医療機器は患者さんの診断、治療、病気の予防のために用いられる機器です。これらの設計開発職は、担当した商品が医療現場で利用され、健康の維持に貢献できることから、やりがいを感じやすい職種です。

実は、医療機器の設計開発の仕事は多岐に渡ります。あなたがこれまで設計開発の仕事の経験があっても、経験を活かせる求人もあれば、応募の条件からは大きく外れる求人もあります。

そのため、どのような求人が出ているのかを理解した上で転職活動を行う必要があります。仕事内容を十分に確認しながら転職活動を行わなければ、転職を成功させることはできません。

ここではまず、医療機器の設計開発にどのような仕事があるのかを解説します。その後、「求人が出ているメーカー」「転職に必要な経験・知識」「設計開発職の年収」について順に説明します。

医療機器メーカーの設計開発は4つの仕事に分類される

そもそも医療機器の種類は非常に多いです。人によってイメージする医療機器は異なると思います。

これまで機械の設計に携わっていた人であれば、下のような検査機器をイメージするかもしれません。

また、材料の開発を経験したことがあれば、下の写真のようなシリンジを思い浮かべるかもしれません。

このように、医療機器には多くの種類があり、一言で医療機器といっても見た目も素材も大きく異なります。

そのため、どの医療機器を開発するかによって仕事内容も変わります。このことを理解した上で、医療機器メーカーの設計開発の仕事について順に解説します。

回路設計

医療機器のなかには、使用するために電気が必要な機械が多く存在します。さきほど紹介した血液検査の機器も電気製品の1つです。

このような医療機器には多くの部品が利用されており、それらは配線で繋がれています。この配線を設計するのが回路設計の担当者の仕事です。

求人例としては、下のような日機装株式会社の求人が該当します。この求人では東京本社か静岡の技術開発研究所で回路設計を担当する人材を募集しています。

日機装社は人工腎臓装置を製造販売しているメーカーです。人工透析装置とは、腎機能が低下した患者さんが体内に蓄積した毒素を除去するために必要な医療機器です。

透析装置は、血液を循環させるためのポンプや、定期的に血圧を測定する機器が繋がっています。これらを正しく連動させるためには、電気回路を適切に設計しなければなりません。

このように、電気が必要な医療機器の開発には回路設計の仕事があります。

アプリケーション設計

医療機器は、部品を組み合わせて配線をつなぐだけで動くわけではありません。それぞれのユニットを適切に制御するためのアプリケーションが必要です。

医療機器のなかには、パソコンで操作するものがあります。例えば、下の写真の検査機器は、横に設置しているパソコンで操作します。

したがって、医療機器を目的通りに利用するためのアプリケーションを設計する仕事も設計開発職の1つです。

アプリケーション設計の求人は、下の株式会社吉田製作所の求人が該当します。この求人では、歯科医療機器のWindowsアプリケーションの設計を担当する人材を募集しています。

ユーザーの指示通りに医療機器が動くためには、アプリケーションを設計しなければなりません。

また、先ほどの写真の検査機器は、検査を実施するための装置ですが、検査機器が単独で使われることは稀です。多くの場合は、電子カルテと連動させ、電子カルテで検査結果を閲覧できるように設計されています。

そして、医療機関で利用される検査機器は1つだけではありません。血液検査の機器だけでなく、例えば心電計や超音波診断装置を利用している医療機関は多いです。

これらの医療機器が適切に連動するためのシステム設計を行うのも、アプリケーション設計の担当者が担う仕事です。

機構設計、機械設計

医療機器は、使用者の要求に対して要求通りに動かなければなりません。このときの動き(機構)を設計するのが機構設計、機械設計の仕事です。

下の求人では、日機装株式会社で機械設計職を募集しています。

例えば、下の検査機器は検体や試薬を適正量を吸い上げ、検査ユニットに注入します。このとき注入ユニットは三次元的に動く必要があり、正しく動くように設計しなければなりません。

このような機械の動きを設計する仕事も医療機器メーカーにあります。

製品設計

ここまでは、使用するために電気が必要な医療機器の設計の仕事を紹介しました。最後に紹介するのは、使用するために電気を用いない医療機器の設計です。この仕事は製品設計と呼ばれます。

例えば、下のようなシリンジと針はいずれも医療機器です。もちろんこれらの医療機器は使用するために電気は使いません。

このような医療機器は無数にあります。シリンジや針以外にも、手術で使用するメス、ピンセット、レントゲン用のフィルムなども医療機器です。これらの製品を設計することも、医療機器メーカーで行われています。

製品設計の求人は、具体的には以下のような求人が該当します。大手医療機器メーカーのテルモ株式会社で、カテーテルの設計に携わる人材を募集しています。

この求人で担当するカテーテルは、狭くなってしまった細い血管を広げるための医療機器です。カテーテルを血管内に留置することで、血管が詰まって心筋梗塞や狭心症になるのを防ぐことができます。

引用:ステント内再狭窄とは – 名古屋ハートセンターを改変

カテーテルを留置するときには、血管内を移動させて、最終的には細くなっている場所に留置します。そのため、カテーテルには適度な弾性、柔軟性が求められます。これらの性能を発揮するための形状、材料を検討・設計しなければなりません。

このように、製品設計を担当する求人も医療機器メーカーから出ています。

医療機器の部品・システムを提供するメーカーでも求人が出ている

ここまでは医療機器メーカーの求人例を紹介しました。実は、医療機器メーカー以外の企業でも医療機器の設計担当者を募集している求人が出ています。

具体的な求人例を2例紹介します。まず1例目は、京都府に本社があるケーピーエス工業株式会社の求人です。この求人では、回路設計の担当者を募集しています。

ケーピーエス工業社は、ポンプ、コンプレッサなどの流体機械の設計開発に強みがある企業です。これらの強みを活かして、医療機器メーカーや家電メーカーに商品を納品しています。

2例目の求人は、神奈川県横浜市に本社がある株式会社featのものです。この求人では、システム開発の担当者を募集しています。そして、業務例の1つに、医療機器メーカーの装置向けのシステム開発が挙げられています。

このように、医療機器メーカー以外でも、医療機器の設計に携わる人材を募集しています。これらの求人も選択肢に入れることで希望の職種に就ける可能性は高まります。

しかし、このような企業に転職するときには注意しなければならないことがあります。それは、「医療機器以外の設計開発に携わる可能性も高いこと」です。

さきほど紹介したfeat社は、医療機器メーカー以外にも、携帯メーカー、家電メーカー、部品メーカーなど、多くの業種の企業との取引があります。

医療機器メーカーに部品やシステムを提供しているメーカーに転職する場合は、医療機器の設計に携われるとは限らないことを理解しておく必要があります。

転職に必要な経験・知識

続いて、医療機器メーカーの設計開発の求人に転職するときに必要な経験や知識について解説します。医療機器メーカーでの業務経験は求められるのでしょうか。

募集している設計の経験が必須

最初の章で紹介したように、設計の仕事はいくつかに分けられます。そして、それぞれが専門性のある仕事を担当することになります。

このような仕事の特徴から、転職の際には担当する設計の経験が求められます。

冒頭で紹介した日機装社で電気・回路設計の担当者を募集している求人では、以下のように電気設計や回路設計の経験が必須条件として挙げられています。

求人の紹介は割愛しますが、アプリケーション設計、機械設計、製品設計の求人でも、それぞれの設計の経験が求められます。

医療機器メーカーでの業務経験は求められない

あなたがこれまで医療機器メーカーで設計に携わっていれば、その経歴をアピールして転職活動ができます。では、医療機器メーカー以外で設計に携わっていた人が、医療機器メーカーに転職することはできるのでしょうか。

実は、転職のときに医療機器メーカーでの業務経験が求められることはほとんどありません。つまり、ほかの業界からの転職も可能です。

さきほどの日機装社の求人でも、医療機器の取り扱い経験は歓迎と書かれていますが、必須ではありません。

このように、ほかの業界での設計の経験があれば、その経験を活かして医療機器メーカーに転職することは可能です。

製品設計の求人では、扱う器具の素材の知識も求められる

製品設計では、最終製品の設計を行います。このとき、製品に使用する素材の特性を理解した設計を行う必要があり、素材の知識は必須です。

そのため、製品設計の求人では、取り扱う素材の知識が求められます。

最初の章で、テルモ社でカテーテルの設計開発を担当する人材を募集している求人を紹介しました。この求人では、カテーテルに用いる金属の特性を理解できていることが必須条件に挙げられています。

金属ステントにはFe、Cr、Ni、Tiなどを使用した合金が用いられます。これらの配合比率を検討して、適度な弾性、柔軟性をもった製品を設計開発しなければなりません。

このように製品設計の求人に転職するときには、経験だけでなく、素材の知識も求められることを理解して求人を探す必要があります。

医療機器メーカーの設計開発職の年収

最後に、医療機器メーカーの設計開発職でどのくらいの年収をもらうことができるのかを確認します。

冒頭で紹介した日機装社で回路設計担当者を募集している求人は、下図のように450万円~800万円が提示されています。

ここまで医療機器メーカーの求人は4件紹介しました。それらの年収をまとめたものが下の表です。

会社名 仕事内容 提示年収

(万円)

日機装(株) 回路設計 450~800
(株)吉田製作所 アプリケーション設計 450~650
日機装(株) 機械設計 450~800
テルモ(株) 製品設計 480~800

吉田製作所社の年収が若干低いですが、どの企業でも基本的には同じような金額が提示されていることがわかります。

そして、医療機器メーカーの設計開発職には、ほかの業界からの転職もしやすいです。では、医療機器メーカーはほかの業種と比べて年収は高いのでしょうか。

大手転職サイトのdodaを運営しているパーソルキャリア株式会社の集計では、医療機器メーカーの求人の平均年収は下のように527万円です。

引用:平均年収ランキング 最新版(96業種の平均年収/生涯賃金)より

設計開発職が活躍できる業種は、電機メーカー、家電メーカー、電気部品メーカーがあります。これらのメーカーの平均年収は、それぞれ529万円、516万円、498万円です。

引用:平均年収ランキング 最新版(96業種の平均年収/生涯賃金)より

このように、設計開発職は医療機器メーカーもほかの業種もほぼ同じ年収が提示されていることがわかります。そのため、転職で年収アップを達成するためには、求人の探し方を工夫しなければなりません。

そこで有効な手段は、転職エージェントから非公開求人を紹介してもらうことです。非公開求人とは、一般には公開されておらず、転職エージェントからのみ紹介してもらうことができる求人です。

実は、転職市場にある求人のうち、約80%は非公開求人といわれています。大手転職サイトのdodaも、以下のように取り扱っている求人の80%~90%が非公開求人と紹介しています。

引用:非公開求人に天職あり!|転職ならdoda(デューダ)より

つまり、非公開求人を紹介してもらうことができれば、選択肢が4倍に増えます。その結果、高い年収が提示されている求人にも出会いやすくなります。

また、転職エージェントは、企業との年収交渉も代行してくれます。高い年収を希望していても、求職者が企業に直接年収交渉するのは気が引けるでしょう。

私が転職活動をしたときにも、転職エージェントを利用しました。その時の担当者も「年収の交渉はできるだけ頑張ります」と言ってくれ、実際に大幅な年収アップを実現できました。

このように、転職エージェントを活用することで、年収面で満足できる転職を実現しやすくなります。

まとめ

医療機器の設計開発の仕事は回路設計、アプリケーション設計、機構設計(機械設計)、製品設計の4つに分類されます。

開発設計の求人が出ているのは、医療機器メーカーだけではありません。医療機器の部品やシステムを医療機器メーカーに提供するメーカーからも求人が出ています。しかしこのようなメーカーに転職しても、医療機器以外の設計の仕事に携わる可能性が高いです。

転職の際には、設計に携わった経験が必須です。そして、募集している業務内容の経験が求められます。

医療機器メーカーの設計開発職には、ほかの業種からの転職も可能です。回路、アプリケーション、機械、製品の設計経験があれば、応募できる求人が多いです。

医療機器メーカーへの転職では、ほかの業種から転職しても年収は同等であることが多いです。年収アップを目指すのであれば、転職エージェントを活用するなど、求人の探し方を工夫する必要があります。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。