お菓子メーカーの商品開発職は、原料を選定する開発の上流工程から、工場での量産化まで携わることができるやりがいのある仕事を担当します。

このように幅広い仕事を担当する職種のため、会社によって仕事内容が異なることも珍しくありません。同じ商品開発職でも、会社が違えば担当する仕事内容が違う可能性は十分あります。

納得できる転職を成功させるためには、商品開発職がどのような仕事を担当することになるのかを事前に把握しておくことは大切です。

ここでは、お菓子メーカーの商品開発職に転職するときに押さえておくべきポイントを解説します。具体的には、求人ごとの仕事内容の違い、転職で求められる経験・スキル・資格、最後に年収の相場を紹介します。

商品開発の求人票の特徴を理解する

商品開発では、商品企画の担当者が考えた商品コンセプトを実際の商品に作り上げていきます。最終的には工場での製造に落とし込むまでを担当することになります。

実際の求人例を紹介します。この求人は、会社名は非公開ですが、大阪府八尾市にある和洋菓子の製造販売を行っている企業のものです。

原料の選定、商品の試作、工場ラインへの落とし込みなど、開発工程の上流から下流まですべての工程が挙げられています。

原料を選定するときには、どのメーカーのどの規格の原料を使用するかを決めます。規格も純度、粒度など、さまざまな項目を決めなければなりません。

例えば、砂糖をスーパーで買う場合でも、以下の写真のように多くの種類があります。これらはどれも純度、粒度、色が異なります。商品開発に携わると、目的の品質・味を達成するためにどの原料がよいかを、無限ともいえる種類の原料から選ぶ必要があります。

工場のラインへの落とし込みでは、商品開発職だけで仕事は完結しません。工場の生産技術職や、品質管理の担当者も加わり、どのように量産化を実現するかを検討します。

そして、商品開発職の仕事は、この求人で挙げられているような典型的な開発の仕事だけではありません。

会社の規模、部署ごとの役割分担によっては、ほかの職種が行う仕事も担当することがあります。続いて、求人によって担当する仕事にどのような違いがあるのかについて、実際の求人例を示しながら紹介します。

商品企画の仕事を兼任することも多い

商品開発の求人票を見てみると、商品企画の仕事も挙げられている求人が多いです。実際の求人例を下に示します。

この求人は、東京都墨田区にあるお菓子の製造販売だけでなく、レストラン事業も行っている企業のものです。この求人では、冒頭に「商品企画・開発」と記載されており、商品企画と商品開発の両方の業務に携わることがわかります。

そして、この求人票の「仕事内容」の欄には、商品企画と商品開発の両方の業務が挙げられています。

商品企画は、新商品のコンセプトを立案したり、どの客層をターゲットにするかなどを考えたりする職種です。マーケティング職とも呼ばれることがあり、試作品を作ったり、工場での製造の調整をしたりすることは、商品企画の仕事には含まれません。

なお、この企業には商品開発専任の担当者がいないので、商品企画と商品開発を兼任して新商品の開発を行うことになります。

この企業のように、商品企画と商品開発を兼任することは珍しいことではありません。私の知り合いが働いているお菓子メーカーでは、商品企画と商品開発は同じ部門に属していて、協力しながら仕事をしていると教えてくれました。

あなたが商品開発だけに専念したいのであれば、求人票に挙げられている仕事内容をしっかりと確認する必要があります。

営業職に同行することもある

商品開発に携わると、自社のキッチンや研究施設で試作品を作ることが主な仕事です。

しかし、オフィスのなかだけですべての仕事が完結するわけではありません。企業によっては、営業部隊に同行して、製品の概要を説明することもあります。

下に示す求人は、愛知県豊橋市にあるお菓子メーカーのものです。この求人で挙げられている仕事内容には、技術営業同行が含まれています。

新製品の特徴については、実際に開発に携わった人が一番くわしいです。そこで、新製品を取り扱ってもらうために営業職がコンビニやショッピングモールの本部を訪問するときに、商品開発職の担当者も同行することがあります。

また、商品開発職が営業職に同行することには、別のメリットもあります。それは、営業時にお客さんから新商品開発の提案が出ることもあり、その場でより具体的な話を進めることができることです。

営業職に新商品開発の提案があっても、自社で開発できるのかは判断できません。その場でははっきりとした返答はできないので、持ち帰って、後日返事をすることになります。

その一方で、商品開発職の担当者がその提案を受けることができれば、その場で素案を煮詰めることができます。このようなビジネスのチャンスを逃さないためにも、商品開発の担当者が営業職に同行することがあります。

転職成功に必要な経験・スキル・資格を確認する

では、お菓子メーカーの商品開発職に転職するときには、どのような経験が求められるのでしょうか。また、転職活動を有利に進めることができる資格やスキルはあるのでしょうか。これらについて順に紹介していきます。

商品開発の経験が求められる求人が多い

お菓子メーカーの商品開発に転職するときに、多くの求人で求められるのが「商品開発に従事した経験」です。

冒頭で紹介した求人では、以下のように7年以上食品開発に携わった経験が必須条件に挙げられています。

なお、この求人では7年以上と比較的長い期間の経験が求められています。この理由は、課長候補となるような人材を募集しているからと考えられます。管理職候補でなければ、3年ほどの業務経験があれば応募できる求人が多いです。

そして、管理職候補でもそれ以外の場合でも、求められる業務経験は、必ずしもお菓子メーカーではないことが特徴の1つです。

さきほどの求人でも、求められるのは食品開発に携わった経験です。つまり、お菓子でなくても、インスタント食品、総菜、飲料などの商品開発に携わった経験があれば応募することができます。

求人例をもう1例示します。この会社は、岐阜県羽島郡にある老舗のお菓子メーカーです。この求人では製品開発(商品開発と同じ)の担当者を募集していますが、お菓子メーカーでの経験は希望条件であり、必須条件ではありません。

お菓子メーカーの商品開発職で働いている知人に話を訊くと、過去に食品会社でカップラーメン、ケチャップ、ソースなどの開発をしていた人が転職してくることがあると教えてくれました。

このように、お菓子メーカーの商品開発の求人では、お菓子メーカーでの業務経験がなくても応募できる求人が多いことを理解することで、転職の選択肢が広がります。

仕事内容によっては商品企画の経験も求められる

商品開発の求人によっては、商品企画の仕事も兼任することを前章で説明しました。そのため、商品開発の経験だけでなく、商品企画に携わった経験も求められることがあります。

さきほど紹介したお菓子メーカーの求人では、商品開発だけでなく商品企画の経験も必須条件に挙げられています。

ちなみにこの求人の仕事内容の欄には、商品開発だけでなく、商品企画の仕事も挙げられています。

本来、商品企画と商品開発は職種が異なります。ただし、会社の規模によっては、商品開発と商品企画は同じ部門に属することがあります。

このように、商品開発の求人でも、商品企画に携わった経験が求められることもあります。

英語力があればアピールできるが、求人票で求められることは少ない

日本は人口が減少しており、食品業界は市場が飽和しています。そのため、お菓子業界も海外市場の開拓が盛んに行われています。

例えば、大手お菓子メーカーのカルビー株式会社は、ホームページで海外市場での売り上げを伸ばしていくことが経営方針として掲げています。

引用:カルビー株式会社 経営方針より

このような業界の流れがあるので、英語の必要性は今後増してくることが予想されます。

しかし、実際の求人票では、英語力が求められることはほとんどないのが実状です。ここまで4件の求人を紹介しましたが、英語力が条件に挙げられている求人は1件もありませんでした。

また、冒頭で紹介した求人は、課長候補の人材を募集していました。この求人では、「英語力不問」と記載されています。

では、実際にお菓子メーカーの商品開発職で英語力が必要ないかというと、実は仕事で英語を使用する場面は増えています。

お菓子メーカーで10年間商品開発に携わっている知人は、以下のような話をしてくれました。

私が働いている会社の規模は小さいが、今は新卒の就職活動でもTOEICである程度の点数を取っていないと採用されない。

また、開発をするときに、論文を読む機会がある。多くの基礎的な技術が論文になっているので、しっかりとした商品開発をするためには論文を読む場面が多い。

英語を使用する場面は増えているし、上司から「英語ができるようになれ」とよく言われている。商談相手が外国人であることもある。

求人票で英語力が求められていないのは、「英語力が必要」と記載されていると応募してくれないからではないか。入社した後は英語ができれば武器になるし、できなければ苦労することになる。

このように、英語ができる人材を求める傾向は強くなっています。志望する会社が今後海外展開を本格的に検討しているのであれば、英語ができる人材は間違いなく重宝されます。

ただし、実際の求人票では英語力が求められていないことが多いです。そのため、もし英語力に自信がなくても採用をされるかもしれませんが、採用を勝ち取ることができたら英語を勉強する努力が必要になります。

転職で有利になる学部や資格はない

転職の際には、出身学部が気になる人もいるでしょう。また、これまで努力をして資格を取得していれば、資格を活かして有利に転職活動を進めたいと考えることは自然な発想です。

ところが、お菓子メーカーの商品開発職への転職の際に、有利になる学部や資格は基本的にはありません。冒頭で紹介した求人では、「理系大学卒業以上」の学歴が必須条件に挙げられています。

お菓子メーカーの商品開発職を志望する人のほとんどは、この条件を満たしているのではないでしょうか。

また次に示す別の求人では、学歴や資格について全く記載がありません。挙げられている条件は、お菓子メーカーにおける商品開発の経験のみです。

実際に商品開発職で働いている人に話を訊くと、「誰が何学部出身なのかを気にする場面がない」と教えてくれました。

これらの求人票と現場の話から、出身学部や取得資格よりも、商品開発に携わった経験の方が重要視されることがわかります。

お菓子開発未経験者でも応募できる求人はある

ここまで紹介してきた求人は、商品開発の経験が求められるものばかりでした。では、商品開発の経験がない人は、お菓子メーカーの商品開発の求人に転職することはできないのでしょうか。

実は求人数は少ないですが、未経験者でも応募できる求人はあります。私が複数の求人サイトで探したところ、以下の2つの求人を見つけることができました。

まず1例目は、老舗お菓子メーカーの坂角総本舗の求人です。この求人でも商品開発の担当者を募集しています。そして、応募のための必須条件として挙げられているのは、「高卒以上の学歴」と「食品もしくは飲料メーカーでの製造、開発、研究のいずれかの経験」です。

この条件であれば、商品開発の経験がなくても応募することが可能です。

続いて2例目の求人は、バウムクーヘン、ゼリー、焼き菓子などを製造販売している株式会社エースベーカリーのものです。この求人では、必須条件に挙げられている項目はありません。

お菓子が好きという気持ちさえあれば応募できる求人です。もちろんこのような求人はかなり珍しいです。

このように、根気強く求人を探すことで、商品開発未経験者でもエントリーできる求人を見つけることができます。ほかにも、転職エージェントから非公開求人を紹介してもらうなどの工夫をすることで、未経験者でも転職を成功させることは可能です。

商品開発職の給料の相場を理解する

最後に、お菓子メーカーの商品開発職に転職すると、どのくらいの年収をもらうことができるのかを確認します。年収は転職の満足度にも大きく影響する項目です。

まずは冒頭で紹介した求人の年収欄を下に示します。この求人では500万円~700万円が提示されています。

ここまで6件の求人を紹介しましたが、すべての求人の提示年収をまとめたものが下の表です。紹介した順に、会社名、提示年収を示しています。

会社名 提示年収

(万円)

備考
非公開 500~700 課長候補
非公開 500~600 管理職候補
非公開 400~600 リーダー候補
非公開 360~600
坂角総本舗 350~420 商品開発未経験でも

応募可能

(株)エースベーカリー 340~400 未経験者歓迎

これまで食品業界で商品開発に携わった経験があれば、500万円~600万円の年収が期待できます。

一方で、未経験者でも商品開発の求人に応募することはできますが、その場合の年収は経験者と比べると低く、350万円~400万円が相場といえます。

このような商品開発職の年収の相場を把握しながら転職活動をすることで、転職の失敗を防ぎやすくなります。

まとめ

ここでは、お菓子メーカーの商品開発職に転職するときのポイントを解説しました。

商品開発職では、原料の選定から工場への落とし込みまでの工程を主に担当することになります。ただし、会社によっては商品企画の仕事を兼任したり、営業職に同行して客先を訪問したりすることもあります。

転職を成功させるためには、何かしらの食品の商品開発に携わった経験が求められることが多いです。これは必ずしもお菓子の開発である必要はありません。

また、求人によっては商品企画の経験が求められることもあるので、求人票に記載されている応募条件や仕事内容をしっかり確認するようにしましょう。

高い英語力があれば、活かすことができる場面は多いです。なお、転職が有利になるような学部や資格はないと考えてよいです。

商品開発の経験がない人でも応募できる求人を見つけることはできますが、応募可能な求人数は非常に少ないです。転職を成功させるためには、根気強く求人を探すか、転職エージェントを活用するなどの工夫が必要になります。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。