システムエンジニアとして働くときに、「できれば名の知れた企業で働きたい」と考えるのは自然です。実際に、中小企業と比べて大手企業で働く方が、メリットが多いです。

では、大手企業に転職するときには、どのようなスキルや経験が評価されるのでしょうか。

そして、人によっては中小企業にはないデメリットを感じることもあります。あなたが望む働き方とマッチしていなければ、満足して働き続けることはできません。

ここでは、システムエンジニアが大手企業に転職するときに求められるもの、考え方を具体的に解説します。

大手企業への転職で求められるもの

まず、ここで話をする「大手企業」とは、明確な定義がある言葉ではありません。

そこでここでは、「大手企業=業界で知名度があり、規模が大企業クラスの企業」として話を進めます。大企業クラスの規模とは、①資本金または出資の総額が3億円を超え、②従業員数が300人を超える規模を目安とします。

キャリア採用が基本で、システムエンジニア未経験者の転職は無理

システムエンジニアは、研究職や開発職のなかでも未経験者から挑戦しやすい職種の1つです。実際に転職サイトでシステムエンジニアの求人を探すと、未経験者でも応募できる求人は多いです。

では、大手企業への転職を未経験者でも実現できるかというと、そうではありません。

例えば、次に紹介する株式会社日立製作所の求人は、防衛分野のシステム開発を担当する人材を募集しています。

日立製作所社は電機業界の大手企業です。この求人では、神奈川県横浜市の事業所で働くエンジニアを募集しています。

そして、日立製作所の求人の応募条件は、以下の通りです。SE、PG、インフラエンジニアのいずれかの経験が必須です。

システムエンジニアを募集している求人は、転職サイトで検索すると比較的簡単に見つけることができます。しかし、そのなかで、大手企業で未経験者が応募できる求人は、基本的にはありません。

私が大手転職サイトのdodaで検索した限りでは、システム開発未経験者が応募できる大手企業の求人は見つかりませんでした。

私の友人のなかには、大手企業でシステムエンジニアとして働いている人が何人かいます。彼らに話を訊くと、転職してくる人は経験者ばかりと教えてくれました。

大手企業のシステムエンジニアに転職するためには、システムエンジニアとしてシステム開発や運用に従事した経験が必要です。

異なる業界・業種の大手企業に転職することもできる

システムエンジニアとして働いて身につけたスキルや経験は、同じ業界だけでなく、異なる業界でも活かすことができます。これは大手企業への転職でも同じです。

つまり、あなたが働いている業界内だけではなく、異なる業界の大手企業への転職も可能です。

次に紹介する株式会社カプコンは、ゲーム業界の大手企業です。カプコン社から出されている求人では、ゲーム共通基盤の開発を担当するシステムエンジニアを募集しています。

このカプコン社の求人に応募するために、ゲーム業界でのシステム開発経験は必要ありません。求人票にも、ゲーム開発経験は不問と明記されています。

そして、この求人の応募条件は、下記の通りです。フルスクラッチによるシステム開発経験、システムの企画から運用までの経験、そしてプロジェクトの管理経験が必須です。応募条件にも、ゲーム開発経験は必須ではないと記載されています。

ゲームに限らず、組み込み系や業務系の領域でも、応募条件に記載されている内容の経験があれば、採用される可能性が十分にあります。

なお、前の項で紹介した日立製作所の求人も同様に、ほかの業界からの転職も可能です。求人の選考のポイントとして、「業界未経験の方歓迎」と記載されていました。

この求人では、防衛分野の課題に取り組むエンジニアを募集していました。つまり、これまでに防衛に特化したシステム開発やインフラ構築を経験していなくても、この求人に応募することは可能です。

私の友人のシステムエンジニアには、転職で業界が変わった人が3人います。彼らの転職前後の業界は、下記の通りです。

  • 電機メーカー→自動車メーカー
  • 電機メーカー→建設機械メーカー
  • 鉄鋼メーカー→電機メーカー

いずれの例も、製造業の企業から製造業の企業に転職しており、転職前後で扱う製品は変わっています。しかし、どちらの場合も問題なく転職を成功させており、転職後もシステムエンジニアとして活躍しています。

また、SIerのような情報通信業の企業から、大手メーカー(製造業の企業)へ転職した友人もいます。彼は、IT企業でカメラのシステム開発を担当しており、転職で大手精密機器メーカーに転職しました。

彼の場合は、転職前後で扱う製品は同じですが、企業の業種が変わっています(情報通信業→製造業)。

あなたが身につけたスキルは、今在籍している会社の業界以外でも活かすことができます。幅広い業界・業種から求人を探すことで、求人の選択肢を広げることができ、大手企業への転職を実現しやすくなります。

英語力があればアピールポイントになる

大手企業の多くは企業規模が大きく、開発拠点が複数あります。そのなかには日本国内だけでなく、海外にも開発拠点を構えている企業もあります。

例えば、下に示す三菱電機株式会社は、大手総合電機メーカーです。私たちの身の回りにある家電だけでなく、社会インフラや宇宙システムなども研究開発・製造販売しています。

三菱電機社の求人では、マイクロ波電力送電システムの開発を担当する人材を募集しています。

そしてこの求人では、将来的に海外に転勤になる可能性について触れられています。そして、読み書き、日常会話レベルの英語力は「尚可」として挙げられています。

また、海外に自社の開発拠点がなくても、海外企業と共同で開発をしたり、開発業務の一部を委託したりすることもあります。

私の友人が働く大手電機メーカーでは、東南アジアの企業にプログラミング工程の一部を委託していると教えてくれました。その企業のプログラマーと連絡をとったり、会議を開いたりするときには、英語でコミュニケーションをとる必要があります。

大手企業の仕事のすべてで英語が必要になるわけではありませんが、中小企業と比べて英語に触れる可能性が高いことを覚えておきましょう。

そのため、大手企業のシステムエンジニアに転職するときには、英語力に自信があれば大きなアピールポイントになる可能性が高いです。

大手企業でシステムエンジニアとして働く魅力・メリット

大手企業で働きたいと考えているあなたは、大手企業で働くことに魅力を感じていると思います。

大手企業で働くメリットは大きいです。具体的にどのようなメリットがあるのかを確認してみましょう。

中小企業と比べて年収が高い傾向がある

大手企業=大企業ではありませんが、大手企業の多くは従業員数が多く、売上高も大きいです。ここまで紹介した求人を出している企業は、いずれも大企業に分類されます。

そして、企業規模が大きくなると、その分年収が高くなる傾向があります。

厚生労働省が毎年調査・報告している賃金構造基本統計調査では、会社規模ごとの年収が報告されています。システムエンジニアの企業規模ごとの年収をグラフ化したものが、下の図です。

引用:厚生労働省 賃金構造基本統計調査より

ここまで3件の求人を紹介しました。それぞれの求人で提示されていた年収は、以下の表の通りです。さきほど示した規模が小さい企業の平均年収と比べると、全体的に高いことがわかると思います。

企業名 提示年収

(万円)

(株)日立製作所 450~900以上
(株)カプコン 400~950
三菱電機(株) 450~750

大手企業のシステムエンジニアは中小企業で働く場合と比べて、高い水準の年収をもらえる可能性が高いです。

福利厚生が充実している

大手企業の方が中小企業よりも年収が高いということは、それだけ利益を従業員に還元できる余裕があるということです。

そして、従業員への還元は給料だけではありません。大手企業であれば、福利厚生も手厚いことが多いです。

最初に紹介した日立製作所の求人では、以下の内容の福利厚生が挙げられています。

企業によっては、自前でスポーツ施設をもっていることがあります。私の友人が働く大手精密機器メーカーは、テニスコートを所有しており、従業員は格安で利用することができます。

ほかにも、家賃補助が手厚く支給される大手企業も多いです。家賃の半分以上を会社が負担してくれたり、社宅を所有している企業であれば月に1万円ほどの負担で住めたりします。

このように福利厚生が充実していることも、大手企業で働く魅力の1つです。

経営が安定している。そして、最悪の場合にくいっぱぐれる可能性は低い

大手企業は売上高が大きく、利益も大きいです。企業規模も大きいので、多くのプロジェクトが展開されています。仮に1つのプロジェクトがうまくいかなくても、それだけで会社が倒産する可能性は極めて低いです。

このように大手企業は中小企業に比べると経営が安定していることも、魅力の1つと言えます。

しかしそのような大手企業でも、経営の危機に直面することはあります。

私の友人が働く某大手電機メーカーは、年度の赤字が5000億円を超え、倒産寸前に陥ったことがあります。

この状況を救ったのは、某海外企業です。その海外企業が巨額の出資を行い、経営改善が急ピッチで進められました。その結果、翌年から業績は黒字化し、その2年後にはそれまでの赤字を完全に相殺しました。

結局私の友人は、その電機メーカーで働き続けることができています。

これが名の知られていない中小企業だったら、同じようなV字回復ができたでしょうか。おそらく、救いの手を差し伸べてくれる企業が現れる可能性は低いでしょう。

大手企業で働けば、経営危機の場合でも職を失ってしまう可能性は中小企業で働く場合と比べて低いと言えます。

大手企業で働くときの注意点を把握する

ここまで紹介したように、大手企業で働くメリットは大きいです。しかし、あなたの希望する働き方によっては、大手企業ではなく中小企業の方が満足できる可能性があります。

最後に、大手企業で働くときの注意点を確認しましょう。

プログラミング以降の工程に関わる機会が中小企業よりも少ない

あなたはシステムエンジニアとしてどのような仕事をしたいですか?

システム開発は企画から始まり、設計、開発(プログラミング)、運用保守まであります。これらの工程のなかで、大手企業になるほど上流の企画や設計を任される傾向があります。

最初の章で紹介した三菱電機社の求人の仕事内容には、システム設計やとりまとめ業務が中心に挙げられていました。この求人には、開発工程や運用保守の仕事は含まれていません。

もちろん、求人票に記載されていないだけで、実際は開発工程や運用保守までを任される可能性もあります。あなたがこれらの工程も担当したい想いがあれば、転職前に確認しておかなければなりません。

業務内容の詳細は、選考過程を通じて企業に確認するようにしましょう。

一方で、日立製作所の求人では、システムの提案から運用まで一貫して携われることが記載されていました。この求人では、最も下流の運用まで任されます。

このように、「大手企業=下流工程を担当しない」ではありません。しかし、大手企業になるほど、下流工程はほかの企業に委託する傾向が強いです。

あなたが望む働き方とマッチするか、転職をする前に十分確認してください。

会社によって風土は大きく異なる

システム開発の実務だけでなく、それに付随する業務内容も企業によって変わります。

私の友人が働く大手精密機器メーカーでは、システムの企画・開発の実務だけでなく、年間3件の特許出願がノルマとして与えられています。特許のためにアイデアを出して、特許出願のための書類を作成しなければなりません。

通常のシステム開発もしなければならないので、「特許までやる時間がない」と愚痴をこぼしていました。

一方で、別の友人が働く大手メーカーは、特許出願のノルマはありません。残業をすることもほとんどなく、自分の裁量で業務量も調節できていると話していました。

大手企業ならではの特徴やメリットを紹介してきましたが、企業によって業務内容や風土に違いがあります。

入社前に入手できる情報には限りがあります。しかし、以下のような手段で情報を手に入れることは可能です。

  • すでに知り合いが働いていれば、会社の風土を教えてもらう
  • 転職活動の面接や職場見学の過程で、直接確認する
  • 転職エージェントを介して確認する

少しでも多くの情報に触れて、あなたが希望する働き方にマッチするか、確認をしながら転職活動を進めましょう。

まとめ

ここではシステムエンジニアが大手企業に転職するときに押さえておくべきポイントについて解説しました。

大手企業への転職はキャリア採用が基本です。未経験者が大手企業への転職を成功させることは無理と考えてください。

あなたのスキルを活かして、現在働いている業界や業種以外の企業に転職することができます。求人を幅広く探すことで、転職成功の可能性を高めることができます。

大手企業で働くメリットは多いです。金銭面の魅力だけでなく、安定して働き続けられる安心感もあります。

大手企業によっては、あなたが希望する工程を担当できなかったり、会社の風土が合わなかったりする可能性もあります。事前の情報収集で少しでも多くの情報に触れて、転職後の後悔を防ぐようにしましょう。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。