あなたは転職をするときに、何を重要視しますか。仕事のやりがい、人間関係などいろいろな理由があると思いますが、「年収」を重視する人は多いです。
転職サイトdodaを運営するパーソナルキャリア株式会社の調査によると、給与面の不満による転職は、転職理由の第3位です。しかも、年々増加傾向です。
研究職の仕事では、予定された実験を確実にこなす技術だけでなく、今後どのように事業を展開していくか常に新しい発想が求められます。
そのため、研究職は負担が大きい職種といえます。単調な作業をすることはほとんどないので、それ相応の見返り(給料)を希望するのは当然と言えるでしょう。
そこでここでは、化学メーカーの研究職に転職するときの年収について解説します。
もくじ
化学メーカーの研究職の平均年収は高い
転職サイトのdodaの調査によると、2018年の全体の平均年収は414万円です。これは、すべての職種を含みます。
続いて、化学メーカーの研究職の平均年収を示します。この表は、技術職(メディカル、化学、食品)の平均年収を調査したものです。
この調査結果は、化学メーカー以外の業界も含まれるので、参考程度になります。しかし、研究職がほかの職種と比べると年収が高いことはわかると思います。
研究職の平均年収は、30代でも485万円と、全体の平均年収を越えています。40代になると平均年収は534万円で、全体の平均年収よりも100万円以上多いです。
このように、研究職は年収が高いことが多いです。
転職により年収をアップさせる方法
さきほどのグラフでは、40代研究職の平均年収は534万円でした。そして、実際の求人では、平均を超える求人も多くあります。
続いて、求人例を示しながら、転職により年収をアップさせる方法について説明します。
キャリア採用
あなたが現在、化学メーカーの研究職として働いているのであれば、キャリア採用により年収アップを狙うことができます。
そもそも研究職は、専門性が高い職種です。ほとんどの求人で、これまでの経験が求められます。したがって、文系出身者や、未経験からの研究職への転職は非常に難しいです。
下の求人は、機能性樹脂や食品包装材などを研究開発、販売している株式会社クレハのものです。この求人での予定年収は660万円~840万円で、研究職の平均年収よりも200万円以上高いです。
この求人で採用されると、福島県いわき市でリチウムイオン二次電池材料の基礎研究を任されます。
そして、この求人の「対象となる方」の欄では、これまで電池の製造プロセスやスケールアップの経験が必須と謳われています。
化学の分野は非常に広く、身の回りには多くの製品があります。しかしそのなかでも、電池の製造に関わったことがある人は多くないでしょう。
あなたがこれまでに電池の製造に関わったことがあれば、このような求人に応募することで、年収アップを狙うことができます。
次の求人は、総合化学メーカーの東ソー株式会社のものです。
この求人の給与は、500万円~1,000万円と、最低金額と最高金額に2倍の差があります。
この求人の「対象となる方」の欄には、ポリウレタン、ポリオールの材料開発の経験が必須条件に挙げられています。
ポリウレタンは、樹脂や繊維製品などの化学製品に使用される素材の1つです。
なお、一言で「化学製品の素材」と言っても、種類はたくさんあります。例えば、樹脂であればポリウレタン以外に、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂など多くの種類が知られています。
また、ポリオールは、ポリウレタンの原料の1つです。ポリオールの種類によって、ポリウレタンの性能は変わります。
もしあなたが、ポリウレタンの新規材料開発の経験が豊富なのであれば、高い年収を希望しやすくなります。
そして、この求人の「仕事内容」の欄には、以下のような記載があります。
この求人では、テーマのマネジメントも任される可能性が高いです。そのため、テーママネジメントの経験があったり、管理職としての経験があったりすると、高い年収を交渉しやすいでしょう。
管理職として転職する
あなたが在籍している会社で、研究職としての経歴が長く、実績があれば、管理職に昇格する可能性があります。
しかし、現在の会社ではすぐには昇格の見込みがないこともあります。例えば、同期入社の人が先に管理職に昇格してしまったような場合は、すぐには昇格が難しいでしょう。
このような場合に、管理職候補として転職することで年収アップを狙うことができます。
次に紹介する求人は、石油化学系事業やファインケミカル事業を展開している化学メーカーのものです。
この求人では、管理職が定年退職するので、そのポストの補充を目的としています。
そして、年収は1,100万円~1,299万円が提示されています。
最低でも1,000万円以上が提示されている求人は珍しいです。この求人で採用されると、現場で研究開発の仕事を行うだけでなく、部下の指導も行う必要があります。
次にこの求人の「応募資格」の欄を示します。現在管理職の立場でなくても応募することができます。
研究職の求人で、管理職を募集している求人は珍しいです。私も化学メーカーで働いていたときに、中途採用の人が管理職として入社した例はみたことがありません。
管理職は研究能力や、実験の技術が必要なだけでなく、会社の状況なども踏まえて部署をまとめなければなりません。基本的には、中途入社の人がいきなりできるようなものではないと考えるべきでしょう。
そのため、管理職として入社するのであれば、求められるものも大きいことを認識しておく必要があります。提示されている年収が高いのもそのためです。
また、管理職としてではなくても、「管理職クラスの仕事をする求人」に応募することで、高い年収が期待できます。
次の求人は、東証一部上場の総合化学メーカーのものです。この求人の「仕事内容」の欄を載せています。
仕事内容には、ビジネス戦略の立案や、戦略の具体化・実行があります。これらは、管理職クラスに求められる内容と言えます。
なお、この求人情報には、管理職については全く記載されていません。
この求人に応募するときに必須となる条件は、下に示すように、そこまで厳しいものではありません。
そして、この求人の年収を下に示しますが、500万円~1,000万円と幅があります。
最終的な金額は、これまでの経験値や実績によって決まります。例えば、応募資格に記載されている、細胞を用いた薬剤スクリーニングに長年従事していて、実績を出していれば、高い年収を期待できるでしょう。
このように、管理職や、管理職クラスの仕事内容が求められる求人を探すことで、年収アップを狙うことができます。
契約社員ではなく、正社員採用が年収アップを狙いやすい
同じ会社に入社するとしても、正社員と契約社員では年収が異なります。実際に、同じ会社の求人例で比較してみます。
これから示す求人は、三菱ガス化学株式会社のものです。
まずは、正社員の求人例を示します。この求人は、新潟県の研究所で正社員としてバイオ医薬品の研究開発に従事する求人です。
そして、この求人の予定年収は、600万円以上です。
一方で、同じ会社の同じ研究所での求人が次の例です。この求人では、契約社員としての採用になります。
そして、この求人の予定年収は、400万円以上です。
この2つの求人は、研究テーマが異なるものの、同じ会社の同じ研究所の研究職で200万円の差があります。
ちなみにこれらの求人の月給は、それぞれ28万円~、25万円~と、ほとんど差がありません。では、200万円の差はどこで生じるのでしょうか。これは、賞与による差と考えられます。
正社員であれば、ほとんどの企業で賞与が支給されます。その一方で、契約社員は賞与がもらえる契約ともらえない契約があります。
今回紹介した2つの求人でも、正社員の採用では年2回の賞与が支給されますが、契約社員では賞与については詳細な記載はありません。実際の「給与捕捉」の欄を下に示します。
このように、契約社員の場合は、賞与がもらえないか、もらえても正社員よりも少ないことが普通です。したがって、より高い年収を希望するのであれば、正社員として転職する必要があります。
もし求人詳細に賞与について記載がない場合は、エントリーするときや給与交渉のときに確認しておくようにしましょう。
残業代も年収に含まれる
最終的な年収は、基本給だけで決まるわけではありません。残業時間が多くなればなるほど、残業代によって手取りの給料も多くなります。
私はかつて化学メーカーで働いていたときは、毎月50~60時間くらいは残業していました。給料で換算すると、毎月10万円分くらいの残業代をもらっていました。年間では100万円を越えます。
したがって、年収を考えるときには、残業時間がどのくらいかは確認しておく必要があります。
残業による高年収は期待できない
研究職として働くということは、定時になったから帰れるというわけにはいきません。定時になっても、実験が中途半端な状態で退社はできません。
私は化学メーカーの研究職で、化合物の合成ルートの検討やスケールアップ検討をしていました。もちろん、定時に退社できるように実験の予定は組むようにしていました。
しかし、実際に実験を始めてみると、予想よりも反応時間がかかったり、予期せぬトラブルが発生したりすることがあります。これらの対応をしていると、結果的に残業時間が多くなってしまいます。
最近では過重労働がマスコミでも取り上げられることが多く、残業時間を厳しく制限している会社が増えています。
私がその会社を退職したのは5年ほど前ですが、今では残業時間はどれだけ多くても40時間以内にするようになっているようです。
また、会社によっては、会社から支給されたパソコンの起動時間が自動で記録され、残業時間を厳しく管理している会社もあります。
そして、求人によっては、残業時間が少ないことをアピールしているものもあります。
下の求人は、東京に本部があり、山口県周南市に本店がある株式会社トクヤマのものです。この求人で採用されると、茨城県つくば市にある研究所で、有機合成の知識や経験を活かして研究に従事することになります。
この会社の求人情報には、月の平均残業時間が記載されています。
月に7.7時間の残業ということは、1日あたり20分程度です。ほぼ定時に退社することができると考えてよいでしょう。
このように、残業時間が少ないことを求人情報に記載しているものはいくつもあります。したがって、残業代が多いことによって年収が大幅に増えることは、あまり期待できないと考えるべきでしょう。
固定残業代制を採用している企業もある
私がかつて働いていた化学メーカーは、残業をしたらしただけ残業代が支給されていました。
それに対して、固定残業手当制による残業代の支給をしている企業もあります。「みなし残業代制」「定額残業代制」も同じ意味で用いられる言葉です。
固定残業手当制とは、あらかじめ決められた時間分の残業代が支給される制度です。つまり、その残業時間内であれば、どれだけ残業しても手取りは変わりません。
例えば、残業40時間分の固定残業手当を30,000円支給されるケースを考えます。この場合、月の残業時間が10時間であっても40時間であっても、支払われる残業代は30,000円で同じです。
化学メーカーのなかには、この固定残業手当制を採用している会社もあります。
次に紹介する会社は、大阪府吹田市にあるマイクロ波化学株式会社です。この会社は、大学発のベンチャー企業で、マイクロ波を産業に活用できる技術を独自開発しています。
この会社の研究員を募集する求人の「給与」の欄には、以下のように記載されています。
この求人では、40時間分の固定残業手当が給料に含まれています。そして、残業時間が40時間を超えた場合は、追加で残業代が支払われます。
このように、化学メーカーのなかには、固定残業代制を採用している会社もあります。
私が働いていた化学メーカーのように、残業代によって年収が100万円以上変わることもあります。転職をするときには、残業代や残業時間の扱い(固定残業手当制か否か)ついても確認するようにしましょう。
年収アップにつながる資格や能力はあるか
転職をするときに、資格を有していれば有利になることは多いです。また、新卒のときに、就活を有利に進めるためにTOEICの勉強を頑張った人もいるでしょう。
では、化学メーカーの研究職への転職で、資格や英語力などは年収アップにつながるのでしょうか。
歓迎される資格はあるが、年収アップにつながる可能性は低い
そもそも、研究職として働くために必要な資格は、基本的にありません。
60,000件以上の公開求人を扱っている転職サイトdodaで、「化学メーカー 研究 必須」で検索したところ、218件の求人がヒットしました。そのなかの研究職の求人で、資格を必須としている求人はありませんでした。
私は化学メーカーで研究職として有機合成を行っていました。もちろん、有機合成を行うために必要な資格はありません。
ただ、転職するときに取得していて「歓迎される」資格はあります。
下の求人は、東京都港区と山口県宇部市に本社がある宇部興産株式会社のものです。この会社では、医薬品や化成品などの化学事業を中心に、建設資材や機械関係の事業も展開しています。
この求人の「対象となる方」の欄には、「危険物取扱者の有資格者を歓迎」と記載されています。
この求人で採用されると、医薬原薬のプロセス開発に携わることになります。
プロセス開発で実際に行う作業は、有機合成です。有機合成で用いる試薬の一部は、消防法で危険物に指定されています。
そして、ある一定量(指定数量)を超える量の危険物を保管するときには、危険物取扱者の有資格者の選任が必要になります。
スケールアップ検討を行うためには、使用する試薬の量もkgスケールになります。その結果、保管している量が指定数量を越えてしまうこともあります。
この危険物取扱者の資格は、その施設で誰かが取得していれば大丈夫です。
ちなみに、私も配属になった直後に、危険物取扱者の資格取得を命じられました。
このように、危険物取扱者の資格がなくても仕事はできますし、必要であれば転職してから取得しても全く問題ありません。
このような資格は、転職するためには有利になるかもしれませんが、年収アップにつながるとは考えにくいです。
英語力が高くても、年収に反映されるかは会社による
化学メーカーの仕事は、日本国内だけですべてが完結することはほとんどありません。世界中の企業との共同研究や、業務委託、商品の販売は多くの企業が行っているでしょう。
私がかつて働いていた化学メーカーでも、ヨーロッパの会社に営業活動をしていました。
そのため、英語に触れる機会は、論文を読むときだけでなく、海外の企業との打ち合わせや、海外出張などでもあります。そのため、化学メーカーで研究職として働くのであれば、高い英語力が求められることは多いです。
では、高い英語力があれば、それだけ年収が高くなるでしょうか。これは、ほとんどの場合は、年収には反映されないと考えるのが無難だと思います。その理由は、英語ができることを必須条件としている求人では、応募する人の英語力が高いことは当たり前だからです。
下の求人は、兵庫県姫路市にある株式会社ダイセルのものです。この会社では、カメラやセンシング用のレンズの研究開発を行っています。
この求人の「対象となる方」の欄には、通常業務でも英語を使用することが記載されています。
英語力に自信がない人は、このような求人には応募できません。しかし、ある程度英語ができても、このような会社に入社するためには最低限のスキルに過ぎません。
英語が堪能でも、それが給料にどの程度反映されるかは、転職エージェントを介して問い合わせるか、面接のときに質問をしなければわからないでしょう。
では、歓迎条件で英語力を求めている求人ではどうでしょうか。この場合は、英語力が高くなくても、業務には支障がないことが多いです。
次の求人は、兵庫県神戸市にあり、金属表面処理剤や自動車用化学製品などを研究開発している石原ケミカル株式会社のものです。
この求人の「対象となる方」の欄には、英語ができることが歓迎条件となっています。
もちろん英語力が高い人は、自信をもってエントリーすることができるでしょう。しかし、あくまで英語ができることは歓迎条件なので、英語力が高くなくても問題はありません。
なお、この求人情報には「海外出張あり」「メールで英語のやり取りあり」などの記載はありません。英語を使う具体的な業務について記載されていないので、実際に英語を使用する頻度はわかりません。
もし頻度が少なければ、英語ができても、日常業務で活かすことはほとんどありません。当然、給料に反映されるとは考えにくいです。
私が働いていた化学メーカーでも、英語の研修は積極的に行っていました。入社試験でも英語の試験はありましたし、入社後も定期的に英語のテストを受けさせられました。
では、実際に業務で英語を使用したかというと、私は一度も使いませんでした。私だけでなく、研究職の人のなかで英語を業務で必要としていた人はいませんでした。
このように、英語の教育に力を入れていても、実際はほとんど使用する場面がないこともあります。仕事で英語を使用する頻度などは、入社前の段階で確認しておいた方がよいでしょう。
まとめ
ここでは、化学メーカーの研究職に転職するときの、年収について解説しました。
まず、化学メーカーの研究職の年収は、基本的に水準が高いです。
そして、現在化学メーカーの研究職で働いているのであれば、キャリア採用や管理職として転職することで、年収アップを狙うことができます。
数は少ないですが、求人によっては契約社員を募集しているものもあります。契約社員は正社員と比べて年収が低いことが多いので、雇用形態も確認するようにしましょう。
残業代も、最終的な年収に含まれます。基本給だけでなく、予想される残業時間がどのくらいか、固定残業代制を採用しているかなども確認しておくとよいです。
また、資格を取得していることによる年収アップは、研究職では難しいです。
「英語ができること」が、条件に挙げられている求人は多いです。しかし、化学メーカーの研究職であっても、英語を使用する頻度がかなり少ないこともあります。英語力が給料に反映されるかは、会社によるでしょう。
研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。
一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。
ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。
これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。