パソコン、スマートフォン、ゲーム端末など、多岐に渡るデバイスからゲームを楽しむことができる時代になりました。ネットワークに接続して楽しむゲームも増えており、これらを支えるのはインフラ環境です。

そして、ゲーム会社のインフラエンジニアはユーザーが快適にゲームを楽しむために必要な環境を提供する、縁の下の力持ちとしてゲームの開発・運用に携わります。

また、ゲーム会社ならではの仕事があり、事前に仕事内容を十分に把握しておくことが、転職の失敗を防ぐことにつながります。

ここではまず、ゲーム会社で働くインフラエンジニアの仕事内容を紹介します。その後、「ゲーム会社のインフラエンジニアに求められる経験・スキル」「ゲーム会社の年収」について順に説明します。

ゲーム会社のインフラエンジニアの仕事内容

インフラエンジニアは、ITインフラの環境を企画・開発・運用することが仕事内容です。では、ゲーム会社のインフラエンジニアはどのようなITインフラに関わるのでしょうか。実際の求人票で仕事内容を確認してみましょう。

下に紹介する株式会社コロプラの求人には、オンラインゲームのインフラエンジニアが担当する一般的な仕事内容が挙げられています。

これらについて順に解説していきます。

新規ゲーム開発でインフラ環境を企画・設計する

新しいゲームを開発するときには企画段階で決めなければならないことが多いです。インフラエンジニアが関わる項目の一部を下に示します。

  • オンプレミス型かクラウド型か
  • サーバーの種類・スペック
  • 運用体制

ゲームで使用するサーバーはクラウド型が多いです。その理由は、リリースしてみないと、どのくらいのアクセスが集まるかがわからないからです。クラウド型のサーバーであれば、リモートでスペックを変更できるので、設定変更は容易です。

その一方で、オンプレミス型はサーバーマシンをハードウェアから調節できるというメリットがあります。そのため、同じ会社でもゲームごとにクラウド型とオンプレミス型を使い分けることもあります。

サーバーのスペックは、利用者のアクセス数を予測して設計します。サーバーの処理能力を超える負荷がかかると、極端に動作速度が遅くなるなどのトラブルが生じることがあります。そのため、余裕を持った設計をする必要があります。

インフラ設備の日々の監視業務は、すべてを自社内で実施している会社ばかりではありません。すべてを自社で実施するためには、24時間365日監視できるだけの人員を確保しなければなりません。

そのため、運用・監視の工程を外部企業に委託することもあります。さきほどのコロプラ社の求人には「運用・監視」は仕事内容に挙げられていません。そのため、外部企業に業務委託している可能性が高いです。

運用体制は、費用対効果や委託先企業の技術力、情報漏洩のリスクなどを総合的に考慮して決定します。

新規ゲーム開発に携わるときは、これらの項目を1つずつ決めていきます。

定期メンテナンスと非常時のメンテナンス

ゲーム環境を支えているインフラ設備は、構築すれば永遠に使えるものではありません。規模が大きいゲームになると、数百台のサーバーが立てられます。必ず部品の交換や定期的なメンテナンスをしなければなりません。

プレイ中にインフラ設備にトラブルが発生してしまうと、ユーザーに迷惑をかけてしまいます。そのような事態を防ぐために、定期的にメンテナンス作業を実施しています。

例えば、下のゲームでは、1週間に1回定期メンテナンスが実施されています。

ゲームの場合は、平日昼間の利用者が少ないので、定期メンテナンスは平日に実施されることが多いです。

また、リリースしたゲームにはトラブルがつきものです。設計通りの動きをしないときには、その都度トラブルを改善しなければなりません。

例えば、下の画面はゲームに表示されていた緊急メンテナンスの報告です。

トラブルの原因がインフラ環境にあれば、インフラエンジニアが対応・改善しなければなりません。

例えば、利用者がログインできないといったトラブルであれば、データベースサーバーに問題があるかもしれません。また、特定のキャラクターの動きに問題があれば、アプリケーションサーバーにトラブルが起きているかもしれません。

インフラエンジニアはOSやミドルウェアが出力するログファイルを確認して、不具合箇所を特定・改善します。

緊急メンテナンスは、利用者にとっては事前に予告されていないメンテナンスです。更なるクレームにつながらないようにするためにも、一刻も早く解決する必要があります。

イベントに合わせた対応

ゲームは定期的または不定期にイベントが開催されることがあります。例えば、「毎週火曜日はガチャができる」「特別ルールのイベントの開催」などです。

このようなイベントを開催すると、利用者が一時的に増えるので、サーバーへの負担が増加します。通常時と同じスペックのままだとサーバーがダウンしてしまい、利用者に迷惑がかかる可能性があります。

このような事態を防ぐために、イベントに合わせたサーバーの増減を行う必要があります。

自社システムのインフラ環境整備も担当する

ここまで紹介してきたのは、ゲームの開発・運用に関わるインフラエンジニアの仕事内容です。

実は、ゲーム会社のインフラエンジニアはゲームの開発・運用だけでなく、自社の業務システムに関連するインフラ整備にも関わることがあります。

具体的には、次に紹介する株式会社スクウェア・エニックスの求人が該当します。スクウェア・エニックス社は、主にデジタルエンターテイメント事業を展開しており、「ファイナルファンタジー」「ドラゴンクエスト」など、世界中で楽しまれているシリーズ作品をリリースしています。

スクウェア・エニックス社の求人では、以下のようにゲーム開発だけでなく、社内のコミュニケーションインフラの企画から運用までも仕事内容に挙げられています。

ゲーム会社に限らず、多くの企業では社内で業務に関するさまざまなシステムを活用しています。

多くの企業で利用されているのは、従業員の勤怠を管理するシステムです。社員証をかざして出勤と退勤の時間を管理する、以下のような機器を利用している企業もあります。

私が働いている会社では、イントラネットで業務連絡やインシデント報告をしています。ほかにも、会議室の予約状況を管理するシステムも利用しています。

これらのシステムのユーザーは、自社の従業員です。業務を進める上で必要なシステムであり、トラブルが起きたときにはメンテナンスをしなければなりません。

自社のシステムのメンテナンスは、一般的には社内SEが担当します。しかし、ゲーム会社のように、多くのエンジニアを抱える企業では、事業に関わりながら自社のインフラ整備を担当することがあります。

企業によってはゲーム開発だけでなく、自社のインフラ環境の整備も担当することがあります。

ゲーム会社への転職で求められる経験・スキル

続いて、ゲーム会社に転職するときに求められる経験・スキルについて解説します。

インフラエンジニアは、ゲーム会社以外でもさまざまな企業で活躍しています。これまで身につけた経験やスキルをどのようにアピールすると転職しやすいのでしょうか。

インフラエンジニアの勤務経験があれば求人に応募できる

これまでゲーム会社でインフラエンジニアとして働いていれば、実績をアピールすることで採用されやすいです。

また、ゲーム会社での勤務経験がなくても応募できる求人は多いです。例えば、次に紹介する株式会社カプコンの求人では、ゲーム会社での勤務経験がなくても応募できます。

カプコン社は、大阪府大阪市に本社があるゲームソフトメーカーです。「モンスターハンター」「ストリートファイター」などの人気シリーズを開発しています。

この求人では、ゲームの開発・運用経験が3年以上あれば応募できます。また、ゲームの開発経験がなくても、ソフト開発、インフラ開発の経験が5年以上あれば応募条件を満たします。

なお、カプコン社の求人では、「Python、C#、Java、Scala、Goいずれかでの開発経験」も応募条件に挙げられています。インフラエンジニアの求人でアプリ開発経験が必要な求人は珍しいです。

インフラエンジニアは、アプリケーション開発エンジニアと打ち合わせをする場面があります。アプリ開発のことも理解しておくことで、より円滑に仕事を進めることができます。そのため、アプリ開発の経験があれば強みになります。

もう1件ゲーム会社の勤務経験に関する求人を紹介します。この求人は冒頭で紹介したコロプラ社の求人です。コロプラ社の求人も、ゲーム開発に携わった経験については記載されていません。

この求人で挙げられている条件は、インフラエンジニアが主に担当する業務です。ゲーム会社に限らず、多くのIT企業で経験できる仕事内容です。

このように、ゲーム会社のインフラエンジニアへの転職は、ゲーム会社での勤務経験がなくても可能です。

ゲーム会社ではクラウド型のLinux系サーバーを利用することが多い

では、インフラエンジニアとしての実力があれば、どのような求人でも応募することができるのでしょうか。

会社によって、ゲームの開発環境が異なります。そのため、求人ごとに特定の環境での開発経験を指定していることがあります。

冒頭で紹介したコロプラ社の求人では、仕事内容の欄に開発環境について以下のように記載されています。

そして、この求人の対象となる方の欄には、「クラウドでのサービスインフラ環境」「Linuxサーバーでのサービス環境」の設計・運用経験が必須条件として記載されています。

例えば、オンラインゲームの場合は、リリースしてみないとどのくらいのアクセスが集まるかわかりにくいです。全く人気が出ないかもしれないですし、予想外に人気が出る可能性もあります。

そのため、ゲーム会社のサーバーはクラウド型で運用されることが多いです。一旦リリースして、利用者数の推移を確認しながらサーバーのスペックを調節します。

また、Linux系サーバーはオープンソースなので、無料で利用することができます。Windowsサーバーは利用するためにはライセンス料を払う必要もあり、ゲーム会社が事業で利用するサーバーのほんどはLinux系サーバーです。

そのため、ゲーム会社のインフラエンジニアに転職するときには、クラウド型のLinuxサーバー運営の経験を求められることが多いです。

グローバルに活躍するには英語力が必要

日本人が楽しんでいるゲームは、日本だけでリリースされているわけではありません。人気のシリーズになると、海外でもリリースされ、世界中で利用されます。

海外版を開発するときには、海外に拠点があるグループ会社や関係会社と共同で開発・運用を進めなければなりません。

最初の章で紹介したスクウェア・エニックス社の求人では、ビジネスレベルの英語力が歓迎条件に挙げられています。

例えば、スクウェア・エニックス社の代表作の「ファイナルファンタジー」は、日本だけでなく、欧米でも発売され、多くの利用者に楽しまれているRPGです。

引用:FINAL FANTASY PORTAL SITEより

スクウェア・エニックスグループは、日本以外にアメリカ、イギリス、カナダなどに開発拠点を構えています。各国のエンジニアとの会議では、英語が用いられます。

また、次に紹介する株式会社カプコンの求人では、海外ビジネスのプロデュースや国内外の外部制作会社とのやり取りが仕事内容に挙げられています。

実は、ゲームの開発は自社とグループ会社以外の企業とも協働で進めることが多いです。

経済産業省が情報通信業基本調査などから、ゲーム会社の外部委託金額を報告したものが下のグラフです。日本国内の関係会社よりも海外の関係会社に対する委託金額の方が多いことがわかります。

引用:2010~2011年の製作本数の上下動への対応の違い;情報通信業基本調査が明らかにする、ゲーム業界とアニメ業界の転換点より

日本国内の市場だけでなく、海外の市場に目を向けるゲーム会社は増えています。海外への事業展開をするためには、海外のエンジニアとの連携は必須です。

このように、グローバル展開をするゲーム会社で働くときには、英語力があれば重宝されます。あなたに英語力があればアピールポイントになります。

ゲーム会社で働く年収を理解する

最後に、ゲーム会社で働くときの年収の水準を確認します。

冒頭で紹介したコロプラ社の求人では、以下のように400万円~1,000万円が提示されています。

ここまで4件の求人を紹介しましたが、すべての求人の提示年収を一覧にしたものが下の表です。求人によって提示年収にかなりの差があることがわかります。

企業名 提示年収

(万円)

(株)コロプラ 400~1,000
(株)スクウェア・エニックス 600~800
(株)カプコン 300~
(株)カプコン 400~650

そこで、業界の年収の水準を知っておくことで、年収面での転職失敗を防ぎやすくなります。各業界の平均年収は、厚生労働省が毎年調査している賃金構造基本統計調査で知ることができます。

下のグラフは、業界別の平均年収をグラフ化したものです。ゲーム制作会社は、情報通信業に分類されます。

引用:賃金構造基本統計調査より

このグラフから、ゲーム会社を含む情報通信業の会社に転職すると、比較的高い年収を勝ち取りやすいことがわかります。

また、インフラエンジニアを含むシステムエンジニアの年収も賃金構造基本統計調査では報告されています。システムエンジニアの年齢別の平均年収をグラフ化したものが下の図です。

引用:賃金構造基本統計調査より

これらの統計を基に、企業が提示している年収の妥当性を判断するようにしましょう。

ここで紹介した求人は、求人によってはかなり高年収が期待できるものもあります。これまでの経験と身につけたスキルを十分に活かせる企業を選ぶことで、年収の交渉もしやすくなり、高年収を勝ち取る可能性が高まります。

まとめ

ここでは、ゲーム会社のインフラエンジニアに転職するときに押さえておくべきポイントについて解説しました。

基本業務は、ゲーム開発時にインフラ環境を企画・設計することです。そして、ゲームはリリースしてからも運用の業務があります。定期的なメンテナンスだけでなく、突発的な障害に対する臨時の対応もしなければなりません。

ゲームはイベントを開催するとアクセス数が一時的に増加します。イベント開催前には、アクセス増に対応できるようにサーバー機器の増減・変更をする必要があります。

また、管理するのは製品関連のITインフラだけでなく、自社の業務システムの企画・運用も任されることもあります。

あなたにゲーム会社以外でのインフラエンジニアとしての勤務経験があれば、ゲーム会社に転職することができます。そして、ゲーム会社ではクラウド型のLinuxサーバーが利用されることが多いです。ただし、会社ごと、ゲームごとに環境が異なるので、あなたのスキルを活かせる求人を探しましょう。

ゲーム会社に転職すると、求人によってはかなりの高年収をもらえる可能性もあります。求人によって提示年収に差があるので、ゲーム業界、システムエンジニアの年収相場を把握して転職活動をしましょう。

以上の点を押さえて転職活動をすることで、転職失敗を防ぎやすくなります。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。