医薬品の製剤は錠剤、カプセル剤、注射剤、貼付剤と多岐に渡ります。剤形が変わると、体内動態にも影響が現れるので、製剤の研究は創薬のプロセスにおいて大切な工程です。

製剤研究では、添加剤や基剤の種類を検討して、期待する効果が現れ、副作用が少ない剤形を検討する仕事をイメージするのではないでしょうか。

実はそのような検討だけでなく、デバイスの検討や、申請書類の作成など、デスクワークの業務もあります。

ここではまず、製剤研究の仕事内容について紹介します。そして、どのような就職先があるのか、転職のときに求められるスキルや経験について説明します。

製剤研究の仕事内容

医薬品は有効成分(原薬)が薬効を発揮しますが、医薬品のほとんどは添加剤です。添加剤の種類を変えることで、以下のような特性を付与することができます。

  • 原薬の苦みを改善
  • 有効成分の吸収率の改善
  • 水なしでも服用できる(口腔内崩壊錠)

このなかの1つについて、具体例を紹介します。小児が飲む薬は、飲みやすくするために甘くしてあるものがあります。

例えば、扁桃炎などに使用される抗生剤のセフゾン細粒小児用は、イチゴ味です。セフゾン細粒小児用は、添加物を工夫することで、小児でも飲みやすくしている薬の代表例といえます。

製剤研究に携わると、このような製剤設計を行うのが基本の業務です。そして、ほかにも多くの業務に担当することになります。

製剤安定性に影響を及ぼす因子の特定

医薬品は、適切に保管されていれば、ほとんどの場合は1年以上安定です。しかし、薬は患者さんが服用または使用する直前まで適切に保管されているかというと、そうとは限りません。

下に紹介する求人は、社名が非公開ですが、大手内資系製薬会社のものです。

薬剤は、保管状況によって、製剤自体が不安定になってしまうものや、有効成分が分解しやすくなるものがあります。製剤研究では、これらの原因を突き止めることも仕事内容に含まれます。

例えば、高齢の患者さんであれば、多くの薬を飲んでいることは珍しくありません。そのため、PTPシートの状態ではなく、下の写真のように薬局で一包化をしてもらうことが多いです。

薬はPTPシートの状態であれば、長期間安定です。しかし、吸湿性がある薬は、一包化をすると薬が湿気を吸いやすくなります。そのため、吸湿性がある薬剤は、一包化を避けるように製薬メーカーが注意喚起をしています。

下の薬は、脳梗塞の再発予防目的で使用されるプラザキサカプセルです。プラザキサカプセルは、吸湿性がある薬剤としてよく知られている薬剤の1つです。そして、プラザキサカプセルのパッケージやPTPシートには、「一包化不可」の注意喚起が至る所に記載されています。

そして、製剤の安定性に悪影響を与える要因によっては、シートを工夫することで、悪影響を回避することも可能です。

エーザイ株式会社から発売されている、ビタミンB12製剤であるメチコバール錠は、光に対して不安定であることが知られています。そのため、メチコバール錠のシートには、光を遮るために赤色のものを用いています。

このように、医薬品の製剤のなかには、湿気や光に対して不安定なものがあります。そして、新薬の場合は、ゼロから検証しなければ、製剤の安定性はわかりません。

製剤研究では、製剤の安定性を試験し、どのようにすれば課題を解決できるかを考えること(製剤分析研究)も仕事内容に含まれます。

スケールアップ、工業化検討

ラボで医薬品の製剤化の検討が終わると、スケールアップ検討に移行します。この工程は、最終的に工場で医薬品を製造するために必要な検討です。

製剤組成の検討段階では、製剤を大量には作りません。そのため、混合する原薬と添加剤の量は多くないので、比較的簡単に均一に混合できます。

しかし、スケールが上がると、原薬と添加物を均一に混合するのが難しくなり、製剤化の難易度が上がります。

例えば、1錠に有効成分が10mg含まれる錠剤を製造する場合を考えます。原薬と添加物が均一に混ざっていると、製造されるすべての錠剤に10mgの有効成分が含まれます。

ところが、原薬と添加物が均一に混ざっていないと、有効成分が11mg含まれるものや9mgしか含まれないものができてしまいます。

混合物のスケールを段階的に上げていき、最終的に工場で製剤を製造できるようにするのがスケールアップ、工業化検討です。

製剤容器、デバイス開発

製剤開発で検討するのは、医薬品の添加剤だけではありません。製剤の容器デバイスも検討内容に含まれます。

下の求人は、低分子医薬品やバイオ医薬品の研究開発をしている、中外製薬株式会社のものです。この求人で採用されると、東京都にある研究所で、製剤容器・投与デバイス管轄を担当することになります。

同じ医薬品でも、デバイスが異なると、投与のしやすさや操作性が大きく変わります。

例えば、リウマチ患者さんに使用されるシムジア皮下注は、関節で起きている炎症を抑える注射薬です。最初に発売されたのは、下に示すようなシリンジ製剤です。

しかし、リウマチ患者さんは関節で炎症が起きているので、指先の細かい操作を行うのは困難な人が多いです。指先が強張っていると、シリンジを操作するときに苦痛を伴います。

そこで、シムジアを開発したメーカーは、関節痛で苦しむリウマチ患者さんでも手軽に注射できるデバイスを開発しました。それが、下に示すオートクリックスのタイプです。

オートクリックスは、本体を持って、注射部位に押し付けるだけで、自動で注射ができます。指先の細かい操作は必要ありません。

このように、医療現場からの意見を取り入れ、よりよい製剤の容器や投与デバイスを開発するのも、製剤研究の仕事内容です。

承認申請書作成

ここまで紹介してきたのは、製品を開発する仕事内容でした。続いて紹介するのは、実験や検討ではなく、デスクワークです。

次に紹介するのは、協和発酵キリン株式会社の求人です。この求人の仕事内容の欄には、国内外当局に対する申請資料の作成が業務内容に挙げられています。

承認申請の書類には、製剤の組成と製造方法を記載する必要があります。なお、最終的に当局に提出する申請書は、開発職の人が完成させます。

しかし、申請書類に載せる生データは、研究職の人が実験によって出したものです。そのため、申請書類作成の一部を研究職の人が行うこともあります。

審査当局からの照会対応

続いて紹介する業務も、実験ではなくデスクワークです。

下に紹介するのは、ジェネリック医薬品メーカーの日本ジェネリック株式会社の求人です。この求人の仕事内容の欄には、審査当局からの照会対応が業務内容として挙げられています。

審査当局からの照会対応も、申請書類の作成と同様に、開発職が最前線で行うのが一般的です。しかし、研究職も全く何もしないわけではありません。

申請書類の基になるデータを出すのは、研究職の担当者です。そのため、審査当局とのやり取りで、研究職が関わることもあります。

製剤研究の就職先

ここまでは、製剤研究の仕事内容について解説しました。では、製剤研究に携わるためには、どのような会社に転職する必要があるのでしょうか。

続いて、製剤研究に携わるための転職先について説明していきます。

製薬会社

医薬品の研究開発を行っている会社で、最初に思いつくのは製薬会社だと思います。もちろん、製薬会社では、製剤研究が行われています。

前章で紹介した求人にも製薬会社の求人はありました。製薬会社では製剤の処方設計や、スケールアップ検討、申請書類作成などを中心に行います。

下に示す求人は、大塚グループの大塚製薬工場株式会社のものです。大塚製薬工場では医療用食品(メディカルフーズ)の製造・販売も行われています。この求人では、医療用食品の製剤開発担当者を募集しています。

医療用食品も医薬品に分類されます。大塚製薬工場が製造販売している医療用食品で、臨床現場で使用されているものの1つに、ラコールがあります。ラコールは、胃瘻から栄養摂取するために用いられます。

そして、ラコールには経腸用液と経腸用半固形剤があります。半固形剤の方がより固体に近く、どろっとしています。もう一方の経腸用液は液体で、半固形剤よりも、さらっとしています。

引用1:株式会社大塚製薬工場 医療関係者向け情報サイト ラコールNF配合経腸用液

引用2:株式会社大塚製薬工場 医療関係者向け情報サイト ラコールNF配合経腸用半固形剤

経腸用液は、さらっとしているので、胃に入った後、比較的早く腸内に流入します。一方で、半固形剤は、どろっとしているので、胃に留まりやすいです。

ヒトは、食べ物を食べるときには、咀嚼をします。そのため、食べたものが胃に入るときには、どろっとしています。半固形剤はこの状態を目指して作られた製品です。

つまり、半固形剤は、食事をしたときに近い状態を再現できることを期待されて開発された製剤です。半固形剤を使用することで、胃が本来有している生理的な運動を引き起こすことが期待されます。製薬会社では、このような製剤研究も行っています。

CMO(医薬品製造受託機関)

CMOは製薬会社から医薬品の製造を受託して、製造する会社です。しかし、CMOでは、医薬品の製剤開発も受託している会社があります。

下に示す求人は、CMOの1つのシミックCMO株式会社のものです。この求人では、注射剤の製剤研究者を募集しています。

製薬会社では、医薬品の研究開発を行っています。しかし、テーマ設定から最終的に医薬品として販売されるまでの、すべての工程を自社で行っている製薬会社はありません。

製薬会社の人員や強みによって、自社で行う内容と、外部企業に委託する内容を分けています。CMOでは、このような製薬会社から、製剤研究の仕事を受託します。

そのため、CMOで行う製剤検討業務は、製薬会社で行うものと基本的には同じです。具体的には、製剤処方検討、工業化研究、スケールアップなどです。

なお、最終的に承認申請書類は、製薬会社が提出します。そのため、申請書類の作成や当局との対応は、CMOでは行いません。

ジェネリック医薬品メーカー

ジェネリック医薬品は、先発品と含まれる有効成分は同じです。また、生物学的同等性も認められなければなりません。

つまり、ジェネリックメーカーでは、添加剤の組成、量を検討することで、ジェネリック医薬品を研究開発しています。したがって、ジェネリック医薬品メーカーでも製剤研究を行っています。

下の求人は、山形県に本社と工場ある、ジェネリック医薬品の製造、販売を事業としているコーアイセイ株式会社のものです。この求人の仕事内容の欄には、以下のように記載されています。

仕事内容は製薬会社と同じです。製剤化の研究や、薬事申請に関わる業務を担当することになります。

ジェネリックメーカーでは、製剤を工夫することで、先発品の問題点を解決しようとします。

例えば、睡眠導入剤として使用されているマイスリー錠は、口の中で溶けるわけではないので、服用するときに水が必要です。

睡眠導入剤は、寝る直前に服用する薬です。そのため、寝室で服用しようとすると、水を準備する必要があるので不便です。また、マイスリー錠を服用するために水を飲むと、夜間にトイレに行きたくなる可能性が出てきます。

このような問題点を解決するために、ジェネリックメーカーによって、水なしで服用できるOD錠(口腔内崩壊錠)が開発されました。

引用:東和薬品医療関係者向けサイトの内容を改変

このように、製剤の工夫をすることで先発品の問題点を改善することが、ジェネリック医薬品メーカーの製剤研究の仕事内容です。

求められる経験、スキル

製剤研究の仕事内容と、転職先について紹介しました。では、医薬品の製剤研究職に転職するためには、どのような経験やスキルが求められるのでしょうか。

製剤研究に携わった経験

これまで製薬会社、CMO、ジェネリック医薬品メーカーで製剤研究に携わっていれば、その経験を活かして転職活動をすることができます。

続いて紹介する求人は、大手製薬会社の大塚製薬株式会社のものです。この求人の対象となる方の欄には、製薬企業で3年以上製剤研究に携わった経験が必須条件として挙げられています。

この求人だけでなく、製剤研究に携わった経験を必須条件に挙げている求人は多いです。

・未経験で製剤研究に転職するのは難しい

これまで製剤研究に従事した経験があれば、その経験をアピールして転職活動をすることができます。

では、製剤研究の未経験者が、製剤研究の求人に応募することはできるのでしょうか。結論を言うと、未経験者が採用を勝ち取るのは、かなり難しいです。

大手転職サイトの「doda」で、「製剤 未経験」で検索をかけましたが、ヒットした求人に製剤研究の求人はありませんでした。

つまり、これまで製剤研究の仕事にある程度の期間従事していれば、製剤研究への転職で最初のハードルは超えていると考えてよいでしょう。

・特定の剤形の研究開発に携わった経験が必要なこともある

続いて紹介する求人は、医療用医薬品だけでなくOTC医薬品や化粧品も開発している大正製薬株式会社のものです。この求人で採用されると、外用剤の製剤設計を担当することになります。

そして、この求人の対象となる方の欄には、外用剤の製剤設計や申請業務に携わった経験が必須条件として挙げられています。

外用薬を使用して薬効が発現するためには、有効成分が皮膚から体内に吸収される必要があります。外用剤は、錠剤、カプセル剤と薬物動態が大きく異なるので、検討する内容が違います。

製剤研究の経験があれば、すべての製剤研究の求人に応募できるわけではありません。なかにはこの求人のように、特定の剤形の製剤研究実績が求められる求人もあります。

あなたのこれまでの経験と、求人で求められている内容を確認するようにしましょう。

英語力は必須

製剤研究に従事するのであれば、英語力は必須になります。実際の求人でも、ほとんどの求人で以下のように高い英語力が求められています。

製剤研究で英語が必要になるのは、関連会社とのやり取りと、海外への承認申請書類の作成です。

医薬品の開発は、共同研究先が海外にあることは珍しくありません。また、日本国内の企業と共同研究をする場合でも、英語が母国語の研究者とのやり取りが必要になることもあります。

そして、海外への承認申請書類は、当然英語で作成する必要があります。日本語で書くのも大変な書類を英語で書かなければならないので、高い英語力が求められます。

出身学部は理系学部であれば問題ない

医薬品の研究開発に携わるためには、薬学部出身でなければならないと考えていませんか。実は、薬学部出身でなくても、医薬品の研究開発に従事できます。

むしろ製薬会社で研究職として働いている人の半数は、薬学部出身者以外です。つまり、出身学部は薬学部である必要はありません。

実際の求人でも、薬学部出身者に限定している求人はなく、下に示すように、理系学部であれば問題ない求人がほとんどです。

薬学部では、医薬品の製剤に関する勉強をします。しかし、製剤研究を行うわけではありません。添加剤の組成を変えて、医薬品の特性について研究するのは、製薬会社などで働き始めてからです。

そのため、製剤研究の求人に転職するときには、薬学部出身であることよりも、製剤研究に携わった経験の方が重視されるのです。

まとめ

ここでは、製剤研究の仕事内容について紹介し、どのような就職先があるのか、転職のときに求められるスキルや経験について確認しました。

製剤研究では、医薬品の製剤に添加する添加剤の組成、量、医薬品の剤形について検討します。それ以外にも、製剤の安定性試験、スケールアップ検討、製剤容器やデバイスの開発、承認申請書の作成など、幅広い業務に携わります。

医薬品の製剤研究は、製薬会社だけでなく、医薬品製造受託機関、ジェネリック医薬品メーカーで行われています。

製剤研究の求人で採用されるためには、これまでに製剤研究に従事した経験が必須と考えてください。ほとんどの求人で、これまでの研究実績が求められます。

関連会社とのやり取りや、申請書類の作成で英語を使用することがあるため、転職の際には高い英語力を求められます。

そして、出身学部は、薬学部である必要はありません。理系学部出身であれば、ほとんどの求人にエントリーできることを覚えておきましょう。


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