医薬品を研究開発する創薬研究は、主に製薬会社で行われています。製薬会社の合成担当者は、医薬品候補化合物を日々合成しています。

そして、合成した化合物は、いきなりヒトに使用することはありません。なぜなら、化合物を合成した時点では、本当に効果があるのか、副作用が現れないのかなどが全くわからないからです。

そのため、ヒトに投与するまでには、ヒトの代わりになる動物を使用した評価をしたり、細胞やタンパク質を使用した評価を行ったりします。このような、ヒトに投与する前に行う試験を「非臨床試験」と呼びます。

そして、非臨床試験と一言でいっても、実施する試験の種類は多く、就職先は製薬会社以外にもあります。

ここでは、医薬品開発の非臨床試験に携わるための求人について、仕事内容と求人例を示しながら解説します。

医薬品開発における非臨床試験の位置付けと仕事内容

下に、医薬品開発の一般的な流れを図で表しています。

非臨床試験とは、探索研究で合成された化合物を活性評価し、ヒトに投与する試験を行うために必要なデータを揃える試験を指します。非臨床試験のことを、前臨床試験、前臨床研究、非臨床研究などと呼ぶこともあります。

医薬品は最終的にはヒトに投与して、薬理効果や安全性を試験します。この試験は、臨床試験と呼ばれ、3つの相(フェーズ)に分かれます。

臨床試験を行う前に実施されるのが、非臨床試験です。非臨床試験では合成した化合物が薬理活性を示すか、毒性を示さないかなどを確認します。

これらの試験で期待していた効果が認められることを、POC(Proof of concept)といい、非臨床POCを得ることを目的に試験を実施します。

では、非臨床試験では具体的にどのような実験をするのでしょうか。大きく分けると、以下の2つに分類できます。

  • in vitro試験(動物を使用せず、タンパク質や細胞を用いる)
  • in vivo試験(動物を使用する)

続いて、これらの実験内容について、具体例を示しながら解説していきます。

in vitro試験

合成した化合物は、最終的にヒトに投与するまでに、さまざまな活性評価をする必要があります。そのなかで、最初に実施される評価がin vitro試験です。

in vitroは、ラテン語で「ガラスの中」「試験管内」という意味があります。そのため、in vitro活性評価では、動物を使用しません。

in vitro活性評価では、動物ではなく、動物由来のタンパク質や細胞を使用して、合成した化合物が目的の活性を示すかを試験します。

下の写真は、タンパク質に対する活性評価をするために使用する細胞の分注をしているところです。マイクロピペットで定められた量を分注して、活性評価に利用します。

そして、タンパク質に対する活性は、下の写真のようなマイクロプレートを使用し、それぞれの穴の吸光度や蛍光強度を測定して評価します。

in vitro試験は、医薬品開発の最初のハードルと言えます。ここで活性が認められないと、動物実験に進むことはありません。

in vivo試験

in vitro試験で活性が認められると、動物を使用したin vivo試験に進みます。in vivoとは、ラテン語で「生体内の」という意味で、動物実験のことを指すことが多いです。

そして、医薬品開発におけるin vivo試験は、以下の2つに分かれます。

  • 薬理試験
  • 安全性試験

続いて、これらの試験について解説していきます。

・薬理試験

医薬品候補化合物は、目的の活性を示さなければ意味がありません。例えば、高血圧治療薬を開発しようと思うと、化合物を動物に投与して、血圧が下がらなければなりません。

このように、化合物に効果があるかどうかを試験するのが薬理試験です。

合成した化合物は、in vitroで活性があっても、in vivoで活性が認められなければ意味がありません。in vivoの薬理試験では、in vitro試験で活性が認められた化合物を動物に投与して、活性があるかを試験します。

このときに使用する動物は、マウスかラットが多いです。マウスとラットを比較すると、マウスの方が小さく、体重は大きくても40g程度です。一方で、ラットは大きくなると700gほどになります。

引用1:日本チャールズリバー プロダクト 国内生産動物 マウス ICRより

引用2:日本チャールズリバー プロダクト 国内生産動物 ラット CD(SD)より 

続いて、鎮痛薬の開発を例に、in vivo薬理試験の内容を解説します。もちろん、動物に「どのくらい痛いですか」と質問しても、返答はありません。

そこで、痛みの程度を定量的に評価できるような実験系を構築する必要があります。例えば、鎮痛薬の評価で一般的な試験法の1つに、「カラゲニン浮腫試験」があります。

カラゲニンという物質をマウスの足に皮下注射すると、炎症が起きて、痛みが生じます。痛みが生じると、マウスは足で患部を掻くようになるので、掻く回数が薬の投与により、どの程度減るかで化合物の効果を判定することができます。

このような試験を行い、動物に対する化合物の効果を判定するのが薬理試験です。

・安全性試験

医薬品を研究開発するときに、目的の活性を示すことは必須です。そして、最終的には医薬品としてヒトに投与するので、毒性を有していてはいけません。

そのため、ヒトに投与する前に、動物を使用してどのような毒性があるか、化合物にどのような特性があるのかなどについて試験を行います。これらの試験を安全性試験と呼びます。

そして、安全性試験は毒性試験と薬物動態試験に分けられます。下に、これらの試験項目の一部を、試験内容と共にまとめています。これらの試験は、国際会議で定められたガイドラインに基づいて実施されます。

分類 試験項目 内容
毒性試験 急性毒性試験 化合物を1回だけ投与したときの毒性を明らかにする
反復投与毒性試験 化合物を繰り返し投与したときに、明らかな毒性変化が起きる投与量とその変化の内容、及び毒性変化の認められない投与量を求める
がん原性試験 6か月以上化合物を投与して、ヒトでの発がんリスクを予測する
薬物動態試験 薬物動態試験 化合物の吸収、分布、代謝、排泄を検証する

特に、効果が認められる投与量と、毒性が現れる投与量の差がほとんどないと、副作用が現れやすいという判定になり、開発を進めるのが難しくなります。

また、薬物動態試験で成分が脳へ移行することがわかると、脳の機能に影響を及ぼす副作用が発現する可能性があります。脳は、動物にとって重要な器官です。

医薬品は、体内に吸収されると異物としてみなされます。そのため、医薬品を投与しても脳に影響が現れないようにするために、医薬品を脳に移行しにくくするバリア機構が動物には備わっています。もちろん脳で作用する化合物であれば、このバリア機構を突破して脳内に移行する必要があります。

例えば、血圧を下げるための薬や血糖値を下げる薬は、脳内に移行する必要はありません。このような化合物は、脳内に移行しない方がよいです。

脳細胞はダメージを受けると、回復することはありません。そのため、脳内に化合物が移行するかは、重要な検討項目の1つです。

このように、医薬品開発において安全性試験は、薬理試験と同様もしくはそれ以上に重要な試験といえます。

ここまで、非臨床試験は、in vitro試験とin vivo試験に分けることができ、in vivo試験は薬理試験と安全性試験に分類されることを説明しました。これらをまとめたものが、下の図になります。

非臨床試験と一言でいっても、多くの仕事に分類できることがわかると思います。

in vitroとin vivoの両方に携わることは普通

ここまで、動物を用いないin vitro試験と動物を用いるin vivo試験について、仕事内容や特徴を紹介しました。

これらの試験は、扱う対象物が異なるので、実験はそれぞれの担当に分かれると思ったのではないでしょうか。実は、in vitro試験とin vivo試験は、兼任することが多いです。実際の求人情報を例に解説します。

下の求人は、会社名は非公開ですが、奈良県にある製薬会社のものです。そして、この求人の「仕事内容」の欄には、以下のように記載されています。

 

in vitroとin vivoの薬理試験法の開発が、仕事内容に挙げられています。薬理試験法の開発とは、適切に薬理評価が行える実験系を構築することです。

実験系の構築について、糖尿病に効果を示す酵素阻害薬を開発する場合を例に挙げて説明します。

in vitro試験では、標的の酵素と化合物を混ぜて、酵素の活性を阻害するかを評価します。評価には、前の項でも紹介したマイクロプレートを使用することが多いです。そして、最終的には下の写真のような、プレートリーダーなどの機器を使用し、化合物の活性を定量的に評価します。

引用:株式会社池田理化 研究機器カタログより

続いて、in vivo試験になると、糖尿病のマウスやラットに化合物を投与して、血糖値が改善するかを評価します。そのためには、糖尿病のマウスやラットが必要になります。

このとき、遺伝子を組み替えて、生まれながらにして糖尿病のマウスやラットを作成します。このような動物を、モデル動物と呼びます。モデル動物の作成も、試験法開発の仕事内容の1つです。

私の知り合いで、製薬会社の薬理試験部門で働いている人に話を訊くと、以下のような話をしてくれました。

薬理試験はチームを組んでやる。なかには動物アレルギーがあって、どうしても動物実験ができない人がいる。そして、in vitro評価のスペシャリストなどは、in vitroの実験しかやらないこともある。

そのような場合を除くと、ほとんどの人はin vitro試験とin vivo試験の両方をやっている。

大手の会社で、研究員の人数が多いところは、部署が細分化されており、特定の実験しかしないこともあります。

私が話を訊いた知人が働いているのは、日本国内でもよく知られた製薬会社で、大手製薬会社に分類されます。そのような会社でもin vitro試験とin vivo試験を兼任しています。

したがって、大手製薬会社より社員数の少ない会社では、in vitro試験とin vivo試験にそれぞれ人員を割いているとは考えにくいです。そのため、多くの会社で両方の業務を行っていると考えてよいでしょう。

非臨床試験に従事する就職先

では、非臨床試験に従事するためには、どのような会社に就職する必要があるのでしょうか。続いて、実際の求人例を紹介しながら、どのような就職先があるのかについて解説してきます。

製薬会社

非臨床試験は、医薬品を開発するために必要な試験です。医薬品を研究開発しているのは製薬会社なので、最初に思いつく就職先は製薬会社ではないでしょうか。

もちろん、製薬会社では非臨床試験が盛んに行われています。実際に、どのような求人があるのかを下に紹介します。

この求人も会社名は非公開になっていますが、神奈川県にある製薬会社の求人です。この求人で採用されると、非臨床試験のなかでも薬効薬理試験を担当することになります。

業務内容には、in vitroとin vivoの両方を行うことは謳われていません。しかし、必須要件にはin vitroとin vivoの薬理評価の経験が挙げられています。したがってこの求人では、入社後に両方の試験に従事することが予想されます。

また、この求人で採用されると薬理試験の担当者として働くことになりますが、ほかの職種の人との連携も必要になります。例えば、医薬品の候補化合物を合成する探索合成の担当者や、薬物動態を担当する研究者などです。製薬会社で働くと、このような関係する部署との連携も求められます。

医薬品開発受託機関(CRO)

製薬会社で非臨床試験を実施していることは、イメージしやすいと思います。

そして、製薬会社以外でもここまで説明してきたような試験を実施している会社があります。それが医薬品開発受託機関(CRO)です。まずは、CROについて解説します。

医薬品の開発には、膨大なお金がかかります。1つの化合物を医薬品として市場に出すためには、300億円以上かかると言われています。

そのため、開発費を少しでも抑えたいということを、どの製薬会社も考えています。そこで、医薬品開発のうちの非臨床試験の部分を外部企業に委託することがあります。このときの外部企業が、CROです。

製薬会社は、CROに非臨床試験を委託することで、非臨床試験に割く人員を研究開発に回すことができます。CROは製薬会社に代わって実験を行うことで、それに対する報酬をもらいます。

製薬会社とCROの関係を、下の図で示しています。

CROでも製薬会社と同じような実験を行うため、非臨床試験の業務に携わることができます。実際の求人例を下に示します。

この会社は、広島県にあるバイオベンチャー企業の株式会社フェニックスバイオです。国内だけでなく、海外の製薬会社からも試験を受託している会社です。

そして、この求人の「仕事内容」の欄には、以下のように記載されています。

株式会社フェニックスバイオは、肝臓の70%がヒト肝細胞に置換されたマウスを用いた試験に強みをもつ会社です。そのため、肝炎治療薬の開発などで大いに活用できる会社といえます。仕事内容では、マウスを用いた実験を行ったり、マウスの管理をしたりすることが記載されています。

このようにCROでは、製薬会社に代わって非臨床試験を実施することになります。

ちなみに私の知り合いで、製薬会社の雰囲気が合わずに、製薬会社からCROに転職した人もいます。製薬会社だけでなくCROを就職先の選択肢に入れることで、就職の幅を広げることができます。

コンサルティング会社

ここまで紹介してきた会社は、実際に実験を行って、実験データをまとめる作業をする会社でした。最後に、コンサルティング会社の求人を紹介します。

コンサルティング会社では、医薬品開発を行う会社の非臨床試験に対する助言を行います。実際の求人例を下に示します。

この会社は、大阪府に本社があるコアメッド株式会社です。

そして、この求人の「仕事内容」の欄には、以下のように記載されています。

この求人案件では、非臨床試験の戦略構築、評価、分析、助言を行うことになります。

非臨床試験に限らず、医薬品の研究段階は、企業秘密の塊です。そのような開発段階の助言を求める会社は、大手の会社には少ないです。なぜなら、大手の会社にはすでに研究開発のノウハウが蓄積されており、コンサルティングを受ける必要がないからです。

非臨床試験の進め方がわかっている会社は、あえて企業秘密が社外に漏れるようなことはしません。私の知り合いの大手製薬会社に勤める人に訊いても、コンサルティングは受けていないと言っていました。

そのため、このようなコンサルティング会社の顧客は、医薬品開発のノウハウの蓄積が少ないベンチャー企業や中小企業です。これらの会社に対して、どのように非臨床試験を実施すればよいかをアドバイスするのが、コンサルティング会社の仕事になります。

非臨床試験の経験と英語力が求められる

非臨床試験に従事するために、どのような就職先があるかについて解説しました。

それでは、これらの会社に就職するためには、どのような経験やスキルが求められるのでしょうか。それは、非臨床試験に従事した経験と、英語力です。

前の章で紹介した製薬会社、CRO、コンサルティング会社の応募資格の欄をそれぞれ下に示します。

まず、いずれの求人においても、in vitro試験やin vivo試験の経験が必須条件に挙げられています。特にCROの求人では、試験責任者の経験や知識が必須条件の1つなので、長期間に渡って非臨床試験に従事していた経験が求められています。

そして、CROとコンサルティング会社の求人では高い英語力が求められています。なお、製薬会社でも、この求人では応募資格では言及されていませんが、入社後は仕事で英語を使う機会は多くあります。

私の知り合いで、製薬会社で毒性試験に携わっている人に話を訊くと、以下のような話をしてくれました。

私は英語ができる方ではないが、「できる」「できない」に関係なく、英語は使用する。実験のレポートは基本的に英語で書くし、定期的にあるテレビ会議でも英語でディスカッションをする。

このように、製薬会社に就職するとしても、英語力が求められることがわかります。

英語力が求められることには理由があります。それは、ヒトに投与する臨床試験が海外で行われることもあるからです。

海外で臨床試験を行うためには、英語で申請書類を作成し、海外の当局に申請する必要があります。そのため、日頃のレポートやディスカッションでも英語が使用されるのです。

以上のように、非臨床試験の求人に応募するときには、非臨床試験の十分な経験と英語力が求められることを覚えておきましょう。

まとめ

ここでは、医薬品開発の非臨床試験に携わるための求人について、仕事内容と求人例を示しながら解説しました。

非臨床試験は、医薬品開発のなかで、探索合成で見出された化合物が、ヒトに対する臨床試験に使用されるために必要なデータを揃えることが仕事内容です。

その内容は、動物を使用しないin vitro試験と、マウスやラットなどを使用するin vivo試験に分けることができます。そして、in vivo試験は、活性を評価する薬理試験と、毒性や薬物動態を評価する安全性試験に分類されます。

非臨床試験に従事するための就職先としては、第一に製薬会社が挙げられます。

そして、製薬会社から試験を受託して実施する医薬品開発受託機関(CRO)でも非臨床試験を行っています。実施する試験内容は、製薬会社と変わりません。

また、コンサルティング会社に就職することで、ノウハウの蓄積が乏しいベンチャー企業や中小企業の非臨床試験を支援することもできます。

どの会社に就職するとしても、非臨床試験に従事した経験と、英語力が求められることは覚えておく必要があります。

ここで説明した非臨床試験の仕事内容を理解し、あなたのやりたいことに応じて就職先(製薬会社、CRO、コンサルティング会社)を選択するようにしましょう。

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