製薬会社で働くほとんどの職種は、医薬品を使用する患者さんと直接会うことはありません。そのため、製薬会社に勤める社員が、医薬品の利用者から感謝の言葉を直接聞くことはほぼありません。
そして、医薬品の研究や開発には何年もの期間が必要であり、決して楽な仕事ではありません。さらに、医薬品製造は大事故が起こるリスクを常に抱えています。営業職は、医薬品販売先の病院や薬局から理不尽な要求をされることや、頭を下げなければならないことも多いです。
では製薬会社で働くときに、どのようなときに仕事のやりがいを感じることができるのでしょうか。職種ごとにやりがいの違いはあるのでしょうか。
製薬会社に中途採用で転職する前に、どのような場面で仕事にやりがいを感じることができるかを把握しておくことで、転職の失敗を少しでも避けることができます。
ここでは、製薬会社で働くときの仕事のやりがいについて職種ごとの違いも含めて紹介します。
もくじ
製薬会社で働くときの仕事のやりがい
医薬品を使用したことがない人はいません。例えば、頭が痛いときに頭痛薬を飲むことで症状が改善した経験がある人はいると思います。女性であれば生理痛に対して痛み止めを飲んでいる人もいるでしょう。
このように医薬品は私たちの日常生活になくてはならないものです。製薬会社では医薬品を研究・開発・製造・販売しており、製薬会社で働くことで医薬品を通じた社会貢献ができます。
製薬企業にとって「新薬の発売」は最大のイベントです。そのため、新薬開発に携わった人にとっては「新薬が発売になったとき」は、最もやりがいを感じることができる瞬間の1つです。その理由は以下の通りです。
- これまで治療法がなかった病気の治療に貢献できる
- これまでの仕事が報われる
ただ、新薬の発売は頻繁にあるわけではありません。製薬会社に新卒で就職して定年まで働いても、携わったテーマで新薬が生まれない人もいます。
そして、ほとんどの人は毎日働きながら「新薬を開発するぞ」と思いながら仕事をしているわけではありません。最終的な目標は薬を開発して患者さんに薬を届けることでも、日常業務は基礎的な泥臭い仕事をしています。
では実際の日常業務では、どのようなやりがいを感じながら仕事をしているのでしょうか。続いて、日常業務レベルでの仕事のやりがいについて職種ごとに紹介していきます。
研究職は知的好奇心の満足や技術力の向上もやりがいになる
製薬会社の研究職は、新薬を生み出すために日々実験を繰り返しています。例えば、新薬の種を合成する探索合成の担当者は、以下のような実験機器を使用して、医薬品の候補になりそうな化合物を日々合成しています。
有機合成には、ただ試薬を混ぜるだけでよいものから、空気中の水分が含まれてはいけないような厳しい条件の反応までさまざまなものがあります。
探索合成の研究者は、これまで身につけた知識・経験を駆使して化合物を合成します。このときに、これまで経験がない条件の反応や、難易度が高い反応を成功させることができると、非常に高い満足感が得られ、やりがいを感じることができます。
続いてもう1例紹介します。薬理試験の担当者は、下の図のようなプレートを使用したり、実験動物を使用したりして、化合物の効果を判定します。
薬は生体内の物質を標的としています。例えば、高血圧治療薬のノルバスク錠は、血管にあるタンパク質を標的とし、その働きを阻害することで血管を拡張させて血圧を低下させる作用を示します。
新薬を開発するときには、標的となる物質も新規であることがほとんどです。そのため、標的の物質に対する作用を評価する方法を新たに構築する必要があります。
実は、新しい評価法を構築するときには、全く何もないところから考えることはありません。似たような評価法を参考にして、目的にあった条件に変更していきます。
このとき作業仮説を立てて、トライアンドエラーを繰り返しながら、実験を進めていきます。そして、自分の予想通りに実験がうまくいったときには、何とも言えない喜びを感じることができます。
このように、研究職はこれまでにない物質、治療法などを生み出せたときだけでなく、日々の実験の成功でもやりがいを感じることができます。
臨床開発職は仕事のスキルアップもやりがいになる
臨床開発職は研究職と異なり、新たなものを生み出す仕事ではありません。研究職が生み出した医薬品の卵を、臨床試験を経て医薬品として世に送り出すことが開発職の仕事です。
そのため、臨床試験を終えて承認申請が通ったときは、それまでに行った仕事が報われる瞬間です。つまり、新薬の申請が承認されたときには最高のやりがいを感じることができます。
そして、開発職にも多くの仕事があり、担当が分かれています。それぞれの担当ごとに仕事内容は異なります。
例えば、メディカルライターは新薬の承認申請に必要な書類や臨床試験に必要な書類の作成を担当します。
これらの書類作成は、未経験者がすぐにできるようなものではありません。例えば、承認申請書類は、臨床試験や非臨床試験のデータを論理的に説明する必要があります。
手元にある試験データに、説得力を持たせることができるかどうかは、メディカルライターの腕の見せ所です。
もちろん、メディカルライターとしての経験が浅いと、書類作成に苦労することも多いです。しかし、努力することでライティングスキルの向上を感じることができたときには、やりがいを感じることができます。
このように開発職では、新薬が承認申請を受けたときだけでなく、仕事のスキルアップを実感できたときにもやりがいを感じることができます。
営業職(MR)のやりがい
MRの役割は、医療機関を訪問して、自社の医薬品の情報提供を行うことです。自社の医薬品の情報提供をするだけでなく、自社製品を医師が使用した結果・感想を情報収集したり、病院から求められた資料を持って行ったりすることもMRの仕事に含まれます。
私の知り合いのMRに訊くと、仕事のやりがいを以下のように話してくれました。
発売になった新薬を医師に使ってもらって、患者さんに治療効果があったと報告されたときに一番のやりがいを感じる。
また、MRは営業職なので、自社の薬が採用されたときは素直に嬉しい。逆に、製品のよさが伝わらず、なかなか採用されないときには厳しさを感じることも多い。
そして、最終的な営業成績がボーナスにも反映される。つまり、自社の製品を使用してもらえたときには、自分の給料(年収)も上がるので、「もっと頑張ろう」と思える。
MRは、医薬品が医療現場で使用された結果を直接聞くことができる職種です。MRは自社製品を使用して患者さんに治療効果があった報告を受けたときに、やりがいを感じることができます。
製造部は医薬品を提供することがやりがいとなる
製造部の仕事は、工場で医薬品を製造することです。以下のような1,000L~10,000Lのサイズの釜を利用して、医薬品の製造を行います。
引用:ライトケミカル工業株式会社 反応釜より
製造された医薬品は、医薬品卸会社を経由して医療機関や薬局に届けられます。つまり、研究職や開発職が行ってきた研究結果や試験結果を、最終的な製品にするのが製造部です。
・製造オペレーターのやりがい
工場で製造オペレーターとして働く人に仕事のやりがいについて伺うと、以下のような話をしてくれました。
自分たちが作った製品が最終的に患者さんに使われていることを考えると、やりがいと同時に責任を感じる。
日頃仕事をするときには「自分が製造した薬を自分の家族に自信を持って飲ますことができるか」を意識するようにしている。
実験室で行う実験とは違い、事故が起こると命にかかわることもあるので、安全に対する意識が常に必要になる。大変な仕事だが、無事製品が製造できたときは、毎回喜びを感じることができる。
このように、製薬会社で製造オペレーターとして働いている人は、自分たちの手で医薬品を製造していることにやりがいと責任を感じながら仕事をしている人が多いです。
・生産技術職のやりがい
製薬メーカーの工場で働く生産技術職は、製造現場での問題点を解決していくことが仕事内容です。例えば、製品の収量が下がったときの原因究明を任されることなどがあります。
生産技術職として工場に勤務している人にやりがいについて伺うと、以下のような話をしてくれました。
もちろんトラブルが完全に解決したときに、一番のやりがいを感じる。
ただ、日常業務は細かい作業や実験の繰り返しなので、仕事がきついことも多い。トラブルが重なると残業をしなければならないこともあり、激務と感じるときもある。
日々の作業では「何が原因なのか」「何を検証すればトラブル解決につながるのか」を考えている。それらの積み重ねが最終的な問題解決につながる。
そして、1つ1つの検証が自分の予想通りだったときは、小さい喜びを感じることができる。
このように、生産技術職では、日々の作業、実験でトラブルの原因が判明する過程でも、やりがいを感じながら仕事をすることができます。
医薬品を通じて社会貢献をしたい人が製薬会社で働くのに向いてる人
ここまで職種ごとに感じる仕事のやりがいについて紹介してきました。それぞれ仕事内容が異なるので、日常業務でやりがいを感じる場面も職種ごとに違うことがわかります。
ただ、すべての職種に共通するのは「医薬品を生み出すことにやりがいを感じること」です。製薬会社の仕事は研究、開発、製造、販売と多岐に渡りますが、いずれも最終目標が「医薬品で患者さんの健康に貢献する」という点は共通です。
医薬品が生み出されて、実際に患者さんが使用するまでには10年以上の期間がかかります。そして、行っている仕事のすべてが報われるわけではありません。特に、研究職や開発職の仕事は、新薬の発売に結びつかなければ、最終的には意味がありません。
それでも日々の業務のなかに小さなやりがいを見つけて仕事を続けることができ、「医薬品を通じて社会貢献をしたいと考えている人」が、製薬会社で働くのに向いている人といえます。
まとめ
ここでは製薬会社で働くときの仕事のやりがいを職種ごとに紹介しました。製薬会社では多くの職種の人が働いており、それぞれ仕事内容が大きく異なるので、やりがいを感じる瞬間も違います。
研究職として働くと日々実験を行いますが、失敗と成功を繰り返します。作業仮説通りに実験が成功したときには、喜びややりがいを感じることができます。
開発職は新薬が発売になったときに、それまで行ってきた業務が報われるので、最もやりがいを感じることができます。また、日常業務では職種ごとにスキルアップを実感できたときにもやりがいを感じることができます。
MRは患者さんが医薬品を使用した効果を病院や薬局のスタッフから間接的に聞くことができます。そのため、自社製品を使用してもらうことで患者さんの健康に貢献できていることを実感でき、やりがいを感じやすい職種です。
製造職として働くと、自らの手で製造した医薬品が患者さんに届けられることになります。そのため、ほかの職種にはないやりがいや責任感を感じながら仕事をすることができます。
そして、どの職種にも共通しているのは「医薬品を通じた社会貢献」です。ここで紹介した日々の業務でのやりがいを感じながら、医薬品を通じて社会貢献をしたい人が、製薬会社で働くのに向いてる人といえます。
研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。
一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。
ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。
これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。