タンパク質は、複雑な立体構造で高分子の化学物質です。一般的にタンパク質は生体内の物質ですが、人工的なタンパク質はさまざまな活用をされています。
そして、一言でタンパク質の研究と言っても、求人が出ている企業の種類はさまざまです。企業によって、仕事内容も大きく異なります。
転職を成功させて、転職後も満足して働くためには、あなたの経験・スキルを活かせる企業・求人を見つけなければなりません。
ここでは、タンパク質の研究に従事する求人の詳細について紹介します。具体的には、「求人を出している企業の種類」「転職で求められるもの」について順に解説します。
もくじ
製薬会社でタンパク製剤の研究を行う
最初に紹介するのは、製薬会社です。製薬会社は、医薬品を研究開発、製造販売している企業です。そのため、製薬会社でタンパク質の研究に従事すると、最終的には医薬品の開発につながるような研究を担当することになります。
新規タンパク製剤の研究開発に従事する
医薬品には、小分子から高分子まで、さまざまな種類があります。そして、高分子の医薬品のなかにはタンパク質製剤が含まれます。
実際に、タンパク質製剤の研究者を募集している求人を2件紹介します。
最初の求人は、中外製薬株式会社から出されているものです。中外製薬は、国内大手製薬企業で、バイオ製剤に強みがある会社です。
この求人では、抗体創薬か細胞療法の専門性を有する研究員を募集しています。このなかの抗体創薬にタンパク質製剤の研究が含まれます。
例えば、中外製薬が製造販売しているタンパク製剤の1つに、下の写真のアクテムラがあります。
アクテムラは、主にリウマチ治療薬として用いられる抗体製剤であり、遺伝子組み換え技術を用いて作られたタンパク製剤です。リウマチの痛みに関わる生体内物質に結合する、人工的な抗体です。
このような抗体製剤の創出が、中外製薬社の求人で担当する仕事です。
2件目の求人は、治療目的の医薬品ではなく、病気を予防するための医薬品であるワクチンの開発に従事するものです。
次に紹介する求人は、大手製薬会社の塩野義製薬の子会社である株式会社UMNファーマから出されているものです。
ワクチンの種類によっては、タンパク質製剤として製造されます。
例えば、毎年流行するインフルエンザに対するワクチンはタンパク質製剤です。下の写真は、実際に患者さんに使用されるインフルエンザワクチンです。
インフルエンザウイルス表面の抗原タンパクを不活化させたものが、インフルエンザワクチンです。
このように、製薬会社で新薬開発を担当する求人のなかには、タンパク質製剤の研究に従事するものがあります。
・生物系の研究だけでなく、コンピュータを用いる研究もある
タンパク質製剤の研究というと、タンパク質を取り扱う実験に従事することをイメージすると思います。もちろん、下の写真のような実験でタンパク質製剤の研究開発を行うこともあります。
実は、タンパク質製剤の研究開発は、生物系の実験を行うだけではありません。
例えば、次に紹介する大塚製薬株式会社の求人では、計算化学の研究員を募集しています。仕事内容には、タンパク質と化合物のドッキングシミュレーションなど、研究対象にタンパク質が含まれます。
計算化学の研究では、実験台で作業をするのではなく、コンピュータに向かって作業する時間がほとんどです。
例えば、下の写真はタンパク質と化合物の結合様式を、コンピュータ上でシミュレーションしたものです。水色が化合物を表していて、黄色と赤色の点線で囲った部分は、タンパク質の空間です。
タンパク質の空間部分を化合物で埋めることで、化合物がタンパク質により強固に結合し、作用が強く現れることが期待できます。
このように、化合物がタンパク質にどのように結合するのか、どの結合形態が安定なのかなどを、コンピュータ上で検証・解析することが計算化学の研究です。そして、解析結果を基に、より効果が強い化合物の開発につなげます。
タンパク質の研究には、実験機器でタンパク質を取り扱うだけでなく、コンピュータでタンパク質の構造や機能を解析する研究もあります。
新たなメカニズムの解明に従事する
ここまで紹介した求人は、新薬の開発に従事するものでした。そして、製薬会社が行っている医薬品の研究開発は、新薬を生み出すことだけではありません。
続いて紹介する株式会社大鵬薬品工業の求人では、医薬品の標的タンパク質の機能解析が仕事に含まれています。
生体内のタンパク質は、すべての機能が明らかになっているわけではありません。そして、タンパク質の新たな機能が解明されると、それは新薬開発の種になる可能性があります。
医薬品が効果を発揮する機序のことを「作用機序」と呼びます。新たな作用機序の医薬品が、次々と開発されています。
新たな作用機序で効果を発揮し、より効果が強く副作用が少ない医薬品が発売になり、病気の治療方法は改善されていきます。そのためには、これまで知られていないタンパク質の機能の解明は必要不可欠です。
生体内のタンパク質が疾患にどのように関わっているかを解析することで、将来的に新薬の開発に役立てます。
このように製薬会社では、タンパク質製剤の研究開発や、タンパク質の機能解析に従事することになります。
医療機器メーカーの求人例
医療機器は、医療機関や検査センターで病気の検査、診断をするために用いられる機器です。医療機器メーカーの研究職求人のなかにも、タンパク質を研究対象とするものがあります。
次に紹介する株式会社堀場製作所は、医療機器だけでなく、自動車開発に用いる機器や環境測定用の機器の研究開発・販売を行っているメーカーです。この求人では、理化学分析装置のカスタマイズや新規開発を担当する正社員を募集しています。
例えば、血液検査の項目には、タンパク質も多く含まれます。下に示すのは血液検査結果の一部です。ここで示している検査項目の半分はタンパク質です。
タンパク質を定量的・定性的に分析するときは、タンパク質を直接分析するわけではありません。抗原抗体反応を利用したり、酵素反応を利用して生成物の吸光度を測定したりしてタンパク質を間接的に分析します。
この分析方法を研究するときには、分析対象のタンパク質の特性を踏まえて検査試薬を選択・改良しなければなりません。
堀場製作所社が募集しているのは、タンパク質を含む分析対象を分析する技術・機器の開発をする研究者です。このように、医療機器メーカーでもタンパク質の研究者を募集しています。
そのほかの企業からの求人例
ここまで紹介したのは、製薬会社と医療機器メーカーから出されている求人でした。どちらも医薬品や医療機器を研究開発・販売している企業です。
これらの企業とは異なる種類の企業でも、タンパク質を扱い、タンパク質の研究者を募集しています。
タンパク質製剤を取り扱う企業
続いて紹介する一般社団法人日本血液製剤機構は、下に示す献血によって得られた血液を血液製剤として医療機関に提供している企業です。
日本血液製剤機構からは、以下のような薬理研究者を募集する求人が出されています。
血液中には、多くのタンパク質が含まれます。さきほども紹介しましたが、そのタンパク質の機能は、すべてが解明されているわけではありません。
日本血液製剤機構の求人では、血液中のタンパク質の新たな機能を解析することで、最終的には新たな医薬品の開発の種を見つけることを目指します。
日本血液製剤機構は、いわゆる製薬会社ではありません。しかし、この求人で挙げられている仕事内容は、製薬会社が行っている新薬開発とほぼ同じ内容です。
このように、タンパク質を研究対象として取り扱う企業であれば、タンパク質の研究者を募集しています。
ベンチャー企業からも求人が出される
研究職に転職するとき、求人が出ているのは有名企業や大手企業からが多いです。ここまで紹介した求人も、それぞれの業界ではほとんどの人が知っているような企業でした。
実は、タンパク質の研究者を募集している求人は、そのような大企業だけではなく、従業員数が少ないベンチャー企業からも出されることがあります。
次に紹介する株式会社CO2資源化研究所は、東京都にある研究員8名のベンチャー企業です。タンパク製剤の事業化の向けた研究開発と工業化研究を担当する人材を募集しています。
大企業とベンチャー企業の違いの1つは、ベンチャー企業の方が個人の裁量で研究を展開しやすいことです。
もちろん、ベンチャー企業でもなんでも自由に研究できるわけではありません。しかし、大企業の場合は研究のテーマや方向性が上司によって定められていることがほとんどです。
CO2資源化研究所の求人には、以下のような社員のインタビューが掲載されています。
このように、研究員に与えられる裁量権は、ベンチャー企業の方が大きいです。
私がかつて研究職で働いていた化学メーカーは、従業員が300人強の中規模の会社でした。研究所は事業部の下部組織だったこともあり、研究内容は事業部から指示されたものがほとんどでした。
実際に働いているときの感覚としては、自分の研究で事業を展開させているというよりは、事業部の指示に応えているだけという気持ちでした。
少しでも自分の裁量で研究を展開したければ、ベンチャー企業も転職先の選択肢になります。
転職にはタンパク質に関する研究経験が必須
ここまで、タンパク質の研究に従事する求人が出される企業や、仕事内容について解説しました。
では、タンパク質を研究対象とする求人に転職するときにはどのような経験が求められるのでしょうか。
ほとんどの求人で求められるのは、転職後に従事する仕事内容と同様の研究経験です。つまり、キャリア採用が基本です。
ここまで7社の求人を紹介しましたが、いずれの求人も未経験者は応募できず、タンパク質の研究経験が応募条件に挙げられていました。
例えば、冒頭で紹介した中外製薬社の求人は、細胞/タンパク質工学や免疫学の専門性を通じた創薬を担当する研究者を募集していました。この求人の応募条件は以下の通りです。
抗体/タンパク質創薬研究や、抗体取得などの経験が条件に含まれています。タンパク質製剤の創製研究に従事した経験があれば、転職後もそのまま経験を活かして働くことができます。
ほかにも、計算化学の研究員を募集していた大塚製薬社の求人では、以下の条件が挙げられています。さきほどの中外製薬社の求人と違い、計算化学の専門性や化学系のソフトウェアの理解などが必要です。
ここで紹介した2つの求人は、同じタンパク質の研究に従事する求人でも応募条件が異なっています。そして、いずれの求人も、転職後に担当する仕事内容と同様の研究経験が求められています。
あなたがこれまで経験した研究内容を整理し、その経験を活かせる求人を探すことで、転職を成功させやすくなります。
まとめ
ここでは、タンパク質の研究に従事するための転職方法や仕事内容を解説しました。
タンパク質の研究者を募集している企業は、主に製薬会社と医療機器メーカーです。タンパク質製剤の開発や、疾患に関わるタンパク質の機能解明、分析対象としてのタンパク質など、企業によってタンパク質の取り扱い方や研究の仕方が異なります。
また、これらの企業以外にもタンパク質の研究を行っている企業はあります。規模の小さいベンチャー企業でもタンパク質研究者を募集しています。
転職を成功させるためには、これまでタンパク質の研究に従事した経験が必要です。ただし、タンパク質の研究も幅広いので、あなたの経験を活かせる求人を探さなければなりません。
これらのポイントを押さえて転職活動をすることで、満足できる転職を実現しやすくなります。
研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。
一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。
ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。
これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。