医療機器は購入されたらそれで終わりではなく、購入してくれた医療機関を訪問して定期的なメンテナンスをしたり、突発的な修理の対応をしたりしなければなりません。このときに活躍するのが、サービスエンジニアです。

サービスエンジニアの主な仕事は、医療機器のメンテナンスや修理をすることです。しかし、機器の知識以外にもサービスエンジニアに求められるスキルはあります。転職の失敗を防ぐためには、サービスエンジニアの仕事の実態を理解して転職活動をしなければなりません。

ここでは、医療機器メーカーのサービスエンジニアに転職するときの求人の特徴について解説します。具体的には、求人を探すときのポイント、転職の際に求められる経験・スキル、年収の相場について順に紹介します。

医療機器メーカーごとに呼称が違う

サービスエンジニアに転職するときには、求人を探すときに注意しなければならないことがあります。それは、求人票によって職種の呼称が異なることです。

実際に求人票を見ると、以下のような表記をされています。なおこれ以降の説明では、いずれも同義として使用します。

  • サービスエンジニア
  • フィールドエンジニア
  • フィールドサービスエンジニア(FSE)

例えば、下に示す求人は歯科医療機器を中心に医療機器の開発・製造・販売をしている株式会社吉田製作所のものです。この求人では、東京都内の歯科医院を訪問するフィールドエンジニアを募集しています。

この求人は大手転職サイトのdodaで「医療機器 フィールドエンジニア」で検索して見つけました。そして、同じdodaを利用して「医療機器 サービスエンジニア」で検索しても、この求人はヒットしません。

このように、会社や求人によって呼称が異なることがあります。つまり、複数のキーワードで求人を探すことで、少しでも多くの求人から希望に沿ったものを見つけることができます。

主な仕事内容は医療機器のメンテナンスと修理対応

サービスエンジニアとして働くと、技術者としてユーザーの医療機関に赴いて定期メンテナンストラブル対応をすることになります。

実際の求人例を下に示します。がん患者さんに用いる放射線治療の医療機器が主力製品の株式会社バリアンメディカルシステムズの求人で、サービスエンジニアを募集しています。

この求人では、京都オフィスを拠点として滋賀県、福井県、石川県などを管轄することになります。

医療機器は、一度導入してもずっと放置はできません。定期的にメンテナンスをすることで、故障を防がなければなりません。例えば、下の検査機器はメーカーのサービスエンジニアが1年に2回は点検に訪問します。

さまざまな項目をチェックして、消耗品は適宜交換します。点検が終わると、以下のような点検報告書をユーザーの医療機関に渡します。

また、トラブルが発生した場合は、急いでユーザーを訪問して修理しなければなりません。

このような定期メンテナンスと修理対応が、サービスエンジニアの仕事内容です。

機器の設置・導入に携わることもある

さきほど紹介したように、サービスエンジニアの主な仕事内容は定期メンテナンスとトラブル発生時の修理対応です。これらの仕事は、ユーザーが医療機器を使用し始めてからの仕事です。

そしてこれらの仕事以外にもサービスエンジニアは、医療機器を使用し始めるときの設置・導入も担当することがあります。

下に示す富士フイルムメディカル株式会社の求人では、定期点検と故障の対応だけでなく、設置・立ち上げも仕事内容に挙げられています。

医療機器は、医療機関に運び込んで電源を入れるだけで使用できるわけではありません。ユーザーによって求める機能が大きく異なるため、ユーザーの希望に合わせたシステム・機能を設定しなければなりません。

また、医療機関によって血液検査で実施する項目は大きく異なります。下の写真は、病床数が600床を超える医療機関です。

そして、この病院では20以上の診療科を標榜しており、それぞれの診療科で頻繁に検査される項目は異なります。

例えば、外科では消化器に関する検査を実施し、整形外科では骨に関する検査を実施します。

その一方で、規模が小さい病院やクリニックであれば、大病院と比べると検査する項目は少ないです。例えば、下の写真のような泌尿器科のクリニックであれば、消化器や骨密度の検査はまず必要ないでしょう。

このように、同じ医療機器を使用する場合でも、使用する機能は異なります。サービスエンジニアは、それぞれのユーザーに合わせた機能の設定を行う必要があります。

また、ほとんどの医療機関で診療には電子カルテが使用されています。大病院はもちろんですが、開業医のクリニックであっても、電子カルテを導入しているケースが多いです。

画像診断も検体検査も、検査システムのサーバーにデータが保存されます。そして、医師が検査結果を閲覧する時には、電子カルテから検査結果を閲覧できなければなりません。検査結果を確認するために、わざわざ診察室から検査室やレントゲン室まで足を運ぶわけにはいきません。

そこで、電子カルテのサーバーと検査システムのサーバーをリンクさせる必要があります。そうすることで、電子カルテを閲覧しながら、その場で検査結果を閲覧することができるようになります。

このような医療機器の設置・導入も、サービスエンジニアの仕事に含まれることがあります。

サービスエンジニアの厳しさとやりがい

定期点検で医用期間を訪問する時は、決められた項目を点検するだけなので、そこまでストレスがかかる仕事ではありません。

その一方でトラブル対応は、緊急性が高く、ユーザーの医療機関の診療に大きな影響を及ぼすこともあります。

急いで訪問しても、医療機関のスタッフはイライラしていることが多いです。なかなか復旧できないと、大きなプレッシャーを感じて「きつい」と感じる場面もあります。

そして、ユーザーは少しでも業務をしやすいようなに設定を変更することを要望します。ユーザーの要求に十分応えることができて感謝されたときには、大きなやりがいを感じることができます。

このようにフィールドエンジニアは、きつさとやりがいの両方を感じる仕事を担当します。しんどさの中にもやりがいを見出しながら働くことができる人が、フィールドエンジニアに向いているといえます。

転職で求められる経験・スキル・資格

では、医療機器メーカーのサービスエンジニア(フィールドエンジニア)に転職するためには、どのような経験やスキルが求められるのでしょうか。また、転職を有利に進めるための資格はあるのでしょうか。

フィールドエンジニアとしての経験は必須ではない

これまでフィールドエンジニアとしての業務経験があれば、その経験を活かして転職できることは想像できると思います。もちろん、求人票にフィールドエンジニアとしての業務経験が必須条件として挙げられているものもあります。

実際の求人例を1例示します。大手電気機器メーカーのキヤノングループで医療機器の開発・製造を担っているキャノンメディカルシステムズ株式会社の求人です。この求人では、必須条件の1つにフィールドサービスの経験が記載されています。

ただし、このようにフィールドエンジニアとしての経験が必須の求人は少ないです。

次に紹介するのは、富士フイルムグループの医療事業を担っている富士フイルムメディカル株式会社の求人です。この求人では、フィールドサービスの経験がなくても応募することができます。

富士フイルムメディカル社では、X線画像診断システム、内視鏡システム、超音波診断装置など、幅広い種類の医療機器を開発・販売しています。

この求人では、フィールドサービスの経験がなくても、ネットワーク、電気、機械に明るければ応募条件を満たします。

・入社後の研修で実力をつける

では、フィールドサービスの経験がない人が転職しても、問題なく働くことができるのでしょうか。

同じ目的で使用する医療機器でも、メーカーが違えばハード、ソフト共に異なります。細かいことでいえば、エラーメッセージはメーカーが異なれば違うメッセージが表示されます。

つまり、フィールドサービスの経験があったとしても、即戦力として仕事ができるわけではありません。

そこで、転職後は自社製品に触れたり、細部について学んだりする研修を受けることで、実力をつけていきます。さきほど紹介した富士フイルムメディカル社の求人でも、入社後には研修センターで研修を受けることになります。

多くの会社で、このような研修制度が整備されています。そのため、フィールドサービスの経験や医療機器業界で働いた経験がなくても、安心して転職することができます。

機械・ネットワーク・電気の知識を活かす

医療機器は多くの部品から成り立っています。そして、一部の部品に不具合があるだけで機器が動かなくなることは普通にあります。

フィールドエンジニアとして働くと、トラブルが発生したときに何が原因なのかを特定し、解決しなければなりません。電気系統が原因のこともあれば、部品の摩耗が原因のこともあります。

また、前の章でも紹介しましたが、医療機器を使用して得られる分析結果を電子カルテで閲覧することが多いです。そのためには、医療機器とサーバー、およびサーバー同士を連携する必要があります。

このような仕事に携わることになるので、機械・ネットワーク・電気に関する知識が求められる場面は多いです。

前の項で紹介した富士フイルムメディカル社の求人は、フィールドエンジニアの経験がなくても応募できるものでした。そして、フィールドエンジニアの経験がなくても、機械・ネットワーク・電気の知識があれば応募できます。

なお、これらの知識はすべて習得している必要はありません。あなたに自信のある分野があれば、求人に応募してみるとよいです。

普通自動車運転免許は必須の資格

フィールドエンジニアの主な仕事は、ユーザーを訪問して定期点検をしたり、修理したりすることです。このときの移動手段は、自動車であることが多いです。

定期メンテナンスの際も、修理の際も、機器を解体することがあります。そのために、さまざまな工具を持参しなければなりません。これらの工具を持ち運ぶためにも、自動車を使って移動します。

また、地方都市であれば、公共の交通網があまり発達していないことも珍しくありません。

そして、トラブルが発生してもいいように、医療機関が医療機器を余分に在庫していることはまずありません。そのため、医療機器が故障してしまうと診療がストップしてしまう可能性が高いので、一刻も早く訪問しなければなりません。

このような仕事を担当するので、普通自動車運転免許は必須条件に挙げられていることが多いです。前の章で紹介した株式会社バリアンメディカルシステムズの求人では、普通自動車運転免許が必須条件に挙げられています。

また、この求人では京都オフィスでの募集ですが、京都オフィスでは京都府、滋賀県、福井県、石川県、富山県を管轄しています。

このような広いエリアを移動するためには、公共の交通機関ではなく、自動車を利用することが多いです。

マニュアルを解読できるだけの英語力

フィールドエンジニアとして働いていても、担当する医療機器のすべての機能、部品を理解できるわけではありません。基礎的なことは理解できていても、珍しいトラブルや、ユーザーから応用的な質問をもらうこともあります。

このような場合、マニュアルを確認して対応することになりますが、マニュアルによっては英語で作成されているものもあります。下の写真は、DNA断片を複製させる機器のマニュアルの一部です。

また、機器のハードやシステムにトラブルが発生したときに、パソコンの画面にエラーメッセージが表示されることがあります。このときのメッセージも、日本語ではなく英語で表記されていることがあります。

このように、医療機器のトラブル対応やメンテナンスを実施するときには、英語を解読しなければならない場面に出くわすことがあります。

そして求人によっては、英語力が必須条件に挙げられていることもあります。さきほどの株式会社バリアンメディカルシステムズの求人でも、必須条件の一つに英語を学ぶ意欲が挙げられています。

なお、ユーザーの医療機関で働いているのは、ほとんどが日本人です。むしろ、ユーザーが日本人なので、多くのメーカーのマニュアルは日本語になっています。

さきほどの求人のように、英語でマニュアルが作られていることがあるので、会社によっては自社製品のマニュアルを解読できるだけの英語力を身につける必要があることを覚えておきましょう。

コミュニケーション能力は必須のスキル

フィールドエンジニアとして働くと、ユーザーの医療機関を定期的または不定期に訪問することになります。

特にトラブルの対応で呼ばれたときは、機器を使用している医療機関は通常の業務が滞ってしまっていることが多いです。そのため、一刻も早くトラブルの原因究明と早い復旧を目指さなければなりません。

もちろん、トラブルを解決することは最低限の仕事です。そして、フィールドエンジニアとしてユーザーから信頼されるためには、ユーザーと良好なコミュニケーションをとれることも大切なスキルです。

求人によっては、コミュニケーションスキルが応募の条件として挙げられているものもあります。前の章で紹介した富士フイルムメディカル株式会社の求人では、コミュニケーションスキルが高い人が歓迎と記載されています。

実際に病院で臨床検査技師として働いている人に、医療機器メーカーのフィールドエンジニアについて話を訊くと、以下のような話をしてくれました。

基本的にはどのメーカーの担当者も、メンテナンスや修理をきちんとしてくれる。ただ、同じ時間で対応をしてくれたとしても、担当者によってこちらが受ける印象は変わる。

こちらの仕事が滞っていることに配慮してくれながら対応してくれると、終わったときに自然と「ありがとうございました」と言いたくなる。逆に「直しに来てやった」という態度で来られると、同じ作業をしてもらっても気持ちよく「ありがとうございました」とは言えない。

これらの違いは、ユーザーを訪問したときの対応の仕方による影響が大きいです。ユーザーと良好な関係を築きながら作業ができれば、お互いに気持ちよく仕事に取り組むことができます。

コミュニケーション能力もフィールドエンジニアとして働くために必要なスキルであることを覚えておきましょう。

フィールドエンジニアの年収の相場を理解する

では、医療機器メーカーのフィールドエンジニアに転職すると、どのくらいの年収が期待できるのでしょうか。冒頭に紹介した吉田製作所社では、以下のように380万円~500万円が提示されています。

ここまで5件の求人を紹介しましたが、すべての求人の提示年収を一覧表にしたものが下の表です。

企業名 提示年収

【万円】

(株)吉田製作所 380~500
(株)バリアンメディカルシステムズ 400~600
富士フイルムメディカル(株) 430~660
キヤノンメディカルシステムズ(株) 480~850
富士フイルムメディカル(株) 470~710

会社によってかなりばらつきがありますが、500万円前後が相場といえます。会社によっては、交渉次第で700万円~800万円の年収も期待できます。

また、富士フイルムメディカル社の求人は、同じ会社の求人でも年収が異なっています。なお、これらは別々の枠でフィールドエンジニアを募集しています。

そして注目すべきなのは、これらの求人はそれぞれが異なる転職サイトに掲載されていることです。一方は大手転職サイトの「doda」、もう一方は「ミドルの転職」で見つけた求人です。

つまり、同じ会社の求人でも複数の転職サイトで募集をかけています。このことから、複数の転職サイトを利用することで、より希望に合った求人に出会う確率が高くなるといえます。

年収面で満足できる転職を成功するためには、複数の転職サイトを活用することが秘訣になります。

まとめ

ここでは、医療機器メーカーのサービスエンジニア(フィールドエンジニア)に転職するときのポイントについて解説しました。

サービスエンジニアは、会社や求人によってフィールドエンジニア、フィールドサービスエンジニアなど、呼称が異なります。複数のキーワードで求人を探すことで、あなたの希望に沿った求人を見つけやすくなります。

転職の際に、サービスエンジニアの経験は必須ではありません。研修制度が整備されている会社が多いので、未経験者でも応募できる求人が多いです。

医療機器を取り扱うためには、機械・ネットワーク・電気の知識は必須です。いずれかの知識・経験があれば転職できますが、転職後はそれぞれについて学び続ける必要があります。

医療機関を訪問するときは車を使用することが多いので、普通自動車運転免許は必須の資格です。また、英語のマニュアルを読むこともあるので、英語力が求められることもあります。

そして、サービスエンジニアとして働くためには、コミュニケーションスキルは必須です。ユーザーと良好な関係を築きながら、業務を遂行しなければなりません。

サービスエンジニアの年収の相場は、500万円前後です。複数の転職サイトを活用することで、より高い年収が提示されている求人を見つけやすくなります。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。