統計解析職は、製薬会社の臨床開発職や研究職が出したデータを解析し、新薬の申請や有効性・安全性を評価するための解析を行う職種です。
最適な条件で解析を行ったり、試験の企画に介入したりすることで、医薬品の開発に大いに寄与する重要な職種です。
統計解析職は、仕事内容の専門性が非常に高いです。そのため、転職を成功させるためには、仕事内容や転職で求められるスキルを十分に把握して転職活動を行わなければなりません。
ここでは、製薬業界の統計解析職に転職するときに押さえておくべきポイントを解説します。
もくじ
医薬品の研究から発売後の統計解析に携わる
統計解析では、大きく分けて「試験の立案・デザイン」と「データの解析」を担当します。
例えば、医療機関で実施される臨床試験は、試験の企画段階で多くの項目を決めなければなりません。
臨床試験に参加する被験者数も決めなければならない項目の1つです。有効性や試験結果のばらつきを見積もって、有意差を出すために必要な被験者数を設定します。
臨床試験の目的に応じて試験のデザインも変わります。被験薬と対照薬の結果を比較したいのか、用量ごとの結果を比較したいのかによって、選択する試験方法は変わります。
下の写真は、リウマチ治療薬のジセレカ錠の試験名、臨床試験デザイン、対象をまとめたものです。
引用:ジセレカ錠 総合製品情報概要 13ページより
このように、臨床試験のフェーズや目的に合わせた試験のデザインを適切に選択するのも統計解析職の仕事です。
また、試験で得られた膨大なデータは、そのままでは「期待していた結果が得られているか」「予期しない副作用が現れているのか」がわかりません。得られたデータを統計解析にかけることによって、有効性や安全性を評価します。
製薬会社の統計解析職は、このような仕事を担当する職種です。
社内や社外のやりとりも多い
統計解析職は、データの解析に多くの時間を費やしますが、パソコンで黙々と解析を行うだけが仕事ではありません。医薬品の研究開発に関わる多くの人と関わります。
次に紹介する大塚製薬株式会社の求人では、医薬品の研究や開発に関わる研究者などの統計解析に関するコンサルティング業務を担当することが記載されています。この求人で採用されると、徳島県と大阪府にある創薬基盤研究所で生物統計を担当することになります。
非臨床試験では、細胞や実験動物を用いた薬理試験を実施します。これらの研究者と実験結果の統計解析についてサポートすることが、大塚製薬社の仕事内容です。
また次の社名非公開の製薬会社の求人では、当局対応やCRO(医薬品開発業務受託機関)・ベンダーとの交渉が仕事内容に挙げられています。
医薬品の開発は、自社だけですべて完結することはほとんどありません。開発工程の一部を外部機関のCROに委託することが多いです。
CROの業務内容を管理することも製薬会社の仕事です。
このように、製薬会社の統計解析職は社内だけでなく社外のやりとりも多い職種です。
製薬会社だけでなくCROの求人も選択肢に入れると転職成功させやすい
さきほどCROと製薬会社の関係について紹介しました。CROは製薬会社の医薬品開発業務の一部を受託する会社です。そのため、製薬会社だけでなくCROでも統計開発職を募集しています。
例えば、次に紹介する株式会社メディサイエンスプラニングは、東京都にオフィスを構えるCROです。メディサイエンスプラニング社の求人では、臨床開発の統計解析に携わる人材を募集しています。
求人票に挙げられている仕事内容は、製薬会社の統計解析職が担当する仕事と同じです。
実は、製薬会社の統計解析職の求人数はCROに比べて少ないです。実際に大手転職サイトのdodaで「製薬 統計解析」のキーワードで求人を検索すると94件の求人がヒットしました。
このうち、製薬会社の求人は10件で、CROの求人は65件でした。ヒットした求人には統計解析職以外の求人も含まれており、製薬会社の統計解析職の求人は少ないことがわかります。
製薬業界の統計解析職への転職を目指す場合は、製薬会社だけでなくCROの求人も選択肢に入れることで転職を成功させやすくなります。
携わる工程は求人によって異なる
統計解析の仕事は、医薬品の研究開発におけるデータを適切に解析することです。実は、会社や求人によっては、関わる工程が異なります。
医薬品の研究開発から販売後までの流れを簡単にまとめたものが下の図です。このなかで統計解析職はさまざまな工程で医薬品に関わります。
実際の求人例を3件紹介し、それぞれの求人で携わる工程の違いについて解説します。
最初の求人は、冒頭でも紹介した大塚製薬社の求人です。大塚製薬社の求人で採用されると、非臨床試験を中心とした統計解析を担当することになります。
非臨床試験は、ヒトを対象とした臨床試験の前段階の試験です。具体的には実験動物や細胞を用いた試験を指します。
非臨床試験では、薬になる可能性がある成分の有効性や安全性を評価します。薬の卵を見つける工程であり、研究者とのやり取りが必要になります。
解析した結果は、最終的に論文化することもあります。下の写真のように研究工程での実験結果を論文報告するときの統計解析にも関わります。
大塚製薬者の求人では、このような非臨床試験を中心に統計解析を担当します。
2件目の求人は、CROの株式会社メディサイエンスプラニングから出されている求人です。メディサイエンスプラニング社の求人では、治験に関する統計解析業務を担当する人材を募集しています。
治験は、医薬品を発売するために有効性や安全性を確認するための試験です。ヒトを対象としており、臨床試験とも呼ばれます。
治験(臨床試験)で医薬品候補の有効性や安全性のデータを収集して、医薬品の承認申請につなげます。
3件目の求人は、CROの株式会社インテージヘルスケアから出されている求人です。インテージヘルスケア社の求人では、医薬品の市販後調査(PMS)における統計解析業務が仕事内容に挙げられています。
市販後調査は、医薬品が医療現場で使用されるようになった後に行われます。
臨床試験では、試験に参加する被験者に対して試験が行われるため、被験者の数は限られます。発売になったあとは日本中で利用されるようになるので、特に安全性(副作用)を確認するために市販後調査が実施されます。
例えば、下の写真は糖尿病治療薬のスーグラ錠の市販後調査結果です。副作用報告の一部を示しています。
市販後に患者さんに医薬品を使用して得られたデータの解析を担当するのが、市販後調査の統計解析です。
ここまで紹介した「非臨床試験」「臨床試験」「市販後調査」を整理すると以下の図のようになります。
工程によって医薬品や医薬品候補への携わり方が異なり、やりがいも変わります。
求人に応募するときには、医薬品開発のどの工程の統計解析を担当するのかを確認するようにしましょう。
統計解析職への転職で求められるもの
続いて、製薬会社の統計解析職に転職するときに求められる経験やスキルを紹介します。
キャリア採用が基本
統計解析職は、専門性の高い仕事を担います。そのため、ほとんどの求人で統計解析職として働いた経験が求められます。
前の章で紹介した大塚製薬社の求人では、以下のように統計解析担当者としての経験や、SASなどのプログラミング経験が必須条件に挙げられています。
統計解析職は、各試験や調査の企画段階から介入します。試験のデザインやデータの解析には、統計学の知識が必須です。
また、データの解析を行うときには、専用のソフトウェアのSAS(Statistical Analysis System)を使用することが多いです。
SASを利用するときには、統計解析の条件に応じてプログラムを設定しなければなりません。そのため、SASのプログラミング経験が応募の条件に挙げられることも多いです。
多くの企業で、統計解析の業務経験やSASのプログラミング経験が求められることを認識しておきましょう。
製薬会社かCROでの統計解析業務経験が必要
製薬業界の統計解析の仕事は、製薬会社とCROで行われています。では、どちらで統計解析の経験をしていても転職できるのでしょうか。
実際に求人票を見てみると、製薬会社でもCROでも問題ないことがわかります。さきほどの大塚製薬社の求人でも、どちらかの経験があれば応募条件を満たします。
製薬会社で働いている私の知り合いに話を訊くと、転職では「製薬会社からCRO」と「CROから製薬会社」のどちらのパターンもあると教えてくれました。
製薬会社とCROで、担当する統計解析の業務は基本的に同じです。そのため、どちらかで統計解析の仕事を経験していれば求人に応募することができます。
グローバル試験に対応するための英語力
医薬品開発のための臨床試験は、日本国内だけで行われるわけではありません。海外と共同で実施されるグローバル試験もあります。
例えば、前の章で紹介したリウマチ治療薬のジセレカ錠は、日本人を含む国際臨床試験を実施して、医薬品として承認されています。下の写真は、実施した臨床試験の一部を示しています。この写真のなかの「国際共同」が、国際臨床試験を指しています。
引用:ジセレカ錠 総合製品情報概要 13ページより
実際に国際臨床試験に携わる統計解析職を募集している求人例を紹介します。
次に紹介する社名非公開の製薬会社の求人では、グローバルチームの一員として統計業務に携わる人材を募集しています。この求人に応募するためにはビジネスレベルの英語力が必要です。
国際臨床試験では、日本国内だけでなく、海外の統計解析職とのやり取りが必要になります。このような仕事に携わるためには、高い英語力は必須のスキルです。
このように、国際臨床試験に携わる場合は、高い英語力が求められます。
未経験者が転職成功させるための戦略
ここまで統計解析の経験者が転職をするときに求められるものを紹介しました。では、統計解析の未経験者は統計解析職に転職することはできないのでしょうか。
実は求人数は少ないですが、統計解析職として働いた経験がなくても応募できる求人はあります。
ただし、統計解析の仕事に関連する知識が全くなくても応募できるわけではありません。以下のいずれかの経験は必要です。
- 統計に関する基礎知識
- プログラミングの経験
実際の求人例をします。この求人は、東京、大阪、名古屋に事業所を構えるCROのイーピーエス株式会社の求人です。イーピーエス社の求人では、プログラミングの経験か統計解析の経験があれば応募することができます。
統計解析職で働くためには、統計学の知識とプログラミングの知識の両方が必要です。
どちらかの知識・経験があれば応募できる求人はありますが、転職後に不足している知識を学ぶ必要があります。ほかにも、臨床試験の流れや、ほかの職種との関わりなど、転職後に学ぶことが多いことを認識しておきましょう。
製薬メーカーの統計解析職の年収を知る
最後に、製薬メーカーの統計解析職で働くときの年収を紹介します。
冒頭で紹介した大塚製薬社の求人では、以下のように500万円~1000万円が提示されていました。
ここまで6件の求人を紹介しました。6件の求人で提示されている年収をまとめたものが下の表です。なお、一部の製薬会社の求人は年収が記載されていませんでした。
企業名 | 提示年収
(万円) |
備考 |
大塚製薬(株) | 500~1,000 | 製薬会社 |
社名非公開 | 非公開 | 製薬会社 |
(株)メディサイエンスプラニング | 400~600 | CRO |
(株)インテージヘルスケア | 370~685 | CRO |
社名非公開 | 非公開 | 製薬会社 |
イーピーエス(株) | 400~600 | CRO |
これらの求人を比べると、CROに比べて製薬会社の方が高い年収を提示していることがわかります。
全産業の平均年収が500万円なので、製薬会社の統計解析職の年収はサラリーマンとしては高い水準であることがわかります。CROで提示されている年収は、全産業の平均年収とほぼ同じ水準です。
仕事内容はCROでも製薬会社でも同じなので、せっかく転職するのであれば高い年収がもらえる製薬会社への転職を目指したいところです。
しかし、最初の章で紹介したように、製薬会社はCROと比べて求人数が少ないです。製薬会社への転職は狭き門なので、CROも含めて求人を探すことで、統計解析職への転職は成功しやすくなります。
ほかにも、転職エージェントを活用して非公開求人を紹介してもらうなどの工夫をすることで、条件面で納得できる転職を実現することができます。
まとめ
ここでは、製薬業界の統計解析職へ転職するときの求人ごとの仕事内容違い、求人の探し方、年収について解説しました。
統計解析職は、試験の企画・デザインとデータの解析を担当する職種です。製薬会社から出させている求人は少ないので、CROも含めて求人を探すことで転職しやすくなります。
統計解析職への転職は、多くの場合これまで統計解析職として働いた経験が求められます。医薬品開発のための試験は、日本以外の海外でも実施されます。そのようなグローバル試験に対応するためには、高い英語力が必要になります。
未経験者でも統計学やプログラミングの知識があれば応募できる求人もありますが、転職後に不足している知識を貪欲に学ばなければなりません。キャリア採用が基本であることを認識しておきましょう。
製薬会社の統計解析職の年収は、全産業の平均よりも高い水準です。ただし、製薬会社の求人数は少ないので、CROも含めて幅広く求人を探すようにしましょう。
これらのポイントを踏まえて転職活動を進めることで、納得のできる転職を実現することができます。
研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。
一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。
ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。
これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。