超高齢化社会を迎えている日本では、認知症患者の数は年々増えています。

認知症の研究はさまざまな企業・機関で行われています。しかし、一言で研究と言っても、その仕事内容は多岐に渡ります。仕事内容によって求められる経験や資格は大きく異なるので、事前の情報収集が大切です。

あなたの経験を活かして認知症の研究に携われる可能性はあります。そのためには、仕事内容と求められる経験・資格を正しく理解しておかなければ転職成功は難しいです。

ここでは、認知症の研究に携わる求人を紹介し、仕事内容違いと転職を成功させるための方法を解説します。

認知症研究の仕事内容

認知症の研究と言うと、認知症を改善するための方法や治療薬を研究することが一番に思い浮かぶのではないでしょうか。実は、認知症の研究は、治療薬の研究以外にも多くの仕事があります。

ここでは、以下の4つの仕事内容について紹介します。

  • 治療薬の研究開発
  • 医療機関で臨床研究を行う
  • 臨床研究の補助をするMSL(メディカルサイエンスリエゾン)
  • 診断薬の研究開発

それぞれ仕事内容は大きく異なりますし、転職で求められるスキルも違います。これらについて順に解説します。

治療薬の研究開発

最初に紹介するのは、治療薬の研究開発に携わる求人です。下に示す大塚製薬株式会社の求人では、神経疾患領域の薬理研究員を募集しています。

薬理研究では、医薬品候補の化合物を細胞や動物に投与して、薬効や副作用を判定します。この求人では、コンセプト立案も仕事内容に含まれているので、薬理研究だけでなく、研究開発のより上流の工程も任される人材を募集しています。

なお、大塚製薬社の求人票には「認知症」というキーワードは含まれません。

実は、製薬会社の求人では、研究対象となる具体的な疾患名を記載していない求人が多いです。なぜなら、今後の事業戦略がライバル会社に知られないようにするためです。

認知症は神経疾患領域に分類される疾患です。より細かく分類すると、認知症は中枢神経系疾患の1つです。このように、疾患の分類から求人を探すことで、認知症研究に携わることができる求人を見つけやすくなります。

そして、大塚製薬社の求人の応募条件は以下の通りです。

神経疾患や精神疾患に対する知見・実務経験が挙げられており、中枢神経系の疾患の研究に携わった経験が必要です。つまり、研究未経験者が採用されることはまずありません。

さきほど少し紹介しましたが、認知症は神経疾患に分類されます。そのため、認知症に限らず神経疾患の研究に従事した経験があれば、このような求人に応募することができます。

なお、この求人では薬理研究員を募集していますが、創薬研究は薬理研究以外にも探索合成、プロセス検討、製剤研究、分析研究などがあります。

薬理研究では、対象疾患ごとに実験内容が異なります。酵素、ポリペプチド、神経、細胞、動物など、実験で扱うものが変わるので、疾患ごとに専門性が求められます。そのため、大塚製薬社の求人に応募するためには、中枢神経疾患の創薬経験が必要です。

一方で、探索合成、プロセス検討、製剤研究、分析研究では、研究対象の疾患が変わっても、実験内容は変わりません。そのため、認知症を含む中枢神経疾患の研究経験がなくても、これまで創薬に携わった経験を活かして転職することが可能です。

このように、認知症治療薬の研究に携わるときには、あなたの専門と求人に記載されている担当業務を比べて、転職可能かを判断する必要があります。

医療機関で臨床研究を行う

2つ目の仕事は、医療機関での臨床研究です。

臨床研究とは、人を対象とした医学研究を指します。具体的には、医療現場で患者さんに治療・処置をすることで得られる結果から、治療方法や新たな知見を見出すことです。

認知症の臨床研究に携わると、認知症の患者さんに対して薬を使用したり、看護をしたりすることで得られる結果から、新たな知見を見出します。

実際の求人例は、次の医療法人昭友会の埼玉森林病院の求人が該当します。埼玉森林病院は埼玉県にある精神科を中心とした病院です。そして、埼玉森林病院の求人では、病院薬剤師を募集しています。

なお、この求人を含めて、医療機関の求人では、臨床研究を実施しているかは記載されていないことが多いです。埼玉森林病院の求人でも、記載されているのは病院薬剤師の一般的な業務のみです。

実は、医療機関によってはホームページに臨床研究を積極的に行っていることをアピールしていることがあります。埼玉森林病院のホームページでは、看護部が学会で発表していることが紹介されていました。

引用:埼玉森林病院 看護部のご案内より

私の知り合いが働く病院では、医師・看護師・薬剤師が協力して臨床研究を実施しています。学会発表もそれぞれの職種ごとに行っていると教えてくれました。

そして、埼玉森林病院の求人の対象となる方の欄は以下の通りです。薬剤師を募集しているので、薬剤師資格が必須条件に挙げられています。

臨床研究は医療機関で実施するので、医療専門職の資格が必要になります。臨床研究に携わるためには、埼玉森林病院の求人のように薬剤師資格を持っているほか、医師、看護師などの資格を有していることが最低条件です。

臨床研究の補助をするMSL(メディカルサイエンスリエゾン)

MSLは、製薬会社で働き、医師の臨床研究をサポートする職種です。

MSLを募集している求人は、次の会社名が非公開の求人が該当します。この求人では、認知症を含む中枢神経領域を担当するMSLを募集しています。

MSLの仕事は、その領域で影響力のある医師(KOL)の臨床研究をサポートすることです。

例えば、医師が使用する医薬品に関する論文を取り寄せたり、講演会の手伝いをしたりすることも仕事内容に含まれます。

そして、この求人の応募資格は以下の通りです。

MSLに求められるのは、医師の臨床研究をサポートできるだけの研究経験です。この求人でも修士号や博士号が条件に挙げられています。

修士課程や博士課程では、教員の指導を受けながら自ら研究を展開しなければなりません。特に博士課程を修了していれば、一人前の研究者として見なされます。

そのため、大学院の修士課程や博士課程を修了していれば、研究を推し進める力があることの証明になります。

また、医師は国内外での臨床研究の結果も積極的に収集します。医師と英語論文について議論する機会もあり、英語論文を読解できるだけの英語力も必要です。

なお、医師は仕事の会話やカルテ記載で英語を使う場面が多いです。例えば、「高血圧症」を「hypertension」、「認知症」を「dementia」と言ったり記載したりすることがあります。

MSLは、日常会話や仕事をすべて英語で対応できる必要はありません。ただし、学術論文を読めたり、仕事で時々出てくる英単語に対応したりできるだけの英語力は求められます。

このようにMSLは、医師が臨床研究をスムーズに進められるように補助することが主な仕事です。

診断薬の研究開発

最後に紹介するのは、診断薬の研究開発に従事する求人です。

次に紹介する求人は大手化学メーカーの東レ株式会社のものです。東レ社の求人では、疾患を早期に検出するためのバイオマーカー探索、新規技術開発を担当する人材を募集しています。対象疾患のなかに認知症も含まれています。

バイオマーカーは、病気に罹患しているかの判断材料になる、臨床現場ではなくてはならないものです。

あなたは毎年健康診断を受けていますか? 健康診断では、以下のようにさまざまな項目を検査します。下の写真の橙色で囲んだものがバイオマーカーです。

例えば、血糖値が高ければ糖尿病の疑いがあります。赤血球数が少なければ貧血が疑われるので、治療をしなければなりません。

このように、バイオマーカーは病気の診断や進行度を判断するために有用なツールです。

東レ社の求人では、認知症などの診断のためのバイオマーカーを探索したり、バイオマーカーを利用した診断薬の研究開発を行ったりすることが仕事内容です。

そして、この求人の応募条件は以下の通りです。分子生物学、生化学の研究開発経験が求められます。

バイオマーカーの探索では、認知症患者さんに高発現しているタンパク質やポリペプチドを見つけなければなりません。そのためには、分子生物学や生化学の基礎知識や、研究経験が必要です。

ほかにもバイオマーカーの同定には、質量分析や定量分析が必須の分析です。GC-MSやLC-MSを用いた質量分析や定量分析は日常的に行われます。

このように診断薬の研究開発の求人に転職するためには、分子生物学や生化学の研究経験が求められます。

あなたの経験を活かせる職種に転職する

ここまで4種の仕事を紹介しました。どの仕事も研究対象は認知症ですが、その関わり方はそれぞれ大きく異なります。

また、あなたのこれまでの業務経験や保有資格では、どうやっても転職できないものもあります。

例えば、薬剤師資格をもっていないのに病院薬剤師には転職できません。また、これまで薬剤師として病院で働いたことしかない人が、製薬会社の薬理研究者に転職することもまず不可能です。

まずはあなたの経験や保有資格を整理して、どの職種に転職できるかを考えましょう。

そして、認知症の研究者を募集するときに、具体的な疾患名まで求人票に記載されていないこともあります。ここで紹介した求人にも、仕事内容の詳細を記載されていないものもありました。

そこで、転職活動をするときには、求人票に記載されていない内容まで事前に確認しておかなければ、転職後の後悔につながってしまう可能性があります。転職活動を通じて、採用担当者に具体的な仕事内容を確認するようにしましょう。

直接企業に確認する方法以外にも、転職エージェントを通じて企業に問い合わせてもらうことも有効な手段です。

また、認知症の研究者を募集している求人の数は多くありません。例えば、大手転職サイトのdodaで「認知症 研究」で検索しても、以下のように33件しか求人がヒットしません。

このなかには、営業職やマーケティング職を募集している求人も含まれます。あなたの経験・資格・希望勤務地などを考慮すると、希望に沿った求人はごくわずかしかないことがわかります。

そこで、少しでも多くの求人に触れて、あなたの希望に沿った求人を見つけるための工夫をしなければなりません。

転職エージェントは、企業に求人の詳細を問い合わせてくれるだけでなく、インターネット上などに公開されていない非公開求人の紹介もしてくれます。

実際、転職市場にある求人のうち、60%~80%は非公開求人と言われています。例えば、高年収の求人を多く扱っているJAC Recruitmentは、取り扱っている求人の60%が非公開求人です。

公開求人だけでなく、非公開求人も含めて求人を探すことで、あなたの希望に沿った求人を見つけやすくなります。

まとめ

ここでは、認知症の研究に携わる求人に転職するときのポイントについて解説しました。

認知症の研究は、仕事内容が多岐に渡ります。治療薬の研究開発以外にも、医療機関で行う臨床研究、医師の臨床研究を補助するMSL、認知症の診断薬の研究開発などがあります。

これらの仕事のなかには、過去に研究に従事した経験や、医療系の資格がなければ応募できないものがあります。あなたの経験・資格・希望の仕事内容と照らし合わせながら転職活動を行いましょう。

認知症の研究者を募集している求人は多くありません。また、求人票に「認知症」と記載されていないものもあります。

転職失敗を防ぐためにも、転職後に携わる仕事内容を十分に確認しながら転職活動を進めなければなりません。転職エージェントを介して仕事内容の詳細を確認することも有効な手段です。

また、公開求人以外にも非公開求人も含めて求人を探すことで、転職成功の可能性を大きく高めることができます。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。