化粧品メーカーの薬事の仕事は、法律を相手にすることが多く、専門性が高い仕事です。しかし会社によっては、薬事申請以外の仕事も担当することがあります。

また、専門性が高い職種のため、ほとんどが薬事経験者を募集しています。ところが求人によっては、化粧品メーカーの薬事以外の職種や、実は未経験者でも転職できる求人があります。

このように、薬事担当者を募集している求人も、会社によって担当する業務や転職で求められる内容が大きく異なることがあります。まずはこの事実を認識して転職活動を行う必要があります。

ここではまず、薬事担当者が携わる仕事内容を確認します。そして、転職の際に求められる経験やスキル・資格を紹介します。

薬事求人の仕事の特徴

薬事の仕事は、主に以下の3点です。

  • 申請・届出
  • 表示、広告などの表現の検討
  • 法改正の動向把握

実際の求人例を示します。下の求人は、福岡県福岡市にオフィスを構える化粧品メーカーです。この求人の仕事内容の欄を下に示します。

この求人は、一般的な薬事の仕事内容が挙げられています。実は、会社が違えば、仕事内容も大きく異なることがあります。

輸出国(海外)への薬事を担当することも多い

化粧品の販売先は日本国内だけではありません。海外の市場を開拓して、日本製の化粧品を海外に輸出することも増えてきています。

海外への輸出をするときには、輸出や現地で販売するための手続きをしなければなりません。薬事担当者は、これらの業務を任されるようになります。

下の求人は、神奈川県にある企業名が非公開の大手化粧品メーカーのものです。主な事業はヘアケア製品ですが、フェイスケアやボディケアなどの幅広い事業を展開しています。

この求人で採用されると、主に輸出に関する薬事業務を担当することになります。

日本と外国では法律が異なります。したがって、商品によっては輸出の際に受ける規制が変わってきます。

例えば、日本では危険物として取り扱われない物質でも、国によっては危険物として規制を受ける物質もあります。このような場合は、適切な手続きをしなければ、輸出することができません。

また、海外で販売するためには、現地の法律に従って販売承認を受ける必要があります。

最終的な申請作業は現地法人の担当者が行ってくれますが、現地法人とのやり取りは必要になります。この求人でも現地法人とのやり取りが仕事内容に挙げられています。

このように、日本国内に限らず、海外での販売に向けた薬事申請を担当する求人も多いです。

化粧品の開発工程全体を担当する求人もある

ここまで紹介してきた求人では、国内と海外の違いはあるものの、求人票には薬事の仕事内容しか挙げられていませんでした。

しかし、求人によっては薬事だけでなく、多くの企業ではほかの職種の人が担当する業務も兼任することがあります。

続いて紹介するのは、海外展開もしている大手化粧品会社の求人です。この求人の仕事内容の欄は、以下の通りです。

求人票には「医薬品アイデアを開発し、それを製品化する仕事」と記載されています。これは要するに、開発の上流から下流までの工程のすべてを担当することを意味します。

仕事内容に挙げられている処方開発は、新製品や既存品の原料や基剤を検討する仕事です。多くの会社では、薬事担当者ではなく、専門の処方開発部隊が処方内容を検討します。

また、分析・評価法の開発は、完全に研究職の職域です。この業務では、動物代替モデルを使用した評価系の開発を行います。

このように、薬事担当者を募集している求人でも、会社によっては幅広い業務を任させる可能性があることを認識しておく必要があります。

そして、求人票には携わる仕事内容が必ず記載されています。まずは、あなたがどのような仕事を担当したいか、何ができるのかを整理しましょう。そのうえで、あなたの希望する仕事と求人票に記載されている内容と相違がないかを確認するようにしましょう。

転職で求められる経験・スキル・資格

では、薬事申請担当者の求人に転職するためには、どのような経験が求められるのでしょうか。

ほとんどの求人で薬事担当者としての経験が求められる

冒頭でも述べましたが、薬事の仕事は法律を取り扱うので、専門性が高い職種です。未経験者がすぐに実務ができるようなしごとではありません。このような仕事の特徴から、薬事の求人の転職するためにはほとんどの求人で薬事申請業務に携わった経験が求められます。

下に示す求人は、東京都世田谷区にあるスキンケアやヘアケア商品を製造販売している化粧品メーカーのものです。この求人の応募資格の欄には、化粧品の薬事申請業務経験5年以上が必須条件として挙げられています。

化粧品や医薬部外品の薬事申請は、薬機法(旧薬事法)で細かく規定されています。

例えば、下の写真は株式会社資生堂から発売されている日焼け止めのANESSA(アネッサ)です。アネッサには複数のラインナップがあります。

この2種のうち右側の「ホワイトニングUV ジェルn」には、美白有効成分のm-トラネキサム酸が含まれるので、医薬部外品に分類されます。

そのため、本体にも医薬部外品であることが表記されています。そして、医薬部外品であれば、効能を謳うことができます。ホワイトニング UVジェルnにも以下のように期待される効果が表記されています。

一方で、金色のアネッサはm-トラネキサム酸のような有効成分が含まれていないので、化粧品に分類されます。そのため、効能を謳うことができません。

化粧品や医薬部外品の薬事申請では、このような規制に多くかかわることになります。そのため、実際に薬事申請に関わったことがある経験が求められる求人がほとんどです。

また、国内だけでなく、海外への薬事申請経験があればアピールすることができます。この求人でも、海外薬事申請経験がある人を歓迎としています。

日本の化粧品は海外でも人気です。特にアジア圏では、「爆買い」という言葉が使われるほど大量に購入されることがあります。アジア諸国は経済の伸びも高く、化粧品購入額は年々増加しています。

このような背景から、海外での販売に力を入れる化粧品メーカーは増えています。そのため、海外薬事の経験があれば重宝されます。

・化粧品会社の他職種での業務経験を活かすこともできる

転職サイトで紹介されている求人のほとんどは、薬事申請の経験者でなければ応募できないものです。では、薬事未経験者は薬事の求人に転職することができないのでしょうか。

実は、求人数は少ないですが、化粧品メーカーで他職種の業務経験があれば応募できるものもあります。

次に紹介する求人は、埼玉県にある化粧品メーカーのものです。この求人には、薬事の経験がなくても、品質保証、処方開発、品質管理のいずれかの業務経験があれば応募できます。

高い英語力が求められる求人が多い

海外の市場に商品を売る場合、海外の法律に準じた申請をしなければなりません。

海外の当局への申請は現地法人の担当者が行いますが、申請に至るまでの現地法人とのやり取りは英語でしなければなりません。そのため、求人によっては高い英語力が求められることがあります。

下の求人は、前の章で紹介した神奈川県にある大手化粧品メーカーのものです。この求人では、主に輸出に関する薬事業務を担当することになります。そして、この求人の応募資格の欄には、ビジネスレベルの英語力が必須条件として挙げられています。

薬事の求人では、このように高い英語力が必須条件に挙げられているものが多いです。

転職のために必須の資格はない

薬事担当者として働くときに必要な資格はありません。そのため、ほとんどの求人で応募資格の欄に資格が挙げられていることはありません。

さきほど紹介した求人も、必須なのは薬事申請業務の経験、英語力、部下のマネジメント経験であり、資格は挙げられていません。

化粧品会社で働いていると、自己研鑽のために日本化粧品検定や化粧品成分検定などの民間資格を取得する人もいます。もちろんこれらの資格を取得することで、化粧品の知識を増やすことはできます。

しかし、これらの資格を取得していなくても薬事の仕事はできます。薬事の求人に転職するときには、資格よりも業務経験が重視されることを覚えておきましょう。

・薬剤師資格があれば未経験でも転職できる

ここまで、薬事の求人に転職するためには、薬事の経験者もしくは化粧品会社で処方開発などに携わった経験がなければ転職できないことを紹介しました。

しかし実は例外があり、化粧品業界での業務経験がなくても転職できる場合があります。それは、薬剤師資格をもっている場合です。こちらも求人数は少ないですが、未経験者でも薬剤師免許があれば応募できる求人があります。

下に紹介する求人は、東京都千代田区にある外資系のハンドケア製品メーカーのものです。この求人の応募資格の欄には、薬剤師資格が必須条件として挙げられています。

この求人は薬事の求人のなかでは珍しく、未経験者の採用枠での募集です。

また、別の求人では薬剤師資格が歓迎条件として挙げられているものもあります。前の章で紹介した神奈川県の大手化粧品メーカーの求人では、以下のように薬剤師資格が歓迎条件として挙げられています。

薬剤師は医療用の医薬品だけでなく、医薬部外品、化粧品の法令についても学習し、国家試験に出題されます。実際に薬剤師国家試験対策のテキストには、以下のように医薬品だけでなく、医薬部外品や化粧品に関する内容も含まれます。

引用:薬剤師国家試験対策マニュアル 8 法規・制度・倫理 101ページより

このように、薬剤師資格を取得していれば、医薬部外品や化粧品の規制に関する知識が多少なりともあるとみなされます。

もちろん薬事の実務経験がなければ、薬剤師資格があっても即戦力として働くことはできません。薬剤師資格があれば転職しやすいですが、あくまで資格よりも業務経験がある方が応募できる求人数は多いです。

まとめ

ここでは、化粧品メーカーの薬事担当者に転職するときのポイントについて解説しました。

薬事の担当者は、化粧品の製造・販売のための法規制に精通したスペシャリストです。極めて専門性の高い職種であり、ほとんどの求人は経験者でなければ応募することができません。また、日本発の化粧品は海外での需要が多く、海外薬事の仕事も増えてきています。

求人によっては、薬事の仕事以外も担当することがあります。求人票に挙げられている内容が、あなたの経歴と合致しているかを十分に確認して応募するようにしましょう。

海外薬事を担当する求人が増えているので、英語力が求められる場面が増えています。あなたに英語力があれば、しっかりアピールすればよいです。もし英語力がなければ、転職後も努力する必要があることを覚えておきましょう。

転職成功のために必須の資格はありません。薬剤師の資格があれば未経験でも応募できる求人はありますが、基本的には資格よりも経験の方が優先されます。

以上のことを把握して転職活動を行うことで、円滑に転職活動を進めることができます。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。