医療機器は頻繁に買い換えるものではありません。そのため、戦略的に研究開発や販売促進の活動をしなければ、売り上げを伸ばすことはできません。これらの活動の舵を取るのがマーケティング職の仕事です。
医療機器メーカーのマーケティング部は、このような業界の特徴を理解して仕事をしなければなりません。しかし、マーケティングの仕事は会社によって担当する仕事内容が大きく異なることがあります。
また、転職で求められる経験・スキルを理解していなければ、転職を成功させることは容易ではありません。そして、マーケティング未経験者でもマーケティング職に転職を成功させることは可能です。
ここではまず、医療機器メーカーの企画・マーケティング職の仕事内容を整理します。その後、転職を成功させるために必要な経験・スキル、年収の相場を確認します。
もくじ
医療機器の企画・マーケティングの幅広い仕事内容を理解する
まず、企画・マーケティングと一言でいっても、具体的にどのような仕事をするのでしょうか。
医療機器のなかには、以下の商品のように誰でもお金を払えば購入できるものもあります。
しかし、医療機器メーカーのマーケティング職が関わる商品の多くは、一般の消費者が購入できるようなものではありません。例えば、透析に使用する機器は、一般の人が購入したり使用したりできるようなものではありません。
このように、医療機器メーカーが医療機器を販売するのは、病院やクリニックなどの医療機関であることが多いです。では、医療機関に医療機器を購入してもらうために、どのような仕事を担当するのでしょうか。
プロダクトマーケティングは製品の売り上げの責任を負う
マーケティング部は、製品の売り上げの最大化するための施策を計画・実行する部隊です。マーケティング部の指示で、あらゆる部署が動きます。
実際の求人例を紹介します。この求人は、東京都日野市に本社があるGEヘルスケア・ジャパン株式会社のもので、プロダクトマーケティングの担当者を募集しています。
GEヘルスケア・ジャパン社は画像診断装置を始め、さまざまなライフケアソリューションを提供している医療機器メーカーです。この求人では、脳や血管の病変診断に使用されるMRI製品のプロダクトマーケティングに携わる人材を募集しています。
マーケティング部とほかの部署の関係を逆から考えると、次のようになります。
研究部隊は、自分たちが興味がある内容を自由に検討できるわけではありません。将来事業になりそうなものを検討し、成果を出さなければなりません。
設計開発職は、マーケティング部が今後売り出そうと考えている性能・品質を有している製品を開発しなければなりません。
営業部隊は、マーケティング部から指示された売り上げノルマを達成しなければなりません。
医療従事者に自社製品を知ってもらう機会を提供するために、展示会を企画することがあります。新製品のアピールをすることで、自社製品の魅力を知ってもらい、新規導入のきっかけを作ります。
各メーカーの担当者が医療機関に商品の宣伝に行くこともありますが、業務の合間に話をするので、落ち着いて話をするのは難しいです。その一方で、展示会では、医療機器の実物に触れることができ、ゆっくり話もできます。
このような会を企画することで、自社製品の販売促進を行うこともプロダクトマーケティングの仕事に含まれます。
また、医療機器の販売先は日本国内だけではありません。下の図は、医療機器の市場規模と年平均成長率をグラフにしたものです。縦軸が成長率ですが、先進国の成長率は低いですが、海外の市場は15%を超えている国もあります。
引用:医療機器への参入のためのガイドブック 第2版 17ページより
海外のマーケティングが仕事内容に挙げられている求人を1例紹介します。この求人は、キヤノンメディカルシステムズ株式会社で海外マーケティングの担当者を募集しています。キヤノンメディカルシステムズ社は、画像診断や検体検査システムに強みがある医療機器メーカーです。
キヤノンメディカルシステムズ社のサービス拠点は、世界150以上の国や地域にあります。この求人では、国内だけでなく、海外向けの医療機器の予実管理を担当します。
このように仕事を進めていくので、売り上げが上がっても下がっても、最終的な責任はマーケティング部が負うようになります。
マーケティングコミュニケーションは販売促進のための企画を行う
マーケティング職の仕事の1つに「マーケティングコミュニケーション」があります。マーケティングコミュニケーションでは、自社の製品を医療機関・医師に購入してもらうための販売促進活動を担当します。
具体的には、以下の求人がマーケティングコミュニケーションの担当者を募集しています。
ただし、マーケティングコミュニケーションの仕事は、プロダクトマーケティングの仕事に含まれることが多いです。そのため、マーケティングコミュニケーションの担当者を募集している求人は非常に少ないです。
実際に多い求人は、以下のような求人です。東京都新宿区に本社がある株式会社日本エム・ディ・エムの求人で、マーケティング・プロモーションの担当者を募集しています。この求人に示されている仕事内容には、マーケティングコミュニケーションの仕事内容も含まれています。
また、会社によってはマーケティングコミュニケーションの枠がないことも多いです。なぜなら、企業規模が大きくないことが多く、マーケティング部としてマーケティングに関するすべての業務を行うためです。
ほとんどの求人はプロダクトマーケティングの募集
企画・マーケティングの求人を転職サイトで探すと、さきほど紹介した仕事を担当する求人が均等に見つかるわけではありません。実は、ほとんどの求人はプロダクトマーケティングに携わる人材を募集しています。
転職で求められる経験・スキル
繰り返しになりますが、医療機器メーカーの企画・マーケティングの仕事は、会社の経営に大きな影響を及ぼします。
このような強い責任感が求められる職種に転職するためには、どのような経験が求められるのでしょうか。転職後に必要となるスキルはあるのでしょうか。これらについて順に解説します。
医療機器業界での業務経験かマーケティング業務経験のいずれかが必要
現在医療機器業界でマーケティング業務に携わっていれば、これまでの経験を十分にアピールして、キャリア採用を目指すことができます。
それ以外にも以下の経験があれば応募できる求人、採用されやすい求人があります。
- 医療機器メーカーでの営業経験
- 医療機器メーカーでの製品開発経験
- 医療機器メーカー以外でのマーケティング経験
これらの経験がどのような場面で活かされるのかについて、実際の求人例を示しながら解説します。
・医療機器の営業経験を活かす
営業職とマーケティング職は、職種の名称は異なりますが、一部仕事内容が重複しています。
マーケティングの仕事には、販売促進の計画立案だけでなく、販売促進のための活動も含まれることがあります。前の章で紹介した求人でも、市場の調査だけでなく、販売促進活動も担当することが記載されています。
このような場合、営業の経験があれば活かすことができます。医療従事者に対して、製品の長所を説明したり、新製品導入によるメリットを伝えたりすることは、営業活動の基本です。
これらの仕事を経験していれば、マーケット職に転職しても活かすことができる場面があります。
・医療機器の製品開発経験を活かす
マーケティング職には、営業職やグループ会社から既製品の改善点に関する情報が集まります。この情報を開発部隊にフィードバックし、どのようなカスタマイズを行うかを決定するのもマーケティング職の仕事です。
下に示すフクダ電子株式会社の求人では、海外マーケティングの担当者を募集しています。この求人の仕事内容は以下の通りです。
フクダ電子社は、呼吸器系や循環器系の医療機器に強みがあるメーカーです。
そして、このような業務の特徴から、製品開発の経験があれば有利に転職できます。この求人の対象となる方の欄には、医療機器の開発経験が歓迎条件として挙げられています。
マーケティング職から開発職への開発依頼内容は、現場の状況がわかっていないと的外れになることが多いです。メーカーで開発職で働く友人に話を訊くと「上(マーケティング部)から無茶苦茶な依頼が来るから、現場との調整が大変」と教えてくれました。
製品開発の経験があれば、営業職から収集した内容を整理して開発部隊にフィードバックできます。
・マーケティング経験を活かす
最後に、医療機器業界以外のマーケティングの経験を活かして転職できる求人例を紹介します。この求人は、大手医療機器メーカーのテルモ株式会社の求人です。
この求人では、事業企画やマーケティングの経験が必須条件に挙げられていますが、医療機器に関する業務経験は求められていません。
英語力はほとんどの求人で求められる
ここまで転職で求められる経験を紹介しました。マーケティング以外の業務経験があっても応募できるケースは多いことが理解できたと思います。
実は、医療機器メーカーのマーケティング職への転職では、業務経験以上に求められるのもがあります。それは「高い英語力」です。
英語ができないと、マーケティング職への転職は不可能といっても過言ではありません。続いて、実際の求人例を2例紹介します。いずれも最初の章で紹介した求人です。
まず1例目は、GEヘルスケア・ジャパン社の求人です。この求人では、必須条件の1つにビジネスレベルの英語力が挙げられています。
続いて2例目は、キヤノンメディカルシステムズ社の求人です。この求人でも英語力は必須条件として挙げられています。
この求人での英語力の位置づけは、応募のために最低限必要なものです。英語力があったうえで、医療機器メーカーでの勤務経験か、営業または海外マーケティングの経験が求められます。
ちなみに、ここまで紹介してきたほかの求人でも同様に高い英語力が求められています。
では、なぜ医療機器メーカーのマーケティング職には高い英語力が求められるのでしょうか。それは、海外での事業戦略を立案し実行することも仕事内容に含まれるからです。
日本以外の国で製品を販売するときには、現地法人の担当者とやり取りをして、必要な手続きをしたり、販売戦略を練ったりする必要があります。
このときには、メールでやり取りをすることもあれば、電話会議をすることもあります。英語を使う業務は日常的にあることを把握しておかなければなりません。
研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。
一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。
ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。
これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。