管理栄養士は、栄養指導をするために必要な国家資格です。管理栄養士の多くは医療機関や高齢者施設で働いています。

しかし、栄養の知識を求められるのはこれらの施設だけではありません。資格取得や臨床で身につけた知識・経験を活かして医療機関や高齢者施設以外で働くこともできます。

そして、管理栄養士資格を活かして研究職に転職することもできます。しかし、研究職はこれまでの研究に従事した経験が求められる求人が多く、転職成功は狭き門です。

そのため、転職を管理栄養士が研究職に転職するときには、しっかりと情報収集を行い、どのような求人で管理栄養士資格を活かすことができるかを把握しておかなければなりません。

ここでは、管理栄養士資格を活かして研究職に転職する方法を紹介します。具体的には、「管理栄養士資格が求められる研究職求人例」「資格以外に求められるもの」「求人ごとの年収の実態」について解説します。

管理栄養士資格を活かして研究職に転職する

管理栄養士は、食事・栄養学のプロとして健康な人や患者や高齢者に対して食事のアドバイス・指導をする専門職です。

そのため、管理栄養士資格を活かして働くことができるのは、食品を扱っている企業です。具体的には、製薬会社食品メーカーが該当します。

これらの企業であれば、求人数は少ないですが、管理栄養士資格を活かして研究職として働くことができる求人が出ています。

続いて実際の求人例を示しながら、具体的な仕事内容を紹介します。

製薬会社で健康食品の研究開発に従事する

最初に紹介するのは製薬会社の求人です。製薬会社は主に医薬品を研究開発・販売している企業です。実は、製薬会社が研究開発しているのは医薬品だけではありません。食品に分類される製品も研究開発・販売されています。

例えば、下の写真は小林製薬株式会社から発売されている栄養補助食品です。

栄養補助食品は健康食品の1つで、毎日の食事だけでは必要量を摂取することが難しい栄養素を補給することを目的とした商品です。この製品に含まれる「DHA」は、必須脂肪酸の1つです。

このような栄養補助食品を含む健康食品も、製薬会社で研究開発・発売されています。

続いて、具体的な求人例を紹介します。下に紹介する大正製薬株式会社の求人が管理栄養士を募集しています。この求人の仕事内容は、食品の研究だけでなく、栄養指導も含まれています。

このなかで、研究職の仕事は「新たな機能性素材の開発及び獲得」です。

機能性素材は、先ほど紹介したDHAのように自然にある成分だけではありません。人工的に作成した成分も、機能性素材に含まれます。

例えば、カロリーが低く、血糖値が上がらない人工甘味料が販売されています。

このような機能性素材の研究開発を行うことが、研究職の仕事内容です。

そして、この求人では栄養指導も担当します。

ここで挙げられている栄養指導は、医療機関で実施される高齢者や患者さんに対する栄養指導とは対象が異なります。指導対象は、健康な人やアスリートです。

まず、指導対象者の体格や活動量から、必要なエネルギー量やタンパク量を計算します。高齢者では1,200~1,800kcalが一般的ですが、アスリートでは3,000kcalを超えます。

この計算結果をもとに、実際の栄養指導で以下のようなレシピを立てて、指導に活かします。

このように、計算結果に基づくメニューを立案して、食べ方も含めて指導することが仕事内容です。

そして、大正製薬社の求人の応募条件は以下の通りです。この求人では管理栄養士資格が必須条件に挙げられています。

転職後も栄養指導を担当することになりますが、指導対象は健康人やプロアスリートです。そのため、若い患者さんに対する指導や、ダイエット目的の栄養指導などの経験があれば、強いアピールポイントになります。逆に、高齢者に対する栄養指導経験をアピールしても効果は薄いです。

このように、研究職のなかでも仕事内容に栄養指導が含まれる求人に応募することで、研究職への転職を成功させやすいです。

食品メーカーで研究者として働く仕事内容と応募条件を理解する

続いて紹介するのは、食品メーカーの求人です。

この求人は、宮城県に拠点を置く、食品を含む生活用品を研究開発・製造販売しているメーカーのものです。なお、企業名は非公開です。

この求人では、サプリメント・健康食品の開発に携わる人材を募集しています。仕事内容には、品質向上のための技術研究が挙げられています。

さきほど紹介した製薬会社だけでなく、食品メーカーでも健康食品の研究開発は行われています。下の写真は、ロート製薬株式会社と大手お菓子メーカーの株式会社ブルボンのコラボ商品です。

このセノビックバーは、栄養調整食品に分類される健康食品です。

先ほど提示した社名非公開の求人で挙げられている「技術研究」は、多くの工程に分かれます。効果のある機能性素材を創出することに始まり、分析技術や製造技術の改良なども技術研究の仕事内容です。

そして、この求人の応募資格は以下の通りです。管理栄養士資格が歓迎条件に挙げられています。

この求人では、商品開発や研究の経験が必須です。例えば、下の写真のような分析機器を使用して機能性素材の実験や、製品の分析・製造の研究に従事したことがあれば、採用されやすいです。

逆に、医療機関などで管理栄養士として勤務した経験しかなければ応募することはできません。

ここで注意しなければならないのは、サプリメントや健康食品の研究を行うために資格は必要ないことです。次の章でくわしく説明しますが、研究職の仕事に従事するために必要な資格はありません。

研究職の求人の多くは、これまで研究職として働いてきた経験・実績が求められます。そのため、管理栄養士資格だけをアピールしても内定を勝ち取ることは難しいです。

管理栄養士資格よりも研究経験が重要視される

先ほども述べましたが、管理栄養士の資格があっても、研究職の求人に転職できる可能性は低いです。なぜなら、資格よりも研究に従事した経験の方が優先されることが多いからです。

前の章で紹介した食品メーカーの求人(社名は非公開)では、管理栄養士資格は歓迎条件でした。その一方で、研究に従事した経験が必須条件として挙げられていました。

また、冒頭で紹介した大正製薬社の求人では、管理栄養士資格が必須条件でした。これは、栄養指導に携わるためです。

そして、大正製薬社の求人でも研究開発の経験が必須条件の1つに挙げられていました。

管理栄養士資格を活かせるのは栄養指導の場面だけではありません。サプリメントや健康食品を研究するときに必要な食品化学や食品栄養の知識を活かすことができます。

求人によっては、どのような知識を活かすことができるかを記載されているものもあります。実際の求人例を1例紹介します。

次に紹介する株式会社アサヒコの求人では、R&Dセンターで既存商品の改善業務を担当する人材を募集しています。挙げられている仕事内容の多くは開発職の内容ですが、一部研究職の仕事内容も含まれています。

アサヒコ社の求人のように、企業によっては研究職と商品開発職を兼任することもあります。

そして、この求人の対象となる方の欄には、歓迎する習得知識に食品関係の内容が、歓迎する資格に管理栄養士資格が挙げられています。

アサヒコ社の求人でも、管理栄養士の資格を保有しているだけでは応募することができません。ここまで3件の求人を紹介しましたが、いずれも研究が全くの未経験では応募できないものばかりでした。

このように、管理栄養士の資格があるだけでは、研究職の求人に応募し内定を勝ち取ることは難しいことが多いです。

転職成功のための戦略

管理栄養士が研究職に転職するときには、闇雲に求人を探しても、応募できる求人は少ないです。

管理栄養士に限らず、研究職の求人は研究に従事した経験が求められることがほとんどです。研究未経験者が応募できる求人は限られています。

しかし、求人数は非常に少ないですが、研究未経験でも応募することができる求人もあります。

例えば、下の健康食品メーカーの求人は管理栄養士資格を求められませんが、研究未経験でも応募することができます。そして、管理栄養士は食品学を修めています。あなたが四年制大学を卒業していれば応募条件を十分に満たします。

このような求人を見つけて転職を成功させるためには、より多くの求人から希望に沿った求人を探さなければなりません。

そこで有効な手段の1つは、転職エージェントから非公開求人を紹介してもらうことです。

ここまで紹介した求人は、いずれも求人サイトに掲載されている公開求人でした。実は、転職市場にある求人のうち、公開されている求人はごく一部です。

例えば、多くの転職成功者が利用している転職エージェントの1つのマイナビエージェントは、以下のように取り扱っている求人の約80%が非公開求人です。この割合は、どの転職エージェントでもほとんど同じです。

つまり、転職エージェントから非公開求人を紹介してもらうことで、あなたが触れることができる求人数は5倍になります。少しでも多くの求人に触れることで、あなたが応募できる求人に出会いやすくなります。

研究者は医療機関で働くよりも年収・給料が高い

最後に、管理栄養士が研究職で働いたときの年収について解説します。

ここまで4件の求人を紹介しました。最初に紹介した大正製薬社の求人では、以下のように650万円〜800万円が提示されています。

大正製薬社の求人を含む4件の求人で提示されている年収をまとめたものが、下の表です。

企業名 提示年収

(万円)

大正製薬(株) 650〜800
非公開(生活用品メーカー) 550〜800
(株)アサヒコ 350〜600
非公開(健康食品メーカー) 400〜600

最低額は350万円、最高額は800万円が提示されています。これらの提示年収は、管理栄養士の一般的な年収と比べて高いのでしょうか。

職種ごとの年収は、厚生労働省が賃金構造基本統計調査として調査し、結果を公開しています。この調査が最も信頼できる情報ですが、残念ながら管理栄養士の年収は調査されていません。

そこで、私の知り合いで地方の病院で管理栄養士として働いている人の給料を参考までに紹介します。彼女は、手取りの月収が約16万円と教えてくれました。

少し乱暴な計算ですが、基本給から社会保険料が30%引かれるとして、賞与を基本給の4ヶ月分で計算すると、彼女の年収は16 ÷ 0.7 × (12 + 4) = 366万円です。

実際に医療機関や高齢者施設で管理栄養士を募集している求人を確認すると、月給20万円~25万円が提示されているものが多いです。この月給を年収に換算すると、320万円~400万円です。つまり私の知り合いの給料は、管理栄養士の年収としては平均的と言えます。

これらの管理栄養士の年収と比較すると、ここで紹介した4社の年収は高い水準であることがわかります。

このように、メーカーの研究職で働くと、医療機関や高齢者施設で働く管理栄養士と比べて高い年収をもらうことができます。

まとめ

ここでは、管理栄養士が資格を活かして研究職に転職するときのポイントを解説しました。

管理栄養士資格を活かせるのは、食品を扱っている企業です。具体的には、製薬会社と食品メーカーが管理栄養士資格を活かせる研究職の求人を出しています。

最も資格を活かせるのは、研究業務と栄養指導を担当する場合です。ほかにも、食品や栄養の知識を活かして、機能性素材の研究に従事することができます。

しかし、研究業務に管理栄養士資格は必須ではありません。そのため、転職では資格よりも研究業務の経験の方が重要視されます。特に研究未経験者の転職は、難易度が非常に高いです。

転職を成功させるためには、少しでも多くの求人に触れる工夫が必要です。転職エージェントから非公開求人を紹介してもらうことは、多くの転職成功者が行っている戦略です。

メーカーの研究職として働くと、医療機関や高齢者施設で管理栄養士として働くよりも高い年収をもらうことができます。

これらの情報を踏まえて転職活動をすることで、希望の転職を実現しやすくなります。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。