食品製造業の事業所数は、製造業のなかでは最も多いです。そして、食品業界の就業者数は100万人を超えており、食品業界は巨大市場といえます。そのような食品業界には多くの職種が活躍しており、求人も多いです。

ただし、業界未経験者が転職できる職種は限られています。闇雲に求人を探しても、あなたが希望する職種の求人を見つけることは難しいです。

また、業界を変えて転職する場合は、ほかの業界との年収の違いを理解していなければなりません。

ここではまず、食品業界未経験でも転職できる職種について紹介します。その後、食品業界の年収、転職を成功させるための方法について解説します。

食品業界未経験でも転職可能な職種

食品業界には、多くの職種が存在します。まずはそのなかでも、業界未経験者でも転職できる職種について紹介していきます。

営業職と工場の工程管理は職種未経験でも転職可能

食品メーカーの職種のなかで、営業職工場の工程管理に従事する場合は、業務経験がなくても転職しやすいです。

実際の求人例を下に示します。大阪府に本社があり、冷凍食品の製造・販売を主な事業として展開している株式会社かねます食品の営業職を募集している求人です。この求人は営業未経験者でも応募することができます。

営業職の仕事内容は、自社製品を売り込むことだけではありません。スーパーなどの売場作りも仕事に含まれます。

地域性や時代の流れを反映させた売場作りを提案することで、お客様(スーパーなど)と深い関係を構築していきます。

続いて、工場で工程管理を担当する場合も、未経験者が応募できる求人が多いです。

下に示す求人例は、大阪府大阪市に本社を置く食品加工会社のシノブフーズ株式会社のものです。同社には、千葉県、広島県、岡山県など全国8カ所に工場があります。

そして、この求人も以下のように未経験者でも応募することができます。

なお、工場と一言でいっても、会社規模や製造する品目によって現場の作業内容は大きく異なります。

下の写真は、シノブフーズ株式会社のホームページに紹介されているものです。おにぎりの具材を入れている場面ですが、作業員が手作業で入れていることがわかります。

引用:シノブフーズ株式会社 Qへのこだわり 生産技術力より

一方で、下の写真は大手ビールメーカーの工場内の様子です。多くの機械があり、ほとんどの作業が自動化されています。

このように、食品メーカーの工場でも、工場内の様子は大きく異なります。

なお、どちらの作業を行う場合も、あらかじめ製造工程は定められています。工程管理では、製造ラインで働くメンバーへの指示出しや、定められた工程通りに製品が製造されているかを確認することが仕事になります。

商品開発職は管理栄養士・栄養士資格があれば転職できる

食品業界は、新製品の発売が多いです。完全に新しい商品が開発されることもありますが、既存商品の改良品が発売になることもあります。

実は、商品開発の求人は、未経験者が応募できるものはほとんどありません。食品業界で商品開発に携わった経験が必須のものが多いです。

しかし、商品開発の経験がなくても商品開発の求人に応募できる場合があります。それは、管理栄養士か栄養士の資格を有している場合です。

下の求人は、企業名は非公開ですが、総菜・弁当を製造・販売している食品メーカーのものです。この求人の応募資格の欄には、食品業界でのメニュー開発・商品開発経験が必須条件に挙げられています。しかし、栄養士・管理栄養士資格があれば未経験でも応募できることが記載されています。

これらの資格があれば、栄養学のプロフェッショナルとして食品開発に携わることができます。例えば、下の弁当は管理栄養士が開発に携わったものです。

管理栄養士・栄養士の有資格者は、栄養学の知識を習得しています。これらの知識・経験を活かして、栄養バランスのよい製品の開発や、アレルギーをもつ人に対するメニューの開発を担当することができます。

商品開発の求人は未経験者が応募できるものは少ないです。しかし、管理栄養士か栄養士の資格があれば応募できるものがあることを覚えておきましょう。

研究職の経験があれば他業界からでも転職できる

商品開発職の求人と違い、研究職の求人は業界経験がなくても応募できるものがあります。

下の求人は、健康食品素材の研究を担当する健康食品メーカーのものです。この求人で採用されると、機能性探索業務、量産化検討、エビデンスの取得などを担当します。

そして、この求人の「求める人材」の欄には、食品業界だけでなく、化粧品の研究開発業務に携わった経験があれば応募できることが記載されています。

研究職として働くと、新商品開発や既存品の改良のための実験を日々行います。例えば、私の知り合いで食品事業の研究職で働いている人は、「苦みの原因成分」の苦みを改善するための研究を行っています。

そして、日々の業務で使用する機器は、HPLCやGC/MSなどであり、化学系の研究職で馴染みのあるものばかりです。

また、学会発表や論文投稿はどの業界でも行われており、学生時代も含めて研究に従事していれば経験したことがある人が多いでしょう。

知り合いに研究職の転職事情を訊くと、以下のような話をしてくれました。

食品業界に限らず、製薬業界や化粧品業界から転職してくる人もいる。研究職自体は転職が多い職種ではないが、求人が出ているタイミングと今所属している会社の状況を鑑みて転職する人はいる。

例えば、今の会社の事業がうまくいかなくなっていて、そのタイミングで求人が出ていれば、応募して転職する人はいる。

このように研究職の求人は、製薬・化粧品などの業界で研究職の経験があれば応募できることが多いです。

食品会社に転職するときの志望動機の書き方

転職活動をするときに、多くの人が悩む項目に「志望動機」があります。新卒の就職活動のときも頭を悩ませたのではないでしょうか。

同じ業界・職種で転職活動をするときには、志望動機は書きやすいでしょう。なぜなら、これまでの経験をそのまま新しい仕事に活かすことができるからです。

その一方で、業界や職種を変えて転職活動をする場合は、志望動機の書き方に気を付けなければなりません。もちろん、現職で身につけたスキルや経験を新しい職場でどのように活かせると考えているかをアピールする必要があります。

前の章では、営業職、工程管理、栄養士・管理栄養士から商品開発、研究職の転職例について説明しました。それぞれの転職について、現職での経験を活かしてどのような志望動機を書くべきかについて例文を紹介します。

・営業職への転職

私はこれまで電気機器の部品開発に携わってきました。自社内で会議をするだけでなく、取引先に赴いて求める製品の品質について何度もヒアリングを行い、満足してもらうための製品作りを心掛けてきました。

御社の営業部では自社製品の提案だけでなく、売場作りの提案も行っていると伺っています。私がこれまで実践してきた「お客様に満足していただける製品作り」の経験を御社の営業部門で活かすことができると考え、志望いたしました。

・工程管理への転職

私はこれまで営業職として働いていました。営業部門は30人で構成されており、副主任を任されていました。そのため、私の担当するエリアの営業だけでなく、部下の業務管理や指導も担当していました。

御社の製造ラインでは、製造工程の管理だけでなく、ラインメンバーの管理や指示出しも任させると求人票にて拝見いたしました。私がこれまで経験してきた部下の指導・管理で培ってきたものを活かすことができると考え、御社を志望いたしました。

・栄養士・管理栄養士を活かした商品開発への転職

これまで病院Aで管理栄養士として外来および入院患者さんの栄養指導に携わってきました。そして、栄養指導のときに患者さんから「料理はできない」という意見をよく聞いていました。

御社では栄養バランスを意識した健康志向の高い弁当の開発に力を入れていると伺っております。料理ができず、栄養管理に難渋している多くの方が安心して購入していただけるような弁当の開発をしたいと思い、御社を志望いたしました。

・研究職への転職

私は化粧品原料の研究開発を担当してきました。肌に対してアンチエイジング効果を示す小分子の探索を行い、効果的な成分Bを開発しました。そして最終的には、商品Cの発売に至りました。

御社は今後、「食品で体をきれいにする」をキーワードに、新たな健康食品の研究開発に注力していくことをホームページで拝見いたしました。私の研究活動の経験を活かして、魅力的な商品を開発したいと考え応募いたしました。

このように、「これまで経験していること」を整理し、「今後どのように活かすことができるのか」をアピールできるような志望動機を考える必要があります。

食品業界の年収を理解する

転職をするときに、どのくらいの給料がもらえるかは重要なポイントです。年収アップを目的として転職を考えている人も多いです。では、他業界から食品メーカーに転職すると、年収アップは可能なのでしょうか。

実は、食品業界はほかの化学系のメーカーと比べて年収は低めです。下に大手転職サイトのdodaが公開している業界ごとの平均年収ランキングを紹介します。

業界 年収(万円)
食品/飲料/化粧品メーカー 413万円
医薬品メーカー 611万円
化学メーカー 461万円
香料 470万円

引用:平均年収ランキング 最新版【業種別】より作成

なお、これらの年収は求人票に提示されている年収です。すべての職種を含むことにも注意しなければなりません。そして、この表から言えることは、「他業界から食品業界に転職すると、年収が下がる可能性が高い」ということです。

もちろん、年収が下がって満足する人は少ないです。できることなら現状維持または年収アップをして転職したいと考えます。

続いて、納得できる転職を達成するために、どのような工夫をするとよいかについて解説します。

転職エージェントを活用して、転職失敗のリスクを減らす

さきほど紹介したように、食品メーカーでもらうことができる年収は他業界と比べると少なめです。そこで、求人を探すときに転職エージェントのサービスを受けることで、転職の失敗を防ぎやすくなります。

転職エージェントを活用するメリットは多くありますが、ここでは以下の3点について紹介します。

  • 履歴書・職務経歴書の添削
  • 年収の交渉
  • 非公開求人の紹介

これらについて具体的なサービス内容を順に紹介します。

・履歴書・職務経歴書の添削

転職活動のときに、履歴書と職務経歴書は必ず作成しなければならない書類です。そして、最も悩むのは「志望動機」「自己PR」ではないでしょうか。私も転職活動のときには悩みました。

そして、これまで経験している業界からほかの業界に転職するときには、あなたの経験・スキルをどのように活かすことができるのかをアピールしなければなりません。志望する企業に「採用したい」と思ってもらえるような文章を考えるのは容易ではありません。

そこで、転職サポートのプロである転職エージェントに添削をしてもらうことで、企業に対して好印象を与えやすい内容にすることができます。

・年収の交渉

求人票に提示されている年収は、ほとんどの場合幅をもたせています。例えば、上で紹介した研究職の求人では、500万円~650万円が提示されており、最低額と最高額の間に150万円の幅があります。

この求人では500万円から650万円の年収がもらえますが、できるだけ高い年収をもらいたいと考えることは自然な発想です。

そこで、転職エージェントを活用することで、あなたに代わって企業との年収交渉をしてくれます。

転職エージェントは、転職の成功報酬として、転職時の年収の約30%を企業から受け取ることができます。例えば、年収600万円の転職を実現させることができれば、600万円×0.3=180万円の報酬が入ります。

このような背景があるので、転職エージェントは少しでも高い年収での転職成功を目指して、企業との年収交渉を頑張ってくれます。私も未経験の業界に転職活動をしているときに、担当者から「年収はできるだけ頑張って交渉してみます」と言われ、非常に助かったことを覚えています。

・非公開求人の紹介

ここまで業界未経験でも応募できる求人を4件紹介しましたが、これらの求人は転職サイトに挙げられている公開求人です。実は、公開求人は求人全体の20%程度と言われており、残りの80%は転職サイトには挙げられていない非公開求人です。

大手転職サイトのdodaのホームページには、以下のように取り扱っている求人の80%~90%が非公開求人であることが記載されています。

引用:非公開求人に天職あり!転職ならdoda(デューダ)を改変

ほとんどの求人が非公開になっているのにはいくつかの理由があります。そのなかの1つに、「好条件の求人に応募が殺到してしまい、収拾がつかなくなるのを防ぐこと」が挙げられます。

ここでいう「好条件」とは、年収面だけではありません。未経験でも応募できることも含みます。

私はかつて、化学メーカーの研究職から製薬会社の研究職に転職活動をしていました。そして、転職活動では転職エージェントを利用していました。

このとき、研究職の求人ではありませんが、開発職の求人で未経験者でも応募可能な以下のような求人を紹介してもらったことがあります。

この求人で募集している職種は、公開求人では同じ職種での経験が必須のものばかりです。未経験者が応募できる求人を見つけることはほぼ不可能です。

さらに、企業名は公開できませんが、この企業は世界の売り上げランキングでも上位の大手製薬会社です。

このような多くの人にとって魅力的な求人を公開してしまうと、多くの求職者が応募してしまい、企業側の対応が追い付かなくなる可能性が出てきます。そこで求人を非公開にして、転職エージェントを介して求職者を紹介してもらうスタイルをとることが多いです。

このように、転職エージェントを活用することで多くの恩恵を受けることができ、転職の失敗を防ぎやすくなります。

まとめ

ここでは、食品メーカーに業界未経験者が転職するときのポイント・注意点について解説しました。

営業職と工場の工程管理は、業界未経験だけでなく、職種の経験がなくても転職しやすい職種です。これらの職種は公開求人からも比較的容易に見つけることができます。

その一方で、商品開発職は食品業界での開発経験が求められることが多いです。あなたに管理栄養士か栄養士の資格があれば、数は少ないですが未経験者でも応募できる求人はあります。

研究職は、製薬、化粧品などの他業界での研究職としての就業経験があれば転職することができます。

業界未経験者が転職を成功させるためには、志望動機の書き方には注意が必要です。現職での経験をどのように活かすことができるかをアピールすることが鍵です。

食品メーカーは、ほかの化学系のメーカーと比べて年収はやや低めです。そのため、納得のできる転職を成功させるためには、転職エージェントを活用するなどの工夫をする必要があります。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。