医薬品は生活になくてはならないものです。あなたの家族にも、病院に通院して、複数の薬を毎日飲んでいる人がいると思います。

そして、医薬品を研究開発しているのは製薬会社です。医薬品が発売されるまでには、多くの人が関わっています。

そのなかでも研究職は、医薬品開発の最初の段階で携わる職種です。

ここでは、製薬会社の研究職が行う実際の仕事内容を説明し、実際の求人例を基に、製薬会社へ転職するために必要な要件を確認していきます。

製薬メーカーの研究職にも多岐に渡る分野がある

製薬会社が新薬を研究開発し、最終的に医薬品として発売になるまでには長い工程が必要になります。

下に、医薬品の開発の基本的な流れを示します。創薬研究とは、この一連の工程を指します。

このなかで、研究職が行うのは、「探索合成」から「プロセス検討」「製剤化」「分析研究」までです。

続いて、実際の仕事内容を、求人例を示して説明します。なお、低分子化合物とバイオ医薬品では、行う作業が一部異なるので、それぞれに分けて解説します。

創薬(低分子化合物)の研究職の仕事内容と求人例

まずは、低分子化合物の創薬研究について説明します。

低分子化合物とは、有機合成で作ることができる分子量が小さい化合物を指します。低分子化合物の分子量の目安は、300~500です。

あなたの身近にある医薬品の多くは、低分子化合物の医薬品に分類されます。例えば、解熱鎮痛剤で汎用されているロキソニン(成分名:ロキソプロフェンナトリウム)やカロナール(成分名:アセトアミノフェン)は低分子化合物です。

これらの医薬品の構造式と分子量を下に示します。いずれも分子量は500以下です。

続いて、低分子化合物の創薬研究で行う仕事内容について、求人例を示して説明します。

・探索合成

医薬品は、体内の酵素や膜タンパクやサイトカインに働きかけて効果を発揮します。そして、ほとんどの医薬品は、これらと強く結合するほど効果が強く現れます。

化合物がどの程度の強さで結合するかは、実際にその化合物を用いて評価しなければわかりません。そのためには、化合物を合成する必要があります。

また、どの化合物を合成すべきかも考えなければなりません。製薬会社が研究に充てられる時間と人員は限られています。強い活性を示しそうな化合物を効率的に合成する必要があります。

例えば、下に示す化合物Aは活性が弱く、化合物Bは少し活性が強くなると仮定します。この場合、アルキル鎖をさらに伸ばした化合物Cは、活性が強くなるでしょうか。

化合物Cは、アルキル鎖が長くなることで、標的の物質に結合しやすくなり、活性が強くなるかもしれません。しかし、もしかしたら、立体障害が問題になり、活性が弱くなるかもしれません。

どちらの可能性もあります。その答えは、実際に合成して、活性評価をすればわかります。そして、活性評価をするためには、化合物Cを合成するしかありません。

このように、構造と活性の相関(構造活性相関)を基に、より活性が強い化合物を生み出すのが探索合成です。

行う作業としては、下の写真のような実験機器を使用して、化合物を合成します。

実際の求人例を下に示します。この会社は神奈川県にある、創薬研究の各工程を行っているAxcelead Drug Discoverty Partnersです。

この求人で採用された場合の仕事内容は以下のとおりです。

メディシナルケミストリーとは、創薬化学のことです。どのような構造の化合物が活性を示すのかを考え(分子デザイン)、実際に合成します。この作業を繰り返すことが、探索合成の仕事内容です。

・in vitroおよびin vivoでの活性評価

探索合成によって合成した化合物は、本当に期待した活性を有しているかを評価しなければなりません。この作業を活性評価といいます。

活性評価は、標的となる酵素、膜タンパクなどを合成した化合物と混ぜて、どの程度活性を示すかを評価します。

このような評価方法は「in vitro評価」に分類されます。

実際の作業は、下に示すようなマイクロプレートに、合成した化合物や標的となる酵素などを混ぜて行います。

in vitroで活性が認められた化合物は、次のステップに進むことになります。続いて実施するのは動物実験です。

医薬品は、最終的には人間に投与します。そして、その前には動物を用いて、効果だけでなく、副作用や、体内にどの程度吸収されるかなどを検証する必要があります。動物を用いた実験は「in vivo評価」に分類されます。

このように、探索合成で作られた化合物は、in vitro評価とin vivo評価を行い、期待した活性を有しているかを評価します。

実際の求人例を示します。この求人では、in vitro評価系の構築と、実際の評価が仕事内容になります。

標的となるタンパク質が、これまで医薬品の標的となっていなかったものであれば、そのタンパク質に対する評価方法も新たに構築しなければなりません。

例えば、緩衝液の種類、標的タンパク質の量などを検討する必要があります。この求人では、このような条件を検討し、実際に評価も実施することが仕事になります。

・製造化に向けたプロセス検討

創薬の最初の段階では、探索合成と活性評価を繰り返し行います。そして、期待した活性を有し、動物実験で毒性も少ないような化合物が見いだされると、ようやく医薬品の候補化合物となります。

医薬品の候補化合物となると、次のステップに進みます。

医薬品になると世の中に出回るので、大量に合成する必要があります。

参考までに、うつ病や不眠に対して用いられるデパス錠0.5mgは、2014年4月~2015年3月の1年間で5億5955万6733錠が外来で処方されています(DI ONLINEより)。

1錠に0.5mgのデパスの成分が含まれるので、この1年間で約280kg分のデパスが処方されたことになります。なお、デパス錠は0.25mgと1mgの規格のものもあるので、トータルでは280kg以上のデパスが処方されたことになります。

研究室でフラスコを用いて合成できる量は、多くても1回に数百g~1kgです。そのため、この量を作るためには、下に示すような工場で作らなければなりません。

引用:ライトケミカル工業株式会社 反応釜より

そして、工場で作るときには、以下の点を考慮する必要があります。

  • 収率
  • 原料の価格
  • 工程数
  • 反応時間の長さ
  • 反応の安全性

探索合成の段階では、少量でもいいので、ひとまず化合物ができればよいです。しかし、医薬品として製造するとなると、少しでも安価に安全に製造することができなければ、利益も増えませんし、安定供給できません。

下に、プロセス検討の求人例を示します。この求人は、医薬品の研究開発を行っている中外製薬株式会社のものです。

この求人で採用されると、製造に向けたルート検討や、ラボで行うmgスケールから製造で実施するスケールへのスケールアップ検討などを行うことになります。

このように、製造に向けて反応条件を最適化していく仕事が、製造化に向けたプロセス検討です

・製剤化

医薬品には、有効成分である原薬以外にも複数の成分が含まれています。下に、さきほど紹介したロキソニン錠の添付文書(医薬品に添付されている使用上の注意や用法用量、効能、副作用などが記載された書面)を示します。

なお、ロキソニン錠は1錠が250mgです。このなかに含まれる有効成分は60mgで、それ以外はすべて添加物です。いかに多くの添加物が含まれるかがわかると思います。

これらの添加物は、薬の苦み、錠剤の崩壊しやすさなどに影響を与えます。添加物の組み合わせによって薬の効果も変わってくるので、医薬品を作るときには、添加物の量や種類を検討する必要があります。

続いて、製剤化に関わる仕事の求人例を示します。医療用医薬品だけでなく、ポカリスエットなどの飲料も販売している医薬品メーカーである、大塚製薬株式会社の製剤研究員の求人です。

製剤化の検討が必要なのは錠剤だけではありません。注射剤や貼り薬でも、製剤化の検討をする必要があります。

例えば、注射剤であれば、液の性質によっては有効成分が溶けにくかったり、分解しやすくなったりします。

このように、有効成分だけの状態から添加剤の種類や量を検討し、医薬品の状態にする過程が製剤化です

・分析研究

医薬品は成分量の規格が厳しく規定されます。例えば、規格が1)有効成分Aが99.0%以上、2)不純物Bが0.5%以下で規定されている医薬品を考えます。

この例でもし、製造したものを分析した結果が、Aが99.2%、Bが0.6%であれば、規格から逸脱しており、このロットは使用することができません。

このように、分析の工程は、商品として利用できるか否かを判断する大切な工程です

分析分野での求人例を、下に示します。この求人は、バイオテクノロジーに強みを持っている協和発酵キリン株式会社のものです。

分析は条件を適切に設定しなければ、誤った結果を報告してしまうことになります。

例えばHPLCであれば、どの波長の吸光度を測定するかで、結果のチャートは全然違うものになります。また、用いるカラムの種類によっても分離能は違います。

このような分析条件を検討し、正しく分析するための条件を設定することが分析研究の仕事です

創薬(バイオ医薬品)の研究職の仕事内容と求人例

ここまでは、分子量が比較的小さい低分子医薬品の創製について説明しました。低分子医薬品は有機合成で作られます。

一方で、バイオテクノロジーを利用し、微生物、細胞を用いて、複雑な構造をした医薬品を製造することができるようになってきました。このような医薬品のことをバイオ医薬品と呼びます。

バイオ医薬品の特徴は、低分子医薬品と比べて分子量が大きいことで、10,000以上のものが多いです。

バイオ医薬品の1つで、主にリウマチの治療に用いられているアクテムラの添付文書の内容を載せています。分子量は約148,000と、低分子医薬品とは比べ物にならないほど大きいことがわかります。

この分子量の物質は、有機合成で作ることはできません。細胞や微生物に、代わりに作ってもらいます。

低分子化合物もバイオ医薬品も、医薬品になるまでのプロセスはほぼ同じです。しかし、バイオ医薬品を作るためには、有機合成ではなく、バイオ系(生物系)の知識や実験経験が必要になります。

下に、バイオ医薬品の求人例を示します。この求人は、第一三共株式会社のものです。

バイオ医薬品を作るためには、細胞や微生物を取り扱います。そして、最終的には細胞や微生物を除去して、有効成分だけに精製しなければなりません。このときの手技も、有機合成とは異なります。

この求人で入社すると、これらの工程に携わることになります。

製薬会社の研究職に転職するときに求められるもの

医薬品ができるまでに多くの研究職が関わっていることを説明しました。では、これらの仕事に転職するためには、何が求められるのでしょうか。

キャリア採用されることが多く、同業種での経験や実績が求められる

これまで紹介した求人を見てもわかるように、研究職は専門性の高い職種です。これまで全く経験したことがない人が、少し勉強をしてできるようなものではありません。

そのため、これまで同じような仕事に従事していたことが求められることが多いです。

実際の求人例を、下に示します。この求人は1.1で紹介したAxcelead Drug Discoverty Partnersのものです。応募資格の欄を載せています。

このように、ある程度の年数の経験と実績が求められる求人が多いです。

学部卒でも応募可能だが、大学院卒以上が条件の求人も多い

転職を考えるとき、学歴が求められる求人は多いです。研究職の場合も同様に、条件に学歴が記載されているものが多いです。

研究職というと、大学院まで修了していなければ就くことができないと考えている人も多いのではないでしょうか。

実は、大学院を修了していなくても応募できる求人はあります。

次の求人は、1.2で紹介した第一三共株式会社の求人です。「対象となる方」の欄には大学院、大学卒以上と記載されています。

このように、最終学歴が大学卒でも応募することができる求人はあります。

その一方で、大学院卒以上が条件となっている求人もあります。下の求人は、1.1で紹介した中外製薬の求人です。「対象となる方」の欄には大学院卒以上と記載されています。

大学院卒以上ということは、一般企業で働いている人だけでなく、ポスドクも含まれます。もちろん、ポスドクで応募できる求人もあります。

下の求人は、広島県にある万田発酵株式会社のものです。専門分野が求人の内容と合致していれば、ポスドクも歓迎されることがわかります。

このように、製薬会社の研究職への転職では、学部卒からポスドクまで幅広い受け入れがあります

製薬会社への転職では、薬学部や薬学系の大学院出身である必要はない

製薬会社への転職を考えているあなたは、「薬学部出身ではないから、採用されないのではないか」と考えていないでしょうか。

実は、製薬会社の研究職で働くために、薬学部や薬学系の大学院出身である必要はありません。

下に、実際の求人例を示します。この求人は大手製薬メーカーのものです。

もちろん薬学出身でも応募できますが、理学、工学、農学系でも応募できます。要するに、理系学部であれば、どこでも問題ありません。

この求人では下のように、医薬品候補化合物のルート探索、プロセス開発などを行います。

そのため必要になるのは、有機化学の知識や実験経験です。薬に関する知識ではありません。

そして、有機化学は薬学部以外の学部でも勉強します。これは有機化学以外の、バイオ系、分析関係、製剤関係であっても同じです。

以上のように、製薬会社の研究職に就職するために、薬学出身であることを求められることはありません。

研究職であれば、英語力はどの分野でも求められる

高い英語力があれば、転職活動を有利に進めることができます。学生時代の就活の時期に、就活用にTOEICを受けた人もいると思います。

製薬会社の研究職に転職を考えているのであれば、高い英語力が求められる求人は多いです。そして、それはどの分野においても同様です。

これまでに紹介した求人のなかで、1)in vitro評価系の構築、2)製剤化、3)分析研究の求人の「対象となる方」の欄を紹介します。

まずはin vitro評価系の構築を行う求人です。

続いて、製剤化を行う求人です。

最後に、分析研究を行う求人です。

いずれの求人でも、高い英語力が求められていることがわかります。

この理由は、英語論文を読む機会が多いことや、海外の会社との会議や海外赴任があることが挙げられます。

1つの製薬会社で、医薬品の研究開発のすべての工程を行うことはありません。一部の工程を外部の会社に依頼したり、共同で研究したりすることが多いです。例えば、合成した化合物の活性評価を外部の会社に依頼することがあります。

そして、日本国内の会社ではなく、海外の会社と共同研究することは珍しいことではありません。このような場合、電話会議をしたり、直接現地を訪れたりする機会はあります。

このように、製薬会社の研究職は高い英語力が求められることを覚えておきましょう。

創薬研究への転職で高年収を狙う

転職をするときに、だれでも高い給料をもらうこと希望します。転職の理由が「今の給料に不満があるから」という人も多いです。

転職サイトdodaを運営するパーソナルキャリア株式会社が、転職理由を調査した結果を下に示します。

引用:転職理由ランキング2018<総合>

給与面は、転職理由の第3位です。そして、給与面が理由で転職する人の割合は、徐々にですが増加傾向です。

実は、製薬会社の研究職は、年収が高い仕事の1つです。下の求人は、Axcelead Drug Discoverty Partnersのペプチド化学研究者を募集している求人です。

最高で年収1,249万円になる可能性もある求人です。この求人に限らず、最高で1,000万円を越える求人は、転職サイトでもいくつか紹介されています。

この求人の場合は700万~1,249万円と幅が549万円あります。最終的な金額は、これまでに経験した仕事内容、実績によって決まります。

この求人では、ペプチド合成化学の経験者であることが必須条件となっているので、この分野での実績があれば、高年収を勝ち取ることも可能でしょう。

このように、製薬会社の研究職に転職することで、年収アップを狙うことができます。

複数の転職サイト(転職エージェント)を利用するのが基本

ここまで説明してきたように、製薬会社の研究職は高い専門性が求められると同時に、高い年収も期待できる職種です。

しかし、高い専門性が求められるがゆえに、あなたの経歴と、製薬会社の求めるものがマッチしないこともあります。

また、希望勤務地もあなたの希望に合うものが見つかるかはわかりません。同じ製薬会社の研究所が、全国各地にあることはありません。

私は岡山県に住んでいます。転職サイトで、岡山県内で製薬会社の研究職の求人を探しましたが、そもそも製薬会社自体がほとんどないので、研究職の求人は全く見つかりませんでした。

このように、あなたの専門、希望勤務地などの条件をすべて満たすような求人を見つけるのは大変です。

そこで、転職サイトを利用するのであれば、1つではなく複数利用するとよいです。別の求人サイトを使ってみると、それまで使用していた転職サイトに掲載されていない求人情報が見つかることは頻繁にあります。

複数の転職サイトを利用することで、少しでも多くの求人に触れることが大切です。

また、転職エージェントも積極的に活用しましょう。

あなたが現在仕事に就いているのであれば、求人を探し、エントリーし、面接の日程を調整するなどを、時間を見つけてすべて自分でやる必要があります。これはかなり大変な作業です。

転職エージェントを利用すれば、転職エージェントがこれらをあなたの代わりに行ってくれます。

また、自分が興味のある求人の詳細情報や、興味がある職種の仕事内容について質問をすると、丁寧に教えてくれます。

そして、転職エージェントには、インターネット上には公開されていない求人(非公開求人)がたくさんあります。非公開求人の数は、公開求人の数の3~4倍ほどあるともいわれています。

転職エージェントを活用することで、これらの恩恵を受けることができます。希望に合った求人を見つける可能性も高くなるでしょう。

まとめ

ここでは、製薬会社の研究職が行う実際の仕事内容を説明し、実際の求人例を基に製薬会社に転職するために必要な要件を解説しました。

医薬品ができるまでには、探索合成、活性評価、プロセス開発、製剤化、分析研究など、多くのステップがあります。そして、これらのそれぞれのステップごとに、専門知識や経験を活かせる研究職の仕事があります。

求められる学歴は、大学院卒以上が条件のものもありますが、学部卒でも応募できる求人もあります。

また、製薬会社に転職するためには、薬学出身である必要はありません。

そして、製薬会社の研究職に転職するのであれば、高い英語力が求められることが多いです。

製薬会社の研究職への転職は、専門性、勤務地などすべて希望に沿った求人を見つけることは難しいです。そこで、転職サイトを複数利用したり、転職エージェントを活用したりすれば、多くの求人に触れることができ、希望の求人を見つけやすくなります。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。