臨床開発は開発した医療機器が医療現場で使われるためには必須の工程であり、苦労もありますが無事臨床試験が終了したときにはおおきな達成感を得られます。

医療機器の多くは臨床開発を経て製造販売の承認を受けます。臨床開発は医療機器メーカーが主導で行う試験ですが、実はすべての医療機器メーカーで求人が出ているわけではありません。

また、ほかの業界から転職する場合は、年収の違いを理解しておかなければなりません。闇雲に転職活動をしても、満足できない転職になりかねません。

ここではまず、医療機器の臨床開発求人の実態を紹介します。続いて、転職の際に求められる経験とスキル、医療機器業界の年収について説明します。

医療機器の臨床開発に関する仕事内容・求人の実態を理解する

医療機器は、医療機器メーカーで研究開発されています。そのため、臨床開発の求人は医療機器メーカーから募集が出ています。実際の求人例を1例紹介します。

愛知県蒲郡市に本社を置く株式会社ニデックの求人です。この求人では、ニデック社が取り扱う眼科医療機器の臨床開発業務を担当する人材を募集しています。

ニデック社は、主に眼科領域の医療機器を開発・販売している企業です。例えば、以下のような3次元眼底像撮影装置などを提供しています。

医療機器の多くは、患者さんに使用するようになる前に臨床試験を実施する必要があります。この臨床試験が医療機関で適切に実施されているかを確認することが臨床開発の仕事です。この仕事を担当者を臨床開発モニター(CRA)と呼ぶこともあります。

ニデック社のような医療機器メーカーは、製品を製造販売する前段階として臨床試験を実施しなければなりません。

しかし、医療機器メーカーからこのような臨床開発の求人が出ることは多くありません。では、どのような求人が多いのでしょうか。

医療機器メーカーではなくCROの求人が圧倒的に多い

医療機器メーカーが臨床開発を行うときに。すべての工程を自社で行わないことがあります。その理由は、資金面の体力が続かないからです。

臨床開発を担当する人材を自社で抱えると、人件費がかかります。人件費は継続して捻出する必要がある経費であり、会社の資金繰りを圧迫する要素の1つです。

そこで、多くの医療機器メーカーは臨床開発を外部企業に委託します。その委託先がCRO(医薬品開発業務受託機関)です。

CROと聞くと「医薬品の開発を受託する機関」というイメージがある人も多いのではないでしょうか。実は、CROは医薬品以外にも医療機器の臨床開発も受託しています。

実際の求人例を1件紹介します。この求人は、CROのなかでも大手のイーピーエス株式会社のもので、医療機器の開発モニターを募集しています。

仕事内容はさきほど紹介したニデック社の求人とほぼ同じ内容が挙げられています。医療機器メーカーであってもCROであっても、担当する仕事内容は同じです。

実は、医療機器の臨床開発の求人は、ほとんどがCROから出ています。大手転職サイトのdodaで「医療機器 臨床開発」で求人を検索すると104件の求人がヒットします。このうち、医療機器メーカーの求人は3件で、CROの求人は15件でした。

このように、臨床開発の求人は医療機器メーカーだけでなく、CROも含めて探すことで転職成功しやすくなります。

海外とのやり取りが多い

医療機器は日本国内だけでなく、同じ製品が海外でも製造販売されています。むしろ会社によっては、海外での売り上げが日本国内の売り上げよりもはるかに多いこともあります。

例えば下に示すトプコン社は、光学技術に強みを持つグローバル企業で、眼科領域の機器やシステムを研究開発している企業です。株式会社トプコンは海外の売上比率が約80%です。

引用:事業戦略|トプコンより

海外で商品を販売するためには、現地での販売承認を受ける必要があります。そのため、現地での臨床試験を実施しなければなりません。そして求人によっては、海外での臨床試験に関わることが明記されているものもあります。

下に紹介するのは、トプコン社で臨床開発職を募集している求人です。活動拠点は、東京都板橋区です。この求人では、米国や欧州の現地法人と協力して海外での臨床試験の計画、実施に関わる人材を募集しています。

医療機器は海外での販売量が急速に増えています。下に医療機器市場の年平均成長率をグラフにしたものを示します。

引用:医療機器への参入のためのガイドブック 第2版 17ページより

このグラフでは、日本、ドイツ、アメリカは成長率が低いです。その一方で、ブラジル、マレーシア、ベトナムなどは年平均成長率が15%を超えています。

このように医療機器業界は、日本国内での販売量は成長が鈍化しています。海外の市場を開拓する企業が増えており、海外の現地法人や現地の当局とのやりとりも増えています。

臨床開発の求人に転職するために必要な経験とスキル

続いて、医療機器の臨床開発の求人に転職するために必要な経験とスキルについて解説します。

医療機器の知識はどの程度求められるのでしょうか。業界未経験者でも転職することができるのでしょうか。

製薬業界での臨床開発の経験があれば、医療機器業界未経験でも応募できる

あなたがこれまで医療機器業界の臨床試験に携わった経験があれば、その経験をアピールして転職活動を行うことができます。内定を勝ち取った後も、経験を活かして即戦力として会社に貢献することができるでしょう。

実は、医療機器の臨床開発の経験がなくても応募できる求人があります。

次に紹介する求人は会社名は非公開ですが、東京都港区に拠点があるCROのものです。この求人は、医療機器だけでなく医薬品の開発モニターの経験があれば応募することができます。

この求人はCROの求人なので、同じ会社で医薬品と医療機器の両方の臨床試験を受託しています。そのため、入社後に医療機器の開発モニターから医薬品の開発モニターに転向する可能性もあります。

実は、医療機器メーカーでもCROと同様に医薬品の臨床開発に携わった経験があれば応募することができます。前の章で紹介したトプコン社の求人も、医薬品の開発モニター経験があれば応募条件を満たします。

医薬品の臨床試験と医療機器の臨床試験は、対象物が大きく異なるので、実施する内容も当然異なります。しかし、いずれも製造承認を受けるための試験であることは共通しています。

そして、臨床試験を実施するために必要な書類も共通のものが多いです。具体的には治験実施計画書、症例報告書、患者への説明文書、同意文書などは、医薬品でも医療機器でも作成する必要があります。

引用:日本医師会生涯教育シリーズ 臨床試験のABC 276ページより

このように、医薬品と医療機器では共通している部分があります。そのため、製薬会社やCROで医薬品の臨床試験に携わった経験があれば、その経験を活かして医療機器の臨床開発の求人に転職することができます。

英語力があれば求人の選択肢が広がる

臨床開発の業務経験以外に、英語力が求められることがあります。その理由は、前の章で紹介したように海外での臨床試験に関わることがあるからです。

それ以外にも医学系の論文を閲覧する場面もあり、日本国内だけで販売する機器の臨床開発に携わる場合であっても英語に触れる場面はあります。

次に紹介するのは、さきほど紹介したCROの求人です。この求人の「求める人材」の欄には、英語での読み書きができることが必須条件の1つとして挙げられています。

また、次の求人は前の章で紹介したトプコン社の求人です。この求人の「対象となる方」の欄には、TOEICで700点以上の英語スキルが挙げられています。

このように、医療機器の臨床試験の求人では、高い英語力が求められたり、英語力があれば有利になったりする求人が多いです。

ただし、すべての求人で英語力が求められるわけではありません。前の章で紹介したCROの求人は、求人票に「語学力は不問」と記載されています。

もちろん英語ができるに越したことはありません。医療機器は海外での売り上げが急速に増えています。そのため、今後は海外の企業とのやり取りが増えることは間違いありません。

あなたに英語力があれば、転職活動でしっかりとアピールするとよいです。応募できる求人の選択肢も多いです。

そして、英語力がなくても応募できる求人はありますが、転職後に英語を使う状況になる可能性があることは認識しておかなければなりません。

医療機器の臨床開発を担当したときの年収

どのくらいの年収をもらえるかは、仕事に対するモチベーションに影響します。現在もらっている給料に不満を感じて転職をしようとしていれば、最も気になる項目かもしれません。

年収の序列は医薬品メーカー>医療機器メーカー>CRO

まずは、ここまで紹介した求人の年収をまとめました。なお、最後に紹介したCROの求人は年収が非公開となっていたので省略しています。

会社名 会社分類 提示年収

(万円)

ニデック(株) 医療機器メーカー 400~700
イーピーエス(株) CRO 400~700
(株)トプコン 医療機器メーカー 650~1,000

ニデック社とイーピーエス社は同じ年収が提示されていますが、トプコン社はほかの2社と比べるとかなり高い年収が提示されています。

大手転職サイトのdodaを運営しているパーソルキャリア株式会社は、取り扱っている求人の年収を集計し、公開しています。その結果では、CROよりも医療機器メーカーの方が年収はやや高いです。

引用:平均年収ランキング 最新版(96業種の平均年収/生涯賃金)より

とはいうものの、CROと医療機器メーカーの年収の差は30万円ほどです。求人によっては、ここで紹介した求人のようにCROでも医療機器メーカーと同等の年収を勝ち取ることができる可能性は十分あります。

また、医療機器の臨床試験の担当者には、製薬業界からも転職できることを紹介しました。しかし、年収面では医薬品メーカーの方が医療機器メーカーよりも優遇されています。

さきほどのパーソルキャリア社の調査でも、医薬品メーカーは医療機器メーカーよりも年収は高かったです。また、年代別の平均年収を比較しても、医薬品メーカーは医療機器メーカーを上回っています。

引用:平均年収ランキング 最新版(96業種の平均年収/生涯賃金)より

つまり、製薬会社から医療機器メーカーに転職するときには、最初の年収は高くなっても、将来的には製薬会社と比べて伸び悩む可能性があります。求人票に提示されている年収だけで判断するのではなく、長い目で見て給料が高くなるかを考える必要があります。

まとめ

医療機器の臨床開発職に転職するときには、医療機器メーカーだけで求人を探していても、求人数が少ないです。CROも含めて求人を探すことで、転職を成功させやすくなります。

医療機器業界での業務経験だけでなく、医薬品業界での経験があれば臨床開発の求人に応募することができます。

また、医療機器は海外での売り上げが伸びており、現地法人とのやり取りをする場面も増えています。そのため、高い英語力が求められる求人が多いです。

医療機器メーカーでは、CROよりもやや高い年収をもらうことができます。その一方で、医薬品メーカーと比べると医療機器メーカーの年収は低いです。業界を変えて転職をするときには、求人票に挙げられている金額だけでなく、生涯賃金を考慮して転職する必要があります。

これらの求人の特徴を理解して転職活動をすることで、転職の失敗を防ぎやすくなります。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。