毒性試験は、新薬候補化合物をヒトに投与する臨床試験の前に実施される試験です。これまで毒性試験に従事していた経験があれば、その経験を活かして転職することができます。

しかし、一言で毒性試験と言っても、試験項目は非常に多いです。そのため、就職する会社によって、従事する仕事の内容が異なることがあります。

また、毒性試験は、最終的には医薬品の製造販売のための申請書類に必要になる試験です。そのため、申請書類の作成も毒性試験の仕事の一部に含まれます。

ここではまず、毒性試験に携わる研究者として転職したときの仕事内容について、求人例を基に説明します。そして、転職の際に求められる経験やスキル、転職を成功させるための方法についても解説します。

毒性試験の仕事内容

毒性試験は安全性試験に含まれる試験です。安全性試験には薬物動態試験も含まれますが、安全性試験のほとんどの試験は、化合物を動物に投与して毒性を示すかを評価する毒性試験です。

毒性試験は、急性毒性試験、反復投与毒性試験などの一般毒性試験と、遺伝毒性試験、がん原性試験などの特殊毒性試験に分類されます。そして、これらのほとんどの試験において、実験動物を用いた試験を実施します。

会社によって担当する試験の数は異なる

毒性試験の研究職で就職しても、会社によって従事する試験の数は大きく異なります。実際の求人例を紹介しながら解説していきます。

最初に紹介するのは、大手製薬会社の大塚製薬株式会社の求人です。この求人で採用されると、徳島県にある前臨床研究センターで、非臨床試験に従事することになります。

そして、この求人情報の「仕事内容」の欄には、生殖発生毒性の試験か遺伝毒性評価を行うことが記載されています。

毒性試験の項目は、さきほど紹介したように多いです。しかし、この求人で従事するのは、そのなかの1つだけです。

続いて紹介するのは、会社名は非公開ですが、大手私立大学発の創薬ベンチャー企業の求人です。この求人の「仕事内容」の欄には、薬理試験と毒性試験に携わることが記載されています。

薬理試験と毒性試験では、どちらも動物実験を行いますが、実験内容は大きく異なります。

薬理試験では、合成された化合物が期待される活性を示すかどうかを試験します。そして、薬理試験で薬効が認められない化合物は、毒性試験を行うことはありません。つまり薬理試験は、創薬研究の流れにおいて、毒性試験よりも上流の工程です。

そして、この求人では、薬理試験と毒性試験の両方に携わることが記載されています。つまり、非臨床試験の全体を行うことになります。

ベンチャー企業のように人数が少ない組織の場合は、複数の業務を兼任する必要があります。

GLPを理解して毒性試験を行う

毒性試験は、臨床試験でヒトに投与する前段階として実施します。そして、毒性試験の結果は、臨床試験を行うための申請書類としてまとめる必要があります。

この申請書類に収載される実験は、「GLP」に則った試験を実施する必要があります。GLPは、Good Laboratory Practiceの略です。

GLPとは、医薬品だけでなく、医療機器や化粧品などの承認申請の際に提出する資料において、データの信頼性を保証するために定められている基準です。

そして、GLPで求められる内容は、その実験をトレースできるかどうかです。そのために必要な作業があります。

例えば、GLPに準拠した試験では、用いる試薬はロット番号を記載する必要があります。ロット番号が同じであれば、試薬の品質は同じであることが担保されています。逆に、ロット番号が違う製品であれば、成分の含量や不純物量などが若干異なることがあります。

また、実験でマイクロピペットを使用する場合は、使用前と使用後で校正をかける必要があります。

このように、GLPに準じた試験は、行うべき作業が多いので、正直大変です。日常の実験ではそこまで細かく作業をしないことがほとんどなので、未経験者が行うのは難しいです。

そのため、下に紹介する求人のように、GLPに準拠した試験の経験が求められることもあります。

なお、毒性試験のすべての実験がGLPに準じて行われているわけではありません。むしろ、ほとんどの実験はGLPに準じていません。なぜなら、すべての実験をGLPに準じて行うのは、無駄も多くなるからです。

試薬のロットが替わっても、実験結果が大きく変わることは、まずありません。マイクロピペットも、実験のたびに校正が必要なものではありません。

そのため、実際の医薬品開発の現場では、「申請書類に載せる実験を行うときだけ」GLPに準じた作業を行います。

このような実情があるので、毒性試験に長年関わったことがある人でも、GLPに準じた実験に携わったことがないという人も珍しくありません。

GLPに準拠した試験に従事した経験があれば、このような求人に応募することができます。

in vivo試験だけでなく、in vitro試験もある

毒性試験の主な仕事は、動物を用いた試験を行うことです。しかし、実は遺伝毒性試験では、実験動物を用いないin vitroの試験でも、毒性の有無を評価することができます。その試験はAmes試験です。

Ames試験ではまず、菌を本来なら生育することができない培地に撒きます。そこに化合物を添加し、遺伝毒性が認められると、菌の遺伝子が生育できるように変化します。この変化の有無を確認することで、遺伝毒性の有無をin vitroで評価できます。

そして、毒性試験に従事して、主にAmes試験を行うような求人もあります。下に紹介するのは、医薬品開発業務受託機関(CRO)の株式会社薬物安全性試験センターの求人です。

CROは、製薬会社に代わって非臨床試験を実施する企業です。この求人で採用されると、遺伝毒性試験のなかでも主にAmes試験を担当することが示されています。

Ames試験では、マウス、ラットなどの実験動物は使用しません。毒性試験のなかにも、in vitro試験もあることを覚えておきましょう。

申請書類の作成

ここまでは、動物や菌を用いて毒性を評価する仕事と、実際の求人例を紹介してきました。そして、最後に紹介するのは、実験を行わずに、書類作成を行う求人です。

この会社は、神奈川県にある製薬会社です。毒性試験(安全性評価)に従事することが記載されていますが、動物実験の実務作業はないと謳われています。

実際に行う業務は、デスクワークが中心になります。具体的には、毒性試験の評価、各種申請書類(治験薬概要書、CTDなど)の作成、当局対応などです。これらの仕事をするためには、毒性試験やGLPに準拠した試験を行った経験が必須です。

そして、毒性試験は、国際会議で定められたガイドラインに従って実施する必要があります。ガイドラインに基づいた実験を行い、必要なデータを収集します。

下に紹介しているのは、ガイドラインのうち、毒性試験について記載されているICH S4の一部です。

そして、さきほどの求人では、毒性試験(安全性研究)やGLP試験の実務経験が必須条件に挙げられています。申請書類を作成するためには、GLPの理解や、ガイドラインを把握している必要があります。

毒性試験に従事した経験が十分にあれば、このような求人も転職の選択肢に入るでしょう。

求められる資格、スキル

ここまで、毒性試験の仕事内容について説明してきました。では、毒性試験の求人にエントリーするときには、どのような資格やスキルが求められるのでしょうか。

なお、毒性試験を実施するために必須の資格はありません。実験自体は、無資格者や未経験者でも行うことができます。

しかし、求人によっては、資格やスキルが歓迎条件に挙げられているものもあります。そして、数は極めて少ないですが、資格の保有が必須条件になっている求人もあります。

続いて、毒性試験の研究者への転職を有利に進めることができる資格やスキルについて紹介します。

認定資格、学会会員、研究会会員

最初に紹介する求人は、職場が北海道の非公開求人です。この求人の応募資格の欄には、毒性病理学専門家またはトキシコロジスト資格を有していると尚可と記載されています。

毒性病理学専門家は日本毒性病理学会の、トキシコロジスト資格は日本毒性学会の認定資格です。どちらの認定資格も、それぞれの学会に所属していないと取得することはできません。

そして、いずれの学会も、入会するためには学会評議員の推薦が必要になります。下に、日本毒性病理学会の入会申込書の一部を載せています。

このように、日本毒性病理学会や日本毒性学会は、誰でも入会できるわけではありません。そして、求人情報に記載されている毒性病理学専門家やトキシコロジスト資格を取得するためには、学会の会員歴や論文発表や学会発表の実績が求められます。

つまり、これらの認定資格を有しているということは、毒性試験のスペシャリストとしての実力が担保されているといえます。したがって、このような資格があれば、自信をもって転職活動を進めることができるでしょう。

続いて紹介するのは、静岡県にあるCROの株式会社安評センターの求人です。この求人の対象となる方の欄には、実験動物技術者が必須条件で挙げられています。

実験動物技術者は、日本実験動物協会が実施している認定資格で、動物実験に関する知識と技術を認定するものです。

この資格を認定されるためには、学科試験と実技試験を受ける必要があります。つまり、実験動物技術者資格を有していると、動物実験の知識と技術を有しているとみなされます。

CROでは、動物実験のスペシャリストとして働くことが求められるので、この資格が必須条件に挙げられていると考えられます。

最後に紹介する求人は、前の章でも紹介した大塚製薬株式会社の求人です。この求人の「対象となる方」の欄には、以下のように記載されています。

ここに挙げられている日本先天異常学会と日本環境変異原学会は、いずれも入会に推薦が必要です。そして、推薦の対象となるためには、学会発表や論文投稿の実績が必要になります。

したがって、この求人も、毒性試験に長年従事しているスペシャリストを求めていると言えます。

また、会社として認定資格の取得や、学会への所属を推奨している会社もあります。

なお、ここまで紹介した認定資格や学会会員であることが必須条件で挙げられる求人は、求人全体からみると少数です。複数の転職サイトで求人を確認したところ、上記の2つの求人以外で、認定資格や学会会員であることが求められるものはありませんでした。

製薬会社で毒性試験の研究職として働いている友人に、認定資格や学会会員について質問をすると、以下のような話をしてくれました。

私は、入社して12年目に日本毒性学会に入会した。周りにも学会に入会している人や、学会の認定資格を取得している人はいる。

しかし、毒性試験の研究職として働くのであれば、認定資格の取得は必須ではない。研究職は、毒性試験のなかでも、分析やデータ解析を主に行っている。そして、実験動物への化合物の投与や採血を、実験動物技術者資格を有している人が実施している。

自己研鑽のために、このような認定資格を取得していたり、学会に所属したりしていると、毒性試験の求人への転職の選択肢が少し広がります。

獣医師、薬剤師、臨床検査技師

医療従事者の国家資格である獣医師、薬剤師、臨床検査技師の資格が、歓迎条件に挙げられている求人があります。

次に紹介するシミックファーマサイエンス株式会社は、山形県に本社があるCROです。

ここに挙げられている資格は、医療従事者として臨床現場で働くために必要な資格です。例えば、臨床検査技師は、病院で血液検査の実施や、心電図やエコーの検査を実施するために必須の資格です。

しかし、この章の冒頭で述べたように、毒性試験を実施するために、これらの資格が必要なわけではありません。ではなぜ、これらの資格が歓迎条件で挙げられているのでしょうか。

その理由は、有資格者は実験結果を考察するために必要な知識を有している可能性が高いからです。

薬物を実験動物に投与したときに、肝臓への毒性を評価する場合を例に挙げて解説します。

ヒトで肝機能が悪化していないかは、血液検査を行うことで判断できます。具体的には、AST、ALT、γGTP(γ-GT)などの値で判断します。

そして、実験動物の肝機能を検査するときも、ヒトと同じ項目を検査します。したがって、臨床検査技師の有資格者であれば、臨床現場での検査の経験を活かして、検査結果を解析することができます。

また、獣医師や薬剤師の資格を取得するためには、それぞれ獣医学部や薬学部を卒業しなければなりません。つまり、これらの資格を有していると、獣医学や薬学を修めているとみなされます。

これらの学部では、下に示すような教科書を使用して、ヒト、動物、細菌などの生命体に関する基本的な知識を学びます。

あくまでこれらの資格は、動物実験を行うために必要な資格ではありません。ただ、資格を有している人は、生理学などを修めているので、それらの知識を動物実験において得られる実験結果の解析や考察に役立てることができます。

つまり、医療従事者の資格があると、医療の知識が全くない人よりも、早く仕事に慣れることができます。そのため、求人によっては、歓迎条件に獣医師、薬剤師、臨床検査技師の資格が挙げられることがあります。

英語力

研究職として働くと、英語力が求められることは多いです。この傾向は、毒性試験の研究者にも当てはまります。

下に紹介する求人は、東京都にある医薬品メーカーのものです。高い英語力が求められることが記載されています。

製薬会社で毒性試験の研究職として働いている友人に話を訊くと、英語について以下のような話をしてくれました。

実験のレポートは、基本的には英語で書く。逆に、日本語で書くことは、ほとんどない。

電話会議(テレカン)で外国の人とディスカッションをすることがある。英語ができなくても、やるしかない。

このように、毒性試験の求人で採用されると、仕事で英語を使用する機会が多いことを覚えておく必要があります。

年齢制限が設定されている求人もある

最後に、毒性試験の研究職として働くのであれば、年齢制限が設定されている求人があることを説明します。まずは、実際の求人例を下に紹介します。

この求人では35歳前後が採用の上限に設定されています。その理由は、長期間会社で働いてもらいたいためです。

例えば、定年が60歳の採用枠に55歳の求職者が採用された場合、仕事ができるのは5年間です。一方で、採用されたのが35歳の人であれば、25年間仕事ができます。

この2人を比較したとき、多くの会社は若手に入社してもらい、長い間活躍してもらいたいと考えます。

製薬会社で毒性試験の研究員として働いている知人に、中途採用者の年齢について話を訊くと、以下のような話をしてくれました。

転職してくるのは30代がほとんど。40代以上で転職してくる人もたまにいるが、そのような人はかなりのスペシャリスト。

私の知人の話のように、40代以上でも毒性試験の研究職に転職することは可能です。

しかし、求人によっては年齢制限が設定されていることもあり、年齢を重ねるにつれて転職は難しくなります。そのため、転職を決意しているのであれば、少しでも早く本格的な転職活動を始めるようにしましょう。

複数の転職サイトを利用し、エージェントサービスを活用する

具体的な求人情報を示しながら、毒性試験の仕事内容や、転職時に求められる経験やスキルを紹介してきました。

そして、転職活動を行うときには、複数の転職サイトを活用することで、あなたの希望に沿った転職を成功させやすくなります。その理由は以下の2点です。

  • 転職サイトによって扱う求人が異なる
  • 非公開求人を紹介してもらえる

これまで紹介してきた求人は、複数の転職サイトを検索して見つけたものです。そして、同じ求人が複数の転職サイトで紹介されているものもありました。

一方で、1つの転職サイトにしか掲載されていないような求人案件もあります。このような求人を見つけるためには、複数の転職サイトを利用し、少しでも多くの求人に触れる必要があります。

また、インターネットで検索しても世の中のすべての求人がヒットするわけではありません。なぜなら、非公開求人が多いからです。

今回紹介した求人のなかにも、会社名が非公開の求人が多く含まれていました。

非公開求人には、会社名だけでなく、そもそも求人自体が公開されていないものもあります。そのような求人は、検索しても見つけることはできず、転職エージェントのサービスを受けることで初めて知ることができます。

リクルートグループの転職エージェントサービスのリクルートエージェントでは、保有している求人の8割以上の求人が非公開求人と紹介しています。エージェントサービスを受けなければ、非公開求人の求人情報を得ることはできません。

このように、エージェントサービスを活用することで、求人の選択肢が大幅に増えます。その結果、少しでもあなたの希望に沿った転職を成功させやすくなります。

まとめ

ここでは、毒性試験に携わる研究者として転職したときの仕事内容、転職の際に求められる経験やスキル、転職を成功させるための方法について、求人例を基に解説しました。

会社によって携わる仕事の種類は違います。in vitro試験やデスクワークが中心の求人もあるので、あなたのやりたい仕事とマッチしているかを確認するようにしましょう。

毒性試験を行うために必須の資格はありません。しかし、求人によっては生殖発生毒性専門家、毒性病理学専門家、実験動物技術者などの認定資格や、日本環境変異原学会の会員であることが条件に挙げられているものもあるので、エントリーの際には注意が必要です。

また、医療従事者の国家資格(獣医師、薬剤師、臨床検査技師)があれば、歓迎される求人もあります。

そして、日常業務で英語を使用する機会があります。英語ができなくても、強制的に英語を使用しなければならない状況になることを認識しておく必要があります。

求人のなかには、年齢制限が設けられているものもあります。実力や経験があっても、年齢がネックとなってエントリーできない場合もあるので、転職活動は早く始めた方がよいでしょう。

求人を探すときには、複数の転職サイトを利用するようにしましょう。そして、エージェントサービスを活用することで、非公開求人を紹介してもらい、少しでもあなたの希望に沿った転職を成功させましょう。

研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。