さまざまな企業で社内SEの募集がされていますが、そのなかの1つに病院で働く院内SEがあります。病院は多くの医療機器が利用されており、これらを適切に管理しなければ、医療の提供はできません。
社内SEは企業のシステムの運用、メンテナンスを担当します。では、病院の社内SE(院内SE)は、具体的にどのような仕事を担当することになるのでしょうか。仕事をする上で求められる経験・スキルはどのようなものがあるのでしょうか。
これらを十分に把握して転職することで、納得できる転職を実現することができます。ここでは、「病院の院内SEの仕事内容」「転職で求められる経験・スキル」「院内SEに転職するメリット・デメリット」についてくわしく解説します。
もくじ
病院のSEが担当する仕事を理解する
最近では町の開業医でも、電子カルテを利用して診察を行っています。あなたも病院に行ったときに、医師がパソコンに向かって診察内容を入力しているのを見たことがあると思います。
また、病院を受診すると、血液検査、エコー、MRI、CT、レントゲンなどさまざまな種類の検査を受けます。
これらの医療機器やシステムは、すべて連携しています。これらが適切に運用できるように管理・メンテナンスをするのが病院で働くSEの仕事です。
実際に院内SEを募集している求人例を1つ紹介します。下の求人は、大阪府大阪市にある医療法人医誠会 医誠会病院で院内SEを募集しています。
この求人で採用されると、病院内の医療系システムの保守および管理業務を担当します。具体的な仕事内容は下記の通りです。
これらの仕事内容について順に解説していきます。
医療系システムの導入・管理
医療システムは、一度病院に導入すれば何もしなくてもよいわけではありません。電子カルテを開発しているメーカーがアップグレード版をリリースすると、適宜更新をしなければなりません。このような業務は、院内SEが担当します。
また病院内では、イントラネットで業務連絡を回したり、医薬品集を作成するソフトウェアを活用したりすることもあります。これらのシステムが職員の要望通りに利用できるように管理することも院内SEの仕事に含まれます。
なお、医療システムをゼロから開発することは院内SEの仕事ではありません。基本的にはそれぞれのシステムや医療機器を開発しているメーカーから購入して運用します。そのため院内SEは、システムエンジニアの仕事のなかでも開発の要素が少ない仕事を担当することが多いです。
このように院内SEの仕事は、医療システムを導入し、現場の要望に応じた設定を行い、運用・管理することです。
ネットワーク機器全般の保守
病院内にあるシステム関連機器は多岐に渡ります。例えば、プリンタやラベルのシールプリンタはLANでパソコンと繋がっています。そのため、病院内の至る所に、下の写真のような無線LANアクセスポイントが設置されていることも多いです。
また、スタッフ数が多い病院では、多くのスタッフがPHSを使って連絡を取り合います。病院内では、デスクワークをしている職員はほとんどいません。そのためPHSがないと相手の居場所がわからず、必要時に連絡が取れません。
そして、これらのネットワーク機器でトラブルが生じると、院内SEに連絡がきます。病院内のネットワーク機器が適切に稼働するように保守・対応をすることも、院内SEの仕事です。
法人のデータ統計・分析
医療機関は、世の中にあるすべての企業と同様に利益を出さなければ経営が成り立ちません。そのため、病院内での利益を集計・分析して、より利益を増やすための戦略を立案・実践しなければなりません。
病院が患者さんに医療行為をしたときの収入は、厚生労働省が定める診療報酬で定められています。例えば下に示す領収書では、入院料等で2,218点(22,180円)を請求でき、病院の収入になります。
このような点数を集計することで、部署ごとの売り上げを解析することができます。このときのデータを集計する業務を院内SEが担当します。
患者の対応をすることはない
病院内で社内SEとして働くときに、SEとして患者の対応しなければならないのではと感じるのではないでしょうか。
ただ、この点については心配ありません。院内SEが患者さんの対応をすることはありません。冒頭で紹介した医誠会病院の求人にも、患者の対応をすることは一切ないと記載されています。
患者さんの対応をするのは、医療の知識がある専門職です。院内SEとして採用されると、患者さんではなく、病院内のスタッフからの依頼に対応することや、各メーカーのシステム担当者との折衝を担当することになります。
求められる経験・スキル
では、病院の院内SEに転職するためにはどのような経験があれば有利なのでしょうか。社内SEの経験がない場合でも転職できるのでしょうか。
医療業界だけでなく、社内SE未経験でも採用される求人は多い
実は病院の院内SEには、システムエンジニアとしての勤務経験がなくても転職できる求人があります。冒頭で紹介した医誠会病院の求人がそのような求人に該当します。医誠会病院の求人の対象となる方の欄には、以下のように「無資格・未経験OK」と記載されています。
医誠会病院の求人は、「パソコン操作が好き」や「病院やシステムに興味がある」など、病院でパソコンや医療系システムに関わる仕事をすることに興味があれば応募することができます。
もちろん、システムエンジニアとしての勤務経験が求められる求人もあります。具体的には、次に紹介する医療法人偕行会の求人が該当します。医療法人偕行会の求人では以下のように、「社内SEとしての経験」か「インフラ系での経験」が必須条件として挙げられています。
病院のパソコンは電子カルテを中心に、検査システム、医事システム、調剤システムなどが繋がっています。これらのシステムでネットワーク障害や端末のトラブルが起きると、院内SEが対応しなければなりません。
なお、病院の院内SEに転職するときに、病院での勤務経験が求められることはほとんどありません。
例えば、下に紹介する医療法人藤井会の求人は、病院での勤務経験があれば優遇されますが、業界未経験でも応募できます。
私の知り合いで病院の院内SEで働いている人がいますが、その人も転職するまでは病院勤務経験がありませんでした。
もちろん院内SEの経験があれば、その経験をアピールして転職活動を有利に進めることができます。しかし、あなたに病院勤務経験がなくても、社内SEの経験や、システム開発の経験、パソコンなどの機器への興味があれば応募できる求人があることを覚えておきましょう。
医療専門職とコミュニケーションをとるスキル
院内SEは病院内のシステムの運用・管理を担当します。このとき、医療専門職とのコミュニケーションが頻繁に発生します。
例えば、以下のようなトラブルや要望が寄せられると対応しなければなりません。
- プリンタが動かない
- 電子カルテが動かない
- 新たに〇〇という薬をマスターに登録したい
- 頻繁に処方する薬を簡単に処方できるよう設定してもらいたい
このように院内SEには、医療とは関係ないものから、医療の知識があれば対応しやすいものまで、さまざまな相談が寄せられます。
実は、医療従事者にはパソコンやネットワークに苦手意識を持っている人が多いです。特に、看護師や年配の医師は、質問や要望の内容がわかりにくいことが多いです。
そして、発生するトラブルは緊急性が高いものも多く、早急に対応しなければなりません。
このような環境で働くため、システムには疎い医療専門職で働いている人からトラブル解決に必要な情報を正確に入手しなければなりません。そのためには、日頃から医療専門職の人とコミュニケーションをとり、良好な関係を構築しておく必要があります。
トラブルを解決する場合も、なぜトラブルが起きたかの説明を真面目に聞いてくれるスタッフは少ないです。「解決すれば何でもいい」と考えている人も多いのが現実です。
そのため、解決方法を説明したり、再発予防策を提案したりするときには工夫が必要です。
院内SEに転職するメリットとデメリット
社内SEは規模が大きい会社で募集しており、企業の業種は多岐に渡ります。そのなかで、病院の院内SEに転職するメリットとデメリットについて解説します。
医療費補助を受けたり、緊急時に外来受診できたりする
多くの病院は、福利厚生として勤務先の病院を受診したときの医療費を補助してくれます。例えば、糖尿病で医療機関に通院している場合は、勤務先の病院で診察をしてもらうと医療費は無料になります。
また、処方される薬代も補助してもらえることがほとんどです。つまり、基本的には無料で診察してもらい、薬をもらうことができます。
次に紹介する社会医療法人ジャパンメディカルアライアンスの求人では、「待遇・福利厚生」の欄に医療費援助制度が挙げられています。
なおこの制度は、多くの医療機関で採用されている一般的な制度のため、求人票には記載されていないこともあります。
また、仕事中に体調が悪くなった場合、近くにいる医師に診察してもらうことも可能です。例えば、「仕事を休むほどではないが、朝から咳が出て困る」という場合、咳止めを処方してもらえば、すぐに薬を飲んで仕事を続けることができます。
このようなとき病院以外で働いていると、早退もしくは仕事を終わらせてから病院を受診しなければなりません。病院で働いていれば、昼休憩の時間に受診をすることもでき、時間を有効に利用できます。
年に数回、夜間に作業を行うこともある
入院を受け入れている医療機関は、24時間365日稼働しています。医療スタッフは交代で勤務しており、患者の急変に対応しなければなりません。
しかし、院内SEが夜勤をすることはありません。突発的なトラブルが夜間に起きれば連絡が入りますが、基本的には日中に勤務します。このため、激務にはなりにくく、仕事で「きつい」と感じることも少ない職種です。
そのような勤務体系ですが、ときどき夜間に勤務しなければならないことがあります。それは電子カルテのメンテナンスやアップデートをするときです。
日中は外来の診療があるので、システムを止めるわけにはいきません。逆に夜間であれば、外来はありませんし、患者さんも寝ている時間帯なのでシステムを止めたことによる影響は最小限に留めることができます。
病院の院内SEに転職するときには、頻度は少ないですが夜間の作業を行う機会があることを覚えておきましょう。
社内SEのなかでは給料が安い
最後に、病院の院内SEの年収について解説します。病院では医師が最も給料が高く、ほかにも国家資格を活かして働いている職種が多いので、給料が高いのではないかと考えているかもしれません。
実は、病院の院内SEの給料は、社内SEのなかでは安いです。参考までに、冒頭で紹介した医誠会病院の提示年収は以下のように300万円~です。
ここまで5件の求人を紹介しましたが、それぞれの求人の提示年収は以下の表の通りです。
病院名 | 提示年収
(万円) |
(医)医誠会 医誠会病院 | 300~ |
(医)偕行会 | 360~400 |
(医)藤井会 | 310~ |
(医)亮正会 | 318~552 |
(医)ジャパン メディカル アライアンス | 350 |
これらの求人の提示年収は、およそ300~400万円がボリュームゾーンといえます。
病院の院内SEとして転職すると、病院の職員として働くことになります。厚生労働省が調査している賃金構造基本統計調査によると、医療・福祉業界の平均年収は業界全体からみると低めです。
引用:令和元年賃金構造基本統計調査をグラフ化
院内SEへの転職で少しでも高い年収を勝ち取るためには、求人の探し方を工夫しなければなりません。そして、有効な求人の探し方の1つに、転職エージェントから非公開求人を紹介してもらう方法があります。
では、なぜ転職エージェントから求人を紹介してもらうと、年収が高くなりやすいのでしょうか。その理由は、主に下の2点が挙げられます。
- 経営状態がよい病院の求人がある
- 転職エージェントが年収の交渉を代行してくれる
1点目の理由は、転職エージェントがどのようにして利益を出しているかを考えれば理解することができます。
転職エージェントは転職者を企業に紹介することで、求人を出す企業から報酬を受けることができます。このときの報酬は、転職時の年収の3割程度と言われています。例えば、年収500万円で転職をさせた場合は、150万円を企業から受け取ることができます。
その一方で、ハローワークを通じて求職者を募集する場合は、ほとんど経費はかかりません。
つまり、「転職エージェントに求人を出す=企業体力に余裕がある」といえます。そのため、転職エージェントから紹介してもらうことができる病院では、高年収を勝ち取ることができる可能性も高いです。
2点目の理由は、年収の交渉についてです。
あなたは、転職を希望する企業と直接年収の交渉ができますか? 「印象が悪くなってしまうのではないか」「あまり高い年収を要求すると不採用になるのではないか」と考えてしまい、直接年収の交渉をするのは気が引けるのはないでしょうか。
このような場合でも転職エージェントは、企業との年収交渉を積極的に行ってくれます。その理由の1つに、高い年収を勝ち取ることができれば、最終的に転職エージェントが受け取る報酬が増えるからです。
以上の理由から、年収面で満足できる転職を成功させるためには、転職エージェントを活用することは有効な手段となります。
まとめ
ここでは、病院の院内SEに転職するときのポイントについて解説しました。
院内SEは、医療系システムの導入・管理を担当することになります。しかし、医療系システム以外にも、ネットワーク機器などの医療とは直接関係ない機器の管理も任されることを覚えておく必要があります。
転職の際には、業界未経験、実務未経験でも応募できる求人があります。そのため、システム開発や社内SEの経験があれば、大いにアピールして転職活動を有利に進めることができます。
そして、仕事で医療専門職とコミュニケーションをとる場面が多いです。職員ごとの機器やシステムに対する理解度は大きく異なるので、臨機応変な対応・説明が求められます。
院内SEに転職すると、医療費を補助してもらえるメリットを受けることができます。その一方で、社内SEの給料としては、病院の院内SEの年収は低いことが多いです。年収面で満足できる転職を実現するためには、転職エージェントを活用する方法がおすすめです。
これらの特徴を理解した上で転職活動をすることで、転職の失敗を防ぎやすくなります。
研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。
一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。
ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。
これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。