臨床検査技師は、医療機関や検査センターで検体の検査をしたり、心電図やエコーなどの生理検査を実施したりするために必要な国家資格です。

実は、臨床検査技師の有資格者は、その資格を活かして研究職に転職することができます。

ただし、研究職と一言で言っても研究対象は非常に幅広いです。臨床検査技師資格をアピールできる研究職の求人は限られており、どんな求人に応募しても優遇されるわけではありません。

闇雲に求人に応募しても、研究職の求人に採用されるのは難しいです。臨床検査技師資格を効果的にアピールできる求人を見つけて応募しなければなりません。

ここでは、臨床検査技師が研究職に転職するために把握しておくべきポイントを紹介します。具体的には、「臨床検査技師資格を活かした研究職の仕事内容」「研究職求人で求められるもの」「研究職に転職したときの年収」についてくわしく解説します。

臨床検査技師資格は、医療系の研究職に転職するときに歓迎される

冒頭でも述べましたが、臨床検査技師資格は、医療機関や検査センターで検体の検査をしたり、心電図やエコーなどの生理検査を実施したりするために必要な国家資格です。

このように主に医療に携わる資格であることから、臨床検査技師の有資格者は医療機関で行う種々の検査の知識や医療全般の知識を有していると見なされます。

そのため、臨床検査技師が研究職に転職するときには、医療に関する研究業務を担う求人に応募することが基本になります。

ただし、臨床検査技師でも職場によって仕事内容が異なります。私の知り合いの臨床検査技師は、大学病院でエコーばかり担当していました。そのため、検体検査は不得意と教えてくれました。

このように、同じ臨床検査技師の有資格者でも、得意不得意は異なります。

そして医療系の仕事も非常に幅広いです。仕事で求められる専門知識も異なります。

医療系のなかでも、あなたの強みを活かせる求人を探すことで、採用もされやすく、転職後も活躍しやすいです。

まずは、臨床検査技師資格を活かして転職できる研究職求人の仕事内容を紹介します。

検査キットや医薬品の研究開発

最初に紹介するのは、検査キットや医薬品の研究開発に従事する求人です。

臨床検査技師として働いていると、検体検査で検査キットを使用することが日常的にあります。例えば、下の写真は妊娠の検査に用いられる検査キットです。

このような検査キットを研究開発する求人が、臨床検査技師資格があれば転職しやすい求人です。

実際の求人例を紹介します。この求人は、会社名は非公開ですが、さまざまな疾病で利用できる検査キットを研究開発している企業のものです。新たな検査手法の研究開発や商品開発を担当する人材を募集しています。

そして、この求人の「応募資格」の欄には、臨床検査技師資格が歓迎条件の1つに挙げられています。

また、検査キットだけでなく医薬品も、医療機関で働く臨床検査技師にとっては身近なものです。臨床検査技師資格があれば、医薬品の研究開発に携わる求人に応募できることがあります。

次に紹介するシミックファーマサイエンス株式会社の求人では、医薬品の研究開発のうち動物、微生物、細胞などを用いた試験を担当する人材を募集しています。

シミックファーマ社は、医薬品開発の臨床試験までの研究開発工程を製薬会社から受託している企業です。この求人で採用されると、医薬品や検査薬を動物や細胞に使用し、薬効、毒性などを評価する業務を担当します。

そして、シミックファーマサイエンス社の求人では、臨床検査技師資格が歓迎条件に挙げられています。

例えば、下の写真は細胞を用いて医薬品候補化合物の活性を評価しているものです。このような研究室で実験を繰り返し行い、医薬品候補化合物を選定していきます。

このように、臨床検査技師資格があれば、検査キットや医薬品の研究を担当する求人に応募しやすいです。

病理組織の解析

臨床検査技師の仕事の1つに、「病理検査」があります。検査センターや規模の大きい医療機関では、臨床検査技師が病理検査を担います。

医薬品によっては、研究開発の過程で病理検査が必要になることがあります。この研究開発のための病理検査を担当する求人は、臨床検査技師資格があれば採用されやすいです。

次に紹介する国立研究開発法人 国立がん研究センターの求人では、抗がん剤開発のための研究補助員を募集しています。

そして、この求人の応募資格は以下のとおりです。病理業務の経験が必須で、臨床検査技師資格があれば優遇されることが挙げられています。

臨床現場や検査センターで実施する病理検査の多くは、患者さんから採取した組織が癌化していないかを検査するものです。以下の写真のように、染色した組織を顕微鏡で観察します。

一方で、国立がん研究センターの求人で担当するのは、実験動物から得られた腫瘍の病理解析です。抗がん剤の開発の一環として病理解析を行います。

これまで病理解析の仕事を担当したことがあれば、このような求人で即戦力として働くことができます。

画像診断エキスパート

臨床検査技師資格は、医療機関や検査センターで検体検査、生理検査、病理検査を実施するために必要な資格です。医療機関で働く場合は、下の写真のような検査室で働くことが多いです。

そして、臨床検査技師資格があれば、放射線による暴露がないMRIやエコーの検査も実施することができます。このような画像診断の知識・経験を活かして、研究職に転職することができます。

次に紹介する株式会社マイクロンは、イメージング技術を活かして医薬品や診断薬などの研究開発や臨床開発を支援している企業です。そして、マイクロン社から出されている下の求人では、画像診断のエキスパートとして、医師や製薬会社をサポートする人材を募集しています。

医薬品開発において、画像診断も医薬品の効果や副作用を判断するために必要なツールです。

画像診断は手あたり次第実施すればよいものではありません。最終的に病気の重症度や医薬品の効果判定のエビデンスとして利用できるよう適切に利用しなければなりません。

このような判断を医師や製薬会社と共同で行い、医薬品開発の支援を行うことがこの求人の仕事内容です。

そして、マイクロン社の求人の「対象となる方」の欄は以下のとおりです。理系の大学を卒業し、社会人経験が3年以上あれば応募することができます。そして、臨床検査技師資格が歓迎条件に挙げられており、あなたが採用される可能性は十分にあります。

臨床検査技師としての勤務経験があれば、検体検査や生理検査だけでなく、画像診断に触れる機会もあります。このような経験をアピールすることで、画像診断エキスパートの求人に転職できる可能性があります。

臨床現場で実施される臨床研究も研究の1つ

ここまで紹介した求人は、最終的に商品を開発するための研究に従事することが仕事内容でした。具体的には、検査キットや医薬品の開発を目指した研究です。メーカーで実施されている研究の多くが該当します。

実は、研究と一言で言っても、商品を開発するための研究ばかりではありません。すでに発売されている商品を利用して、新たな知見を見出すための試験を実施する「臨床研究」も研究の仕事です。

臨床研究では、臨床現場で利用されている医薬品を患者さん(被験者)に使用します。その結果得られる効果、副作用などから、医薬品の新たな可能性を見出したり、病気の治療法の改善を目指したりします。

臨床研究に関する具体的な求人を2件紹介します。

最初の求人は、福岡県で臨床研究のサポートを主な事業内容としている一般社団法人九州臨床研究支援センターから出されている求人です。この求人では、医師主導の臨床研究の立ち上げから学会・論文発表までの支援を担当する人材を募集しています。

そして、九州臨床研究支援センターの求人では、臨床検査技師資格が歓迎条件として挙げられています。

臨床研究は医療機関で実施されます。医療機関の医師や医療従事者と協力しながら進めていかなければなりません。また、臨床研究に用いる医薬品を販売している製薬会社も関わります。

これらの関係者との打ち合わせを繰り返しながら臨床研究をサポートするのが、九州臨床研究支援センターの仕事内容です。

2件目の求人は、会社名は非公開ですが、臨床研究を支援するCRO(医薬品開発業務受託機関)から出されているものです。

この求人では、臨床研究のなかのデータマネジメント(DM)を担当する人材を募集しています。

臨床研究は、闇雲に患者さん(被験者)に医薬品を使うわけではありません。臨床研究の開始段階で患者数、投与期間などを決定し、プロトコールを作成しなければなりません。

臨床研究で得られたデータは、適切に集計・解析・報告しなければなりません。そのためのデータ解析やチェックを担当するのがデータマネジメントの仕事です。

そしてこの求人でも、臨床検査技師資格は歓迎条件に挙げられています。

臨床研究は、すでに発売されている医薬品に新たな価値を付加するために実施されます。また、臨床研究が実施されるのは、医療機関です。これまでの臨床業務に近い立場で働くことができます。

あなたが医師、看護師などの医療専門職と共同で仕事を進める働き方を望むのであれば、臨床研究も転職の選択肢になります。

このように、臨床検査技師資格があれば、臨床研究に携わる求人に応募することができます。

臨床検査技師資格よりも研究の実務経験が優先されることが多い

ここまで、臨床検査技師資格を活かして従事できる研究職の仕事内容と求人を紹介しました。

ここで注意しなければならないのは、「臨床検査技師資格がなければ応募できない求人はない」ことです。つまり臨床検査技師資格が必須条件に挙げられることはありません。

そして、研究に従事するときに多くの求人で求められるのは、「これまで研究に従事した経験」です。

最初の章で紹介した、非臨床試験を担当する人材を募集していたシミックファーマサイエンス社の求人では、応募条件は以下の内容でした。非臨床試験の経験が必須で、臨床検査技師の資格は歓迎条件です。

つまり、臨床検査技師資格があるだけでは応募することができません。

臨床研究に従事する求人でも同様です。前の章で紹介した社名非公開でデータマネジメントの担当者を募集している求人でも、データマネジメント経験が必須条件でした。臨床検査技師資格は「あれば望ましい」という位置づけです。

実際に、研究に従事するときに、臨床検査技師資格は必須ではありません。なぜなら、資格がなくてもここまで紹介した研究の仕事に従事することができるからです。

臨床検査技師資格は、検査センターや医療機関で検査を実施するときに必要な資格です。研究業務で必要な資格ではありません。

ここまで紹介した求人でも、臨床検査技師資格はあくまで「歓迎条件」です。研究に従事するときには、これまでの研究業務の経験が重要視されることを認識しておかなければなりません。

研究未経験者が応募できる求人を戦略的に探す

では、研究業務未経験の人は、研究職の求人に応募することができないのでしょうか。

実は求人数は少ないですが、研究経験がなくても応募できる研究職の求人はあります。ここまで紹介してきた求人のなかにも、研究未経験者でも応募できるものがありました。

例えば、冒頭で紹介した検査キットの研究開発担当者を募集していた求人は、研究開発未経験でも応募できることが求人票に記載されていました。

このように、研究未経験でも応募できる求人はあります。しかし、その求人数は非常に少ないです。そのため、あなたが応募できる求人を根気強く探さなければなりません。

より多くの求人に出会うために、転職エージェントの転職支援サービスを利用し、非公開求人を紹介してもらうのもよい方法です。

研究未経験者でも研究職に転職することはできますが、転職活動に工夫と根気が必要であることを覚えておきましょう。

研究職で働くときの年収・給料を確認する

最後に、臨床検査技師が研究職に転職したときの年収を解説します。

冒頭で紹介した会社名が非公開の求人では、以下のように400万円~600万円が提示されています。

ここまで計6件の求人を紹介しました。すべての求人で提示されている年収を一覧にしたものが、下の表です。

企業名

提示年収

(万円)

仕事内容

非公開 400~600 検査試薬の開発
シミックファーマサイエンス(株) 350~450 医薬品の開発
(株)マイクロン 360~540 画像診断の支援
国立研究開発法人 国立がん研究センター 時給1200円~1610円

想定年収280万円

病理組織解析
一般社団法人九州臨床研究支援センター 368~528 臨床研究の支援
非公開 400~700 データマネジメント

国立がん研究センターの求人はパートの契約であることもあり、想定年収が低いです。そのほかの求人は、350万円~700万円の年収が提示されていますが、金額の幅はかなりあります。

年収350万円であれば、医療現場で働く臨床検査技師の年収と大きく変わりません。一方で、年収700万円は高い部類に入ります。

大手転職サイトdodaには、医療系研究職の年収が年代別に紹介されています。研究と非臨床研究の平均年収をグラフ化したものが下の図です。

引用:平均年収ランキング(平均年収/生涯賃金)【最新版】をグラフ化

研究職の年収の特徴は、勤続年数が増えれば将来的に高い年収をもらうことが可能なことです。

私の知り合いの臨床検査技師が働く病院は、昇給額が毎年2,000円と教えてくれました。この昇給額のまま30年働いても、30年後の年収は今よりも2,000円 × 12ヵ月 × 30年 = 72万円プラスです。

さきほどのグラフと比べると、臨床現場で働くよりも研究職で働く方が将来的な年収は高くなりやすいことが分かります。

資格手当は支給されないのが基本

資格を取得すると、会社によっては資格手当が支給されることがあります。資格手当は毎月の給料に上乗せされるので、支給されれば年収アップにつながります。

しかし、臨床検査技師が研究職に転職しても、資格手当が支給されることはほとんどありません。

ここまで6件の求人を紹介しましたが、いずれの求人にも臨床検査技師資格に対する資格手当てに関する記載はありませんでした。

資格手当が支給されないのは理由があります。それは、臨床検査技師資格が研究業務を担当するために必須の資格ではないからです。

私はかつて化学メーカーの研究所で働いていました。そして私は薬学部を卒業しており、薬剤師資格を持っています。

しかし、仕事では薬剤師資格を直接活かすことはありませんでした。薬剤師資格に対する資格手当も支給されませんでした。

医療系の資格は、主に医療機関で保険診療に関わるときに活かすことができます。研究職として働くときには資格は必須ではなく、資格手当は基本的には支給されないと考えて下さい。

まとめ

ここでは、臨床検査技師が研究職に転職するときのポイントを紹介しました。

臨床検査技師資格を活かして研究職に転職するときには、医療系の研究を行っている企業を中心に探すことになります。具体的には、検査キットや医薬品の研究開発に携わる求人に応募するときに、臨床検査技師資格があれば優遇されることがあります。

また医薬品や検査キットの開発だけでなく、すでに販売されている商品を用いた臨床研究も研究職の1つです。臨床研究に携わる求人でも、臨床検査技師として身につけた知識を活かすことができるので、転職活動を有利に進めることができます。

研究職の求人は、研究業務の経験がないと応募できないものが多いです。未経験者が応募できる求人は少ないので、求人を探すときには根気と工夫が必要です。

研究職として働くと、医療機関で臨床検査技師として働くよりも将来的には高年収を得る可能性が高いです。なお、研究職の仕事に臨床検査技師資格が必要なわけではないので、資格手当は支給されないことが多いです。

これらのポイントを押さえて転職活動をすることで、満足できる転職を実現しやすくなります。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。