食品メーカーで研究職として働くと、新製品の種を見つける基礎研究に携わるようになります。そして、研究段階で携わった製品が上市されると、大きなやりがいを感じることができます。

ところが企業によっては、研究職として転職しても、基礎研究の仕事はわずかで、開発職のような仕事を多く任されることもあります。食品メーカーの研究職事情を理解しておかなければ、あなたが思い描いていた仕事に従事できない可能性もあります。

ここではまず、食品メーカーの研究職の仕事内容を整理します。そして、転職するときに求められる経験、年収の相場について求人票を基に解説します。

食品メーカーの研究職の仕事内容は幅広い

食品メーカーの研究職の仕事を確認するために、実際の求人例を2例示します。

最初に紹介する会社は、北海道札幌市にある機能性食品素材メーカーです。この求人で採用されると、植物の遺伝子組み換え実験、植物生長調節剤の機能評価などの基礎研究に携わることになります。

これらの研究は、よりよい食材を生み出すためのものです。このような基礎研究は、研究結果がすぐに製品化へ直結するわけではありません。5年後、10年後の新製品につながるような仕事を行います。

ただし、研究職の仕事は、新製品の種を見つけるようなものばかりではありません。たちまち目の前にある課題を解決することも仕事に含まれます。

私の知り合いで大手食品メーカーに勤めている人は、「苦みが問題となる成分」の苦みを感じにくくするための検討や、成分がどうすれば長期間分解されずに残存できるかを検討しています。具体的には、サンプルのpHや光による影響(容器を遮光にする)などを検証していると教えてくれました。

そして研究職の仕事は、成果を外部に発表したり、特許として会社の知的財産を確保したりすることも仕事に含まれます。

次に紹介する求人は、兵庫県神戸市にある化粧品・健康食品メーカーのものです。この求人では、健康食品素材を中心に新たな機能性素材の探索を担当する人材を募集しています。

そして、仕事内容には学会発表、論文投稿、特許出願も含まれています。

食品メーカーはお菓子メーカー、冷凍食品メーカー、乳製品メーカーなどに細かく分類することができます。そして、製造・販売している製品によって研究内容も大きく変わります。

例えば、下に示すのは牛乳、乳製品などの製造・販売を主な事業としている森永乳業株式会社から報告されている論文です。母乳中の成分が乳児の糞便に含まれる酢酸量とビフィズス菌量に影響を及ぼすことを検討したものです。

このような基礎研究の成果を論文で報告したり、学会で発表したりすることも研究職の仕事内容の1つです。

このように食品メーカーの研究職では、新たな知見・技術を見出すための基礎研究を行い、その成果を新製品の開発に繋げたり、学会発表や特許出願で業績として残したりすることが仕事になります。

商品開発の業務も兼任することがある

研究職の求人は転職サイトで見つけることができますが、実は仕事内容が基礎研究だけのものは限られます。ほとんどの求人では、基礎研究だけでなく、商品開発などの開発業務も兼任することになります。

実際の求人例を示します。下に紹介するのは、東京都八王子市にある即席めんの製造販売を主な事業にしている食品メーカーの求人です。この求人の仕事内容の欄には、基礎研究の仕事内容が多く挙げられていますが、一部商品開発の仕事も含まれています。

また、期待する役割として、香料の作成だけでなく、商品開発のサポートも挙げられています。

このように会社によっては、基礎研究だけに従事できるわけではなく、商品開発業務も行うことがあります。

仕事内容が基礎研究だけの求人は少ない

食品メーカーの研究職の求人を紹介してきました。研究以外の仕事も兼任することもありますが、基礎研究だけに従事できる求人はかなり少ないです。

下の転職サイトでは、「研究・開発関連」の分類には216件の求人が紹介されています。このなかで仕事内容に基礎研究だけが記載されているものは2件しかありませんでした。

この理由は、規模が小さい会社には研究部門がないことが考えられます。企業体力がないと、基礎研究に資金を投入することはできません。

上図のように、研究開発関連の求人は求人サイトに多く掲載されています。しかしその多くは、研究職ではなく開発職の仕事も兼任するものであることを理解しておく必要があります。

また、研究職の求人は公開求人として募集をかけることが少ないです。特に大手企業の求人は応募が殺到する可能性があるので、非公開求人として募集をかけることが多いです。

なお、大手転職サイトのdodaは、取り扱っている求人の80%~90%が非公開求人です。下にdodaのホームページを載せています。

引用:非公開求人に天職アリ!|転職ならdoda(デューダ)を改変

つまり、転職エージェントから非公開求人を紹介してもらうことでより多くの求人に出会うことができるので、あなたの希望条件に合った求人も見つけやすくなります。

食品メーカーの研究職に転職するときに求められるもの

では、食品メーカーの研究職に転職しようとしたときに、どのような経験やスキルが求められるのでしょうか。

研究経験は必須条件の1つ

あなたがこれまでに、食品メーカーの研究職として働いていた経験があれば、転職活動をしやすいです。なぜなら、ほとんどの求人で研究に携わった経験が必須条件に挙げられているからです。

冒頭で紹介した機能性食品素材メーカーの求人では、植物の遺伝子組み換え実験や生長調節剤の評価を行うことが仕事内容でした。そのため、この求人では、遺伝子組み換え実験の経験や植物生理学などの専攻が必須条件に挙げられています。

実際に実験器具を使用して、遺伝子組み換え実験を行った経験があれば、即戦力として活躍することができるでしょう。

また、研究職は実験をするだけが仕事ではありません。実験で得られた結果を考察して、次の実験を組立てる作業も研究職の仕事内容に含まれます。

このように研究を展開していくためには、その分野の知識が必須です。知識が全くないと、なぜそのような実験結果が出たのか、次は何を検討すればよいのかを考えることができません。

次の求人は前の章で紹介した、即席めんを製造販売している食品メーカーのものです。この求人では、調合試験の経験しかない人は応募できません。

調合試験では、2種類以上の原料を調合して新たな製品を生み出そうします。新しい知見が得られますが、基礎研究には分類されず、開発職の要素も含まれる仕事です。

このように研究職の求人に応募するときには、基礎研究に従事した経験を問われます。

・40代でも応募できる求人はある

一般的には研究職への転職は35歳を超えると難しいと言われています。私も35歳のときに研究職への転職活動をしていましたが、転職エージェントの担当者に「今の年齢が転職を成功させることができるギリギリの年齢です」と言われたことを覚えています。

では、35歳を超えると本当に転職はできないのでしょうか。もちろん年齢が上がるにつれて転職は難しくなりますが、実は40歳を超えても応募できる求人はあります。

下に示す求人は、広島県尾道市にある健康食品を製造・販売している食品メーカーのものです。この求人は冒頭に「40代歓迎」と謳っています。

この求人で中途採用されると、将来的には管理職への登用の可能性があります。あなたに研究職としての十分な経験と、部下を指導したり、部署のマネジメントをしたりした経験があれば、40代でも研究職の求人への転職は可能です。

そして、この求人に応募するための必須要件は、理系大学卒業と研究開発の実務経験5年以上です。

例えば、あなたが新卒採用から40代まで研究職として働いていれば、この求人への応募条件は十分クリアしています。

ただし、研究職の求人で40代を歓迎している求人は多くありません。そのため、このような求人を根気強く探すか、転職エージェントから非公開求人を紹介してもらうことで、少しでも多くの求人を探すことが転職成功のためのコツです。

未経験者が応募できる求人はほとんどない

研究職は専門性が高い職種であり、研究の展開、データの解析など、全くの未経験者が即戦力として活躍できるものではありません。そのため、未経験者の転職は不可能と考えた方がよいです。

さきほどの転職サイトで、研究・開発に関する求人は200件以上ありましたが、そのなかで研究未経験者が応募できる求人は1件でした。

その1件を下に紹介します。この会社は兵庫県神戸市にある健康食品メーカーです。この求人は社会人で基礎研究に従事した経験がなくても応募することができます。

ただし、研究活動をこれまで一度もやったことがない人は応募することはできません。学生時代にテーマ設定から実験・評価・解析を行っていた経験は必須です。

私の知り合いの大手企業で食品事業の研究職として働いている人に話を聞くと、以下のように教えてくれました。

研究職に転職してくる人は、基本的には研究職の経験者ばかり。営業出身や文系の人で研究職に転職してくる人はいない。

ただし、業界は食品業界に限らず、製薬業界や化粧品業界などから転職してくる人もいる。

研究職自体は転職が多い職種ではないが、求人が出ているタイミングと今所属している会社の状況によっては、20代や30代だけでなく、40代でも転職している人はいる。

例えば、今の会社の事業がうまくいかなくなっていて、そのタイミングで求人が出ていれば応募して転職してくる人はいる。

このように、研究職に転職するためには、何かしらの基礎研究に携わった経験は必ず求められると考えましょう。

年収の違いを理解して、転職失敗を防ぐ

最後に食品メーカーの研究職に転職したときの年収についてまとめます。

ここまで6件の求人を紹介してきました。冒頭で紹介した機能性食品素材メーカーの求人の提示年収は、以下のように500~600万円です。

そして、そのほかの求人を含むすべてを一覧にしたものが下の表です。すべて社名が非公開の求人のため、紹介した順に番号を振り、勤務地と共に提示年収をまとめています。

求人番号 勤務地 提示年収

(万円)

1 北海道札幌市 500~600
2 兵庫県神戸市 500~650
3 東京都八王子市 500~700
4 香川県小豆郡 235~323
5 広島県尾道市 500~800
6 兵庫県神戸市 400~500

ほとんどの求人で、500~600万円が提示されています。

なお、4番の求人だけ極端に年収が低いです。詳細はわかりませんが、理由の1つとしては、研究職以外の仕事も多く担当することが考えられます。

この求人の仕事内容には、基礎研究も挙げられています。しかし、クレーム対応、品質管理などの業務も含まれています。

つまり、研究職の仕事以外の事務作業も多く任されることになります。このことが年収に反映されている可能性は十分あります。

転職をするときに、どのくらいの年収をもらうことができるかは気になる要素の1つです。年収アップを期待して転職をする人も多いでしょう。

食品メーカーの研究職の求人では、すべての求人で高い年収が提示されているわけではありません。求人によっては相場よりも極端に低いこともあるので注意しなければなりません。

まとめ

ここでは、食品メーカーの研究職の求人に転職するときのポイントについて説明しました。

食品メーカーの研究職の求人では、研究だけに従事できるものは稀です。多くの求人で商品開発の仕事も担当することを覚えておく必要があります。

あなたが研究だけに従事したいのであれば、規模が大きい会社の求人を見つける必要があります。そのためには、転職エージェントから非公開求人を紹介してもらうのが効率的な方法です。

研究職への転職は未経験者だと難しく、これまで研究に従事した経験を求められることが多いです。逆に、しっかりとした業務経験があれば、40代でも転職を成功させることができます。

年収は500万円~600万円を提示している求人が多いです。担当する仕事内容によっては、研究職でも低い年収を提示している求人もあるので注意しましょう。

これらの求人の特徴を理解して転職活動を進めることで、転職失敗のリスクを減らすことができます。


研究職や開発職で転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい労働条件や年収の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、労働条件や年収の交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「取り扱っている求人が全国各地か、関東・関西だけか」「事前の面談場所は全国各地か、電話対応だけか」「40代以上でも利用できるか、30代までしか利用できないか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。