような株式会社インターメドジャパンの求人が該当します。大阪本社で薬事申請に携わる人材を募集しています。

インターメドジャパン社は、呼吸器や麻酔分野の医療機器を輸入販売することで日本の医療に貢献しています。そのため、国内に当局への申請業務だけでなく、海外の製造元との折衝も仕事内容に含まれます。

薬事は品質保証・品質管理の部門に属する

薬事は品質管理や品質保証の部門に属していることが多いです。そのため企業によっては、薬事の専門家としてだけでなく、品質管理や品質保証の業務も担当することがあります。

例えば、下に示す株式会社ホムズ技研の求人では、薬事スタッフを募集しています。しかし、仕事内容の欄には、開発業務や苦情対応などの品質管理の仕事も担当することが記載されています。

私の知り合いが働く大手医療機器メーカーでも、薬事は品質保証部に属しています。そのため、薬事の仕事だけでなく、品質保証や品質管理に関する業務に関わることもあると教えてくれました。

企業規模によっては開発業務も担当する

薬事は医療機器の承認申請を担当する専門職です。基本的には薬事の仕事をメインで担当する求人が多いですが、企業の規模によっては開発業務も任されることがあります。

例えば、下に示す亀水化学工業株式会社の求人では、薬事だけでなく新商品や既存製品の改良・開発も仕事内容に含まれています。

多くの企業で、薬事は品質保証や品質管理の部門に属することを説明しました。これらの部署は開発を担当することはありません。

しかし、会社の規模が小さければ、部署が細かく分かれておらず、一人の担当者が複数の職種を担当することもあります。亀水化学工業社は従業員が20名の規模が小さい会社です。

このように、会社によっては薬事の仕事以外の仕事も兼任することを認識しておく必要があります。

例えば、あなたが薬事の専門家として転職したいのであれば、規模の小さい会社では希望していない仕事も担当する可能性が高いです。その一方で、薬事以外の経験も活かして転職したいのであれば、規模の小さい企業の方が活躍できる可能性はあります。

このように、あなたのこれまでの経験と今後やりたい仕事を整理して、ミスマッチを防ぐように転職活動をしなければなりません。

CROで薬事を担当する

ここまで紹介してきたのは、すべて医療機器メーカーの求人です。実は薬事の求人は、医療機器メーカー以外の企業からも出ています。それがCRO(医薬品開発業務受託機関)です。

CROは、医療機器メーカーから臨床開発から薬事申請までの工程の一部またはすべてを受託する会社です。

CROの求人は、以下のようなシミック株式会社の求人が該当します。この求人で採用されると、医療機器の薬事スペシャリストとして、医療機器メーカーの業務を担当します。

なお、医療機器メーカーでもCROでも、業務内容自体は同じです。どちらに転職しても、同じ仕事を担当することになります。また、CROで薬事の仕事を経験し、将来医療機器メーカーに転職することも可能です。

医療機器メーカーで薬事に転職するときには、CROも選択肢に入れることで、求人の幅が広がることを覚えておきましょう。

薬事の求人に転職するために必要な経験・スキル

では、薬事の求人に転職するためには、どのような経験が求められるのでしょうか。未経験者でも転職することができるのでしょうか。アピールすることで、転職活動が有利になるようなスキルはあるのでしょうか。

これらの疑問について順に解説していきます。

キャリア採用がほとんどであり、未経験者の転職は難しい

まず薬事の求人では、ほとんどの求人は薬事の業務経験が求められます。つまり、キャリア採用が基本です。

冒頭で紹介したアバノス・メディカル・ジャパン・インク社の求人でも、以下のように医療機器における薬事業務の経験が必須条件として挙げられています。

では、未経験者の転職は不可能なのでしょうか。その答えは、「不可能ではないが難しい」です。

実際に求人票を見ると、薬事の業務経験が必須条件として挙げられているものがほとんどです。しかし、根気強く探していると、未経験者でも応募できる求人が見つかります。

例えば、次に紹介するテルモ山口株式会社の求人は、薬事の業務経験がなくても、製品開発経験があれば応募することができます。

ただし、この求人で採用されると、静岡県にて1~2年の研修を受ける必要があります。つまり、即戦力としての採用ではなく、1~2年後に戦力になることを期待しての採用になります。このような求人は非常に珍しいです。

転職者には、多くの場合即戦力しての働きが期待されます。そのため、基本的には薬事経験者でなければ転職は難しいと考えましょう。未経験者が転職をするのであれば、根気強く求人を探し、転職を成功させても地道に努力する覚悟が必要です。

英語を使用する場面は増えている

薬事には「海外薬事」という担当もあり、医療機器メーカーは海外の市場を積極的に開拓しています。

なお、前の章で紹介したニデック社は輸出比率が50%を超えており、海外での売り上げの方が多いです。企業によっては輸出比率が80%を超えることもあります。

下に医療機器の市場規模と成長率を示しています。海外の市場は規模は日本、ドイツ、アメリカと比べると小さいです。しかし、市場の成長スピードは遥に速いです。ブラジル、マレーシア、ベトナムは15%を超える成長率で急成長しています。

引用:医療機器への参入のためのガイドブック 第2版 17ページより

このような医療機器業界の流れのために、薬事の担当者は英語を使用する場面は年々増えています。

ニデック社の求人では、国内だけでなく海外薬事も担当する人材を募集していました。そして、この求人では「英語を使用した業務が苦でない方」が必須条件の1つです。

海外の法規制は、当然英語で記載されており、逐一動向を把握しておかなければなりません。そして、海外の現地法人とのやり取りはメールや電話会議で行います。

このときのやり取りは日常会話ではなく、薬事申請に関する内容です。そのため、法律用語や臨床試験で使用する用語は習得しておかなければなりません。

年収の相場を理解する

最後に、医療機器メーカーの薬事担当者に転職したときにどのくらいの年収をもらうことができるのかを整理します。

冒頭で紹介したアバノス・メディカル・ジャパン・インク社の求人では、以下のように730~900万円が提示されています。

ここまで8件の求人を紹介しましたので、それらをまとめたものが下の表です。ただし、8件のうち2件は提示年収が非公開だったため、表からは省いています。

会社名 提示年収

(万円)

備考
アバノス・メディカル・ジャパン・インク 730~900 薬事全般を担当
(株)ニデック 400~650 海外薬事を含む
(株)ホムズ技研 450~1,000 薬開発業務や品質管理も担当
亀水化学工業(株) 400~700 従業員数20名
シミック(株) 500~800 CRO
テルモ山口(株) 350~700 未経験可

なお、医療機器メーカーの平均年収は、大手転職サイトのdodaを運営しているパーソルキャリア株式会社が調査しています。その調査結果では、平均年収は527万円です。

引用:平均年収ランキング 最新版(96業種の平均年収/生涯賃金)より

この結果と比べると、薬事担当者の年収は医療機器メーカーの平均を上回るものが多いです。未経験者でも応募できる求人も紹介しましたが、経験者を募集している求人と比べると提示年収はやや低めです。

逆に言うと、あなたにこれまで薬事担当者としての十分な経験があれば、年収の交渉もしやすいでしょう。例えば、ホムズ技研社の求人では、450~1,000万円が提示されています。

ホムズ技研社では、薬事だけでなく、開発業務や品質管理業務も担当できる人材を募集しています。そのため、開発や品質管理の業務経験もあれば年収交渉の材料になります。

また、あなたが薬事の経験しかなくても、複数の製品の薬事申請の経験があり、国内の薬事申請に精通していれば、薬事スペシャリストとして売り込むことができます。

このように、あなたのこれまでの経験を整理し、企業が求める経験と合致するかを確認する必要があります。企業が求める内容と合致すれば、より高い年収の交渉もしやすいです。

まとめ

薬事は製品を販売するための最終関門を突破するための仕事を担当します。そしてその仕事内容は、日本国内だけでは収まらなくなっています。

海外への輸出量が増えており、海外の当局とのやり取りを任される場面があります。また、企業によっては薬事業務だけでなく、開発業務も任されることがあります。

転職活動の前に、あなたがやりたい仕事を明確にしておくようにしましょう。

薬事の求人は、ほとんどが薬事経験者でなければ応募することができません。そして、英語を使用する場面が増えており、英語力があれば転職活動のときにアピールすることができます。

薬事の年収は、医療機器業界の中では高いです。あなたに十分な経験があれば、年収の交渉もしやすいでしょう。

これらの求人の特徴を把握して転職活動をすることで、満足のできる転職を達成しやすくなります。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。