診断薬は、最終的に厚生労働大臣の承認を受けることで製造販売することができます。この承認のために必要な申請の工程を担当するのが、薬事職の仕事です。

薬事職の求人は、診断薬を製造販売している企業から出されています。そして、その企業の業態は多岐に渡ります。

また、薬事担当者を募集している求人でも、求人によって仕事の範囲が異なります。納得ができる転職を実現するためには、あなたの経験やスキルを活かすことができる求人や、やりたいことができる求人を見つけなければなりません。

ここでは、診断薬の薬事職に転職するときのポイントを紹介します。具体的には、「診断薬の薬事職を募集している企業」「求人ごとの仕事内容の違い」「転職で求められる経験・資格」について順に解説します。

診断薬の薬事を募集している企業を理解する

まずは、薬事の求人がどのような企業から出されているかを確認しましょう。

最初に紹介するのは、臨床検査薬のメーカーです。この求人は、愛知県名古屋市に本社がある株式会社医学生物学研究所のものです。この求人では東京支社で日本国内外の薬事申請業務を担当する人材を募集しています。

医学生物学研究所社の主な事業は臨床検査薬の研究開発・製造販売です。このような企業から薬事の求人が出されていることは、想像しやすいと思います。

実は、診断薬はさまざまなメーカーから発売されています。

続いて紹介するのは、繊維メーカーの日東紡績株式会社の求人です。この求人では、体外診断薬の国内の薬事担当者を募集しています。

下の写真は、日東紡績社から発売されている、血漿アンモニアを測定するための試薬です。

日東紡績社は、繊維業から事業を始めた企業です。しかし、現在は繊維製品以外にも、化学工業製品、清涼飲料水なども製造販売しています。

3件目は、医療機器メーカーのアークレイ株式会社の求人です。アークレイ社は京都府に本社を置く医療機器メーカーです。

この求人では、薬事承認取得のための薬事関連書類の準備、申請業務を担当する人材を募集しています。

例えば、下の写真の医療機器はアークレイ社から発売されている、尿検査を実施する医療機器です。

この装置を使用するときには、下の写真のような尿試験紙を使用します。尿試験紙は診断薬に分類されます。そして、この尿試験紙はアークレイ社から発売されています。

このように診断薬は、臨床検査薬メーカー以外の企業からも発売されています。求人を幅広く探すことで、転職成功の可能性を高めることができます。

国内だけでなく海外の薬事も担当することがある

日本国内で開発された診断薬は、国内に限らず海外でも利用されているものがあります。

例えば、前の章で紹介した日東紡績社は、日本国内だけでなく、アジア、欧米にも製品を販売しています。会社のホームページでも以下のように、自社製品が海外でも評価されていることを紹介しています。

引用:体外診断用医薬品 – 日東紡より

診断薬を海外で販売するためには、現地の当局に申請し、承認を得なければなりません。

下に紹介する日東紡績社の求人では、海外薬事を専任で担当する人材を募集しています。

日本国内で承認申請を受けるときには、PMDA(医薬品医療機器総合機構)に申請します。海外であれば、現地の当局に申請書類を提出し、審査を受けます。例えば、アメリカであればFDA(アメリカ食品医薬品局)に申請し、承認を受ける必要があります。

国によって薬事申請で求められる項目は異なるので、それぞれの国ごとに法令を確認し、申請書類を準備しなければなりません。国ごとの法令を調査することも、海外薬事の仕事に含まれます。

このように、国内に限らず、国外の薬事申請を担当する求人もあります。

臨床開発や保険申請業務も兼任することがある

ここまで紹介した求人は、すべて薬事申請を主に担当する求人でした。実は、求人によっては、薬事申請以外の業務も担当することがあります。

次に紹介する医学生物学研究所社の求人では、薬事申請だけでなく、臨床開発保険申請も仕事内容に挙げられています。

研究開発された診断薬候補は、薬事申請前に臨床現場で検体を用いた試験を実施しなければなりません。この工程を「臨床開発」と呼びます。

臨床開発では、検体を用いて診断薬の性能やデータ信頼性を証明するためのデータを取得します。

診断薬は、結果のばらつきが大きいと使い物になりません。そのため、同一検体を複数回検査したときのばらつき具合は、薬事申請における重要な項目の1つです。

例えば、下の写真はカルシウム測定用試薬の添付文書です。添付文書には臨床開発試験の結果が示されており、この試薬は変動係数(C.V.値)が5.0%以下です。

C.V.値は、薬事申請で必要な項目の1つです。このような診断薬のデータを取得するのが、臨床開発の仕事内容です。

保険申請は、製造・販売するための承認を受けた後に、その診断薬を使用したときに保険請求できる点数を当局に申請する業務です。この点数は、診断薬の価格や、販売予測などを考慮して決められます。

例えば、先ほど添付文書を紹介したカルシウムの測定試薬は、使用すると11点の保険請求ができます。

これまで用いられてきた診断薬とは異なる原理で測定できる診断薬や、診断薬が存在しない検査項目で用いる診断薬を開発した場合は、新たな保険申請を行います。

このように、薬事の求人によっては、臨床開発や保険申請の業務も担うことがあります。

薬事経験者を募集している求人が多い

では、診断薬の薬事職に転職するためには、どのような経験が求められるのでしょうか。

実際に求人票を確認すると、ほとんどの求人で薬事の経験が求められることがわかります。

例えば、下に示す株式会社アークレイファクトリーの求人では、2年以上の薬事申請業務経験が必須条件の1つです。あなたに診断薬の薬事申請業務の経験があれば、自信をもって応募することができます。

なお薬事申請は、診断薬に限らず、医薬品や医療機器でも承認を受けるために必要です。そのため、診断薬の薬事申請に関わった経験がなくても、医薬品や医療機器の薬事申請業務経験があれば、応募できる求人が多いです。

冒頭で紹介した医学生物学研究所社の求人では、医薬品や医療機器の薬事業務経験があれば応募することができます。そして、診断薬の薬事申請経験は歓迎条件です。

診断薬に限らず、医薬品や医療機器もPMDAに薬事申請が必要です。その後、厚生労働大臣の承認を受けると、製造発売することができます。

申請のために必要な項目や書類は、申請する品目によって異なります。しかし、大まかな申請の手順は、どの品目も似ています。

メーカーの薬事担当者は、PMDAの担当者と申請のためのやり取り・相談をします。また、自社内の各担当者と申請に必要な書類の打ち合わせを繰り返します。これらの作業は、診断薬でも、医薬品や医療機器でも同じです。

そのため、診断薬でなくても、医薬品や医療機器の薬事申請の経験があれば、求人の応募条件を満たすことが多いです。

メーカーだけでなく、CRO(医薬品開発業務受託機構)での薬事経験があれば転職できる

薬事職の求人は、診断薬や医療機器を研究開発・製造発売しているメーカーから出されています。ここまで紹介した求人は、すべてメーカーの求人でした。

実は、薬事申請を行うのはメーカーだけではありません。メーカーの薬事申請業務を代行するCROでも、薬事申請業務を経験することができます。

そして、CROでの薬事業務の経験があればメーカーの求人に応募することができます。

さきほど紹介した医学生物学研究所社の求人では、CROでの業務経験があれば応募できることが記載されていました。

CROでは、診断薬だけでなく、医薬品や医療機器の薬事業務を担います。

メーカーであってもCROであっても、薬事申請の業務内容は同じです。そのため、CROでの薬事業務の経験があれば、メーカーの薬事職に転職するときに経験をアピールすることができます。

薬剤師資格があれば転職しやすいが、資格がなくても仕事はできる

では、薬事職の求人に応募するときに有利になる資格はあるのでしょうか。実は、薬剤師資格があれば転職成功しやすい求人が多いです。

最初の章で紹介した日東紡績社の求人では、必須条件に薬剤師資格が挙げられています。

そして、この求人には業務未経験でも歓迎されることが記載されています。つまり、薬剤師資格があれば、薬事の業務が未経験でも応募し、採用される可能性があります。

診断薬は、医薬品の一種です。そのため、日本国内で製造販売・使用するときには、薬機法の規制を受けます。

また、薬機法に限らず、診断薬の種類によっては麻薬及び向精神薬取締法や毒物劇物取締法の対象になる品目もあります。

例えば、下に示す白癬菌検出用試薬は、医薬用外劇物に指定されています。

そして、薬学部の授業では、これらの法律について学ぶ機会があります。また、薬剤師国家試験でも、これらの法律に関する問題が出題されます。

薬剤師資格があれば、これらの法律に関する知識を有しているとみなされます。そのため、薬事職の求人に応募するときには、薬剤師資格があればアピールポイントになります。

ただし、薬剤師資格がなくても薬事の仕事はできます。そのため、薬剤師資格がなくても応募できる薬事の求人はあります。

この章で紹介したアークレイファクトリー社の求人では、薬剤師資格は歓迎条件として挙げられていました。つまり、薬剤師資格がなくても、薬事申請業務の経験があれば応募することができます。

同様に、医学生物学研究所社の求人では、薬剤師資格に関する記載はありません。薬事申請業務の経験さえあれば、応募条件を満たします。

薬事職は、薬剤師として働くわけではなく、薬剤師が習得している知識を活かして働くことになります。

そのため、薬剤師資格がなくても、薬事の業務経験があれば応募し、採用される可能性は十分あります。

海外薬事を担当するためには英語力が必須のスキル

前の章で、薬事職は国内と海外が申請の対象になることを紹介しました。このなかで、海外薬事を担当するときには、英語力が求められる求人が多いです。

前の章で紹介した海外薬事の担当者を募集している日東紡績社の求人では、TOEIC800点以上が必須条件の1つとして挙げられています。

海外薬事では、海外の当局に申請業務を担当します。現地の法令調査は、現地法人の担当者や海外代理人が行いますが、彼らとのやり取りは英語で行わなければなりません。

海外薬事はこのような仕事を担当するので、英語を使用する場面があります。

日本では、薬機法で申請項目が指定されています。一方で海外では、国ごとに法律が異なり、申請項目も違います。

例えば、米国ではFD&Cという法律が整備されています。FD&Cは、日本の薬機法に相当する法律です。

なお、国によっては英語以外が公用語のこともあります。しかし、海外薬事の求人で英語以外の言語のスキルが求められることはありません。

例えば、ここまで何度か紹介したアークレイファクトリー社の求人では、中級以上の英語力が求められています。そして、アークレイファクトリー社の製品は世界80カ国以上で利用されています。

アークレイファクトリー社の製品が利用されているすべての国の公用語が英語とは考えにくいです。つまり、海外薬事を担当するときに、英語以外の言語まで習得しておかなくても十分に仕事ができます。

このように、海外薬事を担当する求人では、高い英語力が求められます。

まとめ

ここでは、診断薬の薬事求人に転職するときのポイントを紹介しました。

診断薬の薬事職は、診断薬メーカー以外からも出されています。幅広く求人を探すことで、転職成功の可能性を高めることができます。

求人によっては、国内だけでなく海外の薬事を担当するものもあります。また、薬事だけでなく臨床開発や保険申請業務など幅広い業務を担当する求人もあります。

薬事の求人に応募するときには、薬事業務の経験が求められることが多いです。そして、メーカーだけでなくCROでの経験があれば、応募できる求人が多いです。

あなたに薬剤師資格があれば、業務未経験でも採用される可能性があります。ただし、薬剤師資格がなくても転職を成功させることはできます。また、海外の薬事に携わるためには、高い英語力が必須のスキルです。

これらの点を押さえて、あなたのスキル・保有資格・業務経験を活かせる求人に積極的に応募するようにしましょう。


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