医薬品開発の薬事に携わった経験があれば、高年収の求人に転職することが可能です。しかし、求人の探し方や転職方法が違うと、同じ求人にエントリーしても、最終的な年収に差が出ることがあります。

今後の薬事担当者としてのキャリアパスを考えたときに、どのように転職すれば納得できる条件で転職できるのでしょうか。

ここでは、医薬品の薬事担当者が、高年収の求人に転職するときの方法を紹介します。具体的には、高年収の求人に転職するときに求められるスキル、経験、資格、そして、高年収の求人の探し方について説明します。

年収アップを狙うときに必要なスキル、経験、資格

高年収を狙うためには、同じ職種でそれなりの期間の経験が求められます。経験が浅いと実力がないので、高い年収を希望しても、そもそもエントリーができないような求人もあります。

まずは、高い年収が提示してある求人にエントリーするために、どのようなスキル、経験、資格が必要かを紹介します。

高年収の求人に応募するには、長い薬事業務の経験が必要

薬事業務の経験年数が少なすぎると、経験者として転職することができません。例えば、新卒で入社して間もない段階では、経験者としての転職は無理です。

では、どのくらいの期間の業務経験があれば、高年収の求人にエントリーできるのでしょうか。その一つの目安は、「3年以上」です。

下の求人は、香川県にある製薬会社で開発薬事を募集しているものです。この求人の「応募資格」の欄では、開発薬事業務か薬事申請業務を3年以上経験していることが必須条件として挙げられています。

このように、3年以上の業務経験を応募の条件に挙げている求人は多いです。求人によっては5年以上のものもあります。長く薬事職に従事していれば、この条件は満たすのではないでしょうか。

そして、この求人の提示年収は500万円~800万円です。

この求人では、応募資格で挙げられているのは、業務経験と経験年数だけです。そのため、あなたの薬事職の業務経験が浅い場合は、高い年収を交渉するのは難しいでしょう。

一方で、5年、10年の業務経験があれば高い年収の交渉がしやすいです。このように、薬事の転職で高い年収を狙うのであれば、長い経験が必要になります。

・CMC薬事の経験を活かして高年収の求人に転職する

薬事は、携わる業務によって担当が細分化されていることがあります。そのなかの一つが、CMC薬事です。CMC薬事に従事した経験があれば、その経験を活かして高年収の求人に応募することができます。

下の求人は、大阪府にある製薬会社の求人で、CMC薬事のリーダー候補を募集しています。そして、この求人では、3年以上のCMC薬事としての実務経験が必須条件に挙げられています。

そして、この求人の提示年収は、1,000万円~1,200万円です。

なお、この求人はリーダー候補を募集している求人です。そのため、薬事申請業務の経験だけでなく、医薬品の製造や、品質保証の業務経験も求められています。

例えば、下のような製造設備を利用して医薬品や治験薬の製造に携わった経験があれば、このような求人にエントリーすることができます。

引用:ライトケミカル工業株式会社 反応釜より

このように、CMC薬事に長く携わった経験があれば、将来の管理職候補として転職し、高年収を勝ち取ることができます。

・10年以上の経験があれば、管理職としての転職も可能

会社で長く働いていると、管理職に昇格することがあります。そして、薬事の業務経験を活かして、管理職として転職することができます。

下の求人は、東京都にある外資系の製薬会社のものです。「仕事内容」と「応募資格」の欄を示しています。

この求人では、10年以上の薬事業務経験が必須条件に挙げられています。そして、職務内容には、PMDA(医薬品医療機器総合機構)とやり取りをして承認申請を行うだけでなく、承認取得済の製品に関する薬事業務(ライセンス維持管理など)も挙げられています。

このような業務に携わるためには、現職で薬事の幅広い業務を経験している必要があります。また将来的に、管理職として薬事部の全体を取りまとめるためには、これらの業務経験が必要になります。

そして、この求人の提示年収は、1,000万~1,500万円です。

このように、薬事担当者として10年を超える業務経験があれば、管理職として転職することで、年収アップを狙うことができます。

メディカルライティングの経験が必要な求人もある

薬事の業務は、主に製造販売の承認を得るために当局(PMDA)とやり取りをすることです。しかし、会社によっては、薬事申請書類の作成も薬事担当者が行うことがあります。

申請書類の作成は、臨床開発職のなかのメディカルライターが行います。そして、会社によっては、メディカルライターが薬事部門に所属しており、それぞれの業務を兼任することがあります。そのため、薬事担当者に薬事申請書類を任されることもあります。

下の求人は、CRO(医薬品開発業務受託機関)のものです。この求人では、治験に関連する薬事申請に携わる担当者を募集しています。

続いて、この求人の「応募資格」の欄を示します。この求人では、PMDAとの薬事関連業務の経験だけでなく、薬事申請書類(CTD)の作成経験と作成能力が必須条件として挙げられています。

会社によっては、CTDの作成はメディカルライターが作成しており、薬事部では行っていないこともあります。

このように、薬事の求人のなかには、メディカルライターの仕事の経験が求められるものもあります。そのため、エントリーするときには、求人情報の内容をしっかりと確認するようにしましょう。

高い英語力が求められる

薬事担当者として働いていると、基本的には日本語のやり取りがメインです。PMDAとの事務的なメールのやり取りは、日本語で問題なくできます。

しかし、会社によっては、英語を頻繁に使用することがあります。その理由は、海外の関連会社の薬事担当者と英語でやり取りをすることがあるからです。

日本で研究開発された医薬品候補化合物は、日本国内だけで使用することを目的にしていることは稀です。多くの場合、海外でも使用することを目指します。

海外で承認申請を受けるためには、海外の当局に申請書類を提出する必要があります。申請の手続きは、海外の関連会社の担当者が行いますが、そのような担当者とのやり取りは英語でしなければなりません。

また、下に示すノルバスク錠は、日本国内で汎用されている高血圧治療薬です。そして、ノルバスク錠が使用されているのは、日本国内だけではありません。そのため、海外で発売するためには、パッケージも英語で表記されます。

引用:Buy Norvasc Amlodipine 5mg in USAより

求人によっては、応募の条件に高い英語力が挙げられているものがあります。下の医薬品メーカーの求人では、TOEICで800点以上が目安と記されています。

臨床試験を国内だけで行うことは減ってきており、海外でも同時に行われるグローバル試験が増えています。そのため、薬事の転職では、今後も高い英語力が求められるでしょう。もちろん、転職を成功させても、高い英語力を維持するための勉強を継続する必要があります。

医療従事者の資格がなくても、高年収の求人に転職できる

薬事として働くときに、資格が必要になることはありません。実際に、無資格の状態で仕事をしていても、困ることはないはずです。

そのため、高い年収が提示されている薬事の求人でも、資格を必須条件で挙げている求人はほぼありません。前の項で紹介した求人でも、応募資格の項目に、資格についての記載はありませんでした。

このように、薬事で高い年収の求人に転職しようとするときに、資格がなくても問題ありません。

・薬剤師の資格があれば、歓迎されることもある

資格がなくても、高い年収が提示されている求人に採用されることを説明しましたが、なかには、資格保有が歓迎条件に挙げられているものがあります。

下に示す求人は、外資系の製薬企業のものです。この求人では、薬剤師免許を保有している人を歓迎しています。

このように、薬剤師資格が歓迎条件に挙げられている求人が、ごくまれにあります。もちろん薬剤師資格があれば、転職しやすいですし、年収の交渉ができるかもしれません。

しかし、薬事担当者として働くために、薬剤師の資格は必要ありません。薬事担当者の転職では、薬の知識ではなく、PMDAとの折衝経験、申請書類の書き方、薬事法に関する知識などの、薬事の仕事の流れを理解できていることが求められます。

そのため、薬剤師の資格がない人でも、積極的にエントリーしても問題ありません。

高年収の求人に転職する方法

では、現在の年収に満足していない人は、どのようにして高年収の求人を探せばよいのでしょうか。

CRO(医薬品開発業務受託機関)から製薬会社へ転職する

薬事の仕事をするためには、製薬会社かCROで働く必要があります。そして、求人の年収を比較すると、CROよりも製薬会社の方が高い年収を提示していることが多いです。

実際に、ここまで紹介してきた求人と、次の項で紹介する求人の提示年収をまとめたものが下の表です。

会社名 区分 提示年収
非公開(第1章第1項) 製薬会社 500万円~800万円
非公開(第1章第1項) 製薬会社 1,050万円~1,200万円
非公開(第1章第1項) 製薬会社 1,000万円~1,500万円
非公開(第1章第2項) CRO 500万円~900万円
非公開(第1章第3項) 製薬会社 700万円~1,300万円
非公開(第2章第1項) 製薬会社 700万円~1,100万円
コアメッド株式会社(第2章第2項) CRO 400万円~800万円

CROでも、交渉次第では高い年収を勝ち取れることがわかります。そして、平均すると、CROと比べて製薬会社の方が年収は高いことがわかると思います。

また、CROでの薬事経験を活かして、製薬会社に転職することは可能です。下の求人は、製薬会社で薬事のリーダーを募集しています。そして、製薬メーカーかCROで薬事申請経験を3年以上していることが歓迎条件として挙げられています。

CROは、製薬会社の業務を代行する企業です。つまり、CROでの業務経験は、製薬会社でもそのまま活かすことができます。

したがって、CROで薬事申請に3年以上関わっていれば、この求人で採用される可能性は高いと考えてよいでしょう。このように、CROから製薬会社に転職することで、年収アップを狙うことができます。

転職エージェントを活用する

転職サイトで求人を探していても、年収だけでなく担当する業務内容も含めると、なかなか希望に沿った求人を見つけることは難しいです。

そこで、転職エージェントを活用することで、あなたの転職はより成功しやすくなります。その理由は、転職エージェントが非公開求人を紹介してくれるからです。

非公開求人とは、転職サイトなどで公開されていない求人で、エージェントサービスを受けなければ、見つけることさえできない求人です。大手転職サイトのdodaでは、取り扱っている求人の80%以上が非公開求人であることが紹介されています。

引用:非公開求人に天職あり!転職ならdoda(デューダ)を改変

また、前の項で薬事の求人の年収を紹介しましたが、求人によっては提示年収にかなり幅があります。下に示すCROで薬事担当者を募集している求人は、提示年収の最低値と最高値で2倍以上の差があります。

つまり、交渉次第では高い年収を勝ち取ることができますが、最悪の場合は、最低値に近い年収しかもらえない可能性もあります。このような場合は、転職エージェントに年収の交渉をしてもらうことができます。

あなたが直接年収を交渉するためには、面接などのときに「〇〇〇万円程度の年収がもらいたい」と伝えるしかありません。正直、直接交渉できる人は少ないですし、印象が悪くなってしまうリスクがあります。

一方で、転職エージェントは、あなたのこれまでの経験や実力を就職希望先にアピールしてくれて、年収の交渉もしてくれます。

私の知り合いで、転職エージェントを活用して転職をした人がいます。彼は、「すべて転職エージェントが交渉をしてくれたおかげで、条件面で納得できる転職ができた」と転職のエピソードを話してくれました。

このように、転職エージェントを活用することで、あなたが目標とする年収を実現できる可能性が高まることを覚えておきましょう。

まとめ

薬事担当者が転職で年収アップを達成するためには、薬事業務に長く携わった経験が必要です。経験年数が長いほど、実力をアピールして、年収の交渉がしやすいです。

会社によっては、申請書類の作成などの、メディカルライティングの仕事の経験が求められることがあります。求人情報の内容をしっかりと確認するようにしましょう。

薬事担当者は、海外の担当者とメールや電話会議でやり取りをしなければなりません。高い英語力が求められる求人が多いので、英語の勉強は継続する必要があります。なお、薬事の転職で医療従事者などの資格が求められることは、ほとんどありません。

CROと製薬会社を比較すると、製薬会社の方が、高い年収を提示していることが多いです。提示年収に幅がかなりある求人もあるので、交渉次第で転職の満足度は大きく変わってきます。

転職活動をするときには、転職エージェントを活用することで、転職を成功させやすくなります。非公開求人を紹介してもらったり、年収の交渉をしてもらったりすることで、納得できる条件で転職するようにしましょう。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。