化学系の研究職への転職を考えているあなたは、これまで身につけたスキルを活かして転職活動を進めようと考えていると思います。
これまで社会人として一生懸命働いていれば、無意識のうちに多くのスキルが身についています。自己研鑽によって、身につけたスキルもあるかもしれません。
もちろん、身についているスキルが多いほど、転職活動を有利に進めることができます。
ここでは、化学系の研究職への転職で求められるスキルについて解説していきます。
もくじ
現職で身につけた実験スキル
研究職として働くと、実験を繰り返し行います。同じ職場で何年か働いていると、扱っている機器の使い方や、どこに何があるかなどが自然と体に染みつきます。
そして、転職をして職場が変わると、実験の環境は当然変わります。実験台の広さ、扱う機器のメーカーなど、これまで行っていた環境と同じということは、まずありません。
しかし、同じ分野の研究職に転職すれば、現在の実験スキルを転職先でもそのまま活かすことができます。その理由は、行う作業は本質的に同じだからです。
下の求人は、大手転職サイトのdodaで見つけた、十全化学株式会社のものです。十全化学株式会社は富山県に本社があり、医薬原薬や化成品の中間体製造を主な事業としています。
この求人情報の「対象となる方」の欄には、以下のように記載されています。
これまで、低分子や高分子の合成に携わった経験があれば、身につけた実験スキルを活かすことができます。
十全化学株式会社のような製造業の研究職では、有機合成が主な実験内容です。最終的には、下のような自社のプラントで受託品を製造します。
引用:ライトケミカル工業株式会社 反応釜より
そのため、次のような機器を使用した実験を繰り返し実施します。
引用:株式会社旭製作所 製品紹介より
機器のメーカーによって、若干の違いはあるものの、実験機器の操作性に大きな違いはありません。もちろん、実験で注意すべき点や、取るべきデータも同じです。
そのため、現在働いている会社で身につけた実験スキルは、同じ分野の研究職に転職すれば、そのまま活かすことができます。
実験スキル以外に求められるもの
研究職の本業は、新製品の卵となるものを生み出したり、既存製品の問題点を解決したりすることです。そのために、作業仮説を立てて、繰り返し実験を行います。
実験のスキルが求められることを前章で説明しましたが、それ以外にも求められるものはたくさんあります。
続いて、それらについて解説します。
英語力
化学系の会社は、最終的には商品を販売することで利益を得ます。その販売先は、一般のユーザーであることもあれば、企業であることもあります。
私はかつて化学メーカーで、感熱紙に含まれる「顕色剤」と呼ばれる成分の研究開発職として働いていました。
感熱紙とは、紙に熱をかけることで色がつく紙で、身近なものの代表例はレシートです。レシートを爪でひっかくと、黒い線がつくのを知っている人は多いと思います。
色が黒くなるのは、感熱紙の表面の色素と顕色剤が熱によって反応し、色素が白から黒に変わるからです。そして、顕色剤の構造によって、色のつき方や、経時的な色の落ち方が大きく変わります。
私が働いていた会社では、顕色剤を研究開発していましたが、感熱紙は販売していませんでした。感熱紙を製造・販売するのは製紙会社です。そのため、顕色剤の販売先は、製紙会社です。
そして、製紙会社は日本国内だけでなく、海外にもたくさんあります。営業職の人は、ヨーロッパの製紙会社に商品紹介に行っており、私の先輩も同行していました。
また、最近では、研究職の仕事も、単独の会社だけで行うのではなく、関連会社と共同研究で進めることが増えています。
関連会社は日本国内の会社だけではありません。海外の会社と電話会議をしたり、メールでのやり取りをしたりすることもあります。
このように、日本国内で働いていても、海外の会社に出張したり、メールで英語のやりとりをしたりする機会もあります。そのため、英語力が求められる求人は多いです。
下に示すのは、化学メーカーのマネージャーを募集している求人です。
この求人では、英語力が必須条件に挙げられており、TOEICで600点以上が目安です。
この求人で採用されると、取引先と英語でのやり取りが頻繁に行われることが予想されます。
また、日常業務で英語を使わなくても、会社の方針で英語の研修に力をいれていることもあります。
私が以前勤めていた会社でも英語の研修には力を入れており、週に1~2回はネイティブとの英会話の研修が開かれていました。
また、定期的にweb上での英語のテストを受けさせられ、英語の勉強を促すような風土がありました。
このような研修は多くの企業で開かれており、転職後も英語の勉強は続けることになるでしょう。そして、今後も英語力が、ますます求められるようになるのは間違いありません。
コミュニケーション能力
研究職の仕事は、研究所だけで終わるわけではないことを説明しました。ほかにも、他部署との連携や、関連会社とのやり取りも必要になります。
そして、そもそも研究を一人だけですべて行うことはありません。何人かのチームとして研究を進めていきます。
私が携わっていたテーマも、3人のチームで研究を行っていました。常にコミュニケーションをとりながら、それぞれが検討した内容を共有していました。
コミュニケーションをとらないと、ほかの人が何をやっているのか知ることができません。やる必要のないことをやっていても、気づけなければ上司も指導することができません。
コミュニケーション能力は、資格があるわけではありませんし、数値化できるようなものでもありません。しかし、仕事の成果に大きな影響を与える能力であることは間違いありません。
下で紹介するのは、診断薬の研究開発を行っている、株式会社シマ研究所の求人です。この求人で採用されると、東京都板橋区にある研究所で、ラテックス凝集診断薬などの診断薬の開発や、医療機関からの受託開発に携わることになります。
この求人情報の「求めている人材」の欄には、以下のように記載されています。
学生時代であれば、1人1つの研究テーマが与えられ、黙々と実験をすればよかったかもしれません。周囲とコミュニケーションをあまりとらなくても、困るのは基本的に自分だけです。
しかし、会社員として研究をする場合は、行った仕事内容は報告する必要があります。そして、報告は会議だけでなく、日々のたわいもないやりとりも含まれます。
「さっきやった実験、予想よりも早く終わりそうです」や「いつもは反応液が黄色なんですけど、今回はかなり黒いんですよね」のような、何気ない会話から議論が始まることは頻繁にあります。
このように、周囲の人とコミュニケーションをとることで、円滑に業務を進めることができます。
チャレンジング精神
研究職の仕事では、新しいことを生み出さなければなりません。そのため、仕事では失敗の連続です。
しかし、実験の結果を「うまくいきませんでした」とだけ報告すると、確実に上司に叱られます。もちろん、うまくいくと思って実験をしているので、予想外の結果であれば残念な気持ちにはなります。
そこで大切なのは、「なぜうまくいかなかったのか」を考えて、「次はどうすればうまくいくか」を考えることです。
そのためには、あなたが持っている知識を総動員する必要があります。あなたの知識だけで代替案が思いつかない場合は、論文や特許を調べる必要があります。
研究職は、この作業の繰り返しです。
前の項で紹介した株式会社シマ研究所の求人では、「求める人物像」の欄に以下のように記載されています。
予想通りの結果が得られなくても、問題解決のために何度も挑戦できるマインドが研究職には求められます。このマインドは最初から持っている人もいれば、研究活動を経験することで身につけることができる人もいます。
管理職候補の求人で求められるスキル
第二新卒などの20代で化学系の研究職に転職するのであれば、これまでに紹介したスキルがあれば転職活動でしっかりアピールすることができるでしょう。
一方で、30代以上の管理職候補になってくると、必要な能力は研究能力だけではありません。
マネジメント力や指導力
入社後、ある程度の年数を経験すると、リーダーとしてテーマをマネジメントしたり、後輩社員の教育を任されたりする立場になってきます。
もちろん、20代であっても後輩ができれば、指導を任された経験がある人もいるでしょう。
そして将来的には、管理職として部署を支える人材としての活躍が期待されるようになります。
次に紹介する求人は、大阪府大阪市にある大手ガスグループ会社の求人です。
この求人では、管理職候補としての採用になります。そのため、高分子合成分野で研究開発に従事するだけでなく、プロジェクトマネジメントも担当することになります。
そして、この求人情報の「応募資格」の欄には、以下のように記載されています。
必須条件に、高分子分野での研究開発経験が挙げられています。これは、実際の現場での業務で必要になるスキルです。
そして、マネジメント経験も必須条件として求められています。また、歓迎条件としても、部下のマネジメントや育成ができるスキルが挙げられています。
このような求人は、管理職候補の即戦力としての働きが期待されている求人といえるでしょう。
学術発表や特許明細書作成
企業の研究者として働いていると、その成果を外部に発表・公開する機会があります。これらは、その分野の発展のためだけでなく、企業の利益を守るためや、競合他社に対する戦略として行われることもあります。
具体的に行われるのが、以下に示す内容です。
- 学会発表
- 論文投稿
- 特許明細書作成
学会発表は、オーラル発表(口頭発表)とポスター発表があります。どちらを行うとしても、見やすいFigureを作成したり、発表時間に合わせた枚数のスライドを作成したりと、かなり骨が折れる作業をやる必要があります。
論文投稿は、邦文と英文があります。どちらで論文を書くとしても、IntroductionからConclusionまで、論文のストーリーを構築しなければなりません。
また、論文投稿は学会発表と違い、査読されます。そのため、投稿しても却下(reject)されることもあるので、構成や内容をしっかりしたものにしなければなりません。
特許は、会社の権利を主張するために非常に大切なものです。特許明細書を作成するときには、権利の範囲を決め、各構成要素の関係を明確に記載する必要があります。
特許も論文発表と同じように、内容によっては拒絶されることがあります。公知技術を含むような内容になっていないかなどを、しっかりとチェックしてから出願する必要があります。
これらの業務は新人や、入社して数年の社員が任されることはほとんどありません。私が働いていた会社でも、入社10年目のリーダーが特許明細書の作成は行っていました。
管理職候補として転職するのであれば、これらの経験・スキルがあればアピールできるでしょう。
知識や学歴もスキルに含まれることがある
スキル(skill)は、日本語に訳すと「技能」や「腕前」です。ここまで紹介してきた内容は、技能や腕前といえるものでしょう。
しかし、求人情報を見てみると、知識や学歴もスキルとして扱っているようなものもあります。
次の紹介するのは、貴金属のリサイクル技術を開発している、福島県郡山市の企業の求人です。この求人で採用されると、工場などで発生する不良電材料や電子部品を再生するための研究開発に携わることになります。
そして、この求人の「応募資格」の欄には、以下の項目が必須スキルとして挙げられています。
「博士号取得者」であることは、技能ではありません。また、「専門分野にて深い知識を有していること」も技能ではありません。
しかし、修士号取得者と博士号取得者を比較すると、博士号取得者の方が研究を推し進めるスキルは高いのではと予想できます。
専門分野の深い知識があれば、その分野の研究に従事したことがあるのではと考えられます。実験をバリバリやっていた可能性も、十分考えられます。
このように、「スキル」という単語からは直接連想しにくい「知識」や「学歴」も、スキルを判断する材料として用いることがあります。
スキル次第では、高年収の交渉も可能
ここまで紹介してきたスキルを有していると、転職の際に採用されやすいです。そして、ただ採用されやすいだけでなく、年収の交渉もしやすくなります。
下の求人は、ファインケミカル製品やヘルスケア機能性素材などを研究開発、製造している株式会社ダイセルのものです。
この求人情報の「給与」の欄には、予定年収が700万円以上であることが示されています。
そして、給与欄をくわしく見てみると、「給与補足」の項目に、以下のような記載があります。
この求人では、マネージャークラスの人材を求めています。したがって、同じ分野での仕事の経験だけでなく、第2章、第3章で紹介したような、特許明細書作成経験、部下への教育経験、博士号取得などのスキルがあれば、高年収の交渉が可能になります。
スキルは多く有していて困ることはありません。少しでも多くのスキルを身につけていれば、転職活動を有利に進めることができます。
まとめ
ここでは、化学系の研究職への転職で求められるスキルについて解説しました。
現在の職場で身につけた実験のスキルは、同じ分野の研究職に転職すれば、十分に活かすことができます。
実験スキル以外にも、英語力、コミュニケーション能力、チャレンジング精神があれば、転職して会社が変わっても、活躍することができるでしょう。
化学系の研究職の求人には、管理職候補のものもあります。そのような求人では、これらのスキルに加えて、マネジメント力、後輩の指導力、学術発表や特許明細書の作成経験が求められることがあります。あなたがこれらを有していれば、即戦力としての活躍を期待されるでしょう。
多くのスキルを有していれば、年収の交渉もしやすくなります。転職活動のときには、ここで紹介したスキルがあれば、しっかりアピールするようにしましょう。
研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。
一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。
ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。
これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。