あなたは、化学系の研究職にどのようなイメージを抱いていますか? 私の周りの研究職でない人に尋ねると、「実験が大変そう」「調べることが多そう」「夜遅くまで実験をしている」などの返答がありました。

確かに大学では、工学部や薬学部など理系学部の研究室は、夜遅くまで電気が付いています。

私も大学院生時代は、日が変わる前に帰宅したことはほとんどありませんでした。コアタイムは朝9時から夕方5時でしたが、このルールは完全に無視された、体力勝負の研究室でした。

では、社会人として研究職で働く場合の実情はどうなっているのでしょうか。

ここではまず、化学系の研究職の仕事内容を解説します。そして、どのような「きつさ」があるか、逆にどのような場面でやりがいを感じることができるかについて、私の体験も交えて紹介します。

問題解決のために実験を繰り返す

研究職の仕事は、目の前にある問題点を解決することです。ただ、問題点というととっつきにくいかもしれません。

そもそもあなたの周りの仕事のほとんどは、問題点を解決するために行われています。

わかりやすい例は、病院などの医療機関です。病院は、体の調子が悪いときに行きます。

体調を改善するためには、原因がわかる必要があります。そのために、様々な検査をします。

医師は、その結果に基づいて、適切な処置の方法や治療薬を選択します。このように、病院の仕事は、体の問題を解決することです。

では、研究職ではどのような問題点を解決するのでしょうか。一部の例を挙げると、以下のようなものがあります。

  • 効果(活性)が悪い
  • 期待していない効果がある(例:副作用)
  • 製造コストが高い

このように、化学製品の問題点を解決することが、化学系の研究職の仕事です。

続いて、実際に私が研究していた内容を例に、もう少し具体的な説明します。私が化学メーカーの研究職で携わっていたのは、感熱紙の成分の研究開発です。

感熱紙は、身近なものではレシートに使用されています。レシートを爪でひっかくと、下の図のように黒い線がつくのを知っている人は多いでしょう。

これは、ひっかいたときに生じる摩擦熱で、レシート表面で化学反応が起き、色素が白色から黒色に変化するために起きます。

そして、感熱紙に含まれる成分は、構造が少し違うだけで、熱をかけたときの色のつき方や、水がついた時の色の落ち方などが全く違ってきます。私は、この成分の研究開発に携わっていました。

では、実際の研究の流れを紹介します。

研究が始まるときは、まずはどのような性能を有した成分を研究開発するかを決めます。例えば、「水がついても色が落ちない成分を開発する」などです。

そして、そのコンセプトにあった成分が見つかるまで、有機合成を続けます。

合成した化合物は、実際に紙に塗って、熱をかけたときの色のつき方や、水をつけたときの色の落ち方など、さまざまな項目を評価します。目標となる性能を有する成分が見つかるまでは、合成と評価を繰り返します。

評価をして、製品になりそうな化合物が見つかると、次は化学プラントでの製造に向けた研究に移行します。

まず、とにかく製造コストを抑える必要があります。感熱紙はレシートなどが代表例ですが、売価が非常に安いです。

使用する側の立場になって考えるとわかりますが、レシートの原紙を購入するのに経費をかけたくはないです。

有機化学の教科書に載っている、誰もが知っている有名な反応条件は、意外と高価な試薬が使われていることも多いです。そのため、知恵を振り絞って、どのような反応条件がよいかを考えなければなりません。

自分の知恵だけでは思いつかなければ、論文や特許を検索して、どのような反応条件があるかを調べる必要があります。

そして、製造にかかる時間もコストに影響します。24時間で1ロット製造するのと、48時間で1ロット製造するのでは、生産性が2倍違います。

また、製造コストには、人件費も含まれます。そのため、1ロットを製造するのにかかる時間は少しでも短い方が、製造に必要な人員も少なくなるので、最終的な原価は安くなります。

このような研究の過程のなかで、解決しなければならない問題点は、以下の内容です

  • どのような構造の化合物が、目的の性能を有するか
  • 目的化合物を、いかに安い原料で製造できるか
  • 目的化合物を、いかに短時間で製造できるか

それぞれの項目から、さらに細かい問題点を抽出し、それぞれ解決していかなければなりません。このような問題点を解決していくのが、化学系の研究職の仕事です。

研究以外の業務も多い

研究職として仕事をしていると、研究以外の仕事に時間を割かれることがあります。そして、その時間は意外と多いです。

例えば、会議も研究以外の時間といえます。検討して得られた知見は、上司や他部署に報告する必要があります。

そして、今後どのような検討をしていくのか、方向性は今のままでいいのかなどを、部署内や他部署も交えて議論します。

また、会社によっては、さまざまな委員会が開催されます。私が働いていた会社にも多くの委員会がありました。そのなかで印象的だったのは「5S委員会」です。

5Sとは「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「(躾)しつけ」のローマ字の頭文字をとったものです。これら5Sを実践することで、仕事が行いやすくなることから、多くの会社で「5Sが大切だ!」と言われると思います。

ちなみに、私が今働いている職場にも、5S活動を推奨する下のような掲示がされています。

各職場で5Sをどのように実践するか、5S活動ができているかを話し合う場が5S委員会でした。

5S自体は非常に意味のあることだと思います。しかし個人的には、わざわざ忙しい合間を縫って、各部署の委員の構成員が集まる必要があるのかは疑問に感じていました。

ほかにも、英会話に力を入れている会社であれば、業務時間内に英会話の研修が組み込まれていることがあります。

海外出張があったり、海外の関連会社との折衝があったりする場合は、英語力が求められます。

私が在籍していた会社でも、週1~2日、1回1時間程度の英会話の研修がありました。

このように、研究職で働いていると、本業の研究以外にも多くの時間が割かれます。

もちろん、「英会話に時間を割かれたので、実験が進みませんでした」と報告はできません。忙しさの合間を縫って、効率的に研究を進める必要があります。

精神的・体力的にきついこと

前章では研究職の仕事内容について説明しました。では、これらの業務を進める上で、どのような苦労があるのでしょうか。

逆に、研究職はただしんどいだけなのでしょうか。どのようなときに、楽しさややりがいを感じられるのでしょうか。

続いて、これらについて解説していきます。

新しいことを生み出さなければならない

研究職の仕事はやる前から結果がわかっていることはありません。

例えば、医薬品の候補となる化合物を研究開発しようとしているとします。そして、化合物Aは活性がなく、化合物Bは活性が中程度で、化合物Cは活性が強いとします。

では、化合物Cよりもさらに活性が強い化合物を作ろうとしたときに、どのような構造の化合物を作ればよいと思いますか?

もしかしたら化合物Dは活性が強いかもしれないですし、全く活性がないかもしれません。

その答えは、誰もわかりません。これまでに得られたデータを基に、活性が強くなりそうな構造を考え、実際に作ってみるしかありません。

このとき、化合物を闇雲に作るのはよくないです。時間は有限なので、少しでも効率的に成果を出す必要があります。

仕事として化合物を合成するので、「なぜその化合物を作ろうと思ったのか」を上司や他部署に説明できなければなりません。

そして、もし予想外の結果が出たとしても「ダメでした」とだけ報告してはいけません。次に検討する内容を、必ず提示しなければなりません。

研究ではうまくいかないことが多いです。そして、その度に別の解決策を考え、実践していく必要があります。

残業時間は少ない

あなたもテレビのニュースで、ブラック企業の話や、過労死の話題が取り上げられているのを見たことがあるでしょう。

私もかつて働いていた化学メーカーで、繁忙期には月に100時間を超える残業をしたこともあります。残業代は100%支給されていたのでブラック企業ではありませんでしたが、体力的にはかなりしんどかったです。

しかし、最近は残業時間が厳しく管理されるようになり、残業が少ない会社が増えています。会社によっては、以下のような残業時間を減らす取り組みをして、残業時間を減らしています。

  • ノー残業デーを設ける(例:毎週水曜日)
  • パソコンが決まった時間には強制的にシャットダウンされる(例:20時)
  • パソコンの起動時間がパソコンに記録される(退社後のサービス残業もできない)

私が以前働いていた会社の元同期に話を訊くと、今は定時に退社することも多く、残業時間は減らすよう指示されていると話してくれました。

学生時代は、夜遅くまで研究室にこもって実験をすることもあります。しかし、社会人として研究をする場合は、残業時間はあまり多くないと考えてよいでしょう。

何をしんどいと感じるか

研究職の仕事は、残業時間こそ少ないものの、求められるものも大きいので、ストレスがかかりやすいと考えられます。

では、研究職はただしんどいだけでしょうか。もちろんそんなことはありません。

要するに、「何にやりがいを感じられるか」が大切になります。

この章で説明したように、研究職では新しいものを生み出さなければなりません。上司や、他部署からは不可能に近いようなミッションを与えられることもあります。

そして、そのような難易度の高い課題は、簡単には解決できません。しかし、持っている知識だけでなく、調べた情報も駆使して問題を解決できたときの喜びは、体験した人でないとわかりません。

私もかつて必死に調べて、研究所の上司だけでなく、共同研究していた生産管理部の部長や、研究所を管轄している事業部も納得するような解決案を提示できた経験があります。

実際に実験をして、うまくいった結果を報告するときの喜びは、会社を退職して何年も経った今でも覚えています。

研究職の仕事は問題点を解決することですが、簡単に解決できるものばかりではありません。なかには、解決することができないような問題もあります。

解決できるかどうかもわからない状態で、検討を繰り返さなければならないこともあります。このようなときは当然、精神的につらい思いをします。

したがって、誰でもできるような、やる前から結果がわかっているような実験をやりたい人は、研究職には向いていないでしょう。

必死に考え、悩み抜いて解決策が見つかったときの感動は、何物にも代えがたいです。そのような経験ができることが、研究職の醍醐味といえます。

実際の求人情報

では、化学系の研究職の求人にはどのようなものがあるのでしょうか。しんどさについては記載されているのでしょうか。

「弊社は楽です」と紹介されている求人はない

これは、改めて説明するようなことではないでしょう。

前章で説明したように、研究職は新しい知見を求めて、日々実験を繰り返す仕事です。楽なわけがありません。

しかし、研究職はしんどいだけでもありません。うまくいったときの喜びも感じられる職種です。

下の求人は、愛知県名古屋市に本社がある総合塗料メーカーの菊水化学工業株式会社のものです。この求人で採用されると、岐阜県にある工場で建築用塗料の製品改良や新製品の研究開発に携わることになります。

この求人は、大手転職サイトのdodaで見つけたものです。そして、この求人情報には、「社員インタビュー」の欄が設けられており、以下のように記載されています。

しんどさの中にも、やりがいが感じられることが記載されています。これは、どの会社の研究職にも共通しています。

もし求人情報に「楽」や「しんどくない」と記載されていれば、それは確実に嘘です。

化学系の研究職は、知恵を振り絞り続けなければならない職種です。そして、そのしんどさを乗り越えた先に、やりがいや喜びを感じられるのが魅力といえるでしょう。

残業時間が求人情報に記載されている

企業によっては、求人情報で残業時間の少なさをアピールしたり、残業時間の目安を提示したりしています。

下の求人は、大阪府に本社がある株式会社片山製薬所のものです。

この求人で採用されると、大阪府枚方市にある工場で医薬品原薬・中間体の合成法・合成プロセスの検討を行うことになります。

そして、この求人の「勤務時間」の欄には、以下のように残業時間の目安が示されています。

月に15時間の残業は、現在のあなたの職場と比べても少ないのではないでしょうか。

研究職のほかの求人を見ると、10時間以下が示されている求人もあります。多くても40時間を超えるような求人例はありませんでした。

続いて、転職サイトdodaを運営するパーソルキャリア株式会社が、残業時間を調査した結果を示します。この調査は、研究職以外のすべての職種も含まれています。

引用:残業時間の実態調査2011より

この調査結果と比べても、研究職の残業時間は少ないといえます。

最後に、もう一例求人を示します。この会社は、東京に本社があり、福岡県の工場で医薬原薬の工業化検討を行っている株式会社エーピーアイコーポレーションです。

この求人の「勤務時間」の欄には、以下のように残業時間の目安が記載されています。

実は、この求人で募集している部署で私の知り合いが働いており、職場の実情を訊くことができました。その方は、以下のように話してくれました。

入社したときは残業時間が多かったが、今は、残業時間は減っている。今は定時で退社することも多い。

残業時間は、どんなに多くても40時間以内にするよう上司から指示されている。

求人情報に記載されている内容と、私の知人の話は一致しており、求人情報の内容が真実であることがわかります。

このように、研究職の残業時間は少ないことが一般的です。残業が多いことで、体力的にしんどい思いをすることはほとんどないと考えてよいでしょう。

転職エージェントを介して社内の実情を確認する

実際に転職活動をするときには、転職エージェントを介して、会社の内部の状況を確認するとよいです。

例えば、具体的にどのような作業(実験)をするのか、残業時間はどのくらいかなどです。

転職エージェントは、企業の情報をいろいろと持っています。そして、企業がどのような人材を求めているかも把握しています。

あなたが希望している働き方ができるかどうかも判断してくれます。

何の情報もなく就職して、「こんな職場とは知らなかった」と思っても後の祭りです。

転職エージェントを活用することで、転職の失敗を防ぎやすくなることを覚えておきましょう。

まとめ

ここでは、化学系の研究職の仕事内容を、私の実体験も交えて解説しました。

化学系研究職の主な仕事は、化学製品の問題点を解決することです。問題点を解決するために、実験を繰り返し行います。

そして、意外と本業の研究以外の業務が多いことも覚えておきましょう。

研究職は、これまで誰も解決できていない問題を解決する仕事なので、精神的にはしんどい仕事です。しかし、解決できたときの喜びは、何物にも代えがたいです。

また、残業時間は、少なくなる傾向があります。夜遅くまで実験をしなければならないことは、ほとんどないでしょう。

実際に転職活動をするときは、転職エージェントを活用するとよいです。求められる仕事内容や、どのような働き方ができるかを事前に確認するようにしましょう。

研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。