CRAとして働いていると、さまざまな不満を感じる場面があります。不満が蓄積すると、仕事に対してやりがいを感じにくくなり、「仕事を辞めたい」と思うようになります。
あなたは、将来のキャリアプランを考えて、「CRAとして働き続けている将来像を描けない」と悩みを感じているかもしれません。
その一方で、CRAとして働いていると、さまざまなスキルが身についています。そして、それらを活かして、他業種の求人に転職することは可能です。
ここでは、CRAから他業種の求人に転職するときに、どのような業種があるのかを紹介します。そして、転職を成功させるための求人の探し方についても解説します。
もくじ
CRAから転職を考える理由
転職を考えるときには、「なぜ転職するのか」を、しっかりと確定させる必要があります。中途半端な気持ちで今の会社を退職しても、あとで後悔する可能性が高いです。
まずは、CRAが転職を考えるきっかけには、どのようなものがあるのか整理してみましょう。
出張が多く、体力的にしんどい
CRAとして働いていると、会社のオフィスでデスクワークばかりではありません。臨床試験を実施している医療機関をモニタリングのために訪問したり、臨床試験に関わるCRC(治験コーディネーター)との打ち合わせをしたりと、CRAは社外で行う仕事が多いです。
そして、訪問する医療機関は、必ずしもオフィスの近くにあるわけではありません。新幹線などで移動して、泊りがけで県外の医療機関を訪問することも、珍しくありません。
移動や出張でホテルに泊まることがあまり苦にならない人は、あまりストレスを感じないでしょう。
しかし、枕が違うと寝られない人や、交通機関を使って長距離の移動をすることが好きではない人にとっては、出張は苦痛を伴います。精神的にも体力的にもきつい想いをして、激務と感じるかもしれません。
このような人は、CRAから出張があまりない職種に転職することで、問題を解決することができます。
経験年数が少ないと年収が低い
CRAは、経験を積むことで年収が高くなりますが、仕事を始めて最初のころは、あまり年収が高くありません。下にCRA未経験者がCRAに転職する求人例を示していますが、採用時の給料は、300万~500万円です。決して高くはありません。
また、次に紹介するのは、転職サイト「Answers」を運営している株式会社クイックが調査した、CRAの年齢別の年収を表したものです。年齢を重ねるにつれて、年収が高くなっていることがわかります。
引用:CRA(臨床開発モニター)の年収より
この平均年収と比べたときに、現在のあなたの年収は高いでしょうか? 大手のCROや製薬会社で働いていれば、あなたの年収は平均年収を超えているかもしれません。その一方で、この平均年収より低いと、仕事に対する意識を高めることは難しいでしょう。
また、会社の経営の影響などで給料がなかなか上がらなければ、将来性に不安を感じて、転職を考えるかもしれません。新卒で就職してからあまり給料が上がらないと、将来が不安になります。給料の高さは、転職を考えるときの代表的な理由の1つです。
CRAの経験を活かして転職する求人例
CRAとして働いていても、仕事で何か資格を取得するわけではありません。自己研鑽のためにTOEICを受けている人はいるかもしれませんが、履歴書に「〇〇資格取得」と書けるようなものはありません。
そのような無資格の状態でも、CRAから転職することはできるのでしょうか。そして、CRAとして働いていると、どのような経験やスキルが身についているのでしょうか。
続いて、実際の求人例を示しながら、CRAの経験を活かすことができる転職先を紹介していきます。
CRA以外の開発職は、経験者を募集している求人が多い
CRAとして働いていると、身近に開発職で働いている人が多くいると思います。具体的には、以下のような職種が挙げられます。
- データマネージメント
- 統計解析
- 薬事
- メディカルライティング
- 安全性情報(ファーマコビジランス)
- クリニカルサイエンス
臨床開発では、これらの職種の担当者と共同で仕事を進めます。そのため、あなたはCRA以外の仕事内容についても、多少の理解はあるでしょう。
しかし、これらの職種に転職するためには、経験者でなければならない求人が多いです。例えば、下に示す薬事の担当者を募集している求人では、薬事の業務に携わった経験が必須条件に挙げられています。
臨床開発と一言でいっても、それぞれの職種で担当する業務は異なります。そのため、それぞれの業務の専門家を求めていることが多く、未経験から転職する難易度は高いです。
しかし、数は多くありませんが、臨床試験の専門職の中には、未経験でも応募可能な求人もあります。
下の求人は、安全性情報(ファーマコビジランス)を募集しているCROのものです。「未経験者歓迎」と記載されており、安全性情報の未経験者でも問題なくエントリーすることができます。
そして、この求人の「対象となる方」の欄には、臨床開発の業務経験が必須条件の1つとして挙げられています。そのなかに、CRAも含まれており、現在CRAとして勤務しているあなたも、応募の条件を満たしています。
あなたの周りで働いている臨床開発職の人を見ていて、「自分も転職してやってみたい」と思う職種があるかもしれません。そのような職種の求人の多くは、その職種の経験が必須条件に挙げられています。
しかしなかには、CRAの経験があればエントリーできたり、歓迎されたりするものもあることを覚えておきましょう。
ただし、未経験でエントリーできる求人は多くないので、求人の探し方を工夫する必要があります。
医師と共同で臨床研究を行うMSL(メディカルサイエンスリエゾン)に転職する
CRAは医療機関を訪問して、臨床試験をモニタリングしたり、臨床試験に関する情報提供をしたりすることが仕事内容です。訪問する医療機関は、大学病院のような大病院だけでなく、開業医を訪問することもあります。
同じように、病院を訪問して医師に情報提供を行う職種に「MSL(メディカルサイエンスリエゾン)」があります。MSLは、臨床開発ではなく、臨床研究を医師と共に進めていくことが仕事内容です。
実際に、求人に示されている仕事内容を下に紹介します。この求人は、会社名は非公開ですが、東京都でMSLを募集しているものです。
求人内の「KOL」とは、キーオピニオンリーダーの略で、その疾患領域において影響力がある医師を指します。つまりMSLは、医師のなかでも、その領域で著名で実力がある医師と共同で仕事をすることになります。
KOLは通常の外来診療だけでなく、既存の医薬品を用いた臨床研究も行っています。具体的には、新たな適応症を追加承認されるためのデータ収集などです。
例えば、アトピー性皮膚炎の治療薬として開発されたデュピクセント皮下注は、気管支ぜんそくの適応を追加取得しました。
アトピー性皮膚炎の病態には、サイトカインのIL-4とIL-13が関わっています。そして、デュピクセントの有効成分であるデュピルマブは、IL-4とIL-13のシグナル伝達を阻害することで効果を示します。
そして、IL-4とIL-13は、気管支喘息の病態にも関わることがわかっています。そのため、発売後に追加の研究が実施され、気管支喘息の適応を追加取得できたのです。
このような研究は、MSLと医師が共同で展開していきます。つまり、MSLには、医師と対等に情報交換や、科学的な意見交換ができるだけの専門知識が求められます。
なお、さきほど紹介した求人の「応募資格」の欄には、必須条件としては、理系大学院の卒業と英語文献の読解力しか挙げられていません。
CRAの経験は歓迎条件として挙げられており、CRAの経験を活かして転職することができます。
そして、CRAとして働いていると、コミュニケーション能力が必ず求められます。この点については、MSLも同じです。
MSLも医師と共同で仕事を行うので、コミュニケーション能力は必須のスキルです。つまり、CRA経験がある人は、コミュニケーション能力があると考えられるので、MSLに向いているといえるでしょう。
ただし、MSLに転職するときには注意しなければならないことがあります。それは、高い学歴と論理的思考が求められることです。
さきほどの求人でも、PhDを保有していることが歓迎条件に挙げられていました。PhDを保有している人は、研究を推し進める実力がある可能性が高いです。
最後に、MSLは給料が多いことも特徴として挙げられます。下に、この項で紹介した求人の「給与」の欄を示します。CRAの求人と比べても、高い年収が提示されていることがわかります。
あなたに学歴と高い専門知識があり、医師と共同で臨床研究を行うことに魅力を感じるのであれば、MSLに転職することは選択肢に入るでしょう。
CRC(治験コーディネーター)として医療機関やSMOに転職する
CRCは、CRAとして働いていると、臨床試験に関する情報提供で関わることが多い職種です。あなたも、医療機関を訪問したときに、CRCと臨床試験の経過について話し合うことが多いと思います。
そして、CRAの経験を活かしてCRCに転職をすることができます。実際の求人例を、下に示します。
この求人は、CRCを医療機関に派遣するSMO(治験施設支援機関)である、株式会社エシックのものです。採用されるとSMOの職員として医療機関に派遣され、CRCとして働くことになります。
この求人の「対象となる方」の欄には、CRAの経験が歓迎条件の1つとして挙げられています。そのため、CRA経験があれば、この求人にエントリーすることができます。
しかし、注意しなければならないのは、CRCに転職するためには、看護師、薬剤師、臨床検査技師などの医療従事者の資格が求められることが多いです。この求人でも、これらの資格のいずれかを持っていることが、必須条件に挙げられています。
CRCは、患者さんからさまざまな相談を受けます。具体的には、治験薬を服用したことによる副作用の訴えや、疾患に関する相談などです。CRCは、このような相談に対して、丁寧に対応しなければなりません。そのため、医療従事者の資格が求められるのです。
CRAとCRCは、仕事をする相手が違います。CRAは製薬会社(または製薬会社に派遣されるCRO)の立場で、医療機関のスタッフに試験に関する説明をしたり、情報提供をしたりします。
一方で、CRCは医療機関(または医療機関に派遣されるSMO)の立場で、被験者に試験の内容について説明したり、精神的な不安を軽減するための相談相手としてサポートをしたりします。
患者さん(被験者)と話をすることに苦手意識がある人は、CRCには向いてないかもしれません。
その一方で、CRCは、被験者からの声を直接聞くことができ、治験薬を用いて患者さん(被験者)の治療の手助けに関われることが魅力といえるでしょう。
医療系広告代理店のメディカルコピーライターに転職する
最後に紹介する求人は、臨床試験に関わる職種ではありません。CRAとして働くことで身につけた知識やスキルを活かして、メディカルライターに転職する求人を紹介します。
メディカルコピーライターは、下のような医療用医薬品のパンフレットや、販売促進のための資料の製作を担当します。
なお、このような資料はパソコンを使用して作成しますが、仕事はデスクワークだけではありません。依頼元(製薬メーカー)との打ち合わせをしたり、原案についてプレゼンテーションをしたりすることもあります。
実際の求人例を、下に示します。
資料を作成するときには、依頼元の製薬会社から言われた通りに作成するだけではありません。下のような医学文献を調べたり、医療関係者に取材をしたりして、総合的に情報収集を行います。
そのため、医療用医薬品のパンフレットを作成するためには、医学の基礎知識やコミュニケーション能力が必要になります。そのため、CRAのような医療系専門職として多くの職種と関わった経験が、必須条件として挙げられています。
このように、CRAの経験を活かして、メディカルコピーライターに転職することができます。
CRAの経験を活かすことができる求人を探す方法
CRAからどのような職種に転職することができるのか、求人例を示して紹介しました。では、実際に転職活動をするときには、どのように行えば転職を成功させることができるのでしょうか。
複数の転職サイトを活用して、多くの求人を閲覧する
転職を考えて求人を探すときには、転職サイトを利用する人が多いと思います。そしてこのときには、複数の転職サイトを利用することをおすすめします。なぜなら、転職サイトによって掲載されている求人は異なるからです。
例えば、大手転職サイトのdodaで求人を探していると、CRAの経験を活かして、病院経営コンサルタントにエントリーできる求人を見つけました。病院経営コンサルタントとして働くときの仕事相手は、病院やクリニックの医師、看護師などです。
この求人では、ドクターへの折衝経験があれば歓迎と記載されています。CRAとして働いていると、医師を含む医療従事者と打ち合わせをすることが多いです。そのため、CRAで身につけたコミュニケーション能力を活かすことができます。
なお、ほかにもいくつかの転職サイトで同じキーワードで求人を検索しましたが、病院経営コンサルタントの見つけることはできませんでした。
このように、複数の転職サイトで求人を探すことで、多くの求人に触れることができるだけでなく、多くの職種の求人を見つけやすくなります。
転職エージェントから非公開求人を紹介してもらう
転職サイトを利用すると、エージェントサービスを受けることができます。エージェントサービスを受けることで、あなたは転職活動をより効率的に進めることができます。
実は、転職サイトに掲載されている求人は、転職サイトの運営会社が保有している求人の10%~20%程度と言われています。つまり、残りの80%~90%は、非公開求人です。
引用:非公開求人に天職あり!転職ならdoda(デューダ)を改変
CRAの経験を活かすことで、多くの職種に転職することができます。しかし、その業種で働いた経験が必須条件として挙げられているものが多く、未経験からエントリーできる求人が少ない職種もあります。例えば、第1章で紹介した臨床開発職は、未経験者が応募できる求人は非常に少ないです。
転職で職種を変えるということは、経験を活かすことができるとはいえ、未経験者として転職することになります。そのため、未経験者でも応募できる求人にできるだけ多く触れることで、あなたが納得できる転職を成功させやすくなります。
転職エージェントから非公開求人を紹介してもらうことで、転職先の選択肢が大きく広がることを覚えておきましょう。
まとめ
ここでは、CRAを辞めて、ほかの業種に転職するときの転職方法について説明しました。
CRAから転職する理由は、体力面(出張が多い)や、金銭面(年収が低い)などが挙げられます。まずは、あなたが現在の仕事の何に不満があるのかを整理するようにしましょう。
そして、明確になった不満点を解決できるような職種を探すことで、納得がいく転職を成功させることができます。例えば、出張が多くて体力的につらいことが不満であれば、出張が少ないCRCに転職することで、不満を解消できるでしょう。
CRAの経験を活かして転職を考えるときに、CRA以外の臨床開発職は、経験者を募集しているものが多いので注意が必要です。
また、コミュニケーション能力や専門知識を活かすことで、MSL、CRC、メディカルコピーライターに転職することができます。
これら以外にもCRAの経験を活かすことができる職種は多いです。少しでも多くの求人に触れるためにも、複数の転職サイトを利用するようにしましょう。
そして、あなたの転職を成功させるために、転職エージェントを活用することをおすすめします。転職エージェントから非公開求人を紹介してもらうことで、あなたの転職先の選択肢は広がり、納得のいく転職を成功させやすくなります。
研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。
一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。
ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。
これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。