診断薬は、病気の診断や重症度を判断するために用いられます。医師が診断する際の精度を高めるために、診断薬が大きく貢献しています。

診断方法が確立していない疾患もあり、診断薬の研究開発は今後も重要な仕事です。

では、診断薬の研究開発に携わるためには、どのような求人に応募しなければならないのでしょうか。転職を成功させるために、どのような経験やスキルが求められるのでしょうか。

実は、仕事内容や企業によって、求められる経験は大きく異なります。事前に求人の実態を把握しておくことで、効率的に転職活動を進めることができます。

ここではまず、診断薬の研究開発の仕事内容を詳細に紹介します。続いて、求人に応募するときに求められる条件、企業ごとの違いを解説します。

診断薬の研究開発業務は幅広い

診断薬は、多くの工程を経て臨床現場で利用されるようになります。製造販売までの流れをまとめたものが下の図です。

このなかで薬事申請以外の工程が、研究開発職の仕事内容です。そして、研究開発の工程では、多くの専門家が関わり、仕事内容も多岐に渡ります。

続いて、実際の求人例を示しながら、診断薬の仕事内容を紹介します。

診断薬の研究に携わる求人例と仕事内容

ここで紹介するのは、以下の3つの求人です。

  • 原料開発
  • 分析
  • 生産プロセスの検討

最初に紹介するのは、原料開発の担当者を募集している求人です。

この求人は、日東紡グループの日東紡績株式会社で、体外診断薬の原料開発の担当者を募集しています。

診断薬では、ヒトの検体に含まれる特定の物質を検出したり成分量を測定したりするために用いられます。この特定の物質を検出するときの原理は、抗原抗体反応を用いることが多いです。

特異性の高い抗体を開発することが、検査の精度を高めます。また、酵素で標識した抗原を利用することで、検体中の抗原量を測定できます。このような技術を活かすための抗原開発も必要です。

例えば、妊娠検査薬も抗原抗体反応を活用している診断薬の1つです。妊娠中に増えるホルモンを抗原抗体反応で検出することで、妊娠の判定をします。

この求人では、検査で用いる抗原・抗体や、測定キットの改良を担うことになります。

続いて紹介するのは、分析研究の求人です。

この求人は、東京都に本社があり、神奈川県川崎市に研究所があるSBIファーマ株式会社のものです。

SBIファーマ社の求人では、製品や生体試料中の成分量および代謝産物の解析を担当する人材を募集しています。

SBIファーマ社は、アミノ酸の一種である5-ALA(5-アミノレブリン酸)を用いた医薬品や診断薬の開発に力を入れています。

この求人で担当することになる定量分析や代謝産物の解析には、HPLCやLC-MSなどの分析機器を使用します。

5-ALAの代謝産物の構造解析を行うことで、新たな診断薬開発への可能性を広げることができます。

3件目の求人は、診断薬の生産プロセスの改良を担当するものです。

株式会社アークレイファクトリーは、滋賀県に拠点を置く企業です。アークレイファクトリー社は、臨床検査システムの総合メーカーであるアークレイ株式会社のグループ会社で、診断薬の製造を担っています。

アークレイファクトリー社の求人では、診断薬製造の生産技術業務を担当します。

診断薬の量産工程は、工場で行われます。工場での製造は、ラボで行う実験とは規模が大きく異なります。また、ラボでは容易にできる操作でも、工場の製造工程では実施できなかったり、操作が煩雑になったりすることもあります。

例えば、ラボの実験で粉末の試薬を反応容器に仕込むとき、実験者1人でも特に問題なく操作することができます。

しかし、工場で実施するスケールになると、100kg以上の原料を仕込まなければならないこともあります。このような場合は、人力では仕込むことができないので、クレーンを利用しなければなりません。

また、固体の原料ではなく、液体の原料であればポンプを利用して仕込むことができます。製造現場では、固体よりも液体の原料の方が圧倒的に扱いやすいです。

このように、生産プロセスの改良では、工場ならではの製造方法を意識しながら仕事をすることになります。

診断薬の研究開発に携わった経験がなくても応募できる求人が多い

あなたがこれまで診断薬の研究開発に従事した経験があれば、キャリア採用で転職成功させやすいです。

実は、診断薬の研究開発の求人は、診断薬の研究開発に携わった経験がない人でも応募できる求人が多いです。前の章で紹介した3件の求人を例に、転職で求められる経験・スキルを確認してみましょう。

まずは、冒頭で紹介した日東紡績社で、診断薬の原料開発担当者を募集している求人です。この求人の対象となる方の欄には、以下のように記載されています。

分子生物学、生化学の実験と、実験動物を取り扱った経験が挙げられています。診断薬の研究開発以外でも、これらの経験を積んでいる人はいます。

例えば、医薬品の研究開発を担当している人のなかには、生化学や実験動物を用いた薬理学の研究をしている人がいます。下の写真のような細胞を用いた生化学の実験を経験していれば、応募条件の1つを満たします。

生化学や分子生物学の研究では、活性評価や実験動物への薬物投与などを日常的に行います。このような業務を担当した経験があれば、応募条件を十分に満たします。

2件目に紹介したSBIファーマ社の求人では、分析・基礎研究の担当者を募集していました。SBIファーマ社の求人では、分析業務に携わった経験があれば応募することができます。

この求人では、研究開発に携わった経験も必要ありません。製薬メーカーや食品メーカーの品質管理部門で分析業務に携わっていれば応募条件を満たします。

私がかつて働いていた化学メーカーでは、医薬品の原料も製造していました。そして、品質管理部では主にHPLCを使用して品質試験を実施していました。

また、製造工程や条件検討で構造未知の不純物が生じた場合は、品質管理部がLC-MS、NMRなどを利用して同定試験を行っていました。

このような品質試験や同定試験の経験があれば、SBIファーマ社の求人に応募することができます。

3件目のアークレイファクトリー社の求人では、生産プロセスの改善が仕事内容でした。そして、応募するためには、以下のように製造プロセスの構築経験が求められています。

最終製品は、研究室ではなく工場で製造されます。規模が大きいものは、用いる原料のスケールが1,000L以上になることもあります。

下の写真は、原料や廃液が保管・貯留されているタンクです。これらのタンクのスケールは、1,000L以上です。

製造の条件を検討するときには、製造のスケールでいきなり検討することはありません。まずは、研究室内で実施できる小スケールで検討します。

私が化学メーカーで条件検討をしたときには、まず200mLの反応容器を使用していました。そのスケールでうまくいくと、1L、5Lとスケールを上げていきました。

スケールを上げると、全く同じ反応条件でも反応液の挙動が大きく変わることがあります。その挙動の違いを観察し、最終的に1,000L以上のスケールで製造することができるかを判断しなければなりません。

このような製造プロセスの改良経験があれば、アークレイファクトリー社の求人に応募することができます。

また、いずれの求人にも共通しているのは、転職後に担当する仕事と同じまたは類似の仕事の経験が求められることです。そのため、これまでの経験と転職後の仕事内容が合致する求人を中心に応募することで、転職を成功させやすいです。

あなたの専門分野に合った求人を選んで応募する

ここまで、診断薬の研究開発の担当者を募集している求人を3件紹介しました。求人が違えば、仕事内容も大きく異なっています。

研究開発では、工程ごとに専門性が異なります。そのため、どの工程を担当するかで、求められる知識や経験は変わってきます。

例えば、冒頭で紹介した日東紡績社の求人では、診断薬の原料を開発することが仕事内容です。この仕事では、分子生物学や生化学の知識が求められます。

抗原や抗体のような原料開発を担当しようとする人が、分析の経験や製造プロセス開発の経験しかなければ、即戦力としては働くことができません。

したがって、あなたが研究開発の従事者であれば、専門性を活かせる求人を見つけるようにしましょう。

英語力があれば評価される求人もある

診断薬の研究開発の求人に応募するときに最も大切なのは、あなたの専門分野と転職後の仕事内容が合致していることです。

実は、求人によっては、専門知識だけではなく、英語力が求められるものもあります。

次に紹介する株式会社リボミックは、核酸を用いた医薬品や診断薬の開発を行っているベンチャー企業です。この求人では、in vitroやin vivoの実験経験だけでなく、英語力も必須条件の1つに挙げられています。

ここで求められる英語力は、日常会話ができる英語力ではありません。必要なのは、研究開発をするための英語力です。

研究開発の業務で、闇雲に実験を行うことはありません。根拠となる文献や特許を基に、どのような検討をすべきかを考えます。このときに、英語で書かれた文献や海外の特許に日常的に触れることになります。

文献や特許を読むのに長時間を要していると、本来の仕事が進みません。

研究開発に必要な情報収集をするための英語力があれば、転職活動を有利に進めることができるだけでなく、転職後に仕事をスムーズに進めることができます。

診断薬の研究開発を行っている企業の規模はさまざま

最後に、診断薬の研究開発を行っている企業の規模について解説します。診断薬の研究開発を行っている企業規模はさまざまです。

冒頭で紹介した日東紡績社の従業員数は、ホームページで確認すると、単体で800名以上です。グループ全体では、従業員数が2,000名を超えます。

引用:会社概要 – 日東紡を一部改変

診断薬の研究開発を行っているのは、このように規模の大きい企業・グループばかりではありません。

前の章で紹介したリボミック社は、従業員数が22名の企業です。

企業規模が大きいと、多くの従業員が研究開発に携わります。そのため、担当者ごとの仕事内容が細分化されています。

一方で、従業員数が少ない企業では、一人の研究者が担う仕事は幅広くなります。

リボミック社の開発研究部は、3名が所属しています。このような小規模のグループで研究開発を進めるときには、一人の仕事の範囲は広くなります。

私がかつて働いていた化学メーカーも、研究員は6名しかいませんでした。複数のプロジェクトがあったので、先輩のなかには試作品の合成から性能評価や工業化検討までのすべての実験を一人で行っている人もいました。

このように、企業規模によって、あなたの専門だけでなく、幅広い仕事を担当することになります。

転職活動をするときには、企業規模も確認することで、あなたの希望と実際の仕事内容のミスマッチを防ぎやすくなります。

まとめ

ここでは、診断薬の研究開発の担当者を募集している求人に転職するときのポイントを紹介しました。

診断薬の研究開発は、基礎研究から始まり、既存製品のプロセス改良まで、多くの工程に分かれています。工程ごとに必要な専門知識も大きく異なります。

まずは、あなたの専門性を活かすことができる求人を見つけなければなりません。そして、求人によっては、研究開発を行うための英語力が求められることがあります。

診断薬の研究開発を行っている企業の規模はさまざまです。企業規模によって担当する業務の幅が違うので、あなたの希望と合致するかを事前に確認しておくことが大切です。

これらの情報を踏まえて転職活動をすることで、満足できる転職を実現しやすくなります。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

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